乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です

三嶋与夢

プロローグ (2)

 浮かび上がった大地の上で人々が暮らしている幻想的な世界が舞台だ。

 王族や貴族たちがいる世界で文明レベルは高くないように思えるが、飛行船が空を飛び騎士たちはまるでパワードスーツのような鎧を身につけ戦争をする世界となっている。

 そんな世界で、主人公は貴族たちの学園に通う。

 主人公自身は田舎から出てきた素朴な感じの女の子。貴族ではなく平民なのだが、特別に入学を許された特待生だ。

 立場が特殊であるため、学園では身分の高い貴族の女子たちからいじめも受ける。そんな学園で王子様や貴族の跡取り息子たちと出会うことになるが、同時に様々な事件や戦争にも関わっていくことになるのだ。

 とにかく、学園物の恋愛ゲームに冒険やら戦争をぶち込んだゲームだ。

 ついでに『女性にやたらと都合がいい世界』でもある。

 妹も最初は自力でクリアを目指そうとしたが、どうしてもそういった男の子向け要素が苦手だったのか諦めたらしい。

 おかげで俺が苦労する羽目になった。「兄貴は無駄にこんなゲームをやっているし、楽勝だよね?」と言われて……。

 まぁ、確かにゲームは好きなのだが、そんな俺でも難しいと思ってしまう難易度だ。

「そもそも乙女ゲーにこんな部分は求めていないだろうが」

 文句を言いながらも画面を見てコントローラーを操作した。

 画面上には、飛行船のユニットが並んでいる。

 船型、ラグビーボールの形をした飛行船。様々な飛行船が向かい合っている。

 六角形のグリッド線。ターン制で味方の船を動かし、移動させて攻撃を行うと飛行船が側面に並べた大砲を一斉に放ち、鎧をまとった騎士たちが空を飛んで敵に襲いかかっていくのだが──。

「くそっ! そこで敵のスキルが発動ってどういう事だよ! 妙に難しいぞ。もっとサクサククリア出来るようにしろよ」

 敵のスキルや特殊な技が発動し、攻撃した味方が逆に大きなダメージを受けてしまう。

 逆に味方が攻撃されたときは、敵からの攻撃をまともに受けてごうちん……スキルを持っていて、能力的には敵より勝っているのにランダム要素が強く難しい。そもそも、戦略ゲーム的に優位な位置取りをするとか、最適な行動をしてもランダム要素でくつがえる。

 妹がさじを投げるはずだ。

「あ、しまった」

 味方の沈んではいけない飛行船──王太子様が乗った飛行船が轟沈してしまった。

 画面にはゲームオーバーの文字が浮かぶ。

「またかよ! 攻略情報を見ながらプレイして負けるとかあり得ないだろ!」

 いっそ妹にはコンプリートは諦めろと言いたかった。ネットでクリアデータでもダウンロードしろと言いたいが……このゲーム、主人公の名前を呼んでくれる仕様になっている。そのため、妹は自分の名前を入力していた。

 有名声優に自分の名前をささやいて貰いたいとかなんとか……。

 だから、クリアデータを手に入れる方法では解決しない。

 自力でクリアするしかないのだ。

「もう何度目だよ! 王子様沈みすぎだろ! アレか? 課金させたいのか? そんなに課金をさせたいのかよ!」

 オフラインゲームなのに有料コンテンツが充実しているわけだ。クリアできないというプレイヤーの声に応えたのか、それとも計算していたのか……戦争パートを簡単にする数々のアイテムが配信されている。

 妹のためにこれ以上の出費は認めたくないが、俺の時間が奪われている原因は間違いなく戦闘やら戦争パートやらにある。

 それ以外はギャルゲーと一緒だ。選択肢さえ間違えなければ何の問題もない。ゲームを中断して有料コンテンツを探した。

 画面に表示されるのは、大量に出てくる商品の数々。

 それらは一つ百円程度の値段で売られているが、戦闘パートで役に立つ飛行船やら鎧の値段が妙に高い。

 三百円や五百円。八百円の有料コンテンツもある。

「……こんな商売をするから評判が悪くなる」

 当初は期待されていた超大作が、課金しなければまともにクリアが出来ないとネットで批判されていた。

 おかげで強気の価格設定も、一ヶ月もしない内に見直され金額が下がっている。

 それでも高いと思っていると、商品一覧に男物の水着が販売されていた。

「男の水着姿とか嫌だな」

 販売されていたのは、男性キャラを水着姿にする特殊なアイテムだ。

 見ていて呆れる。

 ただ、これがギャルゲーで、女性キャラが水着姿になるなら全種類購入しただろう。

「男も女もやることは変わらないな」

 精神的にボロボロの俺は力なく笑った。

 野郎をはべらせ水着姿にして楽しむ女性プレイヤーを想像したら嫌になった。

「ハーレムも女から見れば今の俺と同じ気持ちかな? まぁ、どうでもいいか」

 男が女に囲まれるのがハーレムなら、女が男に囲まれているのは逆ハーレム。男から見て逆ハーレムが嘘っぽいように、女性から見ればハーレムもきっと微妙だろう。

 そんなことを真面目に考えている俺は疲れていると思った。とにかく今はゲームを終わらせることだけを考えよう。

「さて、どれを買えばすぐに終わるかな?」

 どれも有料コンテンツなので強力だ。

 男性キャラの専用武器とか、主人公の専用装備なども販売されている。

 どちらかと言えば戦争パートで役に立つ物が欲しいので、それらは購入しない。ゲームの進め方でどうにでもなるからだ。

「……これは?」

 目に入ってきたのは、一番高額な有料コンテンツである戦艦だった。

 補給やら面倒なステータスなどを無視して、とにかく強い飛行船が手に入るようだ。

「飛行船というか宇宙船に見えるな」

 外見はメタリックで、ゲームに出てくる飛行船とはどれとも似ていない。宇宙戦艦と言われた方が納得するデザインだ。

 千円もするだけあって性能は申し分ない。

 設定を確認すれば、古代のなんとかで……とにかく凄い宇宙船ということが書かれている。

「……って本当に宇宙船かよ! もしかして、誤字かな?」

 説明文に間違えて宇宙船と打ち込んだのでは? そう思ったが、ゲームをクリアできれば良いのでどうでも良い。

 大事なのはこれでゲームが楽になることなので購入しておく。

 次、鎧の確認だ。

 パワードスーツ……鎧の姿をしているが、なんというか少しも現実感がない。ロボットと言われた方が納得できる外見をしている。

 そんな鎧を着込んで戦争をするのが男たち……騎士だ。

 女からすれば、自分のために戦ってくれる男が素敵に見えるのだろうか?

 とりあえず高いのを購入しておけば間違いないだろう。

 これで攻略が楽になるのなら安い出費だと思うことにする。

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