テイマーさんのVRMMO育成日誌

ジャジャ丸

第一章 初心者テイマーと最弱モンスター (2)

 と、心の中で叫びながらふと顔を上げると、私と同じようにログインしたばかりのプレイヤーが、木の枝みたいな棒きれを持って打ちひしがれてた。

 ……まさか、あれも武器? いやいや、そんなバカな……って、私の手にあるのも似たような感じだから、あり得るのかな……?

「い、いや、私はモンスターをテイムしに来たんだから、私自身の武器なんてなんでもいい!」

 そう自分に言い聞かせた私は、ひとまず《スキルポイントの書》を使って、スキルを習得することにした。

 テイマーといえど、スキルを習得しないことにはテイムも出来ない。それは事前にお兄から聞いていたから分かってる。

 インベントリから《スキルポイントの書》を全て取り出して使用し、ポイントを5つ得る。そうしたら、それを2ポイント消費して、モンスターをテイムさせられる《調ちょうきょう》スキルと、テイムしたモンスターを戦闘に参加させられるテイマー限定のスキル、《使役》を習得し、スキルスロットにセットする。


 名前:ミオ 職業:魔物使い Lv1

 HP:6060 MP:5050

 ATK:40 DEF:60 AGI:60 INT:50 MIND:60

 DEX:80 SP:3

 スキル:《調教Lv1》《使役Lv1》


「よし、これでモンスターをテイム出来る!」

 初期装備が《蔓の鞭》なんて残念感丸出しな感じだったけど、テイマーはモンスターを育ててなんぼ。モンスターがいれば何も怖くない!

 スキルポイントはまだ余ってるけど、どんなモンスターがテイム出来るのか分からないし、それをはっきりさせてから選んだほうがいいかな。

「早速モンスター探しだ! 待っててね、私のモンスター!」

 そうして気合を入れながら、私はマップを確認して街の外へと向かう。

 今日はひとまず自力で進めてみるとお兄には言ってあるから、特に待ち合わせも何もない。私は意気揚々と、街の外へ向けて歩き出した。


     ◆◆◆


 早速モンスターをテイムするためやってきたのは、始まりの街《グライセ》の東側にある原っぱみたいなフィールド、通称《ひがしへいげん》。うん、そのまんまだね。

 始まりの街の周りには四つのフィールドがあるんだけど、ここは非好戦的ノンアクティブなモンスターが多くいて、かなり奥まで進まないと経験値効率が悪いのもあってか、他のプレイヤーの姿もない。

 穏やかな風が吹き抜け、くるぶしほどの高さの草むらがなびく。

 そんな長閑のどかな光景の中を、のっしのっしと歩くモンスターの姿が見えた。

 全身を長いふさふさの毛で覆われた、小型のゾウのようなモンスター。その名前は、マンムー。

 小型と言っても私の胸の高さくらいはあるし、ゾウ型のモンスターなだけあって力も強そうだけど、その頭上に浮かび上がる逆三角すいのマーカーは黄色。お兄から聞いていた通り、ノンアクティブモンスターだった。

「うわぁ、可愛いーー!!

 そんなマンムーを見た私は、迷わず駆け寄ってマンムーに思い切り抱き着いた。

 同時に、ぼふっと顔を毛の中に埋め、これまで画面越しで想像するしかなかった感触を味わい尽くすように、全力ですりすりする。

「うへへへぇ、いい匂い〜」

 もふもふした毛触りに、マンムー自身の体温。更には匂いまで、とてもゲームの中とは思えないくらいリアルにその存在を感じられる。

 はあぁ、幸せぇ……もう今日はずっとこうしててもいいかも……。

「ブモォ!!

「ふぎゃ!?

 そんなことを考えてたら、マンムーが急に雄叫びを上げて足を振り上げ、私の体が軽々と蹴飛ばされた。

 視界の端に表示されてた私のHPゲージがガクンッと減って、一気に半分近くまで削られる。

 あれ、ノンアクティブモンスターは私が攻撃するまで攻撃してこないんじゃなかったの!? なんで!?

