くま クマ 熊 ベアー
2 クマさん、少女と出会う (1)
2 クマさん、少女と出会う
目を開けてみた。
マイホームじゃなかった(ゲームにログインするといつもはマイホームに転送される)。
知らない森の中だった。
装備がクマだった。
両手、両足、着ている服。
先ほどのキャンペーンでもらったクマの装備一式だ。
いきなり装備されているとか。
着てみると意外と肌触りがいい。
手を見ると、クマの手袋はパペットのようだ。
口をパクパクしてみる。
意外と可愛い。
周りを見回すが誰もいない。
とりあえず、この恥ずかしい格好を見られないうちに着替えよう。
装備の変更はマイホームじゃないとできない。
アイテムボックスから転移アイテムを出そうとするがアイテムボックスが開かない。
バグ?
面倒だけど、一度ログアウトしてから、再ログインするか。
「なんで……」
ログアウト画面が出ない。
仕方ない、少ないフレンド登録からフレンドを呼び出そうとするが画面は出ない。
とりあえず、現状把握をするために、マップ画面を開く。
「あれ?」
マップ画面も出てこない。
「ちょっと、どうなってるのよ」
ステータス画面を出す。
これは出た。
名前:ユナ
年齢:15歳
レベル:1
スキル:異世界言語、異世界文字
装備
右手:黒クマの手袋(譲渡不可)
左手:白クマの手袋(譲渡不可)
右足:黒クマの靴(譲渡不可)
左足:白クマの靴(譲渡不可)
服:黒白クマの服(譲渡不可)
「ど、どうなっているの!」
アップデートのミスか。
わたしが1年間育ててきたキャラがレベル1になっている。運営にクレームのメールを出さないといけない。
どうにか、運営に連絡を取ろうとしていると、チロリーンと音が鳴る。
メールの着信音だ。
運営からごめんなさいメールか、そう思ってメール画面を呼び出そうとするが出てこない。
「どうやって読めと」
そう思ったら、目の前にメール画面が開いた。
差出人:神様
ユナちゃんおめでとう。
アンケートの結果、君は当選しました。
パチパチパチパチ(拍手)。
君がいる場所はゲームの世界ではありません。
わたしが管理する異世界です。
つまり、異世界です。
君にはわたしが管理する世界で暮らしてもらうことになりました。
もちろん、裸一貫で始めるのは可哀想なのでクマ一式をプレゼントしました。
他にもプレゼントがあるから頑張って探してね。
「新しいイベントかな」
とりあえずわからないので他のプレイヤーを探すことにする。
異世界なんてどこの小説の二番煎じの話だよ。
そんなの現実に起きるわけないじゃん。
どこの妄想癖の変態よ。
問題は現在の位置が分からないことだ。
レベルも1だし、こんなところ魔物に襲われたら死んじゃうし。
死んだら、マイホームに戻れるのかな?
とりあえず、森を出よう。
でも、流石に武器がないのは困る。
あるのは、パクパクと口が開くクマの手袋だけ。
周りを見回しながら森を歩いていると、ちょうどよい長さの木の棒が落ちている。拾って、クマの口に咥えさせる。
「武器の代わりになるかな?」
手ぶらよりましなので持っていくことにする。
勇者がひのきの棒を装備している気分だ。
木の武器を持ちながら、クマの格好で歩いているとウルフが現れた。
ウルフは初期の街の近くに現れる、初心者用の狼型の魔物だ。
とりあえずウルフのステータス画面を確認しようとするが画面が出てこない。
ウルフだって個体によってレベルは異なる。
弱ければいいけど、現在自分の持っている武器は木の棒だから倒せるか微妙だ。
せめてもの救いは1匹ってことだろう。
木の棒を剣のように構える。ウルフがまっすぐ走って飛びかかってくる。
いつも、ゲームでやっているようにひょいっと横に避け、木の棒をウルフの横っ腹に叩きつける。
本来持っていた剣だったら一刀両断だろう。
ウルフは〝キャイン〟と鳴き声を上げると動かなくなってしまった。
予想外なことに一撃で倒してしまった。
もしかしてこれって、勇者のひのきの棒なのか?
棒を天高く掲げてみる。
まあ、冗談はおいておいて。
……あれ?
ウルフを見るが変化がない。
倒したのにアイテムに変化しない。
魔物は死ぬと消えてアイテムを落とす。
ウルフなら肉とか毛皮、運がよければ魔石とかを落とすのだが、このウルフは消えない。
木の棒でつっつくが動かない。間違いなく死んでいるはずだ。
先ほどのメールが現実味を帯びてくる。
本当に異世界?
とりあえず、ここから離れよう。
ウルフの死骸の匂いを嗅ぎつけて他の魔物がやってくるかもしれない。
流石にウルフを現実で解体する技術は持っていない。
ゲームや小説みたいにはできそうもない。
ウルフを倒してからしばらく歩くが、森を抜け出せない。
「お腹すいた~」
アイテムボックスも開けないから食料も取り出せない。
いや、ゲームじゃなかったら食料が入っていない可能性も高い。
早く人を見つけないと魔物に殺される前に飢え死にしてしまう。
森の中を長い距離を歩いているのにあまり疲労感がない。
このクマの靴のおかげだろうか。
恥ずかしいが便利な靴だ。
「誰か、助けて……」
人の声だ。
危険かとも思ったが初めての人の声だ。危険を承知で声がした方へ向かう。
走ると少し開けた場所に出る。
小さな女の子が倒れている。そこに3匹のウルフが襲いかかろうとしている。
女の子は腰が抜けているのか立ち上がれそうにない。
わたしは走りながら地面に転がっている野球ボールほどの石を3つ拾う。
黒クマの口にしっかり咥えさせる。
こちらに注意を向けさせるために石を思いっきり投げる。投げる。投げる。
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