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カタブツ騎士団長と恋する令嬢

七福さゆり

第一章 (3)

 国を守る王立騎士団をまとめている団長なのだから、厳しくて当たり前だ。でも、いつもあまりにも優しいから別人みたいに見える。

 怖い。でも、格好良い。声を荒げるアルフレッドを見ていると、すごくドキドキしてしまう。彼に会いたいのもあるが、自分には見せてくれない彼の姿が見たいということもあり、ローズは何度も足を運んでいる。

「よし、十分休憩」

 このままずっと眺めていたい。でも、恋人や婚約者ならまだしも、友人の妹がずっと訓練を見学しているのはおかしく思われそうだ。というよりも、頻繁に訪ねてくることに対しても変に思われそうだが……そこは大目に見てほしい。

 ここにずっと居たい気持ちを抑えて、休憩するアルフレッドの元へ行こうとしたら、ローズが向かうよりも先に、彼がこちらへ向かってくるのが見えた。

 ローズは柱の後ろに隠れていて、斜め横には王城内部に繋がる扉があった。きっとこちらに用があるのだろう。

 忙しいアルフレッドの手をわずらわせるわけにいかない。サッと渡して帰ろう。

「ローズ」

 まだ柱の後ろに隠れたままなのに、名前を呼ばれた。ローズが柱の前に出ようとするよりも先に、アルフレッドがこちらへやってきた。

「アルフレッド様、どうしてわかったの?」

「やっぱり来ていたのか。騎士たちが素振りをしながら、チラチラこちらを見て鼻を伸ばしていたから、また来ているのではないかと思ったが、柱からていたドレスを見て確信した」

「えっ! やだ、ちゃんと隠れたつもりだったのに……」

 思わずドレスの裾を押さえると、アルフレッドが口元を綻ばせる。

「今日はどうしたんだ? また差し入れを持ってきてくれたのか?」

「ええ、今日は紅茶のクッキーなの。もしよかったら、食べて」

「ありがとう。後で書類仕事をする時に頂く。いつもすまないな。でも、もう、大丈夫だ」

「えっ……迷惑だった?」

「いや、迷惑などではない。ただ、こんなところへ来てもつまらないだろう? 俺もいつもと違うし、お前を怖がらせたくない」

「つまらなくなんてないわ。それにアルフレッド様は確かにいつもと違うし、怖いけど、それがかつこういって思うの」

 言い終わった後に恥ずかしくなり、ローズは真っ赤な顔でうつむいた。アルフレッドは彼女の頭を撫でようとしたが、を着けていることを思い出し、その手を引っ込める。

「そうか。……でも、もうここに来ては駄目だ」

「ど、どうして?」

「どうしてもだ」

 何度聞いても、アルフレッドは理由を教えてくれなかった。

 やっぱり、迷惑だったのかしら……。

 ああ、きっとそうだ。アルフレッドは優しいから、はっきりと言えないだけなのだ。

 しょんぼりして帰ったその日の夕食の時間──ローズは家族がそろったテーブルで、ジャンから辛い知らせを聞かされた。

うそ……」

 手から力が抜けて、フォークとナイフが皿の上に落ちた。その衝撃で鹿肉のステーキにかかっていたソースが跳ねて、胸元を汚す。

 いつかは訪れるとわかっていたことだけど、いざその時がきてしまうと頭が真っ白になってしまう。

 そう。だから今日、もう会いに行っては駄目だと言ったのね。

 妻を持つというのに、友人の妹、しかも自分に好意を持っている女性を職場に近付けるわけにはいかないと思うのは当然だろう。

「ほう、アルフレッドくんも、とうとう結婚か。お相手は?」

「バール伯爵家のご息女、エルザ嬢だよ」

「ああ、バール伯爵家の……彼女は美しいと名高いからな。アルフレッドくんのお相手にピッタリだ」

 エルザ様……。

 社交界でとても美しいとうわさになっていたから、ローズも彼女を知っていた。太陽のようにまばゆいブロンドに、青い瞳がとても美しくて、まるで女神のようだと言われている女性だ。

 年齢はローズより二歳年上の十八歳……自分は歳の差があるから相手にされていなかったと思っていたけれど、そうではなかったらしい。

 ローズは遠目にエルザを見たことはあっても、話したことはない。

 どんな女性なのかしら……。

 アルフレッドの心を射止めた女性だ。見目麗しい以上に、とても素晴らしい人格の持ち主なのだろう。

「アルフレッドくんにはうちのローズを貰ってほしかったんだがな。まあ、彼が選んだ女性だ。きっと幸せな家庭を築くことだろう」

「俺もローズと結婚してくれたらと思ってたんだけど、アルフレッドに全然その気がないものだからさぁ……まあ、元気出せよ! ローズにもお父様が良い男との縁談を決めてくれるさ。今だって断るのが大変なぐらいに来てるんだから」

「わ、私、もうお腹がいっぱい……ごめんなさい。先に部屋へ戻るわね……」

 父は真っ青な顔で部屋に戻るローズを視線で見送り、ジャンの顔を見てため息を吐く。

「お前、よく女心がわからないと言われないか?」

「え、どうしてわかるんだ」

 キョトンと目を丸くするジャンを見て、父はまた大きなため息をいた。


 アルフレッド様が、結婚……。

 ローズはフラフラと、おぼつかない足取りで自室へ向かう。なんとか自室まで辿たどけたが、ドアを閉めた瞬間膝から崩れ落ちて、涙をボロボロ零した。

 ああ、ついにこの時が来てしまった。

「ううっ……ひっく……うぅうう……っ」

 アルフレッド様が結婚するのも、他の男性と結婚するのも嫌──……!

 辛い現実に打ちのめされたローズは、その場にうずくまり、大粒の涙を流した。


     ◆◇◆


 アルフレッドの婚約を知らされてから、一週間──ローズは彼の屋敷を訪れていた。

 本当ならこんな顔で来たくなかったのだけれど、前々からの約束なので仕方がない。ちなみにアルフレッドとの約束ではなくて、彼の二十歳年下の妹アリーヌとだ。今日はサロンで一緒にお茶をすることになっている。

 一人になると毎日泣いてばかりのローズの目は腫れ上がり、半分ほどしか開かなくなっていた。

 一応冷やしてはいたのだけど、それが追いつかないぐらい泣いていた。何もしなかったら、きっと今よりもっと目が開かなくなっていただろう。

 父には誰とも結婚したくないから、修道院に入らせてほしいと頼んだが、今は失恋したばかりでそう思うかもしれないけれど、それは一時的であって、また別の人と愛をはぐくみたいとおもうはずだから……と、許可してもらえなかった。

「ローズお姉様、お会いしたかった!」

 馬車から下りると同時に、アリーヌが玄関扉を開けて飛び出してきた。

 彼女は両手でドレスの裾をつまみあげて走り、ローズに抱き付く。彼女はローズを本当の姉のように慕っていて、ローズもアリーヌが大好きだった。

「アリーヌ、お招きありがとう。私も会いたかったわ」

 アルフレッドと同じ色の長い黒髪を優しく撫でてやると、アリーヌは海のような青い瞳を気持ちよさそうに細める。

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