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国王陛下の溺愛花嫁~屋根裏令嬢の結婚事情~

熊野まゆ

序章 青年王レナードの花嫁候補 (3)

「レナード様はとことんお人がよろしいですねぇ。では、大臣たちの娘のだれかとご結婚なさいますか?」
「いや、それは――」
 下手をすれば政争を勃発させかねない。
「でしたら、ね? これが最善策だと私は思います」
 レナードはそれ以上、なにも言えなくなった。
(悔しいが、ボビーの言う通りだ)
 他に名案を見つけられない自分自身が憎い。まだまだ、王とは名ばかりだと痛感させられる。
「おまえは、仕事が速いのはいいが……俺が承諾しなかったらどうするつもりだった」
「レナード様は承諾なさると思っておりました」
 頼りになる男だが、いささか行動が早すぎる。
「おまえの提案と迅速な行動に対して礼は言っておくが……これからは、事を起こす前に俺に相談してほしい」
 するとボビーはあまり悪びれたようすなく「申し訳ございません」と言って頭を下げた。
「ああ、そうだ。端から反故にする話ではありますが議会では強く主張なさってくださいね。でないとすぐに付け込まれますから」
「わかっている――が、反故にするときの理由はどうする」
「そんなもの、どうとでもなります。だって議会の大臣たちは自分たちの息のかかった者を花嫁にしたがっていますからね。屋根裏令嬢を花嫁候補から外すと言えばすんなり受け入れるでしょう。まあ、しばらくは――体制が整うまでは、最有力の花嫁候補として屋根裏令嬢に頑張ってもらいましょう」
 レナードは椅子に座り、息をついた。
「まだ少し気が引けるが……そうするとしよう」
 これ以上の策はないだろう。なにより、公爵にはもう「花嫁候補とする」と伝えてしまっているのだ。あとには引けない。
「ボビー。俺も手を尽くすつもりでいるが、レディ・ブルフォードを花嫁候補に立てるからには、彼女やその周辺の者に危害が及ばぬようくれぐれも配慮してくれ」
「かしこまりました。まぁ、社交界に顔を出さない引きこもりのご令嬢ですから守りやすいですよ」
 レナードはボビーの発言に眉を顰めながらも、それならば護衛面では好都合だと思った。
 花嫁候補とする令嬢には、こちらからの一方的な理由で花嫁候補に立てることの事情を説明すると同時に早々に謝罪しようと心に決め、レナードは羽根ペンを手に取った。


 議会場で、屋根裏令嬢ことアイリス・ブルフォードを唯一の花嫁候補とする、と宣言すると大臣たちは大いにどよめいた。
「国王陛下! かの令嬢に関する(うわさ)をご存知ないのですか!?
 大臣の一人が血相を変えてそう言った。先日、一番に絵姿を寄越してきた老年の大臣――カール・エイジャー公爵だ。
「噂――とは?」
 レナードが促すと、エイジャー公爵は口早に言い募る。
「なんでも、ひどく醜い顔だとか。それに口がきけず、怪しげな魔術を使うと聞きました!」
 (あき)()てて、言い返す気にならない。
(ばかばかしい……魔術など、存在するはずがない)
 レナードが渋い顔をしても、エイジャー公爵をはじめ大臣たちは口々にレディ・ブルフォードに対して悪言を吐いた。本人や、その父親であるブルフォード公爵にはとても聞かせられないような内容だ。
「これは決定事項だ。現段階において(くつがえ)す気はない」
『現段階において』と付け加えてしまったのは、後々反故にすることが脳裏をよぎったせいだ。つい逃げ道を作ってしまったが、大臣たちはそれきりなにも言わなくなった。
「これにて閉会にいたします」
 宰相が宣言したので、レナードは椅子から立ち上がり階段を下った。
「お待ちください! どうか、我が娘を(きさき)に!」
 議会場を出るなりエイジャー公爵に呼び止められた。するとボビーが、「ここは私が」と言うので、任せることにした。
 ほかの大臣はだれ一人として追いかけてこない。新たに絵姿を渡されることもなかった。
 バーズネストの執務室に入る一歩手前で、ボビーが追いつく。
「どうだった?」
 レナードが尋ねると、ボビーは苦笑した。
「エイジャー公爵はしつこい性格ですからねぇ……。最終的には渋い顔で『国王陛下の御心(みこころ)のままに』と言っていました。まぁ、問題ないでしょう。ただ、公爵はもう高齢ですし、そろそろ引退していただいたほうがよいかと」
「そうだな。これを機に、大臣たちの進退を検討するのもいい」
 レナードは執務室へ入り、窓際に立つ。
(ひとまず、上手(うま)くいったようだ)
 レディ・ブルフォードに対して負い目はあるものの、これでしばらくは政務に専念できる。
「花嫁候補としたわけですから、一応は面会しておかねばなりませんね」
 レナードは「そうだな」と相槌を打ち、窓桟に両手をつく。
「そういうわけで、明日、レディ・ブルフォードが城にいらっしゃいます」
 窓桟にあてがわれていたレナードの両手がピクッと弾む。
「……また、勝手に決めたな?」
「やだなぁ。ちゃんとレナード様の公務が空いた時間に調整しておきましたから。それに、面会となる前にこうしてご報告申し上げています」
「………」
 この男にこれ以上なにか言っても暖簾(のれん)に腕押しだろう。
「レディ・ブルフォードはなぜ屋根裏部屋がいいのだろう」
 レナードはふと疑問に思ったことを(つぶや)いた。
「さあ。ご本人にお尋ねになればよろしいのでは?」
「明日、会うわけだしな……。そうするとしよう」
 それだけでなく、花嫁候補とした理由も説明し、謝罪しなければならない。そう思うと、窓の外の曇天さながら気が重くなるレナードだった。


 ブルフォード公爵の四女を花嫁候補とすると議会で宣言した翌日は、それまで続いていた曇天が(うそ)のように、雲一つない晴れ空が広がった。
 かの令嬢と、ウェストフェザーの一階、南側に面した陽当たりのよいサロンで対面する。南に面する壁には天井まで届く大窓が配されているので、陽光は惜しみなく室内に()し込む。
 サロンで客と会う場合、通常ならば王が遅れてやってくるものだが、レディ・ブルフォードに負い目のあるレナードは先にサロンへ行き彼女の到着を待つことにした。
 待たせた挙句(あげく)に悪い話をするのは、あまりにも申し訳ないと思った。
 レナードは長机の前の椅子に座り深呼吸をする。部屋には側近のボビーと、それから給仕の侍女が数人いて、壁際に控えている。

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