転生少女の履歴書

唐澤和希

第一章 農村編 転生したら貧乏でした (2)

 そんな感じで、名付け方が適当な両親だが、生活もかなり適当だ。

 まず、農家に向いてないと思う。なんていうかすごく、作物の育て方が雑なのだ。種をいて水をやれば実ると思っている。……農業をやったことがない私でも、そんな簡単じゃないことはわかる。だから、畑の収穫がうまくいかずガリガリ村なんだ! と思いつつも、まだ一人では何もできない私。歯がゆい。言語は理解しても、口の筋肉が発達していないからか発音ができない。上の三人の兄はもう畑を手伝っているというのに。なんともお荷物。

 どうやら、この村では、基本的に十歳以上は労働力とみなされるらしい。

 そして、十歳以下の子供達は、仕事の邪魔をしないよう他の家の子供達と外に遊びに出かけるという流れのようだ。まあ、私のような乳飲み子は、遊びに出かけることもできないため、誰かに背負われてるか、布団の上でお留守番。

 うーーん。どうにかして早く動き出さないと……。動け、私の体! 目覚めよ! と、心の中でシャウトしても始まらないわけでして。

 ……どうして、こんなに私は焦っているかというと……原因はこの貧しさ。家族の力になりたいという思いはあるが、どちらかというと自分のため。あまり考えたくないが『口減らし』、つまり養えない子供を殺したり、売ったり……そういうのを若干懸念している。気のせいかもしれないけど、お母さんの私を見る目が、たまに怖い。マジで。

 それに、上の兄弟に男しかいないというのが、気になる。

 両親も、はじめて女の子が生まれたねー、みたいな感動がないのを考えるに、おそらく今まで生まれてきた女の子は、つまりそういうことだろうと思っている。だからどうにかして、私の有用性をアピールしないとやばいのだ。とりあえず一歳になる前には、歩行とお話ができるようにしよう。だからお母さん早まらないでね。私は金を生む女の子よ!

 頑張る! と固い決意をした私は、しばらくしてハイハイができるようになったので、この世界の情報を集めようと布団から抜け出して、家の中をいずり回るのが日課になってきた。這いずり回るタイミングを間違うと、私のお世話係らしい四男のマル兄ちゃんに回収されてしまう。

 しかし、ちょうど今は川にみずみに行ってマル兄ちゃんはいない。アタックチャンス! 私は、気配を殺して、一歩一歩慎重に歩を進めると、台所らしいところに着いた。かまどのようなものがある。なんか昔の日本家屋みたいな台所だ。冷蔵庫などの家電製品の気配はまったくない。やっぱりここは、電気通ってないのか……。電気どころかガスも水も通ってなさそう。かまどだし。

 そのままハイハイで台所を探索すると、床になんか長さ二十センチぐらいの干からびた根っこのようなものが落ちていた。

 何これ? と思って上を見ると、棚に穴の空いた袋がぶら下がっていた。あの袋から落ちてきたのか。既に袋の中は空みたいで、袋の穴からは何も見えない。においや感触を確かめる。……多分これ、干からびた大根だ。もう一度辺りを見回してみる。穀物が入っていそうな袋があったけれども、少しすれば底を突きそうな膨らみだ。どんなに周りを探っても、これ以上食料はなさそうだった。

 これは思ったよりもやばい状況なんじゃないだろうか……。

 家族の食事は毎日重湯みたいな、うっすーいおかゆばかりの食事だったけれど、それさえもいつかは底を突いてしまうかもしれない。他の場所も探索しようと進むと、勝手口に出た。わらのようなものを暖簾のれんみたいに垂らしているだけの勝手口。私はそこからハイハイで外に出る。

 家から出ると、目の前は畑。そして、うちの家と同じような藁の家がちらほらと見える。そしてその向こうに山が見える。

 ここは山際の村みたい。そしてどんなに見渡しても、電信柱的なものはない。やっぱり電気は通ってないよね。それにしても畑、ぜんぜん作物が育っていない。……このままだと絶対に飢え死にする。山だって近いんだし、食料はそこから調達できるような気がするから、早く歩けるようにならないと! と、決意を新たにしたところで、ものすごい睡魔に襲われた。だって、外に出たら、日差しがいい感じにあったかいんだもん! それに結構動いて疲れたし。ちょっと休憩しよう。ちょっとだけ。

 と思って眠ったら、結構時間が経っていたようで、持ち上げられた感触と、「なんでこんなところにいるんだろうね」というお母さんのお小言で目が覚めた。私はそのままお母さんに抱えられて布団のある部屋に戻されると、私を探していたらしいマル兄ちゃんがいた。

 お母さんは私をマル兄ちゃんのほうに押しやりながら、「マル! ちゃんと面倒を見るように言っといたでしょ!」 とちょっと怒ってる。ごめん、お母さん、私が悪うございました。マル兄ちゃんを怒らないで。

 マル兄ちゃんは、私を抱え直して、「リョウちゃん、一人で動いちゃだめだよ」と微笑ほほえんだ。私のおてんのせいで怒られてしまったのにマル兄ちゃんは笑顔。

 なんという優しい子! 六歳なのに、すごくいい子! 優しい! 普段、ちょっと布団から抜け出すと回収しにくるから、『まーたきやがった!』みたいな心の狭いことを思ってしまった自分が恥ずかしい! ごめん、マル兄ちゃん。もう、極力、お転婆しないようにするね。

 私は今回のマル兄ちゃん理不尽に怒られる事件で猛省したので、布団からあまり出ないように誓った。けれども家族は私のお転婆が信用ならないみたいで、マル兄ちゃん達が外に出る日中は、家の隣にある倉庫のようなところに連行されるようになりました。この倉庫のような部屋は、刈り取った稲を脱穀したりする作業場で、だいたいいつも家族の誰かしらがいる。つまり見張り付きなのです!

 べ、別に見張りなんかいなくたっておとなしくすることぐらいできるんだからー! と、思いながら、脱穀部屋の中で、発声練習と歩行練習を行なう日々を送った。一人でぶつぶつ言っていたせいで、家族内では『うるさいリョウちゃん』というイメージが定着してきている。だ、だって、早く歩行と会話が可能にならないと、食料尽きちゃうよ! 私見たんだからね! 台所、カラッカラだったよ!

 ということで努力を続けた結果、なんと私は八ヶ月頃で、言葉を操り、歩行まで成し遂げました。

 おめでとう私。

 ただ、頭が重いので油断するとすぐにこけるから注意。バランスが大事、バランスが……。言葉もちょっと舌足らず。でも歯が生えてきてから、ちゃんと伝わるように話ができるようになったので、使用上は問題なさそうです。

 私はいつものように作業部屋で、よちよち歩きをしながら、作業中のお父さんの様子を見た。刈り取った稲を、石で脱穀している、と見せかけて居眠りしている。

「おとうさん! おきて!」

「……んあ? なんだリョウか。……別に寝とらんよ」

 平然とうそをついて、何食わぬ顔で脱穀作業に入った父に私は気にせず話しかける。

「あのねえ、おとうさんにききたいことがあるの」

「聞きたいこと? またか」

 言葉がしゃべれるようになった私は、何かと質問しまくっていた。確かにちょっと小うるさかったかもしれないけれど、そんな『またかー、疲れるんだよなー』みたいな態度しなくたっていいじゃないか! 多少ふてくされそうになったけれども私は気を取り直して質問を続けた。

「ここはどこなの? なんていう国にある村なの? どのへんにあるの?」

「ここはカスタール国だよ。サーグランガ大陸の東側の国だ」

 ……カスタール? サーグランガ? 聞いたことがない。

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