転生少女の履歴書

唐澤和希

第一章 農村編 転生したら貧乏でした (3)

「なんねん? ねんごうは? いまはなんねんなの?」

「……? よくわからんが、年数の話なら、ゲイス暦694年だったかな」

 ゲイス暦? 何それ……聞いたことがない。やっぱり、ここはかなり未来の地球なんだろうか。知らない間に地球規模の大改革が起こったのかも。だって、電柱もないし、よくわかんないけど文明の利器みたいなものがさっぱりない。

 そうなると……前世のお父さんとかお母さんとか、知ってる人はみんなもう死んでるのか。

 いや、まだ遠くの未来説が確定したわけじゃない。もしかしたら、この国はすっごく特殊で未開の地的なところなのかもしれないし。でも、どちらにしろ、多分もう前世で知り合った人達と会うのは難しそう。なんて、ちょっとしんみりしちゃったけど、でも、別にいいや。だって、会いたい人なんていない。思い出そうとしたって、友達の一人も思い浮かばない。……だから、もう考えるのはやめよ、虚しくなるだけだもん。

 その後もいろいろと情報を集めつつ、生まれてから一年が過ぎたころ、私は満を持して、外に行こうとしている兄に向かって声をかけた。

「シュウにいちゃん、私もおにいちゃんとお外にいきたい」

 金髪でガリガリの子供であるシュウ兄ちゃんは、現在四歳。まだ労働力になっていないので、他の子供達と川原に出かけ、遊びながらまきとかを拾ったり、水をんできたりしている。私もそのチームの一員に入れてほしい! もう作業部屋で見張られるのは嫌だ!

「えー。リョウちゃんはむりだよー。すぐにつかれちゃうよー」

 私のお願いに、シュウ兄ちゃんは鼻くそほじりながら、すごく嫌そうな顔をした。

 こいつ! 私とあなたで『シュウ☆リョウ』コンビなんだから優しくしてよね! まあ、実際、シュウ兄ちゃんの言ったとおりなので、何も言えない。確かに歩けるが、体力はない。まだ生まれて間もない私だもの。

「別にいいよ。もし疲れたら、俺が負ぶって行けばいいもん。お外に行こうか」

 あきらめかけたとき、天から温かな言葉が降ってきた。な、なんという天使! この後光きらめく天使的児童は、もちろん私の世話役のマル兄ちゃん。ガリガリなのにあんたはすごい! 私とシュウ兄ちゃんの会話を聞いていたマル兄ちゃんが助け舟を出してくれたので、私は目をきらきらさせながらうなずいた。

「じゃあ、お母さん! 今日はリョウちゃんも連れていくからね。行ってくる!」

 既に畑仕事をしているお母さんに向かって、マル兄ちゃんが声をかけて、私達『終わりの三兄妹トリオ』は意気揚々と出かけたのだった。

 マル兄ちゃんに手を引かれながら家から出て、外の様子を見渡すと、以前勝手口から見た景色とほとんど変わっていなかった。辺り一面畑で、その畑を囲うように、ぽつぽつとわらきの家がある。

 問題の畑は無造作に種をかれているみたいで、作物の芽がこう、密集している。多分このままじゃあ大きく作物が育たない。うねも作られてないし、本当にただ平らなところに、種を蒔いてるだけって感じ。

 こんなんじゃ、育つものも育ちませんぜ。あとで間引いたり、手入れしてあげよ。とりあえず今日は、マル兄ちゃん達と川原だ! 他の村の子達もいるし、いろいろお話を聞くんだ!

 そして川辺に到着し、村の子供達と合流した。

 だいたい人数は十五人ぐらい。最年少は私、次いで、鼻たれ小僧のシュウ兄ちゃん。七歳から九歳ぐらいの子が多かった。いつもこの川の周辺で遊んでいるらしい。ちなみに私は、家を出てすぐに体力の限界が来たので、既にマル兄ちゃんに負ぶわれています。テヘペロ。

 シュウ兄ちゃんが、だから言ったじゃないかよ、という顔をしながら鼻をほじっているが、知らんふり。へへ、ここまできちまえばこっちのもんですわ!

