話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

人狼ゲーム INFERNO

安道やすみち

プロローグ (2)

 いつも関西弁のイントネーションで喋るゆうだ。

「人狼ゲームの始まりです……?」

 馬渡もテレビの前へ行く。

 しかし、気になるのはテレビではなく、床に置いてあったロープらしい。

 拾い上げると、まじまじと見つめた。片側に金属製の小さなかぎがついている。

「なんだこりゃ……?」

 馬渡は画面とロープを交互に見ていたが、やがて視線は天井へ向いた。

 紘美もつられて見上げる。

 そこにはいくつものフックがり下がっていた。

 海賊の船長が腕につけていそうな、大きなものだ。

 前回のゲームのときからあっただろうか?

 鈍い鋼色のそれは、ナイフのようにも、悪魔の爪のようにも見える。

 あれが襲ってくるわけではない。

 わかってはいるが、目を背ければ殺される。

 そんな気がしてならなかった。



       


 今月に入って何度目の秋雨になるだろう?

 県警本部に設置された特別搜査本部は、三〇人を越える搜査員でごった返している。酷く慌ただしい。

 雨の音など気にかかるような状況ではない。

 なのにぐらさくろうの耳には雨の音がこびりついて離れなかった。

 どこか上の空なのだ。

 自覚がある。

 まるで自分を空から見下ろしているような感覚。夢の中にいるようでもある。

 これは離人症という解離性障害の一種だ。過度なストレスや不安がかかったときに現れる症状。

 自分にどんな症状が現れているかは、分析できる。

 しかし、だからと言って対処できるわけではない。

 ただ、ありがたいことに体は仕事をしている。

 名倉は調査結果を報告するために、管理官の元へと歩みを進めていた。

 この事件の搜査を取り仕切っているのは四〇歳を越えたばかりのます警視だ。普段は温厚な人物だが、今は苛立ちながら他の搜査員たちに指示を出していた。

 無理もない。

 聞いた話が正しければ、悪夢は広がるのだ。

 名倉のパートナーであるてるつかさは会議室に設置された長机にかじりつき、固定電話で連絡を取っている。たいに見合った力強さでメモ帳に殴り書きをしていた。

「だから、誰と誰っすか? お願いします。……今っすよ! どうぞ。……小笠原、越智、辻、馬渡、水谷、宮下、結城。以上っすね? 七名。いえ、大丈夫です。名簿はあるんで」

 やはり増えたのだ。名倉は確信を得る。

 その時、制服を着た警官が雑な敬礼をしつつ、慌ただしく会議室に入ってきた。

「管理官。小笠原光宏、辻遊馬、結城利絵の親御さんが来られてます」

「待たせておいてくれ!」

 また別の制服警官がやってくる。

「管理官、マスコミの件は──」

「それも後だ! なぜ漏れた! なにをやってるんだ!」

 照屋が電話を切って矢継ぎ早に報告を入れた。

「管理官。間違いないですね。同じクラス、今のところ七人」

「なんでそんなことになるんだ! すでに十人消えてるんだぞ!? 警戒はしてたんだろう!?

