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異世界のカード蒐集家

茂木鈴

カード一枚目 「異世界で逞しく生きていくことを決意する」 (3)

 近寄ると、怪物の身体から黒紫の煙が吹き出して消えた。

「な、な、何なんだ?」

 さっきの生物はどこにもいない。あとには、ただ一枚のカードだけが残されていた。

 金之介はそれを拾い上げた。カードは黒紫色をした煙の中から出てきたものだ。

 目で見たことを信じるとすれば、あのグレムリンのような小さな生き物がカードに変化したのだと思う。だが、そんなことが起こりえるのだろうか。

(まるで何かのゲームの世界のようだな)

 変な生き物の代わりに出現したカードをよく眺めてみる。先ほど倒した相手の姿形がレリーフとして彫られており、色まで付いている。カードの上部には【レッサーゴブリンLV1】と書かれており、それが先程の生き物の名前であることが分かる。

 カード自体は紙とは違う材質でできており、裏面には下弦の月と点が合わさった図案が入っていた。やはり、あの生き物の代わりに出現したようだ。レッサーゴブリンとあるから、ゴブリンの下位種ということだろうか。そこで金之介はふと気付いた。このカードが日本語で書かれていないということに。

(……でも、なぜか読める!)

 もう一度カードを読んでみた。書かれた言語は日本語ではないのだが、文字を目で追うと、意味が理解できた。金之介はゆっくりと息を吸い込んだ。

「何なんだー!?

 絶叫した。これは混乱する。明らかにおかしい。

(知らずに外国の言語をマスターしたとか?)

 そんなはずはない。

 見知らぬ文字がカードに書いてあったが、それを目で追ったら日本語として理解することができた。つまり、脳内で日本語に自動翻訳されたような感じだ。

「……どういうことだ?」

 先程のカードのことといい、謎は深まるばかりだが、ここで立っていても何も解決しない。とにかくこのカードについて知っている人を探した方が良い。後ろは海で、ここは砂浜である。やはり人のいるところに出るには、目の前の林を抜けるしかないだろう。

 金之介は意を決して林に足を踏み入れる。すると、先程と同じ生き物がわらわらと出てきた。

「名前はレッサーゴブリンレベル一とあったな。いや……レッサーゴブリンが名前で、レベル一は強さかな?」

 金之介が様子を窺っていると、やはり向こうから攻撃してくる。

 といっても、脛くらいまでの背丈しかない相手である。

 前回同様、蹴りで倒す。すると煙とともにその生き物がカードに変化した。見間違いではない。おそらく死体になるとカードに変化するのだろう。

「ゲームならこういう仕様です、で信じてしまいそうな状況だな」

 この程度の相手なら脅威はない。ネコほどの大きさの相手であるし、蹴りの一撃で死んでしまうほど弱い。ならばもっと進んでも大丈夫だろうと考え、金之介はさらに林の奥へ歩を進める。

 林を進む音がいけないのか、はたまたレッサーゴブリンが気配や匂いを感じ取るのか分からないが、それなりの頻度で金之介は襲われた。

 林を抜けて道に出るまでに、金之介は都合二十体のレッサーゴブリンに襲われ、同じ数のカードを手にした。

(この状況は一体何なのだろうか。もう一度冷静に分析してみよう)


・死体がカードに変化する怪物に襲われた

・カードに書かれている見たこともない言語は読めた


 以上二つの出来事から、金之介の頭がおかしくなったか、ここは金之介の知っている世界ではないかのどちらかだろう。できれば、後者の方が金之介としてはありがたい。

「よかった。道があるってことは、町か村がありそうだ。何故か読める文字や、カードに変化する生き物とか謎だらけだし、情報収集のために行ってみるしかないよな」

 金之介は道にそって歩きだした。

(フェリーから海に落ちた拍子にどこか別の世界に飛ばされたとか……?)

 金之介は笑おうとして失敗した。

(頭を打って幻覚を見ている可能性もある。もしくは気が……だから、その考えは止そう)

 歩いていると、すぐに町が見えてきた。町は高い城壁に囲まれているというわけではなく、歩いているうちに畑や家が増えてきて、気が付いたら町中になっていたという感じの造りである。

「ゲームの世界なら門番とか立っていて、ようこそ○○の町へくらい言ってくれるのだけど」

 門番はおらず、ようこそだけを告げるような町人もいない。よって、ここは何という名前の町なのか分からない。

 看板は相変わらずの謎文字で書かれている。

「八百屋、靴屋、修繕屋……問題なく読めるんだよな、これが」

 人々の会話も耳を澄ませば問題なく理解できた。言語能力は問題ないらしい。

 見知らぬ世界でコミュニケーションが取れないと、早々に詰んでしまう。とりあえず、それだけは避けられたようで金之介は安心した。

 目抜き通りを歩いていると、『カードショップ』と書かれた看板を見つけた。

 入口の張り紙には、『カード買取、オークション代行も承ります』とある。

「カード買取ってことは、さっき手に入れたこのカードも売れるのかな」

 無一文の金之介が持っているのは、先程生き物が変化したカードだけだ。『買取』とあるので、このカードを現金に交換してもらえると助かる。

 よしんばそうでなかったとしても、手持ちの二十枚のカードのことを聞いてみるのもいい。

 ここなら何か分かるかもしれない。そう考え金之介は店の中に入った。

 カードショップの中は狭く薄暗い。カウンターがふたつあり、間はパーティションで仕切られている。まるで銀行の受付のようだ。

 金之介はその一つに向かった。

「いらっしゃいませ。本日はどのようなご利用ですか?」

「カードの買い取りをしてもらいたいのですけど」

 金之介はポケットから二十枚のカードを出した。

「確認致します。レベル一のシルバーが一枚とブロンズが十九枚ですね。シルバーに一ポイントがついたままですね。こちらも交換でよろしいでしょうか?」

「……? ああ、はい。お願いします」

 よく分からないが、金之介はとりあえず頷いておいた。

「交換レートは一ポイントが十万アルになります」

 ポイントというのは何? と聞きたかったが、金之介は黙って頷くだけにした。一枚だけ色違いのカードがあったが、やはりあれはレアカードだったようだ。

「このシルバーカードはまだアルが付いてますので、レベル一が二十枚換算で二百アルとなります。それとシルバーカードの一ポイント分を含めて総計で十万二百アルとなります」

(多いのか? 多いんだよな? よく分からないけど)

「お支払いはカードに転写かチップのどちらになさいますか?」

 また意味が分からない単語だ。アルはなんとなくお金の単位だと分かるが、カードに転写という意味が分からない。手持ちのカード二十枚は全て売ってしまったので、転写しようにもカードは一枚も持っていない。

「……チップで」

 受付のお姉さんは少し目を大きくした。

「では少々お待ち下さい」

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