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不埒な海竜王に怒濤の勢いで溺愛されています! スパダリ神に美味しくいただかれた生贄花嫁!?

上主沙夜

第一章 神の愛が食欲だったなんてあんまりです! (1)

第一章 神の愛が食欲だったなんてあんまりです!



「……年頃って、何歳くらいのことなのかしらねぇ」

 宮殿の窓から海を眺めながら、ハァ……とリリベル姫は不景気な溜息をついた。

 不思議な少年との出会いから早八年。十八になったリリベルは立派に『年頃』のはずなのだが、いまだに海竜神レヴイヤタンの王子様の迎えは来ない。

 迎えどころか、彼はあれ以来一度も姿を見せなかった。夢だったのかと思えてくるくらいだが、少年がくれた七色真珠のブレスレットは今でもリリベルの左手首で神秘的な光沢を放っているし、約束したとおりラドニアはエビの特産地になった。

 エビだけでなく、タコやイカ、タイ、マグロ、ホタテ貝などもよく採れる。さらに海岸にはサンゴやはくが打ち寄せ、アワビのなかから真珠が出た。海流と風向きが変わって、それまで難しかった北の大陸との交易も容易になった。

 八年の間にラドニアは四カ国の最下位から、一気に最上位の東の王国タイフォニアに肩を並べるほどの大躍進を遂げた。

 結納品だと言っていたが、それにしたって大盤振る舞いだ。さすが海竜神レヴイヤタンの王子様は違う。

 三年前には王宮も新築し、薔薇ばらいろ大理石と雪花石膏アラバスターを用いた豪華な宮殿に生まれ変わった。

 これもみな海竜神レヴイヤタン様のご加護のおかげと、両親は王宮に先立って神殿を建て直し、感謝の祈りを欠かさない。

 まるで自ら網に飛び込む勢いでやってきてくれる海産物にも感謝して、それぞれの精霊をまつほこらも造った。

 名物のシーフードを堪能しながら王国内の神殿や祠を巡礼するのが国内外でブームになり、巡礼客を受け入れる港やルート沿いの旅籠はたご、飲食店も大繁盛だ。『真珠入り(かもしれない)干しアワビ』はおみくじ要素のある土産物としてダントツの人気を誇っている。

 国民も王に倣って毎朝毎晩、海竜神レヴイヤタンへの祈りを欠かさない。そんな国民の信心深さや心根の穏やかさも、ラドニアが巡礼地として人気になった理由のひとつだろう。

 国王は、これが『結納品』であることをしっかり理解していた。リリベルは『王子様』を見送ると、さっそく父王に報告した。

 国王とて最初から信じたわけではない。なにぶん子どもの言うことだし、『海竜神レヴイヤタンの王子様』など聞いたこともなかった。この世界は海陸空の三柱の神々が治めているとされているが、神々はめつに人前に姿を現さないので実体は謎だ。

 しかし、リリベルの腕には見事な真珠のブレスレットがある。ラドニア王家のものでもなければ、招待客がプレゼントしたものでもない。どこからか降って湧いたのでなければ、本当に娘を見初めた『王子様』がくれたものとしか思えなかった。

 後日、王宮出入りの宝飾商に確認させたところ、確かに本物の真珠であるとのことだった。色味をおびた真珠は非常に珍しく、色違いのつぶぞろいで七個もそろっているものなど見たのは初めてです、と商人は感嘆してブレスレットをためつすがめつした。値段はとてもつけられないという。

 まさか怪しい魔物に魅入られたのではと危惧した両親は神官にもブレスレットを見せたが、悪い氣はないと断言された。それどころか、清浄な神氣が放たれているとして神官はかしこまってひれ伏した。

 こうなったらもう娘の話を信じるしかない。王子様かどうかはさておき、リリベルは海竜神レヴイヤタンけんぞく、それもかなり高位の存在に気に入られたのだ。

 かといって、その時点ではファリスティーグ王子との婚約を解消することはできなかった。まだ半信半疑だったというのもあるが、話を聞きつけた王子が一転してやけに結婚に前向きになったのだ。

