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イジワルな旦那様とかりそめ新婚生活

滝井みらん

イジワルな旦那様とかりそめ新婚生活 / 愛を誓えますか? (1)




イジワルな旦那様とかりそめ新婚生活


愛を誓えますか?


「あなたは健やかなる時も病める時も……命ある限り愛し、支え合うことを誓いますか?」

 六月某日、大安吉日。雲ひとつない快晴の日曜日。都内の有名ホテルの中で行われている結婚式で、神父の厳粛な声がチャペル内に響く。

 もし、ここで『いいえ』と言ったらどうなるだろう?

 そんな悪い考えが脳裏をチラッとよぎる。私の頭の中では、父とバージンロードを歩いた時からずっと、パイプオルガンの重厚で破滅的な不協和音が鳴り響いていた。

 私が数秒沈黙すると、隣にいる背の高い冷血メガネ男が私をギッとにらみつけてくる。

 おお、こわっ! その視線だけで人が殺せるんじゃないだろうか?

 一瞬ひるむも、どこか一歩引いた目で結婚式を見ている自分がいた。

 うめぞのさくら、二十四歳。文学部英米文学専攻の大学院生。目はふたでくりんとしているが、目以外の顔のパーツは小さく、髪は昔から黒髪ストレートのセミロングで日本人形のようだとよく人に言われる。

 だが、自分ではめ言葉とは思っていない。身長は百五十八センチと平均並みだし、顔も服装も地味で見栄えがしないのだ。趣味は読書と食べること。現実の恋愛には興味なく、本の世界のイケメンに夢中。

 そんな私がどうして今、結婚式を挙げているのだろう。

 ウェディングドレスを着ているのにね……。まるでごと

 ううん、式の三十分前に、横にいる冷血メガネ男から突然、花嫁役を言い渡されるまでは、本当に他人事だったのだ。だって、ここに立って返事をするのは私の姉……かおるの予定だったのだから……。

 なんだって私が姉の身代わりに……。

 恨み言を言いたくなる状況だけど、冷血メガネ男のレーザービームのような鋭い視線が、ようしゃなく私にさる。

 うっ、痛い! わかりました、わかりました! 言えばいいんでしょう? 言えば!

 私は横目でキッと彼を睨み返すと、目線を正面に戻し、フゥーッと息を吸った。

 ああ、もうどうにでもなれ!

「はい。誓います」

 神父の目を見て、私は仕方なく偽りの言葉を口にする。

 ほとんど話したこともないこの男をどうして愛せよう。

 確かに顔は美形だ。それに、シルバーの細いメタルフレームのメガネもすごくよくお似合いで、メガネ男子が好きな女性なら絶対れるだろう。この顔だけで。

 たかつかさせつ。これがこの冷血メガネ男……姉の結婚相手の名前。鷹司グループの御曹司でホテルTAKATUKASAタカツカサの社長。

 なんでも三年前に刹那さんの母親が心労で倒れ、彼の父親が妻をスイスで静養させるために経営から退いてからは、ひとり息子の刹那さんがあとを継いだらしい。二十六歳という若さだが、彼の経営手腕はすごいとのうわさだ。

 ここ二年の間に世界の主要都市の土地を買収してホテルを次々と建設し、海外の有名高級ホテルの仲間入りを果たした。

 ちなみに、ここもTAKATUKASA系列のホテルだ。

 鷹司さんは姉の同級生で、幼稚園から高校までずっと同じクラスだったらしい。私も彼とは二歳しか違わないし、同じ学校だったから幼い頃から名前と顔は知っている。

 鷹司さんは、学校で知らない人がいないというほどの有名人だった。中学、高校では生徒会長をしていたし、背も百八十センチくらいあって顔もイケメンで頭もよくて、女の子のファンクラブまであって……まあ、言うなれば学校のスター的存在。

 眉目秀麗、文武両道、才色兼備……そんな四文字熟語が浮かんでくるほど、非の打ちどころのない人だ。でも、いつもクールな彼はニコリと笑うこともなく無表情で、彼を見ても、私はほかの女の子たちのように胸が躍ることはなかった。むしろ、完璧すぎて人間味に欠け、近寄りがたく思っていたくらい。

 鷹司さんは目鼻立ちがキリッとした端正な顔をしていて、知的で落ち着いたイメージ。目は二重の切れ長で瞳はダークブラウン。髪は短髪で黒く、前髪をサイドに軽く流していて、上品な大人のムードが漂っている。

 メタルフレームのメガネをかけたその顔は、いかにも有能なビジネスマンって印象だ。人間離れした彫刻のように綺麗な顔は、まるで悪魔のようで余計に冷たく見える。

 実際冷たいけどね。普通、新婦が式の当日に逃亡したら、式を中止するでしょう? でも、この男は私を姉の身代わりにして、強行したのだ。


 * * *


 姉はドレスに着替える時、「みんなをビックリさせたいから」と言い張り、両親と私を花嫁の控え室から追い出した。

 姉はワガママな性格だから、仕方なくその場にいた四十代くらいの着付け師の女性にラウンジにいると伝えて、母と一緒にコーヒーを飲みながら時間をつぶす。父は娘の結婚式で緊張しているのか、「ちょっと一服してくる」と言ってどこかに行ってしまった。

 三十分ほど経っただろうか?

 着付け師の女性が慌てた様子でラウンジに駆け込んできて、息せき切って私と母に声をかける。

「梅園様!」

 なんだろう? お姉ちゃんがまたワガママでも言って困らせてるのかな?

 そう思いながら着付け師に目をやれば、彼女は驚きの言葉を告げた。

「大変です! ご、ご新婦様がいなくなりました!」

 え?

 状況をすぐにはみ込めず、数秒キョトンとする私と母。

「梅園様、ご新婦様がいなくなりました!」

 何も言わない私たち親子に向かって、着付け師はもう一度繰り返す。

 ご新婦……つまり、お姉ちゃんが……いなくなった?

「ええ~!!

 私はここがホテルのラウンジということも忘れて大声で叫ぶと、ショックで言葉を発することもできない母と顔を見合わせた。

 まさかの花嫁逃亡!?

「いなくなったって、どういうことですか!?

 私は椅子から立ち上がると、着付け師につかみかかりそうな勢いで問いただす。

「ご新婦様が、『緊張しているので少しの間、席を外してほしい』とおっしゃいまして……私どもは別室で控えていたのですが……式のお時間も迫っていますし……先ほど控え室に戻りましたら、ドレッサーの鏡に書き置きがしてありまして……。お手洗いも探したのですが、中にも周辺にもいらっしゃらなくて……」

 着付け師は、しどろもどろになりながら状況を説明する。私はドレッサーの書き置きが気になって、母を連れて控え室に向かった。

 ノックもせずに控え室のドアを開ければ、目の前にはの彫刻が見事な白いドレッサーがあり、鏡には真っ赤なルージュで書き置きがしてあった。

【やっぱり結婚やめる。あんな男、嫌よ!】

 何かの間違いであることを願って何度も何度も読み返す。でも、何度見ても書いてある文字は同じわけで……。

 えっ、どうして!? 新郎とけんでもしたの……? 心変わり早すぎだよ!

「あはは……どうすんの、これ?」

 乾いた笑いが私の口から出る。

 お姉ちゃん、違う意味でビックリさせてどうすんのよ! ワガママにもほどがあるよ。何考えてるの~!

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