最強の魔物になる道を辿る俺、異世界中でざまぁを執行する
第一章 (1)
第一章
キメラは恩人を守ると決意する
このさも当然のように魔物らしからぬ、人間のような考えに及んでいるキメラ、ゼオについて少し語ろう。
地球と呼ばれる世界の日本という国で生まれ育った男子学生だった彼は、ある日電車に撥ねられて死亡……したかと思えば、異世界に存在するグランディア王国が有する樹海の中で目を覚まし、肉体が魔物の一種、キメラとなっていた。
(な……何じゃこりゃぁああああああああああっ!?)
まず自分の前足や体、そして近くにあった泉で全身を確認した時は、思わず絶叫してしまった。それもそのはず、彼にとって「死んだと思ったら魔物に転生してました」などという展開は、小説や漫画の中だけの状況に過ぎないはずだから。
(うーわー……どーすりゃいいんだよ、これからぁ……)
腹這いになったり、地面をゴロゴロ転がりながら途方に暮れる。高度な文明人として十七年近く生きてきた彼にとって、いきなり人外に転生した上でのサバイバルに、適応出来る自信などありはしない。ありはしないのだが……。
(まぁ……命あっての物種か。その上意識もしっかりとしてるし、記憶もある。せめて人に生まれ変わったんなら御の字だったけど、そこまで贅沢は言えない……よな?)
しかし彼の精神は図太かった。深く考えるのはサクッと止め、とりあえず生き抜くことだけは決心し、食料を求めて徘徊し始める。
人間だった彼が今ではすっかり魔物になっているという超常現象が起こるだけあって、この世界は魔物や魔法がはびこるファンタジー世界であるということは、早々に理解した。
何せ森を歩けば六本足の上に刃のような角を持つ鹿が闊歩し、平原を進めば鎧を着た剣士にローブを纏って杖を構える魔法使い、耳長の種族であるエルフの弓兵や小柄で髭の生えた筋肉ダルマ、ドワーフの戦士という、いかにも冒険者っぽい一団。
湖の畔を歩けば、大の男も丸呑み出来そうなほど巨大な、角の生えたナマズが水面から姿を現し、空を見上げれば男子のロマンであるドラゴンが雄々しく翼を広げて飛び去っていく。
これだけ見せられれば、現状を夢と自分に言い聞かせて現実逃避出来るはずもない。非現実的な光景を現実と受け止め、彼は野生に適応しようと生水を啜り、血肉を齧った。
それと並行して魔物と戦い自身を鍛え、どのような怪物や冒険者を前にしても生き抜けるようにと備えていた。
狙いは主に自分と同じくらいか、それ以下の強さしか持たない魔物。堅実にひっそりと、焦らずゆっくりと強くなろうとしていた彼を嘲笑うかのように、それは現れた。
「グオオオオオオオオオオオオッ!!」
「ガァッ! ギャウギャウッ!」
三本の角と黒い体毛が生えた巨大な熊に目を付けられたのだ。大男と比較しても更に巨大な魔物と、女の腕の中にすっぽりと収まるであろう子犬サイズの魔物である彼とでは、体格差どころかあらゆる能力値に差があり過ぎる。
それでも何とか逃げようと、時折攻撃を当てつつ逃げるを繰り返していたが、こちらの攻撃は雀の涙ほどしか通じないし、巨大熊は尋常ではない速度と筋力、鋭敏な嗅覚で逃げ惑う彼を追い詰めていく。
「グルォオオッ!!」
「ガッ……!?」
剛腕一閃。幸いにも爪による裂傷を負うことはなかったが、筋肉の塊であるかのような太い腕は、薙ぎ払うだけでも凶器となる。
まるで小石を投げたかのように吹き飛ばされた彼は、そのまま渓流へと叩き落され、水に揉まれながらどこまでも流されていった。
尋常ではない一撃に体力はごっそりと奪われ、川の水温は容赦なく気力を削ぎ落す。命辛々、川からの脱出が叶った時は不覚にも泣きそうになった。
そのまま極度の眠気と疲労に襲われながらも、彼はなけなしの気合で安全な場所を求めて彷徨い歩く。この睡魔に身を委ねれば命は無い……そんな確信にも似た予感が小さな魔物の四肢を突き動かしていた。
「……ガァ」
歩き続け、巨大熊に殴られた鈍痛と全身の擦り傷に苦しみながら、どうにか魔物の気配が少ない場所に辿り着いた彼は、藪の中に身を潜めるように潜り込んだ。
しかしその藪は思いの外小さく、彼の体は突き抜けるように向こう側へと飛び出した。そんな彼の目の前には、見上げるほどの大きな洋館。
(やべぇ……ここ人住んでるんじゃ……?)
今の彼にとって、人間というのは基本的に敵だ。向こうには害獣退治や素材採取という様々な名目があるが、それで命を奪われる身となった今では堪ったものではない。
この世界に転生して間もない頃、冒険者風の人間の団体が、まるで家畜を屠るかのような目で剣を振るい、魔法を撃ってきたこともあるのだ。
何とか身を起こしてこの場から離れようとするが、一度倒れた体には力が入らない。むしろ猛烈な眠気すら襲ってくるほどだ。
(俺……また死ぬのかな……?)
それは耐え切れないことだった。こうして記憶を持ったまま転生してはいるが、次はどうなる? 完全な死か、記憶を失っての転生か、いずれにせよそれは地球の日本で暮らしてきた記憶の消滅に他ならない。
「もう大丈夫ですよ」
朦朧とする意識の中、二度目の死が迫っていることを自覚しながら重い瞼に必死に抗っていると、そんな澄んだ優しい声の持ち主が彼に手を翳した。
暖かな光が全身に浴びせられる。全身の痛みが引いていくことに驚いて傷を見ると、なんと光を浴びた傷が急速に塞がっていくではないか。
(……て、天使……?)
見上げてみると、そんなバカげた感想が脳裏に浮かぶ。しかし声の主である娘は、本当に天使と見紛うばかりの美しさだった。
金糸を束ねたかのような長い髪も、蒼天を連想させる大きな瞳も、最高の職人が丹精込めて作ったビスクドールのように整った顔立ちも、テレビの中ですら見たことが無い美少女を構成している。
「ガアァ……ッ!」
しかしどんなに美しかろうと相手は人間、自身も人間としての意識が残っているにも拘らず、転生してから受けた仕打ちから、思わず威嚇の声を出す。
そんな半ば魔物となった彼に対し、娘は慰撫するかのように怪物の体を毛布で優しく包み、そっと抱き寄せた。
「大丈夫……大丈夫ですから。ここに貴方を傷つける人はいません。だから今は休んでください……ね?」
その一片の打算も悪意も感じさせない声と腕の中の温もりに、閉ざされないように堪えていた瞼が力無く下りる。
幾日も気を張り続け、遂に緊張の糸が切れた彼は抗い難き眠りの淵へと意識を投じたのだった。
次に目を覚ましたのは、扉を開けるような音がした時だった。
自分を救った娘の部屋なのか、日当たりの悪い質素な部屋の中、ベッドの上で毛布と布団で覆い隠された〝彼〟は先ほどの娘と茶髪のメイドが向かい合っているのを見た。
(……なぜメイド?)
この部屋には何ともミスマッチにも思え、しかし娘と向かい合っている様は不思議としっくりくるという矛盾を感じる。
「では、食事をお持ちしましたので私はこれで」
「……ありがとう」
「?」
何故か憮然とした表情のメイドと、彼女を悲しそうに見つめる娘に疑問を浮かべていると、娘は食事らしき物が載せられたトレイを机の上に置き、毛布と布団を捲り上げた。
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