魔王の娘の百合戦記 TS転生した勇者は可愛い魔族やモン娘に囲まれた平穏な暮らしを守りたい

新生べっこう飴

プロローグ 〜第二の魔王が生まれた日〜


プロローグ 〜第二の魔王が生まれた日〜


 雨が降っていた。しとしと、と縛り上げられた俺の体を濡らしていくそれはひどく冷たかった。

「こんなっ……こんなことがあるかよ……!」

 俺はたまらず、血を吐きながらそんなかいこんを述べた。だが、それさえも雨音は奪っていく。

「勇者カイン。なたは見事、魔王をとうばつなさった。しかし……その過程で行われた数々の悪行。どうしても……見逃すことはできません」

 聖衣に身を包んだ老人がそうひどく落ち込んだ声で述べる。かつては一人をして魔王軍幹部を討ち取った俺を褒めてくれた恩義のある男だった。

「残念だ……。カインよ」

「違う! そいつは全部仲間がやったことだ! 俺は、俺はただ……人類の平和を、ただそれだけを願って……!」

「……ならば、仲間の不徳は其方の不徳、と受け入れてもらう他ない」

 そう首を左右に振りながら言う男の背後には、数人の男女が立っていた。いずれも、共に魔王討伐を成した仲間達だった。処刑台に倒れる俺を目の前にしてそいつらの口元は……いびつな笑みを浮かべていた。

 かつて、俺には最強の自負があった。生まれたその時より様々な才能を手にしており、それを磨き上げることだけに生涯を捧げた。結果、俺は一人で人類の脅威である魔物や魔族……果てには魔王と渡り合えるほどの実力を手にした。

 だが、悲しいかな人徳はなかったようだ。勲章をいただいても、街を救えども、俺と共に戦おうとしてくれる仲間を見付けることができなかった。それはひとえに、俺が強すぎたためだった。

 民衆は思ったのだろう。あの人に任せておけば大丈夫、と……。だが、それはあまりに寂しい旅だったのだ。

 そんな心持ちから、俺は『じょう』という能力を生み出した。自らの才能・肉体を他人に手渡すという、ただそれだけの能力だ。

 だが、それには多くの者が集った。人類最強の力だ。才能とは成長を手助けするものだと俺は思っていた。だから、既にそれを極めてしまった俺には才能は不要だったのだ。欲しがらないわけがないと思ったのだ。きっと、今にして思えばそんな安易な考えが良くなかったのだろう。

 その中でも精鋭の四人に、それぞれ俺の才能を譲渡した。彼ら彼女らは大いに喜び、共に戦うと言ってくれた。

「エイガー……お前の策謀かっ……!」

 その中でも剣術の才能を譲渡した男に俺は叫ぶ。彼は一介の騎士に過ぎない人物であった。それなりの地位にいたが、俺からすれば悲しいほどに剣術の才能がなかった。だが、力への憧れは強く、けんぼうじゅっすうを使ってでものし上がろうとする根性があった。

 ならば、と思ったのだ。まるで神を気取るように。

「カイン。お前の譲渡は素晴らしいよ。まるで剣の才能がなかった俺がここまでなれた。聞いたかよ。剣聖だぜ? だけど……もう出がらしのお前なんか、邪魔なんだよ。勇者パーティの栄光を永遠にするため、死んでくれ」

 道行く女を犯してまわったと罵られた。だが、それはエイガーのしたことだ。

「アイバーン……。ミザリー……。俺を、助けてくれよ……」

 惨めだった。今や俺は闇魔法で身動きも取れず、かつての仲間に泣きつくことしかできなかった。

「……ごめんなさい。でも、あまりに膨らんだうっぷんは、もう……。魔力はもう、残っていないんでしょう?」

 俺の体を拘束する魔法を展開している女魔術師、ミザリーの声は無情であり……それに『創造』の才能を与えた男、アイバーンも続いた。

「死んだ後、地獄でびよう。だが、それでも……人類の平和のためだ。貴様の力、存分に活かしてみせよう」

 まだ未熟だった頃に、魔物の猛攻に耐えきれず街を守りきれないことだってあった。知識不足から、魔物の死体を放置してえきびょうまんえんさせてしまったこともあった。国の資金を大きく回してもらってもいた。それをして、俺はいつだって助けられてきた。


 だが。それは全て、人類の平和のためならばと。


 彼ら四人の後ろに並ぶ民衆は、俺を人類の希望と呼んだ者達だった。だからこそ、全ての悪事、不平不満の爆発は衰えるところを知らず。

「死ね! 今まで力に任せて好き勝手やりやがって! 魔王さえいなくなりゃお前なんざ必要ねえんだ!」

「今までの信頼を裏切りやがって! お前なんかを英雄と呼んだことは人類史に残る恥だ!」

 いっそ、弾けてしまおうかと思った。だが、そのための魔力も、創造の力も仲間に渡してしまった。


 だが。それは全て、人類の平和のためならばと!


