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極上な御曹司にとろ甘に愛されています

滝井みらん

憧れの彼とお近づきになりました (3)

 私よりも彼の方が絶対にいろんな店を知ってそうだ。今の私は動揺していて、ファミレスとかファストフードのお店くらいしか思いつかない。

 高橋さんには今日迷惑かけちゃったし、ここは私がお詫びもかねてご馳走すべきだろう。だとしたら、ファミレスはダメだな。どこか、落ち着いた適当な店はないだろうか?

 あっ……あそこならいいかも。

 ある店が頭に浮かび、ニンマリする私。

ぎんでも大丈夫ですか? 歩いて十五分くらいかかりますけど」

「うん、任せるよ」

 高橋さんが笑って頷いて、ふたり並んで銀座まで歩く。

 普段なら絶対にあり得ない組み合わせ。なにせ相手は女子社員憧れの的の高橋さんだ。

 モデルのようにスーツを格好よく着こなして颯爽と歩く高橋さんに、道ゆく人もせんぼうの眼差しを向ける。

 普通に道を歩くだけでこうも人目を引く美形なんて世の中そんなにはいない。彼の周りだけがなんというかパッと華やいでいて、一緒にいてもそこは異空間だと思う。なにか特別な光でコーティングでもされているみたい。バックにバラの花とかあったら似合うだろうな。

 クスッとひとり笑みをこぼすと、高橋さんがにこやかに私に話しかけてきた。

「なにかおかしなことでもあった?」

「はい、高橋さんにはバラが似合いそうだなって思って」

 自分の思考をなんの考えもなしにそのまま口にしてしまい……「あっ」と間抜けな声をあげる。

 しまった……。私の妄想を本人に伝えてどうするのよ!

「相田さんておもしろいね」

 気を悪くした様子もなく高橋さんは穏やかに返すが、私は平静でいられなかった。

「あ~、忘れてください! 深い意味はないんです。それくらい高橋さんが綺麗だからってことで」

「綺麗……ねえ」

 顎に手を当てながら、高橋さんはポツリと呟く。

「俺はこの顔、結構コンプレックスだけど」

 嘘! こんな格好いい顔がコンプレックスなんて……。

「そんな……もったいないですよ。こんなに美形なのに。私なら手放しで喜んじゃいます。どんなに願っても普通美形にはなれないんですからね。整形したって高橋さんにはなれないんですよ。私、高橋さんのお顔すごく好きです。今まで見たどんな男性よりも格好いいって思います!」

 拳を握りしめて力説すると、高橋さんがニヤリとした。

「へえ、俺の顔好きなんだ。それは光栄だな」

 低くて甘いその声に背筋がぞくりとする。言われて初めて自分の失言に気づき、慌てて手で口を押さえて立ち止まるが今さら遅い。

「相田さんてさあ、初日から俺を見て引いてたし、ずっとまともに目も合わせてくれなかったから、てっきり嫌われてるのかと思ったよ」

 高橋さんも立ち止まると、少し身を屈めて私の顔を覗き込む。彼の淡いブランデー色の瞳に捕らえられ、目を逸らすことができない。

「そ……それは、ちゃんと仕事に集中しないといけないと思ったからであって……。あっ、顔は好きって言いましたが、告白とかじゃなくてですね……」

 お願い! これ以上追及しないでください!

 必死にごまかそうとするが、嫌な汗が背中をスーッと流れた。

「うん、確かに頑張ってるね。朝も一番に出勤してきて給湯室の準備したり、昼休みにも屋上で英語の勉強したり。相田さん、この一カ月休まずによくやったと思うよ」

 高槁さんが、急に優しい目になって私の頭をよしよしとでる。

 なんで屋上で英語の勉強してたの知ってるんだろう……そんなことを頭の隅で考えつつも、高橋さんの温かい言葉が身体の中まで浸透してきて、今まで張り詰めていた緊張の糸をブチッと切った。

 彼の言葉にはなにか魔法でもかけてあったのだろうか?

