魔王の娘の百合戦記 TS転生した勇者は可愛い魔族やモン娘に囲まれた平穏な暮らしを守りたい

新生べっこう飴

第一章 魔の体と勇者の魂 (2)

「ああもう、行けばいいんでしょう!」

 魔族とは、不便なのか便利なのか……よく分からなくなってしまった。


 そして、私は声の主の元にたどり着いた。


 色々と言いたいことはあるけれど、事実だけ告げよう。うるさいくらいに私を呼んでいたのは剣であった。

 岩場に刺さった剣であった。見るからにまがまがしい、真っ黒の剣身に赤黒い文様がついたもの。

「……さて。勇者におきゅうを据えに行きましょう」

 くるりと反転。私にはやらなければならないことが沢山あるのだ。

『おいおいおい! まさか、このまま放置する気じゃねぃだろうな!?

 その声は、角にぶつけられるようなひどく頭に響くものだった。声の印象だけから察するに男のものだが、口調の割に威圧感を感じるというか、まるで魔王の声のような。

 その一点にのみ私は興味を惹かれ、思わず嫌そうな声で答えてしまった。

「喋る剣……インテリジェンスソードね。魔大陸には随分珍しいものが眠っているものだわ」

「お、分かるかい。いやあ、オイラの声を聞くことができる魔族なんて何年ぶりか! そうとして生まれて数千年……まさか湖の端でぶっささったままとはなあ。ゲラゲラゲラ!」

「……槍? どう見てもあなたは剣でしょう?」

「何にだってなれるぜい。持ち主の魔力の形質次第だけどなあ。いかなる形をとっても最強。これをもって魔を冠する器よ」

「……むう。一理あるわね」

 確かに、聖剣だとか何千年の歴史がある伝説の武具だとか、世の中にあることはある。だが、その中でも魔剣や魔槍となると話は違う。

 歴史など知らぬ。正義など知らぬ。ただその時代の最強に値する武具が、魔を冠するということ。思えば、魔王の持っていた魔剣は長く戦っても刃こぼれ一つしなかったことを思い起こす。

「で、あんたは何なの?」

「おう。オイラぁ名はティルヴィング。持ち主のしき願いを三度叶える代わりに破滅をもたらすってえ呪いで無尽蔵の攻撃力を……」

「やっぱり時間の無駄だったわ」

 再びくるりと。見れば、湖の果てで何やら喧噪が。下級魔族達だろうか、大勢で何かを取り囲んでいた。曰く付きの武器よりはよっぽど興味を惹かれる。

「待て待てって! そう生まれちまったもんは仕方ねえだろう。武器って奴はよう、使われてこそなんだってばよ。あんたは悪しき願いを祈らなきゃいい。俺はそいつにゃあ応えねえよ。そしたらどうだい。あんたにはノーリスクで最強の武器が手に入るって寸法じゃねえかい!」

「よく回る口には気を付けるようにしてるの。嫌な思い出があってね……。それより、あっちの騒ぎは何?」

 騒ぎがあれば気になるのは勇者の性質たちというか。これはもう自分でも仕方ないと思っている。

「ああ……。魔王様が亡くなったせいで封印が解かれた邪龍が来るってんで、奴ら構えてんのよ。勝てるとでも思ってんのかねぃ」

「……は? 邪龍?」

「おう。いやあ、思い出すぜ。魔王様が力をつけるまでの魔大陸はそれはもう荒れててよう。人間なんかは買い物気分で食らいに行くし、帰ってくれば血で血を洗う戦争よ。誰が一番つええかってなあ。その時に最も猛威を振るったのがあの邪龍よ。何でも邪神様の加護を受けてるらしくてなあ。数万の魔族はあれにやられたんじゃねえかなあ?」