 そんな中、エイガーが叫ぶ。

「静まりたまえ! 確かにカインは多くの悪行を為してきた! だが、彼とて人の子であったということだ! 魔王を倒す手助けをしてくれたのは事実だ。その責任は取ってもらうが、そこだけは認めようじゃないか!」

 そして何より、民衆は知らないのだ。もし俺が抵抗の意を見せようものなら、端から順に彼らの首が遠隔起動の爆発魔法で吹き飛ぶことを。要は体のいい人質だ。俺が処刑から逃げようとすれば、俺の守るべき民を殺す、と。

 無知なる民衆から沸き起こるエイガーコール。別に栄誉が欲しいわけじゃなかった。平和こそが真の目的ではなかった。ただ俺は。


 仲間が欲しかっただけなのだ。その結末がこれだというならば。


「仲間なんざ……平和なんざ……! くそくらえだっ!」

 認めない。認められない。こんな結末など! あまりに惨めすぎるじゃないか!

 俺に残された最後の才能、『譲渡』を人知れず展開する。この盲目共をごまかす手法など、数多あまたある。

「人類史上最強の勇者を! そして過去最悪の大罪人を! 浄化することで、戦乱の時代に終わりを告げよう。これから先の平和は、俺達が守っていく……!」

 俺の首を刈り取ろうとする歪な形の斧が大きく振り上げられる。

 くっ、もう座標の特定までしている暇はないか……。いや、どこでもいい。もう誰の力も必要ない。とにかく、とにかく遠くへ……!

 何を『譲渡』するだって? そんなもの……もう、俺にはこの魂しか残っていないだろう?

 ざん、と鈍い音がするのを……俺は切り離された首から眺めていた。忘れまい。忘れまい。この屈辱を。この無念を。だが……こんなままでは、とても終われない!

 どこまででもいい。飛んでいけ。俺の魂よ! そして、どうか……俺が生み出してしまったバケモノに決着をつけさせてくれ!

 そんな一念だけを最期に、俺の生涯は余りにみっともなく終わりを遂げた。


 ──勇者に復讐を成すのならば、私はこの身を捧げましょう。私が愛した勇者様……。


 ◇


 ……気が付くと、深紅の空に覆われた、一見すると砂漠と見まがうほどの廃墟に俺はいた。

「ここは……暗黒大陸。魔族の国か」

 どうやら、魂の『譲渡』は上手くいったようだ。この際、体が動くならどんな無機物でも魔物でも構わない。その体を鍛え上げればいいだけの話だ。

 だが……。どうも体の感覚が変だ。視点はやけに低いし、レンガの感触さえ鮮明に伝わってくる。

 俺はほぼ無意識に、割れた鏡の前に立った。

「……マジ?」

 そこにいたのは、冴えない金髪の青年の影などどこにもない……銀髪に褐色、幼い顔立ちながら、ややつり上がった形の良い目が印象的な幼女の姿だった。

 人間の年齢にして、十歳かそこら。わざわざ人間の年齢に直したのには理由がある。その頭には魔族の象徴たる大きな角が生えていたからだ。

 それも、ぐるりと巻いた悪魔を思わせる巨大な一対の漆黒の角。

 加えて、全身を循環するあふれんばかりの魔力の量と質。ここまでくれば俺には分かる。

「倒したはずの魔王の……そのものじゃないか」

 だが、魔王は壮年の男だったはずだ。鏡に映るのは、少女そのもの。ということは……。

「私は、魔王の娘の体に、入り込んだのか……?」

 自然と零れてきた、私という一人称。それが全てを表していた。

「魔王の娘なんて聞いたこともないけど……魔王城崩落の際に……死んでしまっていたのかな?」

 口調もやや幼くなってしまっている。これでは威厳も何もない。だが、今の俺にはこれくらいでちょうどいい。いや、十分だった。

「……魔王の娘の魔力。私がつちかってきた技術。残った『譲渡』の力。それだけあれば……あいつらをギャフンと言わせるくらい、わけないわ」

 きっと、増長していく勇者パーティの行く先は、平和とはほど遠いもののはずだ。ならば、それを止めるのは私の責任のはず。

「もう、仲間なんていらない。たった一人でどこまでやれるか……試してみようじゃないの」

 いや、成さねばならぬのだ。『譲渡』が上手くいったということは、運命はまだ私を転がすつもりだ。演じてみせよう。魔王の娘としての第二の生を。

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