社内恋愛禁止のオフィスで社長に溺愛されています あなたと秘密のランジェリー【電子書籍限定版】

深雪まゆ

第一章 二つの秘密 (2)

「え、ああ。昨日、寝るの遅かったんだよね」

「なんだ、日曜日でハメ外しちゃった? まさか彼氏?」

 菜奈がキャスター付きの椅子を滑らせて隣にやってくる。周囲の同僚の目を気にしながら、愛花の耳元でコソコソと耳打ちしてきた。

「ま、まあ……うん」

「やだもう、ごちそうさまぁ。そんなに激しかったの?」

「っていうか……回数? 的な?」

「確か愛花の彼氏って年上だったよね?」

「うん。七つ年上だよ」

「私たちが二十五だから……三十二歳だね。といっても、三十二ならまだまだ現役だね」

 菜奈がセミロングのやわらかそうな栗色の髪を耳にかけながら、ニヤニヤと下世話な想像をしている。それを横目で見ながら、愛花は昨晩の様々なシーンを思い巡らせひっそりと頬を熱くした。

 菜奈は前の会社からの友人で、愛花と同じ部署で仕事をしている。愛らしくてくりくりした大きな瞳と、ぷっくりしたピンクの唇が女の子らしさを漂わせていた。この部署でも一、二を争うほど人気がある。

 華奢で色白、清楚で草食系に見えるが中身はかなりの肉食だ。イケメン好きで、彼女のイケメンセンサーはかなりのものだと愛花は思っている。

「まあ、回数こなせる男って精力的にはすごいよね」

 うんうん、と一人でなにやら納得したように頷いている。

 どんなことにも前向きで、いつも元気な菜奈にはなにかと助けられることが多い。それは仕事面でもその他でもだ。

「今、想像したでしょ?」

「え? あ……分かった? でもさぁ、愛花が彼氏を紹介してくれないのはどうしてなの? もしかしてブサメン? ってことはないか。愛花が選んだ人だもんね」

「ちょっと、私の男性の趣味、そんなに知らないでしょ?」

「知ってるよ」

 当然でしょ? という風に菜奈がこちらを見てくる。

 そういえば、ランチのときに好きな芸能人やらを聞かれたことがあった。確かに見た目が格好いいに越したことはないが、選り好みをしているつもりはない。

「ねえ、紹介してよ~。私がいろいろチェックしてあげるから」

「やだよ。だって……たぶん菜奈の好みだもん」

 高瀬の笑顔を頭の中に浮かべた愛花は、思わずニヤニヤしてしまった。その隣で菜奈が唇を尖らせ睨んでくる。

「いじわる~」

「えへ、ごめんね」

 形ばかりに手を合わせて謝ると、ランチのときに一品奢れと言われた。

 高瀬の外見はどう考えても菜奈のタイプだろう。彼女が横恋慕をするとは思えないが、高瀬が菜奈に気を向けるのは正直言って複雑な気持ちだ。友人として好きにはなって欲しいが、女性として意識されると困る。

 浮気の心配はいつも死ぬほどしている。今だってそうだし、ベッドの中で抱かれながら考えることだってある。

(菜奈、ごめんね。やっぱり心配なんだ)

 心の中で彼女に何度も謝った。女友達の一人も紹介できないのだから、狭量だなとは思う。しかし紹介できない理由はもう一つあった。

(うち、社内恋愛禁止だからなぁ)

 ソレイユでは前代の社長である、現在の会長が社内ルールを改訂した際に『社内恋愛禁止』というのを盛り込んだ。

 以前、会社内恋愛で大問題を起こした社員がいたことで、それから全面的に禁止になったと聞いたが、その詳細は知らない。なんて迷惑なルールなんだ、とも思うが、それでも隠れて付き合っている人はたくさんいるはずだ。

(まあ、私もそのうちの一人なんだけど)

 ペロッと胸の内で舌を出し、気持ちを切り替えて入力作業へ戻った。

 しばらく集中して仕事をしていた愛花は、隣の席でなにやらソワソワし始めた友人に気付いた。菜奈は今日のランチはなにを食べるか、と社内ネットの社食メニューを見ながら呟いている。そういえばもうすぐお昼休みの時間だ。

「菜奈、あまり高いのはやめてよね?」

 愛花がそう声をかけると、さて、どうしましょう? となにかを企むようににんまりと笑みを浮かべてこちらを向いた。

「愛花が打ち明けてくれないんだもん。A定食にしちゃうもん」

「ええっ! 一品って言ったじゃない」

 焦ってそう言い返すが、彼女は全く聞く耳を持たない様子で、定食のページを眺めている。

「なに? なんの話?」

 不意に、菜奈の席とは反対側から声をかけられた。頭を動かして左を向けば、涼しげな眼差しでこちらを見つめるそうの顔があった。

「あ、いえ……その、ランチの話です」

「そっか。小牧さんの彼氏の話かと思った」

 ニッコリと微笑んだ颯真が、自然な仕草でメガネのブリッジに指をかけて押し上げる。彼の鋭いひとことに心臓がバクバクと高鳴ってしまう。

 颯真は営業・販売部の新規事業企画プロジェクトのリーダーで、愛花の部署では地獄耳で有名だ。会社の内部情報もそうだが、部署のメンバーのプライベートな情報までを網羅していると聞く。かといって、他言するわけではないし、その情報を悪用するわけでもないからいいようなものの、自分の弱みを握られているようで少し怖い。

「颯真リーダーって本当に、地獄耳ですね」

「それは人聞きが悪いなぁ。周囲に細やかな心遣いをしてるって言って欲しいよ」

 彼はやさしげな表情でそう言った。見た目はかなりのイケメンの部類に入るだろう。

 パソコンを使ったり車の運転をしたりするときは、銀縁フレームのメガネをかけるらしい。瞳は黒く力強い印象だが、微笑むと柔和な空気が漂いとてもやさしくなる。仕事をしている彼の真面目な顔つきは男っぽく、理知的でできる男というイメージだろうか。

 愛花のいる部署の中では一番背が高く、百八十センチは余裕である。なのに威圧感がないのは、スマートなスタイルと整った容貌、そして彼が持つ気さくな雰囲気のせいだ。

 全ての人に平等で好意的に接するそんな颯真は、他部署でもかなり人気があった。しかしその笑顔の裏にある本当の顔を決して見せない。つまり腹の中を明かさないというのが、愛花は怖くて仕方がないのだ。

 他の女性たちに言わせれば、そのミステリアスなところがいい、と言うが、愛花は摑み所のない颯真とは一定の距離を保つ方がいいと考えている。

(出た! この笑顔。笑ってるけど笑ってないように見えるのは、私だけ!?

 颯真が再びニコリと微笑み、その瞳が印象的な弧を描く。これが愛花を妙に不安にさせる笑顔だ。

「なにか悩みがあったら僕が聞くからね? そういうのを解決するのもリーダーの役目だから、気兼ねなく相談して」

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