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レベル1の最強賢者~呪いで最下級魔法しか使えないけど、神の勘違いで無限の魔力を手に入れ最強に~ (ブレイブ文庫)

木塚麻弥

01 転生 (2)

 つまり、この世界の主人公は自分である──そう思っていた。

 しかし、遥人は忘れていた。

 彼を転生させたのは、彼がよく読んでいたネット小説にあったような創造神や女神などではなく、邪神であったことを。

 無邪気にテンションをあげる遥人を見ながら、邪神が口を開いた。邪神の口元は笑っていた。だが、その眼には、邪悪なものが潜んでいた。

「貴様に渡すもの、それは呪いだ」

「……はい?」

 邪神が何を言っているのか分からず、遥人の思考が停止する。

「俺たちの世界で、貴様に活躍してもらっては困るのだ。だから貴様には『ステータス固定』の呪いをかけさせてもらう」

「な、なんで呪い!? それにステータス固定ってどういう意味だよ!?

「そのままの意味だ。貴様はいくら魔物を倒そうと、永遠にレベル1から成長することはない」

「はぁぁ!? ふ、ふざけんな!! なんでそんな──」

 遥人が邪神に詰め寄ろうとするが、邪神に近づけば近づくほど、遥人の動きが遅くなる。思考は普通にできるのに、身体だけが思うように動かない。

「ここは神の領域だ。貴様程度では、俺に近付くことすら不可能だろう。さて、そろそろ貴様には転生してもらおうか。せいぜい楽しむがいい」

「お、おい待て!」

 邪神が遥人に指先を向けると、遥人の身体がサラサラと崩れ始めた。

「せめてもう少し説明し──」

 言葉半ばで、遥人は邪神によって転生させられた。転生させる際に、邪神は遥人の魂に呪いをかける。

 それは、一度かけたら邪神ですら解除できないという制約を付け、さらに大量の神性エネルギーと邪神の力の大半を注ぎ込むことで、創造神からの干渉すら拒絶する超強力な呪いだった。


「これで、しばらくは安定して力を得られそうですね」

 邪神と遥人のやり取りを黙って見ていた式神が邪神へと話しかける。

「あぁ、アイツの転生と呪いで、この神界のエネルギーをかなり消費してやったぞ。できることなら奴の職業も下級職にしてやりたかったが、創造神ジジイの作った神界ルールのせいで勝手に『三次職』になってしまった」

「三次職とは言えステータスを固定されていれば、魔王を倒せるほどに強くなれるはずはありませんし、低レベルの魔物にも負けるかも知れません。もう我々が、彼を気にかける必要などないでしょう」

「それもそうだな」

 邪神は神殿の椅子に崩れるように座り込んだ。その顔には疲労の色が濃く現れていた。

「俺は、かなり力を使ってしまった……しばらく休む。後のことは、頼んだぞ」

「はい、畏まりました」

 邪神は椅子に座ったまま、眠りにつこうとしていた。

「あっ、邪神様!」

「なんだ? もう、限界だ。寝させてくれ」

 あと数瞬あれば、邪神は深い眠りについていただろう。それを引き留めるように、式神が声をあげる。

「あの者の転生先を決めていませんでした!」

「……何?」

「このままですと、あの異世界人の魂がこの神界に漂います。そうなれば、勝手に異世界人を転生させたことが創造神様にもバレてしまいます」

「だったら、その辺の奴隷にでも転生させておけばいいだろう」

「式神の私じゃダメです。神である邪神様が、彼の転生先を決める必要があるのです!」

「くそっ……わかった。じゃあ候補を持ってこい」

「はーい!」

 そう言って式神が、円状のボードと手投げの矢を持ってきた。

「おい、これはなんだ?」

「ダーツという異世界の遊戯です。この矢を、私が持っている的に向かって投げてください」

 式神が手投げの矢──ダートを邪神に手渡す。

 そして、邪神のもとから歩いて少し離れると頭上に的を構えた。

「では、どうぞ! 私に当てないでくださいね!」

 遥人の転生と呪いにかなりの力を注ぎ込んだ邪神は、今すぐにでも眠りにつきたかった。そのため式神が持つ的に書いてある文字を、ほとんど読まずにダートを投げた。

 神というのは基本的に万能だ。的に向かって矢を投げるという行為も、たとえ適当にやったとしても必ず狙った所にいく。

 邪神は何も考えずに、的の中央を狙った。

 神である邪神が投げたダートは、彼の狙い通り的の真ん中に突き刺さった。

「おぉ! 邪神様、おめでとうございます! 一発で決まりました──って、あっ……」

 邪神はダートを投げた直後、意識を失った。眠りについたのだ。

 別にそれはいい。放っておいても、邪神はそのうち目覚めるのだから。

 問題は遥人の転生先だった。

 式神が持つ的の大部分、およそ九割が『奴隷』だった。残り一割弱が『平民』で、これは的の中心付近にわずかばかり分布していた。そして的の中心──米粒のように小さな領域に『貴族』という転生先候補が記されていた。

 邪神が投げたダートは、ものの見事に、その米粒大の領域に突き刺さっていたのだ。

 的もダートも式神が邪神の力の一部を借りて創り出したものであり、的にダートが刺さった時点で遥人の転生先が決定していた。刺し直しても意味がない。

「やば……」

 式神の額に冷や汗が滲む。恐る恐る邪神を見た。邪神はダートを投げ終わった体勢のまま、眠っていた。

「き、決めたのは邪神様ですからね!? それにステータスを固定されているのですから、彼が活躍するなんてことはないはず。うん……絶対に、大丈夫!」

 自分を正当化するように、眠る邪神にそう話しかけた式神は、急いで的とダートを処分した。

 こうして、遥人が貴族の家に転生することが決まったのだ。さらに──

 己すら解除できない呪いを遥人にかけたこと。

 遥人の職業がたまたま『賢者』になったこと。

 さらに邪神が呪いをかける際にミスをしていたこと。


 これらが遥人にとって奇跡的な幸運となり、邪神を窮地に追い込む原因となるのだが──

 邪神がそれに気付くのはもう少し先のことであった。

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