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エノク第二部隊の遠征ごはん

江本マシメサ

森の恵み山賊風スープ (1)

 


 ──どうしてこうなった。

 目の前の血まみれ山賊達。否、騎士団の面々を見ながら思う。

 ここは深い森の中。そこで、ひたすら魔物狩りをしていた。これが、私達エノク第二遠征部隊の任務なのである。

「よし、今ので何体った?」

 ルードティンク隊長は振り返り、ベルリー副隊長に問いかける。

「隊長が二十体、私が七体、ガルが十一、ウルガスが五」

「この調子でいけば、明日には終わるな。おい、野ウサギ、数を記録しておけ」

 髭面で強面な大男が、私に命じる。

 あのお方は山賊のお頭……ではなくて、エノク第二遠征部隊のルードティンク隊長である。

 はあと盛大な溜息を吐きながら、魔物討伐数をノートに書き込んでいった。

「野ウサギ、えらいダレてんな」

「野ウサギではなく、メルです。家名はリスリス」

「野ウサギだろうが」

 そう言って、ルードティンク隊長は私の長い耳を指先ではじく。

「ぎゃあ! やめてください!」

 嫌がる私を見て、がははと笑う。

 この変態山賊が何しやがる! と叫びそうになるのを、必死でこらえる。一応、相手は上司なので。

 それにしても、無神経な男だと思う。フォレ・エルフの特徴である、長く尖った耳は神経が集まっているから敏感なのに。

 これはいたずらされるためにあるのではなく、森の中で暮らすために発達した器官になっている。獣や魔物の気配を察知し、遠くの鳴き声も聞きわけることができるのだ。

「長い耳はウサギの証だ」

「違います! 私はフォレ・エルフです!」

 ジロリと睨むが、まったく怯んでいない。悔し過ぎる。

 ルードティンク隊長は私の頭をポンと叩き、踵を返す。

 いつか仕返しをしてやる。私の心はメラメラと燃えていた。

 なぜ、森の奥深くで暮らすフォレ・エルフが騎士団に所属しているのか。それは、我が家が大変な大家族で、かつ、貧乏だからだ。


   *


 つい先日、結婚を約束していた相手に、婚約破棄を言い渡された。

 理由は我が家の泣けるほどの貧乏さと、私の器量と魔力のなさが原因である。

 そう、私は『美しき森の妖精』と呼ばれるフォレ・エルフの中で容姿はぱっとせず、魔力もからっきしであった。しかも、狩猟が苦手。

 基本的に、猪などの大物を狩るのは男の仕事だけど、ウサギとか、鳥とか、小さな獲物は女が獲りに行くのだ。でも私は一日中、狩りに出かけても獲物を仕留めることはできず、代わりに、籠の中を薬草でいっぱいにして帰ることも珍しいことではない。

 そんな事情もあって、総合的に残念な私に嫁の貰い手なんかあるわけがなかった。

 貧乏・不器量・無魔力の三重苦。空しいにもほどがある。

 身内の欲目かもしれないけれど、幸い、妹達は可愛かった。

 狩猟も上手くて、魔力も高い。だから、貧乏だけはどうにかしてあげたい。私はそう思い立ち、出稼ぎをしにはるばる王都にやって来たのだ。

 炊事、洗濯、掃除などは得意だったので、すぐに就職先が見つかると考えていたが、思いがけず大苦戦した。なんでも、給料の高い貴族に仕える仕事には、紹介状のない者を雇い入れないらしい。

