乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です
プロローグ (1)









プロローグ
正義と悪は見方が違えば逆転する。
普段は考えすらしない哲学的な言葉が頭をよぎるくらいに疲れていた。
削られていく精神力……もう、数時間も俺は無表情だった。
今すぐにでもベッドに横になり、大好きな漫画やアニメに時間を割きたい。もしくは、もっと男性向けのゲームをプレイしたい。
社会人である俺が死んだ魚のような目でプレイをしているのは……乙女ゲーだった。
いわゆる恋愛シミュレーションゲームであり、男がプレイするギャルゲーとは似ているようで対極にあるゲームだ。
主人公が女の子。攻略対象が男性になるので乙女ゲー。逆に主人公が男の子で、攻略対象が女性になるならギャルゲーだ。
そう、休日の昼間から男である俺がプレイするようなゲームではない。
これで乙女ゲーが好きなら話は違うが、俺はギャルゲーの方が好きだ。
「どうして俺が朝から野郎の好感度を稼がねばならないのか」
画面の向こう側にいる男キャラが頬を染めているのを見ても嬉しくない。
基本的にゲームに登場する攻略キャラはどれも美形だ。
人気イラストレーターがデザインしたキャラクターに、有名声優が声を担当している。これが女性キャラ……ギャルゲーなら嬉しいが、男の甘い声なんか聞いても嬉しくない!
無表情で近くに置いたスマホの画面に目を向ける。
やる気もないので全て攻略情報頼りのプレイをしていた。
チラチラ画面を見ながら選択肢を選んでいけば、好感度上昇を知らせる音と共に三次元表示のキャラが動いてポーズを決める。
髪をかき上げるポーズで少し頬を染めていた。
『お前は普通の女たちとは違うな。名前を聞いておこう』
相手は王太子──ゲームに出てくる攻略対象キャラで、学園では大人気の男性キャラという設定だ。主人公は偶然にも出会い、王太子のことを知らなかったので普通の対応をしたシーンになっている。
二周目以降。何度も見た初対面のシーンに愚痴しか出てこない。
「嘘だろ。自国の王太子を知らないとか絶対に嘘だよ。あざといよ。この主人公あざといよ」
王太子には主人公のそんなあざとい態度が見抜けていないらしい。
「……頬を染めて喜びやがって。見る目のない奴だ」
せっかくの土日休みが乙女ゲーで潰されていく。
現在は日曜日のお昼だ。土曜日から俺はずっと乙女ゲーをプレイしている。最近は忙しく、土日休みも久しぶりだというのに。
そんな時だ。スマホから電子音が聞こえてきた。
手に取って確認をすれば、妹からのメッセージが画像付きで送られてきている。
『友達と海外を楽しんでいま~す』
……妹の笑顔を見ると、腸が煮えくりかえる思いだ。
友人たちと、ビーチやらホテルで楽しそうにしている妹の姿がそこにあった。
すぐに返信してやった。
『ふざけんな! お前、忙しいからって俺にゲームを押しつけたんだろうが!』
今プレイしているのは妹の乙女ゲーだった。
土曜日の朝、一人暮らしをしている俺の部屋に実家暮らしの大学生である妹が訪れた。
珍しいと思っていたら、俺にゲームを押しつけてきたのだ。
笑顔で「兄貴は暇そうだから、このゲームをコンプさせてあげる」などと言って……。
コンプとはコンプリートのことだ。画像、動画、シーンなどは、一度ゲーム内で見れば後で何度も見返すことが出来る。全てをコンプリートしておけと俺に言ったのだ。
ふざけるな、自分でやれ! 俺だってそう言ってやったさ。
──妹から返信が来る。
『はぁ? そんなことを言っても良いの? 戻ってきてから、お母さんたちの誤解は解かないよ。お土産買うからコンプの方お願いね~。※戻ってくるまでにコンプしてなかったらもっと酷いのを部屋に置きます。可愛い妹より』
イライラするメッセージを読み、スマホを床に投げつけたくなる衝動をこらえながら俺は叫んだ。
「ちくしょうぉぉぉ!!」
俺だってこんなことは拒否したかった。
しかし、実家住まいの妹は──俺の部屋に自分の本を大量に隠していた。それが腐女子の方たちが好みそうな本であったのだ。それをお袋が掃除の際に見つけてしまい、俺がそういう趣味を持っていると誤解させた。
俺だって誤解を解こうとしたが、解こうとすればするほどに言い訳を──誤魔化していると思われたのだ。
……悪夢だ。
誤解されたのも、妹が腐女子だったと知ったのも。
そして運が悪いというか何というか……妹は俺よりも信用されていた。容姿は兄の目から見ても優れている部類で、成績も優秀。性格は気が利き優しいと言われている。
本当は猫をかぶるのが上手く、俺はいつも酷い目に遭わされてきた。
乙女ゲーの一件からも分かるように、妹の性格は最悪である。
あいつは自分の趣味を隠しており、俺がいくら弁解しても両親は妹の言葉を信じてしまうのだ。
心配したお袋から電話がかかってきた時は泣きそうになった。ついでに妹に復讐してやろうと心に深く刻んだ瞬間でもある。
暴れたい衝動を抑えつつ、俺は画面に視線を戻した。
再びコントローラーを手に取ると、誤解を解くためにゲームをクリアすることだけを考える。悔しいが、両親に信用されているのは妹の方だ。
そして妹は、ゲームのコンプリートを条件に誤解を解くと約束した。
……俺には乙女ゲーをコンプリートするしか道が残されていなかった。
悔しいが、妹はそれなりに優秀で弁も立つ。土曜日の朝など、俺の反論をねじ伏せた上に旅行のためのお金──お小遣いまで要求してきた。脅されて支払った自分が情けない。
まともに戦っても勝ち目がないのは明白だ。
しかし、必ず復讐してやる。画面の向こうにいる野郎の好感度を稼ぎつつ俺は計画を練る。
「俺を怒らせたことを後悔させてやる」
妹は昔から要領が良く賢い。
自分が可愛いのも分かっており、何というか俺とは正反対な妹だった。あいつの弱点など、周囲に隠していた趣味だけだろう。
悔しい気持ちでゲームを続けると、俺は眉をひそめた。
「……毎回ここで詰まるな」
妹が俺に押しつけた乙女ゲー。
大作を目指して作られた乙女ゲーであるために、随分と作り込まれている。妹もイラストや声優目当てで初回限定版をすぐに購入したほどだ。
だが、問題は乙女ゲーなのにロールプレイングゲーム要素、そして戦略シミュレーション要素まで入ってしまっていることだ。
やはり、今まで男性向けを手がけていたメーカーが作ったゲームだけあって、妙にズレている。
ゲームの舞台は剣と魔法のファンタジー世界。
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