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溺愛恋鎖~強引な副社長に甘やかされてます~

きたみまゆ

2 俺様副社長 思わぬギャップがおもしろくて仕方ない――拓真side (1)

2 俺様副社長 思わぬギャップがおもしろくて仕方ない――拓真side


「なにか用か?」

 社長室に入り、目の前にいる直哉にそう問いかけると、整った顔ににこりと微笑まれた。

「緒方。昨日、南になにかした?」

 前置きもなく核心に切り込む直哉に、俺は苦笑いしながら肩を上げる。

 うちの会社の社長である都倉直哉は、紳士的な雰囲気と甘い外見に似合わず、性格は押しが強く容赦がない。

 上品な笑顔を浮かべるが自分の意見は決して譲らず、やわらかな物腰で相手を懐柔して丸め込むのが得意だ。

 相手に、こちらの思う通りに動かされたことも悟らせない策略家で、本性を知っている俺から見れば相当タチが悪い。一番敵に回したくないタイプだ。

「別に」

 しらを切って首を横に振ると、こちらを見る直哉の視線がすっと冷たくなる。

「なんでそんなことわざわざ聞くんだ。南がなにか言ってた?」

 まさか南が直哉に、俺にキスをされた、なんて報告するとは思えないけれど。

 すっとぼけながらそう聞くと、「なにも言ってなかった」という返事。

「でも、俺が昨日のことを聞いたら、動揺して目を泳がせながらものすごい勢いで手帳のページをめくっていたよ」

 その様子を想像して、思わず噴き出した。

 あの無表情で不愛想でいつもつんと澄ました南が、昨日のことを尋ねられただけで、そんなに動揺するなんて。

「うわ、それ俺も見たかった」

 絶対かわいかっただろうな、なんて思いながら腹をかかえている俺を、直哉が横目で見る。

「南は俺の秘書で、彼女の丁寧な仕事ぶりにはいつも感謝してる」

「だから?」

「軽い気持ちで手を出して、南がこの会社に居づらくなるような状況にはするなよ」

 やわらかな口調だけど、ぞくっとするくらいの威圧感が込められた言葉。

 うちの社長の直哉は、綺麗な顔に似合わず本当に容赦がない。

「じゃあ、本気なら文句はないよな?」

「本気なら、ね」

 疑わしげな視線を向けられ、「分別のつかないガキじゃあるまいし、遊びで会社の人間に手を出すわけないだろ」と付け足すと、直哉があきれたようにため息をついた。

 直哉とは昔からの知り合いだけど、友人ではなく仕事のパートナーだ。お互いのプライベートに干渉することはほぼない。

 その直哉がわざわざ忠告したくなるのも理解できるほど、南の仕事ぶりはたしかに丁寧で確実だ。

 不確かな情報で動いたりせず、きちんと本質を見極める。そのうえで、社長の直哉が求めることを推測し先回りして動ける、頭のいい理想的な秘書だと思う。

 昨夜の南のことを思い出すだけで口もとが緩みそうになるのは、彼女の思わぬギャップがかわいすぎたから。

 今までの南の印象は、つんつんしたハリネズミみたいな女。

 南が入社したばかりの頃、エレベーターホールに置いてあったティラノサウルスのパネルの前を通るたび、なぜかものすごく険しい顔をしているのが印象的だった。

 いつも背筋が綺麗に伸びていて、誰にも弱みを見せず仕事を完璧にこなすけど、隙のなさのせいで近寄りがたくかわいげがない。

 けれどシンプルなシルバーの眼鏡の下にある、清楚で綺麗な顔は目を引いた。

『仕事中、南さんが睨みつけてきて怖い』

 などと秘書や受付担当の間で恐れられていて、きっと自分がスタイルがよく美人なのを鼻にかけて、周りの女性社員を見下しているんだろうな、なんて思っていた。

 昨夜、直哉に呼び出されて行ったバー。

 早々につぶれた羽野さんを送ると言って立ち上がった直哉に、当然のように南も脇に置いていたバッグに手を伸ばす。

 それがなんだかおもしろくなくて、ソファの背もたれに置いた手で隣に座る南の髪をひと筋つまんだ。

『まだ飲み足りないんだけど』

 指先で綺麗な黒髪を遊ばせながら言うと、戸惑ったようにこちらを見て眉を下げる南。

 これだけ美人なんだから男の誘いなんてあしらい慣れていそうなのに、どう対応していいのかわからず困り切った様子が意外だった。

『人を呼び出しておいて、ひとり残して帰るってひどくないか?』

 そう言うと、南が浮かしかけた腰をソファに戻した。

『南、緒方のワガママなんて無視していいよ』

 くにゃくにゃになった羽野さんを抱えながら、直哉があきれたように言う。

『いえ、たしかに呼び出したのはこちらですし、私でよければもう少しお付き合いします』

 生真面目な南の顔を見てから、直哉はこちらに視線を移す。

『緒方、南のことは任せたから、頼むよ』

 大事な秘書に不用意に手を出すなよ、と脅しを込められた言葉に『わかってるよ』と返す。

 遊びで女に手を出すほど暇じゃない。そのうえ自分の会社の社員で、しかも直哉の秘書なんて、いくら美人でも女として見るはずがない。

 ふたりで飲むことなんてこの先滅多にないだろうから、興味本位で少し引き留めたくなっただけだ。

 そう思っていたはずなのに、彼女のギャップに、思い切りやられた。

 それまではアルコールを飲んでいなかったのに、ふたりきりの空間が落ち着かないのか気まずさをごまかすようにグラスに口をつける南は、あっという間に酔っぱらった。

 いつもは背筋を伸ばし凛としている彼女が、今はとろんとした表情でソファの背もたれに身を預けている。

 酒のせいでいつもよりやわらかく、くつろいだ雰囲気がかわいらしい。

『そういえば南って、自分以外の女は嫌いなのか?』

 女子社員たちの『南さんが睨んでくる』という噂話を思い出して問うと、南は不思議そうな顔をした。

『え? 女の子大好きですよ?』

 眼鏡の奥からとろんとした目でこちらを見て、首をかしげる。なんでそんな意味の分からないことを聞くんだと言いたげだ。

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