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イジワル婚約者と花嫁契約

田崎くるみ

第一条 今すぐ俺を好きになること (2)

「大学時代の友人に医者がいてな、相手の方はそいつの部下なんだ。きっと灯里も気に入ると思うぞ。相手は結婚後も仕事を続けていいと言ってくれているし、将来有望な外科医だ」

「そうそう。理解力があって、優しくて、気遣いもできて……。灯里にピッタリだと思うの」

「好青年だし、仕事に対しても真面目なんだ」

 お見合い相手のことを、上機嫌で次々と話すふたりの様子から、悪気はないと見てとれる。

 けれど、将来有望な外科医? 理解力がある? 真面目な好青年?

 恋愛小説のヒーローみたいな人とのお見合いだなんて、余計に怖気づいてしまう。そもそも、家族以外の男の人とはろくに話もしたことがないのに。お会いしたって緊張して会話が弾むわけがない。

「そんな人が、本当に私とお見合いなんてしてくれるのかな」

 ただ周りが騒いでいるだけで、本人は乗り気じゃないかもしれない。

 そんな考えが頭をよぎったけど、返ってきた言葉は予想外のものだった。

「もちろんよ。灯里の写真を見て、気に入ってくれたそうなの。向こうから『ぜひ』って言われたし」

「……うそ

 とても信じられない。

 自分の容姿が男性を魅了するようなものでないことは、誰よりも私が一番理解している。

「会うだけ会ってみたら? これも社会勉強だと思って」

「そうだよ、嫌なら断ればいいし」

 あっにとられる私とは違い、いつものようにのほほんとした様子の両親。

 そんな気楽に言われても……。お見合いなんてしたことないからわからないけれど、簡単に断れるものなの?

 不安に襲われるも、ニコニコとほほむふたりを前に、なかなか〝嫌だ〟とは言いづらい。

 今まで育ててもらった恩義があるし、私の夢を叶えるために、セッティングしてくれたのだから、とりあえず受けてみるか……。

 深いため息が出てしまった。

「わかったよ。ひとまず会ってみる。でも、気に入らなかったら本当に断るから」

 渋々伝えると、両親の表情はパッと明るくなった。

「あぁ、もちろんさ。無理にとは言わない」

「当日が楽しみね」

 浮かれるふたりとは裏腹に、気持ちが沈んでいく。

 ふたりとも結婚をかすようなことなんて、今まで一度も言ってこなかったのにな。

 急に思いもよらない話を持ちかけてきた両親に疑問を感じつつも、腹をくくった。


 そして迎えたお見合い当日――。

 今の時代、お見合いの場に両親まで出席することなんてほとんどないというのに、どうやら相手の両親も来るらしく、三人で向かうことになった。

 ピンクを基調に花が鮮やかにあしらわれているふりそでを着せられ、ヘアメイクも施された私はちょっぴり別人みたいだった。

 最初から断るつもりで、全く興味がなかったから、実は相手の写真を見ていない。

 そんな私の前に現れたのは……本当に恋愛小説に出てくるヒーローのような、容姿、経歴ともに完璧な男性だった。

「初めまして、けんろうです」

 心地よい低音ボイスを聞きながら、目の前に座る美麗な風貌に視線を奪われてしまう。

 二十九歳。医者らしく清潔感のある黒髪の短髪。くっきりふたの目に、筋の通った高い鼻。厚みのあるくちびるは彼の魅力をより一層引き立てている。座っていてもわかるくらい長身で、あいさつに立ち上がった際に見たところ、百八十センチくらいありそうだ。

 よく似合うスーツ姿から、スラッとしたスタイルながら身体を鍛えているのが見てとれる。それに加えて育ちのよさそうな雰囲気。

 有名大学の医学部を卒業して、都内の大病院に勤めているそうだ。

 これなら、両親がお見合いを勧めてきたのも納得できる。

 こんな人、なかなか……いや、普通に生きていたら知り合うことさえできないと思うもの。

 彼に見入ってしまっていると、目が合い、ふわりと笑いかけられてしまった。

 その笑顔も爽やかで素敵。

 笑うと、より一層彼の魅力が増してドキドキしてしまう。

「灯里さんは、お兄様の会社で働いていらっしゃるんですよね?」

「はい」

 始まったお見合い。

 運ばれてくる料理はどれもしいはずなのに、着物でお腹が圧迫されてあまり食べられないし、かなりのイケメンを前に、緊張で味わうどころではない。

「素敵な振袖ですが、動きづらそうですし、食事も大変ですよね。大丈夫ですか?」

「はっ、はい。すみません、お気遣いありがとうございます」

 小さく手を振って礼を述べる。

 彼が少しだけ微笑むと、健康そうな白い歯がのぞいた。

「無理なさらずに、つらいようでしたら遠慮なく言ってくださいね」

 心配りもできるし、優しさも兼ねそろえていて、まさに申し分ない。

「まぁ。佐々木さんはお優しい方なのね」

「写真以上の好青年ですな」

「恐れ入ります」

 丁寧に頭を下げる謙虚な彼に、両親の評価も高い。確かにこの人を気に入らない親はいないと思う。

 ……でも、嬉しそうなお父さんとお母さんには悪いけど、お断りさせていただこう。

 だってこんな完璧な人とずっと一緒にいたら、緊張で身がもたないもの。

 第一、彼なら私なんかとお見合いしなくても、いくらでも女性が寄ってくるだろう。私のような平凡な女に好意を抱くわけがない。そもそも、このお見合い自体、上司に言われて嫌々受けたのかもしれないし。

 料理がすべて出されて、食べ終わるまでの辛抱だ。

 私は自分にそう言い聞かせ、ひたすら早く終わってくれることを願ってばかりだった。それなのに――。


   


「あの……失礼ですけど二重人格なんですか?」

「は?」

 人をバカにするような目で私を見ていた彼が、急に顔をこわらせてにらんできたものだから、ひるんでしまった。

「なんだって?」

 冷たい声色に押し黙りそうになったけれど、五歳も年上だからって、ここで負けるわけにはいかない。

 会食の席で見せていた爽やかスマイルは一体なんだったの!? これが本性なの?

「だっ、だってそうじゃないですか! いきなり態度がひょうへんして、さっきとまるで別人ですよ!?

 どうして私はこんな失礼な人に、少しでもときめいちゃったのだろうか。

 恋愛小説や漫画の世界では容姿も性格もいい人がいるけど、現実はそうはいかない。冷静に考えればわかることだったのに、すっかりだまされてしまった。

 思ったことをそのまま伝えたものの、当の本人は私をキョトンとした表情で見つめているだけ。

 何も言い返してこない不気味さに、足が一歩、また一歩と踏み石の上を後退していく。

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