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人狼ゲーム INFERNO

安道やすみち

第一章 (1)





       


 全員の目がテレビにくぎけだった。

「……えっと……それぞれカードを取り、自分の正体を確認してください。他人のカードを見てはいけません。自分のカードを見せてはいけません」

 辻遊馬が青い画面に映った、白い文字を声に出して読んでくれる。

 人狼ゲームのルールだ。

 紘美は内容を知っている。

 だが、目をそらせない。

 フックの件といい、なにか変わっているかもしれない。

 このゲームに詳しい亜利沙にも確認してもらいたい。

 紘美は抱きかかえている亜利沙を見る。

 彼女は虚ろな目をしながらも首を起こす最中だった。意識を取り戻したらしい。

「大丈夫?」

 紘美は息が乱れる中、声をかける。だが、彼女はこちらを一瞥すると無言で腕の中から転がり出て少しだけ距離を取った。

 酸欠になり、少し混乱しているようだ。

 ただ、動けるのなら心配ないだろう。

「カードって……?」

 越智がルールにあったカードを気にした。

 辻が顎で部屋の奥にある移動式のバーカウンターのようなものを指す。

「あれだな」

 その上にはカードが伏せられている。

 カードの上には山折りにされた紙が配置されていた。ネームプレートだ。

 隣で舞が息を飲んだ。

「これ、これって刑事が言ってたやつじゃん!」

 刑事という言葉に紘美の胸が高鳴る。

 紘美は生唾を飲みこんだ。ようやく呼吸が落ち着いてくる。

「刑事……刑事? 搜査してたんだ?」

「そりゃね。連絡が取れなくなってるクラスメイトの何人かは人狼ゲームが好きだったらしいから、そういうのに心当たりある人、いないかって……」

 しかし、ここには辿たどりつけていない。

 できれば、今夜までに見つけてくれないだろうか?

 そうでないと、また……殺さなければならない。

 下手をすれば自分が死んでしまう。

「続きだ」

 辻がルールを再び読み始めた。

「構成。人狼側が人狼ふたり。村人側、予言者ひとり、霊媒師ひとり、用心棒ひとり、村人が四人。その他、狂人ひとり……」

 舞はルールより状況が気になるらしい。

 紘美に質問を投げかける。

「やっぱ関係あんの? あんたらがいなくなったのと、これと。てか、これなに?」

「これ……」

 この殺人ゲームの説明をしようとしたが、そのとき突然に激しい音がした。

 振り向くと亜利沙が椅子を乱暴に蹴散らしている。

 舞が亜利沙に向かって大声をあげた。

「ちょ、ちょっと!」

 すぐに落ち着いたのか、亜利沙はそれ以上なにもしない。

 辻は亜利沙を横目で気にしながらも画面に向き直った。

「毎晩ここへ集まり、夜八時までに任意の相手に投票してください。最多票を集めた者を処刑してください……」

 利絵が不安げにつぶやいた。

「これルールやんね? 人狼のルール……」

 その通りだ。この異常な状況で、友達同士で気軽に楽しむゲームの説明が始まったなら、混乱するだろう。

 紘美も最初は意味不明で戸惑った。

 利絵もまったく一緒に違いない。

 前回は誰かが「命がけの人狼ゲームだ」と不穏なことを言った。

 そのおかげで冗談にしろ、冗談でないにしろルールを把握しておかなければという気持ちが強くなったことを思い出す。

 紘美は深い呼吸をして現状を伝えた。

「そうだよ。あたしたち誘拐されたの。あたしとルナと、亜利沙。ほかの七人も」

 のんに構えていた越智も、さすがに動揺したらしい。

「……え、マジ? マジで集団誘拐かよ?」

「うん。それで……無理やり人狼を……本当に人を殺すゲームをやらされた……」

 今、思い出してもおぞましい。

 前回、最初に犠牲になったのはクラスメイトの立花みずきだった。

 他の参加者が投票した結果、彼女の得票数が一番多かった。

 そして首輪が締まり、彼女は眼球を半分飛び出させ、血の泡を吐き出し、大きくけいれんし、最後には尿まで漏らして、汚らしく死んでいった。

 直接手を下したわけではない上に、本当に死ぬと思っていなかったが、結果として自分が殺したも同然だった。

 だが、その後は違う。

 殺したくないと言えば、自分が殺されてしまうところだった。

 死に直面すると、本能が強くなるのだろうか?

 とにかく生きたいという欲求が膨れ上がった。

 だから、生きるために殺すしかなかった。

 票を入れて、いけにえを選ぶしかなかった。

 紘美は葛藤をやめ、ゲームを開催している運営組織の人間を憎んだ。

 生きて、ふくしゅうを遂げる。

 だからと言って、クラスメイトの犠牲をいとわなくなったわけではない。

 自分が犯した過ちであることも認めている。

 償いは、しなければならない。

 辻はさらにルールを読む。殺人ゲームだと知り動揺したのか、だんだんと声が弱くなった。

「該当者が複数いた場合、それ以外の者による決選投票を行ってください。それでも票が割れた場合、その夜は処刑を行いません」

 紘美は補足する。

「投票でられたり、夜に襲撃されたら、本当に死ぬの。生き残ったのは、わたしたち三人だけ」

 三人と聞いて舞が全員を見回す。

「あんたと亜利沙と、ルナ……?」

 服装の汚れや表情、態度から見抜いたに違いない。

 紘美はうなずく。

 もう二度とあんな思いはしたくない。

 だが、二回戦目が始まった以上、従わなければ死ぬだけ。

 生きるためには、殺すしかない。

 その傍らで辻はルールを読み続けてくれている。

「夜一〇時から朝六時までは自分の部屋にいてください。ただし人狼は深夜〇時から二時までの間に誰かひとりの部屋を訪れ、相手を殺害してください」

 馬渡が床に唾を吐いた。

「で、次は俺らか」

 越智は事の深刻さを理解したのか、へたり込んで頭を抱えている。

「マジでマジかよ……」

 しかし、今回は少しだけ希望の芽がある。

 前回はかなわなかったことだ。

 紘美は舞に確認を取る。

「搜査が始まってるんだよね? 人狼のことも知ってたって」

 舞は軽く頷いた。

「でも、その程度……」

 小笠原が太い首を左右に振る。目から涙があふれそうになっていた。

「ぜんぜん進んでない。進んでたら、こんなの……」

 辻はルールの読み上げを続ける。

「人狼を全滅させた場合、村人側の勝利。村人側の人数が人狼以下になった場合、人狼側の勝利。勝利した側には合計一億円が支払われます」

 そこで、ようやくルナが弱々しいながらも言葉を取り戻した。

「……なんで……なんで、また? 終わりじゃないの……?」

 亜利沙は鼻で笑う。

「そのため。その絶望した顔を見るため。そのほうが面白いから。決まってるでしょ」

 ルナが立ち上がる。勢いで椅子が倒れた。

「聞いてない!」

「言ってないんだもの。当然よ」

 ルナのそうはくだった顔が、より病的なものに変わった。

「そんな……」

 辻が亜利沙の受け答えに疑問を持ったらしく、画面から目をそらし彼女を見た。

「ちょっと待った。言ってないってなんだ?」

 その間に画面の文字は切り替わる。

 今度は小笠原が読み始めた。

「……ゲーム中は建物から出られません。建物、備品、他人を傷つけてはいけません。ルールに違反した場合は命を失います」

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