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異世界黙示録マイノグーラ~破滅の文明で始める世界征服~

鹿角フェフ

第一話 NewGame (2)

 各国家が特別に所有することができる強力なユニット〝英雄〟。マイノグーラと呼ばれる国家が使用することができるアトゥは、全英雄ユニットの中で最も初期能力が弱いという特徴がある。

 反面、もっとも強力な存在に成長することができるユニットでもあった。

 外の世界に憧れ、自由に憧れ、可能性と未来に憧れ続けた拓斗が、アトゥに対してある種の執着を見せるのも無理からぬことではある。

「僕は身体が弱かったから。君みたいになれたらと思っていたのかもしれない」

「私は、拓斗様にいろんな世界を見せていただきました」

「一人の時にこっそり話しかけていたのを聞かれてたと思うと、少し恥ずかしいけど」

「私は話しかけて貰えるのをいつもお待ちしていましたけどね」

「……君と直接話ができて嬉しいよ」

「私も、拓斗様とお話ができて望外の喜びです」

 初めて会ったにもかかわらず、まるで長年の友のように紡がれる言葉の数々。

 否、形は違えどそこにある信頼は長年培ってきたものだ。

 望外の出来事に感動に包まれていた拓斗だったが、死後の世界ではこの様な奇跡もあるのだろうかと思い至ったところで、様々な疑問が噴出してきた。

「ここは、天国なの? 君が僕をここに呼んでくれたのかい?」

「いいえ、それは違います。私も気がつけばここにいました。付け加えるのであれば、天国とも少し違うと判断しています。どちらかというと、もっとこう──『Eternal Nations』の世界に似た雰囲気を感じます」

 アトゥはぐるりと辺りを見回した後、小さく首を振った。

 その態度だけで彼女が嘘を言っていないことが、何故か拓斗には理解できた。

「知らない、世界……」と呟いた言葉に小さく頷くアトゥ。その仕草でおおよそのことは把握できた。

「奇跡……と言ってしまえば陳腐でしょうか? でも私は陳腐でも構わないと思います。ただ、拓斗様に出会えたことが嬉しい」

 同意するように、拓斗も頷いた。

 混乱が彼を支配するが、それでもアトゥと会話ができたことは彼にとって喜びに他ならない。

 だがこのまま喜びに身を任せている訳にもいかない。

 拓斗は自らに残された冷静な部分でそう考えていた。

 過去の彼は毎日を生きることで精一杯だったが、今はその制限からは解放されている。

 ならば人生には目的が必要なのだろう。

 不治の病に冒され、死というものについて嫌というほど考えさせられた彼だからこそ導き出した妄執にも近い考えだ。

 生きる意味。

 彼は、自分がこの状況に導かれた意味を、新たな人生の目的を欲していた。

「拓斗様……また、二人で始めませんか?」

「……え?」

 だからその言葉は、死という名の虚無が去った彼の心にすんなりと入り込んだ。

「さぁ、その前にどうぞお立ちになってください」

 優しく促され、起き上がる。

 どうやら石造りの台座──ベッドのようなところで寝ていたらしい。少々筋肉が凝っていたようで軽く伸びをする。

 そんな彼を慈愛にも似た表情で見つめるアトゥは、決して拓斗の行動を邪魔しないように注意を払い、隙を見て言葉を繋ぐ。

「ここがどこか分かりません。『Eternal Nations』の世界かもしれませんし、拓斗様がいた現実世界かもしれません。もしくはもっと違った異世界かもしれません。

 けど、またあの頃の様に……


 ──二人で始めましょう。

 私たちだけの王国を作りましょう」


 彼女の願いは、酷く簡潔であり、同時に変わらぬものだった。

 ゲームのキャラとプレイヤーという関係であったが、彼らは何度も国を作り、育て上げてきた。

 それが彼らの生き方であり、関係性だったのだ。

 だからこそ、彼女の願いはそうおかしいものではないとも言える。

 そしてその願いが拓斗にもたらした変化も、当然といえるものだった。

 恭しく礼をし、答えを待つように深い闇をたたえた瞳で拓斗を見つめるアトゥ。

 その瞳が、拓斗の心を動かさないはずがなかった。

 彼女は彼が最も愛したキャラクターで、大切な存在で、何よりも憧れそのものだったから。

(はは、王国。か……)