 村の子供達は、新メンバーである私を見つけて、興味津々という感じで、寄ってきた。

 何歳? もうしゃべれるの? すげー。うちの弟なんてぜんぜんだよ。などなど。各々、感想を言って、私の小さい可愛らしいおててなどをさわっています。

 うふふ、小さくて可愛かろう。赤ちゃんらしい丸さはないが……私もガリガリ村の一員です。ていうか、みんなガリガリだね。もしかしたらこのガリガリ村はガリガリでないと入村できないのだろうか。こんな近くに川があるんだから、魚を取ればいいんじゃないかな? 山際の村だから、山菜などもありそうだし……。もっと栄養摂取していこうよ!

「ねー、みんなは、ここでなにをするの? おさかなつかまえたりしないの?」

 私の素朴な疑問に子供達は一瞬きょとんとした顔をして、盛大に笑い出した。

「むりだよー。川の中は深いところもあってあぶないし、魚ってすばしっこいし、つかんでも滑っちゃうし、捕まえられないよー。リョウちゃんは面白いこというねー」

 なんで私こんなに笑われているのだろうか。いや、別に素手で捕まえるなんて思ってないよ! 網とか、釣り糸とか道具を使って捕まえようと思ってるよ!

「なにかどうぐとか……ないの?」

「あるわけないよー。道具は畑のものしかないよー」

 そう言って、目の前の女の子ちゃん達は「ねーーー!」と言い合った。ええ! ねーって、可愛いけども! 別に簡単な道具なら作ればいいんじゃないのかい? 村長直伝の魚とりの道具とかないの? 村長誰か知らんけど。

「たくさんつかまえるようなすごいものじゃなくて、かんたんなものをつくればいいんじゃ、ない、かな……?」

 私は恐る恐る聞いてみた。だって、さっきから質問するたびに笑われてるんだもん! これだから赤ちゃんは何もわかってないわねー、みたいなご様子で! 言っとくけれど、精神年齢は私のほうが上なんだからね! 見た目は赤ちゃん、頭脳は大人のすごいやつよ、私! そして私が恐る恐るした質問に、案の定、村の子供達は大笑いした。

 ……不登校、いや、不登川辺になりそう。

「あはは! すごいよー! どうぐ作るなんて、リョウちゃんは魔法使い様になりたいんだね? すごーい」

 完全に馬鹿にされている。何、魔法使いて。別になりたくないしー。そんなこと言ってないしー! 馬鹿じゃないのー! ……いじけちゃうぞ!

 ちょっと不機嫌な顔をした私を見かねたのか、マル兄ちゃんが私の頭をポンポンしてくれた。ありがとうマル兄ちゃん。その優しさがるいせんにくるよ。

「リョウちゃんはまだ一歳なんだから、あまりいじめないでよ。……それとね、昨日村長さんに聞いたんだけど、もうすぐ魔法使い様が村に来るらしいよ!」

 と、優しいマル兄ちゃんからの衝撃の一言。何、魔法使い様て。お兄ちゃんまで私をからかって遊ぶつもりなの? あの頭ポンポンは何? もてあそんだの? 失礼しちゃう! よりいっそう不機嫌になった私とは逆に、周りの子供達のテンションが急激に上がった。

「ほんとうにー!? やったあ! でも確かに前に来てから二年も経ってるもんね!」

 村の子らがいっせいに盛り上がり始める。

 え、どゆこと? なにこれ? え? いじめ? 赤ちゃんながらまゆをひそめた私に気づいたマル兄ちゃんが説明してくれた。なんとこの世界には魔法使いがいて、人々の生活に役立つことをしてくれるらしいのだ!

 今まで魔法使いが来たときも、貯水タンクを作ってくれたり、成長の遅い作物を一気に成長させたり、日照り続きで水不足のときに畑に水をまいてくれたりしたらしい。

 村の悩み事を解決してくれるすごい人。それが魔法使い。国に雇われているため、村の悩み解決料金はなんと無料。また、村人の個人的なお願いは費用を渡して依頼したりもできるらしい。

「転生少女の履歴書」を読んでいる人はこの作品も読んでいます