話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

王の獲物は無垢な花嫁

夏川まどか

序章 すべて、あなたがくれた / 第一章 さらわれ、そして奪われ (1)


序章 すべて、あなたがくれた


 まさか、こんなことになろうとは、いったい誰が想像しただろう――。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……はう……ん」
 上品に整えられた豪奢(ごうしゃ)な広い部屋。繊細な彫刻の(ほどこ)された天蓋(てんがい)つきの寝台の上で、オルガは官能に溺れ、濡れた喘ぎを漏らしている。
 体の中に深く打ちこまれた楔は、熱く、硬く、オルガの細い腰を壊してしまいそうなほど太い。
「……あっ……あん……あっ……あっ……もっと……っ」
 しなやかな男の体の上に乗せられ、両手で腰を支えられて、下からゆっくり突き上げられる。あふれた蜜が二人の間でこねまわされ、ぐちゅぐちゅと淫靡(いんび)な音を響かせる。
 力強い肉塊に内壁をこすられるたび、ぞっとするような快感が這い上がって肌が粟立った。最奥を突かれると、重い衝撃が背すじを駆け抜け、頭の芯が痺れて恍惚となった。少し引き抜かれれば、ひときわ感じるところを刺激されて、深い愉悦が広がった。
 もっと強い刺激がほしくて、オルガは無意識に腰を振り立てる。
「……ん」
 男の右手が腰の脇から下腹部へと移動し、恥丘の茂みを指でかきわけられた。
「はうッ!」
 その下の小さな核に触れられたとたん、鋭い痛みに貫かれて悲鳴を上げてしまう。
 敏感すぎるそこを避けて、周囲をなぞるようにされると、とろけるような快感が湧き上がって、甘い吐息がこぼれた。
 核を中心に股間が疼き、男のものを呑みこんだ入口が、さらに引きこもうとするようにひくひくうごめく。わだかまった熱が奥の方で渦巻き、熱い奔流(ほんりゅう)となってほとばしる。
 恥丘の下部を強くもまれるのと同時に、下から深く突き上げられた。
 外からと中からの刺激が絡みあって、息もつけないほどの快感に貫かれる。
「あっ……ああ……っ!」
 声を上げてのけぞったところを、続けて激しく突きまくられた。
「……やっ……あっ……駄目……あっ……うんん!」
 体じゅうが熱くて、ぞくぞくして、どうしていいのかわからない。
 意識が朦朧(もうろう)となって、苦しくて、気持ちよくて、おかしくなってしまいそうだ。
「ああッ! やっ、あっ、嫌っ……駄目っ! もう駄目……っ!!
 体がきりきりと引き絞られて、絶頂に似た小さな痙攣(けいれん)に断続的に襲われた。
 男に突き上げられるたびに、自分の最奥からも強い衝動に突き上げられて、無意識に中のものを締めつけてしまう。自分の中で男のものがさらに大きくなり、このうえない幸福感に満たされる。
「……あっ……イく、イく……イっ……あッ……」
 もう何度目かわからない。すぐそこに絶頂が迫っていた。
 一つにつながったところから、激しい快感の波が押し寄せ、嵐となって吹き荒れる。
 上も下もなく振り回され、もみくちゃにされて、意識がばらばらに弾け飛ぶ。
 そしてさらに高みへと押し上げられて。
「あッ、あ――――――――ッッ!!
 虚空に放り出されたオルガは、やがて、いとしい男の上に舞い降りるのだ。
 ほんのしばらく前には、こんな世界を知りもしなかった。高貴な人々も、贅沢な暮らしも、めくるめく官能も――運命の人と巡りあい、苦楽をともにする喜びも。
 そのすべてを与え、教えたのは、今目の前にいるこの男だ。
 オルガを捕らえ、フェノビアの新しい王となった男。誇り高く美しい、オルガの夫。
 その深く澄んだ瞳に見つめられて、オルガは今日も恋をする――。

第一章 さらわれ、そして奪われ


「困りましたな」
 見事な白髭をたくわえた老大臣が、何度目かの溜息をついて言った。
「まことに、困りました」
「どうしたものか」
 居並ぶほかの大臣たちも、同様に嘆息する。
 東ヨーロッパに位置する小国フェノビア。その王宮にある会議室で、国の重鎮(じゅうちん)たちは未曾有(みぞう)の事態に頭を抱えていた。
 先王ロレンツが病のため急逝(きゅうせい)して一週間。おごそかに国葬がおこなわれ、政務も大臣たちによってつつがなく執られているものの、次の王がいまだ決まらないでいるのだ。
 世継ぎがいないわけではない。残念ながら王妃は子供に恵まれなかったが、それぞれ別の側室から生まれた王子が二人いる。問題は、その王子たちの王位継承権にあった。同日同時刻に生まれた二人は、フェノビアの法律では同位の継承権を有し、従来なら先王の指名によってどちらが王になるか決められる。ところがロレンツ王は、突然倒れて意識を取り戻さないまま、一言も遺さずに逝ってしまった。遺言書にも、次期王については触れられていなかった。
 このような場合、王妃にも大臣たちにも決定権はない。あるのは、古いしきたりに基づいた、現実にそぐわない法律だけだ。
 《白い鹿を射止めた者を、次の王とする》
 白い鹿というのは、フェノビアにしか生息しない希少種だった。最近では目撃されることもなく、絶滅したのではないかともいわれている。生存が確認されたとしても、保護の対象として法律に定められており、たとえ王家の者でも殺傷は許されない。
 新王を決めるためには白い鹿を狩らなければならず、だがその鹿を狩ることは禁じられている。仮に特例として禁猟を破るとしても、肝心の鹿が見つかる見込みはほとんどない。
 この大きな壁に阻まれて、会議は先ほどから少しも進展していなかった。
「このままでは(らち)があかない。白い鹿を狩る以外に、王を決める方法はないのか」
「残念ながら、法律書のどこを読んでも、それ以外の記述は見当たらず……」
 会議には、当事者である二人の王子も同席していた。
 退屈そうに窓の外を眺めているのは、金色の髪に緑色の瞳をしたアデルバート王子。父王譲りの精悍(せいかん)な顔立ちで、文武両道に秀でた体躯はしなやかで力強い。こうしてただ座っているだけで、圧倒的な王者の威厳を漂わせている。
 一方、栗色の髪に鳶色(とびいろ)の瞳をしたクレメント王子は、中性的な面差しで、すらりとした全身に優雅な雰囲気を漂わせている。背すじを伸ばして静かになりゆきを見守っているのが、アデルバートとは対照的だ。
「伝統に従って、狩りをすればいい」
 往来を見下ろしていたアデルバートが、ふいに口を開いた。彼はいつのまにか(とお)眼鏡(めがね)を取り出し、熱心に何かを見ていたようだ。
「ほら。白い鹿がそこにいる」
 示された方に一同が視線を向けると、少し離れた教会の前に馬車が停まり、いくつかの人影がうろうろしているのが見えた。いずれも華やかに正装しており、大きな花束や衣装箱のようなものを運んでいる。これから婚礼がおこなわれるらしい。
 そのなかに一人だけ、平服姿の娘がいた。人々に守られるようにして立っているところをみると、彼女が花嫁なのだろう。
「あの娘を見てみろ」
 アデルバートに遠眼鏡を渡され、クレメントや大臣たちも交替でレンズを覗く。
「おお……!」
「これは……!」
 どよめきが広がった。
 白い――何から何まで白い娘だった。

「王の獲物は無垢な花嫁」を読んでいる人はこの作品も読んでいます