 ブレスレット目当てに違いないと、リリベルはさらにファリスティーグが大嫌いになった。

 それから数年のうちにラドニアは目に見えて繁栄し始め、リリベルが『気に入られた』ことは事実と受け入れられるようになった。

 リリベルが十五歳になる頃にはラドニアの国力はエキドニアに並んだ。その頃からファリスティーグは結婚をくようになった。だが、リリベルが『王子様』と結婚するのだと言い張ったのと、ファリスティーグの芳しくないうわさ(特に金銭と女性関係)が聞こえてきたこともあって父王はなんだかんだと理由をつけては引き延ばしていた。

 それとなく破談を打診しても拒否される。破談にするなら慰謝料として七色真珠のブレスレットを寄越せと露骨に言われた。エキドニアでは、ラドニアの突発的な繁栄はブレスレットの神通力ということになっているらしい。

 約束の印なのだからあげるわけにはいかないが、『王子様』が迎えにきてくれたときに許しを得られたら渡してもいいとリリベルは思っていた。それで面倒な悪縁が切れるなら。

 晴れ渡るこんぺきの海を眺めながら、リリベルは一度だけ出会った海竜と、その化身である美しい少年を頭に思い浮かべた。

 八年ち、少年の面影はかなりおぼろげになってしまったが、ばゆいくらいに美しかったこと、黒髪や黒い瞳が不思議な燐光をおびていたことははっきりと覚えている。そのまなざしがとても優しかったことも。

「……早く迎えにきてよ」

 リリベルは窓辺に肘をついて呟いた。

 ずっと待っているんだから。それとも、わたしのこと忘れちゃったの……?

 また溜息をついてブレスレットを眺める。

 不思議なことに、この八年で真珠は一回り大きくなった。まるでリリベルの手首のサイズに合わせているかのように、いつだってぴったりなのだ。

 貝から取り出した真珠はそれ以上成長することはないのだから、これが本当に特別な真珠なのだということを示している。

 神官が言うように、『神氣』をおびているようで、なんだか湿っているな、と思うと雨が降り、水滴がついていれば嵐が来る。数日以内のことならリリベルは天候の予想がつくようになった。それを人に頼られることもしばしばだ。重要な行事のときなど、リリベルの予報を聞いて日程を調整すればまず間違いない。

「……当分はお天気が続きそうね」

 ブレスレットを撫で、空を見上げてリリベルは呟いた。明るい空色の瞳は、しかしどうにも曇りがちだった。下ろしたままの波うつ金髪を意味もなく指に巻き付けながらリリベルは嘆息した。

 なかなか『王子様』が迎えに来ないことに加えて、ファリスティーグ王子からの結婚の催促が激しくなっていることも憂鬱の原因だ。

 婚約が調っているのだから、本来ならリリベルは十四、五歳でエキドニアに嫁いでいた。それをだまし騙し今まで引き延ばしてきたのだ。

 婚約解消も何度となく申し出たが、ファリスティーグ王子は断固拒否している。もともと婚約を持ちかけてきたのはエキドニアのほうで、一旦了承したからにはこちらからの婚約撤回は契約違反であると主張している。

 国力は遜色なくなったとはいえ、農業に向いた土地の少ないラドニアは穀物類の多くをエキドニアから輸入している。無下にはできない相手なのだ。

 話し合いはもうずっと平行線で、リリベルが嫁に行くか、七色真珠のブレスレットを譲るかのどちらかだ。むろん、嫁に行く場合もブレスレットの持参は必須というのだから厚かましい。

 ファリスティーグは十歳のリリベルを洗濯板と罵ったが、十五歳を過ぎた頃からリリベルの胸はむくむくと大きくなり、ウエストはきゅっと引き締まり、たいへんスタイルがよくなった。

 さらにはぱっちりしたあおい瞳ときらめく陽光のような波うつ金髪、愛らしく生き生きとした美貌の持ち主ともなれば、美女に目がないと噂されるファリスティーグが婚約破棄するわけがない。

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