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婚約恋愛~次期社長の独占ジェラシー~

若菜モモ

プロローグ




プロローグ



「お母さん、どうしても着物を着なきゃダメ? お見合いなんてワンピースでいいでしょう?」

 お見合いに着物……そう聞くと普通は振袖を想像するけれど、この真夏に着たら熱中症になって具合が悪くなることは間違いない。いくら冷房が効いているホテルのレストランだとしても。

 今、自宅の和室で着つけられているのは、夏でも涼しいしゃの着物。縦糸と横糸の密度が粗く、透ける生地でできている。

「おばあちゃんが大事に取っておいたお着物よ。こんな機会でしか、なかなか着ないでしょう? づきには丈が短過ぎるし、あなたがちょうどいいの」

 二十六歳で双子の妹の葉月は、わたし、がきより身長が十センチも高い。

 おばあちゃんは五年前、おじいちゃんは七年前に病気で亡くなっている。

「だからって……」

「ほら、後ろ向いて」

 クルッと向きを変えられると、等身大の鏡に、薄桃色で無地の着物姿のわたしがいた。お母さんは力を込めて帯を締めている。帯は京都西にしじんのクリーム色。

「全体的にシンプルだけどね、帯締めと帯留めを濃い黄色にすれば華やかになるわ」

 後ろで帯の形を作りながらお母さんが話している。

「相手の方が着物好きなの?」

 わたしの髪は葉月が結ってくれて、ふんわりとアップにされている。彼女はそれから仕事だと、ニヤニヤしながら出かけていった。なにかたくらんでいるような、いたずらっ子の笑みだった。

「お見合いといったら、お着物じゃない? 記念の日なんだから、もうあーだこーだ言うのはやめなさい」


 一週間前のプールパーティーから帰った土曜日、リビングにいたお母さんに『お見合いを設定して!』と言ったのはわたし。お母さんは鳩が豆鉄砲を食らったみたいな顔になっていたけれど、落ち着いたあとは『ようやく結婚する気になったのね』と目じりを下げた。

 街の不動産屋として人脈の広い両親は、先週の土曜日から三日後、お見合いの相手が決まった、と会社から帰宅したわたしに告げた。お見合いは今週の土曜日。めちゃくちゃハイスピードなお見合いだ。

『写真見る?』

 お母さんはなんだかうれしそうにニヤニヤしている。隣にいるお父さんもそう。

『ううん……』

 わたしは肉じゃがを口に運びながら、首を横に振った。写真を見てがっかりしたり、お見合いする気持ちがそがれたりしたら……と思い、拒否していた。

 だからわたしは相手のプロフィールも顔も知らない。無謀だと思ったけれど、そんな出会いも運命かも、って。


 そして両親と共にやってきたのは、一週間前に傷心したわたしが逃げるようにあとにしたあのホテルだった。

 なんか幸先悪そう……。

 そんなことを思いながらホテルを抜けて、日本庭園の一角にある有名料亭の隠れ家のような建物に到着した。

 このお見合い、ずいぶん奮発したようだ。わたしは大手化粧品会社、パルフェ・ミューズ・ジャパンの広報室に勤めており、以前、会食の場所を調べていたときにここの情報を見たことがある。コース料理はひとり三万円前後のお値段で、あまりの高さにギョッとしてしまったのを記憶している。


 年配の上品な仲居さんに案内されて、五部屋の個室があるうちのひと部屋へ案内された。

「お連れさまはいらしております」とのこと。

 その言葉にわたしの緊張感が増した。顔が引きつっているかもしれない。両手で頬をほぐすように動かす。初のお見合いを設定して、わたしのように緊張しているのではないかと思っていた両親は、予想に反し楽しそうに個室の中へ入っていく。わたしは若干しり込みしながら俯き、震える足で続いた。

 次の瞬間、相手から素っ頓狂な声が聞こえ、わたしはハッと顔を上げた。

 目の前に、わたしたちを出迎えるために立ち上がったご両親と、きょうへいがいた。

「な、なんで京平がここにいるのっ!?

 これはなにかの間違い。京平がお見合い相手だなんてあり得ない。

 もう京平のことは忘れて、幸せな道を見つける。そう思っていたのに……。

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