 急に目頭が熱くなって、目からポタポタと涙がこぼれる。

「あれっ……」

 目からこぼれ落ちる涙を呆然と手のひらで受け止める私。

 ここで泣くつもりなんてなかった。自分の頑張りを認めてもらえたのが嬉しかったんだ。

 なのに、涙は止まらない。

 自覚はなかったけど、限界だったのかもしれない。誰にも頼らずできるだけ自分で頑張ろうと努力したものの、なかなか思うようには上手くいかなくて時間だけが過ぎて……。ずっとひとりで悩んで苦しかった。

 どうしていいかわからない私の肩に高槁さんが触れて胸に抱き寄せる。

 普段の私なら彼から逃げるところだが、今はその考えさえ浮かばなかった。

 高橋さんの胸が温かくて、その心地よさについ身を任せてしまう。

 どれくらいそうしていたのだろう。ヒックヒックと肩を震わせて泣いていたら、突然左のまぶたになにかがフワッと触れて、驚いた私はパッと目を開けた。

 え? 今……瞼にキスされた?

「おっ、やっと泣きやんだ」

 高橋さんが私の目を見て悪戯いたずらっぽく笑う。

 その笑顔でキスされたんだと確信して、私はきょうがくに目を見開いた。

「高橋さ……ん?」

 どうしてただの同僚の私にキス? 海外生活が長いと普通のことなの? それとも、私……からかわれてる? しかも、こんな道の往来で~!

 驚きと恥ずかしさで私の頭は大混乱。

 動揺しまくりの私の手を高橋さんがギュッと掴んで私の目を見る。

「頑張り屋さんなのはいいけど、相田さんはひとりで抱えすぎ。もっと周りを頼っていいんだよ。周りが忙しそうにしてるからって遠慮することはない。君を邪魔に思う人なんてうちの課にはいないんだ。ひとりじゃないよ。もっと頼って」

 高橋さんの優しい気遣いに、素直に『はい』とは言えなかった。

「でも……」

 みんなの足手まといにはなりたくない。

 私が高橋さんから目を逸らし、俯いて言葉を濁すと、彼は意地悪な口調で言った。

「相田さんを助けられないほど俺たちが無能とでも?」

「そんなわけないじゃないですか!」

 顔を上げて高橋さんの言葉を即座に否定すると、彼は私の答えを聞いて満足そうに笑った。

「だったらもっと俺たちを信用してほしいな」

「……はい」

 申し訳なさそうに返事をすると、高橋さんは「わかったならよろしい」と先生みたいな口調で言って私の手を引いた。

「さあて、行こうか。俺もお腹空きすぎてお腹鳴りそう」

 いつもクールな高橋さんらしくない発言がかわいくて、思わずクスッと吹き出してしまった私。遠い存在だった彼を初めて身近に感じた。

「私は聞いてみたいです。高橋さんのお腹が鳴るの」

 笑いながら言うと、高橋さんが微かに目を見開く。

「……そんな要望初めて聞いたよ。やっぱり相田さんっておもしろいね」

「私のお腹の音聞かれたんですから、そりゃあ聞いてみたいですよ。フェアじゃないじゃないですか」

 私が拗ねた顔で言うと、高橋さんは私に顔を近づけニヤリと笑った。

「そんなに聞きたいなら、ずっと俺にくっついてないとね」

「ずっとくっついているなんて無理です」

 ドキドキが止まらなくて、私の心臓がもたない。

 苦笑しながら高橋さんから離れようとするが、彼は私の手をさらに強く握ってくる。

「俺の顔が好きなら無理じゃないんじゃない? 嫌悪感があるなら別だけど」

 悪魔のように口の端を上げて高橋さんが私をからかう。

「……うっ、その話は忘れてください」

 なんでまたその話を持ち出してくるの?

 まともに高橋さんの顔が見られなくて俯きながらお願いするが、彼は私の顎をすくい上げるように持ち上げて目を合わせた。その親密で半ば強引な彼の行動にドキッとする。

「却下」

 高橋さんは、いじめっ子のように楽しそうに拒絶の言葉を口にした。

 ……この人、私が狼狽えるのを見て絶対に楽しんでるよ。

「高橋さんって結構意地悪ですね」

 上目遣いに高橋さんを睨むと、彼はダークな笑みを浮かべ、私の耳元で囁くように言った。

「そうだね。でも、使う人は限定してるから安心して」

 高橋さんの低音ボイスが脳に直接響いて身体がビクンと反応する。

 ずっと王子様みたいだと彼に憧れていたけど、彼に対する自分の認識は間違っていたのかもしれない。

 実際の高橋さんは王子様というよりは、まるで……美しい姿をした悪魔だ。

 近づくと危険。ほんろうされる……。

 初めて知る甘いしびれのような感覚に私は戸惑っていた。

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