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元最強の剣士は、異世界魔法に憧れる

紅月シン

元最強の剣士は、異世界魔法に憧れる 1 (3)

 実際少なくとも、武術系スキルのどれか一つと魔導スキルであれば、覚えることが出来ない者の方が少ないほどであり、前述の優秀や天才と呼ばれる者達のスキル数にこれらが含まれないことからも、前提として覚えられて当たり前だと考えられているということがよく分かるだろう。

 つまり、それらを覚えることが出来ないかもしれない、などと考える必要はない。そしてソーマが目指しているものというのは魔導士。

 もっと言えば、魔法を使うということであった。

 そのため、どんなものが使えるようになろうと、どうでもよかったのである。

 ソーマが楽しみにしていたのは、単にその日が来れば、ようやく魔法を覚えるために動き出せるからであり──だから。

 それが叶わないなんて、これっぽっちも想像していなかったのだ。

「……は?」

 ぼうぜんとした声が、周囲に響く。

 それはソーマの口から漏れたものであり、その顔に浮かぶのはそれと同じものだ。

 呆然、こんわくきょうがく

 その全てがない交ぜとなったような、何とも言えない感情を抱きながら……ソーマは、眼前にいる母へと、再度問いかけた。

「……今、何と言ったのであるか、母上?」

 母がこんな時に冗談を言う性格ではないということは分かっていたが、それでも、冗談と言って欲しかった。

 だが一度視線をそらした母は、ゆっくりと息を吐き出すと、ソーマへと真っ直ぐに視線を向けてくる。

 そして。

「……ええ、それでは、もう一度だけ言いましょう。スキル鑑定の結果、あなたは武術系スキルや魔導スキルを含めても、一つもスキルを覚えることはない……何の才能もないということが、発覚しました」



 毅然とした顔で、そんなことを告げてきたのであった。


   3


 ソフィア・ノイモントにとって、息子──ソーマ・ノイモントという存在は、天才というものの象徴とでも呼ぶべきものであった。

 ノイモント家は、公爵家だ。

 ゆえにその立場柄、ソフィアは様々な人物と出会う機会がある。

 その中には悪人がいれば善人もいたし、凡人がいれば天才もいた。

 公爵家令嬢から始まったソフィアの人生は、王立学院の魔導科を経て、幾多の戦場を駆け抜け……やがて、世界最強の魔導士などと呼ばれるまでに至った。

 だがその過程で出会ったどの人物よりも、自分の息子は才能に溢れていたのだ。

 それは息子であるが故のひいなどでは決してない。

 むしろ息子であり、それこそ生まれた時から見ているからこそ、その異常なほどの才覚に気付くことが出来たのだ。

 最初にそれに気付いたのは、夜泣きをまったくしない、ということにふと気付いた時だろうか。

 そして考えてみれば、そもそもソーマは、生まれた直後を除き、一度も泣くことがなかったのである。

 その異常性は、ソーマの妹でもある娘のリナを育てている時に、はっきりとした。

 リナはソーマと違い、昼夜問わず泣いていた、というのもあるが……一歳の子供が泣いてる妹をあやしている光景というのは、どう考えても有り得ないものだろう。

 しかもそれは一度や二度ではなく、ソフィアが手が離せない時などに頻繁に起こっていたことであった。そのうちそれに慣れてしまったためか、忙しい時にはソーマに頼むようなことすらあったのだが、後から考えてみれば自分の感覚も大分麻痺していたものである。

 まあしかしそんなものも、その後のことを考えれば可愛いものであったが。

 その後にあった、教育時のことを考えれば。

 基本的に教育というものは、スキル鑑定前は受けさせても簡素なものであるのが普通である。

 その結果次第では、無駄となってしまうこともあるのだから、これは当然なことだろう。

 もっとも、一般的というのであれば、そもそもスキル鑑定後ですら、教育というものを受けられるとは限らないのだが。

 この世界には学院というものが存在しているが、それは九歳以降に通うものであり、さらには決して安くない学費が必要だ。

 スキル次第では教育の有無は不問とされることもあって、教育を受けたことがない者というのも珍しくはないのである。

 だからソフィアの言う普通とは、あくまでも公爵家……というよりは、貴族における普通だ。

 逆に公爵家であることを考えれば、教育を受けないというのは有り得ない。

 家庭教師を雇い、それで勉強をするというのが普通なのである。

 ただそれにしたって、前述の通り、無駄となる可能性があるものはなるべく行わない。

 広く浅く、無難な知識を学んでいくのが基本なのだ。

 それも、早くて五歳頃から……才覚の片鱗を見つけた親達が、大抵は贔屓目によって行うものである。

 だがソーマは、その教育が『四歳』から始められた。

 どう考えても早すぎであるし、それを聞いた全ての人が贔屓目にも程があると思ったことだろう。

 とはいえあるいは、そう思ったのが自分だけであれば、ソフィアもそこまでのことはしなかったかもしれない。

 だがそう思ったのは、自分だけではなかったのだ。

 クラウス・ノイモント。

 ソフィアの夫であり、ソーマの父である彼もそう判断したのである。

 結局ソーマの親であることに変わりはないが、それを贔屓目などというのは、クラウス・ノイモントという人物を知らない者だけであろう。

 公平にして厳格。

 クラウスを知る者であるならば、その評価に私情を挟むなど有り得ないと分かるはずだ。

 そんなクラウスが……世界最強の剣士などと呼ばれる人物が、その才覚を認めたのである。

 ならばソーマはやはり天才であるのだと、そう考えるのは当たり前のことだろう。

 そして実際にソーマは、そんなソフィア達の期待に応えた。

 応えすぎたと言っても過言ではないほどに。

 何せ本来であれば、学院の初等部──三年かけて覚える全基礎課程を、半年足らずで終えてしまったのだ。

 いくら多少の検閲を行った上で、さらには武術や魔導といった、実技を必要とするものは除いていたとしても、である。

 才覚が云々の話をするなど、既に馬鹿げたことでしかなかった。

 ただ、それでもスキル鑑定を急ぐことがなかったのは、逆にそれでソーマの可能性を狭めてしまうことを懸念したが故である。

 確かに早く鑑定すればそれだけ早く動くことが出来るが、スキル鑑定というのは未だ分かっていないことも多いのだ。

 そのせいで、より先に進めたはずの道を閉ざしてしまったとなれば、ソフィア達は悔やんでも悔やみきれないだろう。

 だからこそ、はやる気持ちを抑えながらも、ソーマが六歳を迎える時を待っていたのである。

 ──そして。

「……その結果がこれ、か。まったく……本当に、まったく、といったところよね」

 呆然とした顔のまま部屋を出て行った息子──否、既にそう呼ぶことすら許されなくなってしまったソーマのことを思い返しながら、ソフィアは溜息を吐き出した。

 視線を向けているのは、手元にある一枚の紙だ。

 真っ白で上質なそれは高価な代物ではあるが、息子の将来を示すものに惜しむことなど有り得ない。

 たとえこれ一枚で、高価な魔導書一冊に匹敵するとしても、だ。

 だが折角そんなものを用意したというのに、そこに記されているのは短い言葉一つであった。

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