 何も持たない、力も土地も財宝も、何もないちっぽけな一人の人間。

 そんな自分を王と呼び慕うアトゥに、心が奮い立つのを拓斗はハッキリと感じた。

 否、奮い立つという表現すら生ぬるい。

 彼は、激動する己の感情を制御し、興奮に震える身体を抑えつけるのに精一杯だったのだ。

(僕たちに何が起こっているのか知らない。ここがどこかすらも分からない。けれども折角なんだ。もう一度やってみよう。あの輝かしい日々を、この世界で再現してみせよう)

 何の抵抗もなく動く健康的な肉体。病魔の去った彼には今、無限の可能性が広がっている。

 なによりあれほど熱を上げたゲームのキャラクターが彼の味方にいる。

 拓斗は一歩を踏み出すことを決意した。

 白く陰鬱とした死を待つだけのあの世界から、初めて自らの力で運命を切り開くことの出来る世界へと。

 彼はいま、自由を手に入れたのだ。

「アトゥ……」

「はい。 我が王よ」


「──僕たちの国を作ろう。

 僕と、君だけの王国を」


 ここに契約は成就する。

 その言葉を聞くや否や、彼女は先ほどまでの蠱惑的な表情から一転、年頃の少女を思わせる華やかさをその顔に浮かべ、大きく頷いた。



 そして「では」と小さく咳払いを一つし、拓斗がゲームで何度も繰り返し見た演出──英雄召喚時に紡がれる契約の言葉を口にする。


「我が名は《でいのアトゥ》。

 世界を滅ぼす泥の落とし子。

 これより我が身、我が心は貴方様の物。

 ──さぁ、何処までも一緒に堕ちましょう。

 我が王よ」


 力強く頷き、言葉に応じる。

 こうして伊良拓斗という人間は死んで初めて……。

 あらゆるものを犠牲にしてでも叶えたい夢を抱いた。



 さて、その後の話だ。

 一通りの儀式が終わった二人は、微妙な空気を味わっていた。

 アトゥはともかく、拓斗は今までの人生でここまでかしこまった行動を取ったことなどない。

 見目麗しい少女に対して二人だけの国を作ろうなどという告白じみた言葉を放つのも初めてだ。

 実のところ、とうのアトゥもそのような言葉を受けるのは初めてである。

 端的に状況を説明するのであれば、二人とも気恥ずかしさに身悶えしていたのだ。

「……や、なんだかこういうのって照れるね」

「私もちょっぴり恥ずかしかったです。それ以上に嬉しかったですが」

 まるで初々しいカップルのようにクスクスと笑い合う二人。

 だがいくらかの時を置いてやや真剣な面持ちになる。

 この場は彼らの想像が及ばぬ未知の土地。何をおいても行動が必要とされる。

 そう判断した拓斗は早速行動に移すことにする。

「では我が唯一にして無二の配下よ。我が腹心にして第二の頭脳よ。世界を破滅に導く邪悪国家マイノグーラはまず何をすべきか、理解しているな!?

「もちろんです! 我が王よ!」

 まとわりついた羞恥を振り払おうとしたのか、はたまた別の理由か。

 拓斗は台座の上に飛び乗ると、芝居がかった態度でたった一人の腹心に対し言葉を放つ。

 もちろん阿吽の呼吸で答えるはマイノグーラが誇る最強の英雄アトゥだ。

 互いが言葉を持たずとも、どのような方針、どのような指針で国家を運営していくかは理解していた。

 それは幾万も繰り返された行動。もはや脳の隅から隅まで刻み込まれた定石。

 彼らのプレイスタイル。彼らの戦い方。彼らの国作り。それらが凝縮された宣言。

 拓斗率いるマイノグーラとは……。

「引きこもるぞ!」

「引きこもりましょう!」

〝最も邪悪な国家〟という公式設定にもかかわらず全ての文明特徴が内政に有利で戦争に不利という、超内政特化のピーキー国家であった。


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