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残り物には福がある。

日向そら

一、召喚されてみたけれどこの扱い (1)




一、召喚されてみたけれどこの扱い


 異世界にトリップして、はや二年。

 時は無常に流れ、わたし──さえぐさは正式に『役立たず』のらくいんを押され、王城から放り出される……はずだった。


 だがしかし、当時を振り返って言いたいことは一つ。

 一介の中学生に何ができるっちゅーねん!

 成績は中の中、運動神経はソフトボール部のエースだったから自信はあったけれど、所詮中学生レベル。

 容姿はといえば部活で髪は焼けて金に近い茶色、かつ痛んでバシバシ。加えて肌はこんがり小麦色を通り越した焦げ茶色で、男の子みたいなショートカットだった。手足はひょろっと長いけど、胸はスポブラですら申し訳ない程度。

 そんな平凡で残念な女子中学生が部活帰りにマンホールから落ちた先は異世界で、はっと気づけば魔法陣が足元で光り輝いていた。ついでにセーラー服でもブレザーでもなく、紺色の部活ジャージという残念仕様。

「なんだつまらん。男か」

 しんと静まり返った石造りの部屋の中、明らかに落胆した声でつぶやいたのは、一段高い場所で立派な椅子に偉そうにふんぞり返っていた男の人だった。彫りが深くせいかんな顔立ちと筋肉質な身体からだ──肉食系男子……と、イケメンハンターな先輩がいたら即座に分類し、目をハート型にしたかもしれない。

 毛皮で縁取りされたあかいマントをまとい頭には王冠が載っている。王様だろうなぁみたいな分かりやすい格好をしたおじさん……いや、お兄さん? 的な微妙な年頃だった。

 まぁこいつがわたしを『』として神官長に召喚を命じた、リオネルだったかレオナルだったかそんな名前の王様だった。

 言い方に引っかかりはしたものの、当時性別はしょっちゅう間違われていたので、とくに腹が立ったわけじゃない。だけど反射的に「女です」と否定していた。

 すると王様はおもむろに椅子から立ち上がり、わたしの胸にぺたりと手を置いた。

 それでもまだ首をかしげたやつは、あろうことに下! の方にまで手を伸ばそうとしてきたのである。変態だ。間違いない。せんめつすべし。

 ぎゃあああっ、と悲鳴を上げながら後ろに飛びずさり、中途半端に浮いた手にみつけば、「この子猿が……!」と、怒鳴られた。

 気分を害したらしい王様はその勢いのまま椅子を蹴飛ばして退場し、残ったわたしは宰相になだめすかされた。ちなみにその王……セクハラ王とはそれ以来会っていないし、会いたくもない。

 その後は「この国に幸いを!」なんて詰め寄られ、訳が分からないままに『異世界の神子』について説明を受けること小一時間。世界の危機を救うでもなく、魔王を倒す旅をするわけでもなく、我が国を幸せに導いてくれと──。

 だから一体何をしろと!

 具体的にお願いします、と詰め寄っても宰相は『まぁ追い追い』なんて逃げやが……いやいや誤魔化して『きっと何かしょうな力が!』との一点張り。

 もちろんその時点で自虐的に平凡を自己申告した。

 しかしそれにもかかわらず『いや、特殊能力があるのがお約束だから!』と、宰相以下、騎士団長、大司祭、お付きの侍女さんにまで言われ、ちょっとその気になってしまったのが悪かった。

 だって、中二だしな! その時期特有の妄想力と周囲のちやほや具合に、自分が特別だなんて思い込むのは正直仕方がないだろう。

 しかし、だ。三か月っても半年経ってもテンプレであるはずの特殊能力は欠片かけらも芽生えず、わたしの立場は一転した。住まいはボロボロの離宮へと移され、数えきれないほど付いていた侍女も一人だけに。

 結構ノリノリで神子を引き受けた手前、今更勝手に召還したことを責めるわけにもいかず、その時になってようやく今後の身の振り方について考えるようになった。

 ちなみにわたしには従来の異世界トリッパーのごとく、どうしても現実世界に戻りたいとかそこまでの未練はない。そりゃ便利さとか娯楽の多さを考えると天と地以上の差だけど、言い換えればそれくらいしか戻りたいと思う理由がなかった。

 わたしは一人っ子で両親はどちらも仕事人間。二人は不仲で面倒を見てくれた父方のおばあちゃんが亡くなってからは、どうしてもパスできない学校の行事を押しつけあってはけんをしていた。

 むしろわたしがいなくなって清々していると思う。

 友達や部活仲間は多分それなりに心配はしてくれるだろうけど、……例えば眠れないほど悲しんでくれるとかそこまでじゃないだろうなぁと思う。自分に置き換えてみても最初は心配してビラ配りなんかしつつ、半年も経てば普通の生活に戻り、数年後にはそういえば行方不明になった子がいたなぁ、なんて思い出すくらいだろう。広く浅い付き合いしかしていない自分の問題もあるけれど、昨今の中学生は自分も含めて結構ドライで忙しいのである。

 そもそも召喚術はこちらに呼び込むだけで、元の世界に戻る方法はないことはここに来てすぐに聞いていたので、わたしは早々に帰還を諦めた。そして何代目かの神子が整えたらしいインフラ設備そこそこの異世界で、セカンドライフを送ることを決意したのである。

 扱いは十も二十もランクが落ちたけれど、何も悪いことばかりではなく、誰も来ない離宮に追いやられたおかげで、煩わしい周囲からの視線はなくなった。

 それから唯一の侍女であるリンさんに頼み込んで、街の人の生活やこの世界の常識、貨幣の種類や物価なんかを教えてもらった。そうして自信がついた頃にこっそりとリンさんに付き添ってもらい、女中のふりをして街に下りたのだ。幸いなことに出来損ないの神子にも自動翻訳機能は初期設定でついていたらしく、会話はもちろん読むのも書くのも問題はない。買い物をしたり食事をしたりと、いつか街で生活するために訓練を繰り返すこと一年と少し。

 適当に縫ったステッチしゅうもどきがわいいと評価され、少ないものの収入源も確保した。

 実は、召喚当初擦り寄ってきたお貴族様に貢いでもらった装飾品を換金すれば、それこそ一生働かなくても生活できるだけのお金はある。

 だけど若い女の子が昼間から働きもせず、だらだら家にいたら悪目立ちするのは想像に難くない。

 だから変に詮索されないように、独り立ちの隠れみのとしての収入源は必須だったのだ。

 一つ仕事が決まれば後は早かった。顔の広い小物屋さんの奧さん経由で、他のお店のお手伝いなんかも頼まれるようになったのである。

 これなら何とか王城を出て街で生活できると確信し、出て行こうと決意して数日後。

 宰相がやって来て、実にもっともらしい退去理由を告げたのだった。


◇◇◇


 規則正しいノック音と共にやってきた宰相は、珍しく侍従を連れていなかった。

「お元気そうでなによりです」

 ここ一年、一語一句変わらぬ挨拶をして、微妙な静寂が落ちる。

 いつもなら『何か特殊能力らしき力のへんりんは、出てきましたか』と続くはずなのに、今日はだんまりである。そして何となく醸し出している雰囲気が違う。

 何だろう?

 眉をひそめたわたしに気づいたのか、宰相はコホンと軽くせきばらいをした。それから視線をらしてその長いひげに埋もれた口を開く。

「グリーデン伯爵のもとへ、嫁いで頂くことになりました」

「……は?」

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