 知らなかった。さらに、飲食店の面接を受けても、私のとんがった耳を見ると、お断りをされてしまうのだ。

 親切なおばさんが教えてくれたんだけど、エルフという生き物は自尊心が高く、労働者としては扱いにくいという印象があるらしい。そんなことないのに。

 たいてい、エルフは人里へ下りてこない。やって来るのはきっと、変わり者ばかりだったのだろう。妙な印象を植え付けた先人エルフを恨めしく思う。

 親切なおばさんは、私に合った就職先を紹介してくれた。それは、『王国騎士団エノク』だった。

 エノクは国に忠誠を誓う騎士隊である。

 そこはどんな種族でも受け入れ、平等に仕事を与えてくれる。さらに給料は高い。

 私は喜び勇んで面接と試験を受けに行った。

 計算なども得意なので、事務系の部署に回してもらえると信じていた。

 なのに、なのに配属された先は、『エノク第二遠征部隊』という、隊員の頭数が四名しかいない部隊だった。そんな不幸過ぎる私の役職は衛生兵。フォレ・エルフだけど回復魔法なんて使えないと必死になって主張したのに、ちょっと薬草の知識があると言っただけで、とんでもない部隊に配属されてしまったのだ。

 遠征部隊とは各地に派遣され、魔物討伐や災害救助などを行う。

 長時間、馬にまたがっていなければならないお仕事だとわかり、くらくらしてしまった。

 馬に乗るのも苦手だったのだ。さらに、配属先の人々にもびっくりした。

 隊長である、クロウ・ルードティンクは見上げるほどの大きな体に、顔の輪郭を覆う灰色の濃い髭、ギラギラと輝く紫色の目をしており、まるで山賊のお頭のような男である。背中には信じられないほどの大剣を背負っており、騎士という雰囲気は欠片もない。

「山賊です」と紹介されたら、「へえ、そうなんですね」と返すくらいのいで立ちだ。

 副隊長のアンナ・ベルリーさんは若い女性で、黒髪青目の短髪で細身の双剣使い。王都に来たばかりの私に、親身に接してくれた。

 ジュン・ウルガスは十七か十八か、私と同じ年くらいの青年。昔飼っていた栗毛の犬を思い出す。

 そして、最後の一人、寡黙なガル・ガルさんは狼獣人で、体は山賊ルードティンク隊長よりも大きい。赤い毛並みは美しく、精悍な騎士であるが、心優しく穏やかな気質の青年だ。

 そんなメンバーで、仕事内容の説明も受けぬまま、私は遠征へと連れ出された。

 本日の任務は王都から馬で三時間ほど駆けた先にある森で、大量発生した魔物の討伐を行う。私は馬に跨るように命じられ、大きな鍋のような、新品の兜を山賊隊長に手渡された。

「戦闘中はこれを被って端のほうで震えていろ、野ウサギ」

「は!?

 山賊隊長は私の長く尖った耳を指差し、野ウサギと呼んだ。絶対に許さないと思った。

 驚いたのは山賊っぽい容姿だけではなかった。

 大剣を操る山賊隊長は信じられないほど強くて、魔物を一刀両断にする。

 双剣使いのベルリー副隊長は踊るように首元に刃を滑らせ、確実に仕留めていた。

 隙を見て、青年騎士のウルガスが矢を放つ。それは、魔物の脳天を貫いた。

 狼獣人ガルさんは魔物を串刺しにしていく。大きな体なのに、案外素早く動けるようだ。

 彼らは間違いなく、少数精鋭なのだろう。実力確かな騎士達なのだ。

 けれど、戦闘終了後、血まみれで振り返る様子は山賊とその部下達にしか見えない。

 なんか、もっとこう、騎士らしく、亡骸を前に十字でも切ってほしいなと思った。

 代わりに、私が神に祈りを捧げておく。

「おい、野ウサギ、ちんたらするなよ」

 山賊のお頭が呼んでいる。私は大きな声で返事をした。

 そんな感じで、私はこの山賊共──ではなく、エノク第二遠征部隊の面々と任務に就いていた。


   *


 結局、魔物討伐は夕方まで行われた。

 辺りはすっかり暗い。うっそうと茂る木々はなんとも不気味で、怪しい雰囲気をかもし出している。

 夜間の移動は危険とのことで、今日は野営になるらしい。

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