 ……。いや。そんな話。というか、あの魔王たたき上げだったのか。道理で強かったわけだ。

 だが、今こうして会話している間にも、確かに漆黒の塊が凄まじい速度でやってくるのを目視でも確認できた。

「あれが来ると、どうなるの?」

「さあ……。もう随分前のことだからなあ。とりあえず、ここら一帯は焦土と化すんじゃねえかな?」

「……ここらって、どのくらい?」

「魔大陸の半分は沈むだろう。その後は人族の住む大陸まで飛んで手当たり次第?」

 冷や汗がぽたりと。冗談ではない。曲がりなりにも自分でようやくつかみ取った平和だ。それがぽっと出の邪龍なんかに灰にされちゃ困る。

「行くのかい。何ででい? あんたぁ、ただの魔族だろう」

「……うるさいわね。そこで黙って見てなさい!」

 裏切りといえど、民衆は騙されてるだけだ。憎いのはあくまでパーティメンバーだけ。それ以外の人間に灰になるほどの罪はない。そもそもの話、私が魔王を倒したせいで封印が解けたというなら……。

「やれるだけはやるわ。それが私の正義なのよ──」

 一体どれほどの速度で飛翔しているのか、見上げるほど大きな黒竜はもはや間近まで迫っていた。

 あそこで待ち構えている魔族にも何の思い入れもない。彼らがどれだけの罪を重ねているのかも知ったこっちゃない。そんなもの、人間も魔族も変わらないと知ったから。

(見える限りを守る……思えば、そんな理由で私は勇者になったんだったかしらね)


 ◇


「状況を伝えなさい!」

 現場に到着した途端、私はそう叫んでいた。その声に気付いた魔族達が口をパクパクとさせる。

「ま、魔王様のお嬢様!」

「ここは危険です。もうすぐ邪龍がこの地へ!」

 そうだった。この体の持ち主は魔王の娘なのだった。あまりに綺麗に馴染むもので、すぐに忘れそうになってしまう。

「聞いています。だから私が来ました。戦える者は?」

「……あっしらはただの門番でして……。そりゃあ、戦えと言われれば、その……」

「ハッキリしなさい! 邪龍の脅威に立ち向かう度胸のある者はいるかと聞いているのです!」

 もう時間はない。振り向き様に見れば、邪龍はもう口を開けて負のオーラを口に溜めていた。

「いや、いやだ! 万年立っているだけの俺達が……!」

「……ならば、そこで黙って立っていなさい」

 ありったけの魔力を込めて、私は頭上に手を掲げる。

障壁展開」

 唄うのはそれだけでいい。呪文の簡略化はお手の物なのだ。重要なのは、最小限の行程で最大限の術式を編み出すこと──!

 そして放たれる絶対の圧を押し込んだほうこう。それは音だけではない。ヘドロとでも呼ぶべき液体が降りかかってくる。しかし、それは全てとっに展開したどうしょうへきで耐えきることができた。

(間に合った……。魔族の魔力で展開したおかげで随分変革してるけれど……相性が良かったみたいね。同じ量、質の魔力のぶつかり合いなら……)

 ……同じ量? そんなはずがなかった。片や魔王をして封印という手を取らざるを得なかった伝説の龍。こちらはいかに魔王の娘の体とはいえ、まだ幼い身……。

 その一瞬の防御は、偏に私が長年研究して編み出した術式のおかげ。でも、そんなもの……同質量以上の魔力が供給され続けなきゃ長く保つわけがない!

「きゃっ!」

 咄嗟に自称門番の魔族達を吹き飛ばすのが精一杯だった。降りかかる全てを溶かさんとする邪龍のブレスをまともに受けてしまった。

 通常ならば、一滴一滴が必殺に値するであろう攻撃力を感じた。できることと言えば、その全てに対する耐性を即席で作り出すことだけ。万を超える毒に対する術は学んできた。だが……。その全てを組み合わせてもなお、この邪龍のたかが咆哮はその上を行く!

 全身が服ごと溶かされていく。治癒魔法など追いつきようもない。

「なっ、めんじゃないわよ!」

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