 そんなことを考えながら、蹴飛ばされた勢いでゴロゴロ転がり、やっと落ち着いたところで慌てて顔を上げると……マンムーは、私のほうをいちべつした後、ぷいっと顔を背け、むしゃむしゃと足元の草を食べ始めた。

「あたた……ご飯中だったんだ、ごめんね、気付かなくて」

 どうやら、ご飯中に私が急に抱き着いたもんだから、邪魔されたと思って怒っただけみたい。

 うん、それは怒るよね、ちょっと初めてのリアルなVRで気持ちがたかぶりすぎてたかも。反省反省。

「けど、本当に、何かするとちゃんと反応してくれるんだ……」

 高性能なAIを搭載したゲームとは聞いていたけれど、さっきの苛立ったような鳴き声といい、今の私から距離を置いて警戒している空気といい、すごくリアルだ。マンムーに嫌われちゃったのは悲しいけど、それはそれとしてすごく感動した。これは、期待以上かも。

「でも、まずはテイムに成功しなきゃ意味ないよね」

 とはいえ、このままモンスターに嫌われるばっかりじゃ当初の目的が果たせない。なんとかモンスターをテイムして、合法的に可愛がらないと。

「マンムーは……今日は無理そうだね」

 敵……とまでは言わないけど、かなり嫌われてしまったみたいで、抱き着いた子だけでなく他のマンムーも私のほうに近づいてこようとはしない。

 食べ物の恨みは恐ろしい……別に横取りしたわけでもないけど。

 と、そんなことを考えながら、がっくりと肩を落として溜息をいていると、足元で何かがうごめく気配がした。

「んん?」

 目を向けてみると、そこにはこれまた一匹のノンアクティブモンスターがいた。

 大きさはサッカーボールより気持ち小さい程度。ぷるぷるとしたゼリー状の体は動く度に波打って、触ると気持ち良さそう。それでいて、私の足にすりすりと擦り寄ってくる様はなんとも小動物みたいで可愛らしい。

「この子、ひょっとして……スライム?」

 恐らく、ゲームをやったことがない人でさえ知っているほどの有名モンスターであると同時に、最弱の代名詞でもあるモンスター。このゲームでスライムが強いかどうかは分からないけど、少なくとも始まりの街のすぐそばで、ノンアクティブモンスターとして出てくるってことは、この子は強くないと思う。元々、《東の平原》はそういう弱いモンスターが多くいる場所だし。

「えへへ……」

 けど、私にとって元の強さなんて二の次。可愛いと思えるかどうかが一番大事だ。強さは愛でまかなってあげてこそのテイマーだと思ってる。

 とはいえ、ここでまた感情に任せて抱き着いたりすると、せっかく自分から寄ってきてくれたのにまた嫌われるかもしれない。

 ここは、古典的だけど餌で釣るとしよう。

「ほら、スライムちゃん、ご飯だよ〜」

 インベントリから《魔物の餌》を取り出してしゃがみ込み、掌に載せた状態でスライムの傍に持っていく。

 目も口もないけれど、私の手の上に載った餌に気付いたのか、スライムの意識がそちらに移ったのがなんとなく分かる。

 興味を持ってくれるかどうか、ドキドキしながら待っていると、スライムはその体の一部を触手のように伸ばして、私の掌の上にあったブロック状の餌をその体内に取り込んでいった。

「おおっ、食べた!」

 半透明な体に取り込まれて、消化の様子も見えたりするのかと思ったけど、取り込まれた傍から光に包まれて消えていったから、さすがにそこまでは分からなかった。

 けど、消えると同時にスライムのぷるぷるボディがぷるんっと揺れて、その全身で喜びの感情を表現してる。

「えへへ、美味しかった? なら、もっと食べる?」

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