 升の怒号に俯いたのは別の同僚刑事だ。

「……搜索はしていましたが、さすがに誰も、また起きるとは……」

 名倉にとっても想像外の出来事だ。

 早朝から行方不明者の連絡が多いとは聞いていた。

 その内の七名は、またもや同じ学校の生徒だと言う。

 本来、この特別搜査本部は一斉に失踪した十一名を搜索するためのものだった。

 あずまかつひこがわなおさかたつ都築つづきりょう、水谷和希、がしじん、浅見ルナ、立花みずき、野々山紘美、まつ、向亜利沙……

 すべて同じ学校のクラスメイト。

 最初は単なる集団家出かもしれないと本格的な搜査は行われなかった。

 だが、調査を進める内に拉致現場の目撃証言が報告される。

 状況は一変した。

 警視庁は本件を大規模誘拐、拉致事件と断定。搜査員を派遣し、県警に搜査本部を設置。

 総勢四十二名による大規模な搜査を開始した。

 数日後、しょうすいしきった水谷和希を保護。

 他に、失踪者の持ち物の中から『本当に処刑を行う人狼ゲーム』の手がかりを入手。

 これで事件は解決に向かう──。

 そう思った矢先に、これだ。

 先の十一名と同じクラスの生徒が、さらに七人も失踪した。

 拉致の目撃証言がないとはいえ、搜査を進めていた事件と無関係のはずがない。

 突然に、しかも一斉にいなくなるという点も類似している。

 同一犯による犯行とみる方が自然だった。

 そして、照屋が口にした七人とは名倉も面識がある。数日前、名倉と照屋が彼らのクラスへおもむき事情聴取をしたからだ。

  〈小笠原光宏〉

  〈越智一二三〉

  〈辻遊馬〉

  〈馬渡聖弥〉

  〈宮下舞〉

  〈結城利絵〉

 最後に、一度は警察で保護した〈水谷和希〉だ。

 警察のメンツは丸潰れ。

 名倉は悔しさのあまり自分の唇をみちぎりそうになる。痛みのおかげか意識が少しだけ現実感を取り戻した。

 一方で升警視の同僚に対する怒号は続く。

「手がかりは!?

「地取りは始めてます!」

「当然だろうが!?

「はい! 引き続き搜査を進めます!」

 同僚刑事は力強くうなずくと、会議室を出て行った。

「名倉はなんだ!」

 名倉は拳を何度も作って自分の体を動かす感触を確かめていた。

 怒鳴られてようやく夢から覚めたような気がした。

 姿勢を正し、報告を進める。

「例の映像。先に誘拐された向亜利沙の自宅から見つかったDVDですが」

 DVDの中身は映像だった。本当に人を殺す人狼ゲームの様子を監視カメラで撮影したもの。映像を解析した結果、ゲームは少なくとも六回ほど行われていることがわかった。

 事件解決に結びつく有力な手掛かりだ。

 升警視も苛立った状態では話を聞けないと考えたのか、落ち着きを取り戻した。

「……なんだ?」

「建物自体や内装の映像だけ切り取って、複数の業者に見てもらいました」

 搜査に協力してもらっているとはいえ、事件のすべてを知らせるわけではない。

 それに少年少女たちの凄惨な殺し合いなど、関係者以外に見せられるはずもない。

 名倉は脇に抱えていたタブレットを升警視に手渡し、画面を指し示す。

「これと、このあたりですね。さっそく反応がありました。構造やエアコンの形から、企業の保養施設かなにかだろう、バブル期に建てられたものだろうと」

 升は画面に映った写真を一枚一枚確認する。

「少なくないだろう」

 もっともな意見だ。バブル期に保養施設はごまんと建てられた。

 ただ、写っている情報は建物だけではない。

「窓越しの景色や屋上の映像から、山間部にあることはわかります。りょうせんや紅葉の分布も登山関係者、園芸関係者に見てもらいましたが、この近辺の山だとわかりました。市内からは遠くても四、五時間の距離でしょう」

 升は大きく頷く。

「絞れるか?」

「それなりに。現役で使われているものではないでしょうから、閉鎖されたものを中心に調べています。そういう物件専門の業者もいるようで」

「わかった。そのまま続けてくれ」

 そこに口を挟んできたのは照屋だった。

「問題は、場所を変えてる可能性っすね……」

 升は眉間にしわを寄せる。

「変えてるだと?」

 照屋はタブレットを指さした。

「毎回、同じ場所でやってるとは限らないっす。ただもちろん、以前に使われた場所を見つけるだけでも、手がかりにはなりますが……」

 升は画像を送り、何枚か確認する。

 何度かは同じ建物でゲームが行われているようだったが、明らかに別の建物の場合もあることを、名倉は認識していた。

「どうにもならんか?」

 升の疑問に名倉は答える。

「いえ、違う建物でも背景に映る山はほとんど変わらないようでした。施設も同じ地域のものを使っている可能性が高いです」

 納得してくれたのか、升が名倉にタブレットを返してくれた。

「この件は任せる。続けてくれ」

 つまり、保養施設を特定し、その場へ向かってくれということだ。

 そうなるとパートナーである照屋も動くことになる。

 だからこそ照屋は別のことが気になったらしい。

「新しい被害者の親は?」

 升は少しだけ考える様子を見せた。すぐに照屋を見て指示を出す。

「別の人間に任せる。お前たちは気にするな」

 自分の仕事に専念しろということだ。

 名倉は決意表明として、大きく、力強く頷いた。

 照屋を見ると、彼も同じように頷いてくれる。

 若者たちの命がおもちゃにされるなど、許されない。

「人狼ゲーム INFERNO」を読んでいる人はこの作品も読んでいます