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人狼ゲーム INFERNO

安道やすみち

プロローグ (1)





       


 人は、葛藤する。

 それは同時にかなえたい、たくさんの願いがあるからだ。

 例えば思い人に告白したい少女がいたとする。

 少女は今すぐに自分の思いを伝え、あわよくば付き合いたいと考えている。

 けれど、相手には決まった人がおり、告白をすれば相手を困らせてしまう。

 だからと言って、告白を避けるために距離を取れば寂しくてしかたない。

 相手を困らせたくないが、寂しいのも嫌だ。

 そのとき、どんな選択をすれば正解なのだろうか?

 人は葛藤する。

 しかし、告白での葛藤など可愛らしいものだ。

 やまひろにも願いがあった。

 生きていたい。

 殺したくない。

 正しくありたい。

 日常生活ならば、比較的たやすく叶うさいな願いだ。

 だが、殺さなければ生きられない。

 生きたければ殺すしかない。

 殺すならば正しくいられない。

 しかし、自ら死を選択することも正しいとは思えない。

 苦悩の果て、恐怖の果て、紘美は葛藤をやめた。

 正しさを捨て、生きるために殺す。

 それが答えだった。

 殺す相手が憎ければ、少しは救われただろう。

 けれど、殺す相手は全員、クラスメイトだった。

 同じ理不尽が突きつけられたなら、多くの人は、自分と違う答えを導き出すだろうか?

 この白い壁に囲まれた部屋──どこかの会議室のような部屋はまさに実験場なのだ。

 中央には円形に並べられた四つ足の黒い椅子。

 数は一〇脚。

 床に倒れている者、その黒い椅子に体を預けている者、四つん這いで絶叫する者……

 そして、固唾を飲んで様子を見ている野々山紘美を合わせれば、この場にいる人数も一〇だった。

「あああああぁぁぁっ! なんで、なんでえぇっ!」

 四つん這いだったむかいが立ち上がる。ゴスロリ服のスカートをひるがえし、黒い椅子を蹴飛ばした。次の椅子はつかんで持ち上げ、床に投げつける。

 紘美は思わず身を引きつらせた。

 いや、驚いている場合ではない。暴走を止めなければ、彼女の命が危ない。

「亜利沙、ルール!」

 ──建物、備品、他人を傷つけてはいけません。

 大声で注意するが、返ってきたのは憎しみに満ちた目と「うるさい!」の一言。

 話を聞かないのならば無理やり止めるしかない。

 紘美は亜利沙の小さな肩を抑えるが振り払われる。

 彼女が暴れる理由はわかっていた。

 亜利沙の思い人であるみずたにかずが、この実験場にいるせいだ。

 制服姿で床に横たわっていた彼は、きゃしゃな体を起こし立ち上がる。

 柔和な……良く言えば優しそうな、悪く言えば弱々しい笑顔を浮かべながら、椅子に座っている思い人──あさルナの元へ歩み寄った。

 彼女もいつの間にか目覚めていたらしい。

 ただただ、ぼうぜんとしている。

「……浅見さん?」

 近づくにつれ水谷は表情を曇らせた。

 無理もない。

 ルナの青みがかった黒髪には油が浮いており、着ているワンピースには汚れが目立っている。

 それに、彼女はいつも表情が薄い。その顔が今は明らかに引きつっているのだ。

 水谷が『なにかあった』と思うには充分だ。

 一方でルナの心境を紘美は痛いほど理解できる。

 ルナも紘美、亜利沙同様、殺人ゲームの生き残り。

 何人もの死者を出して勝ち残り、生きて日常へ帰れると思った。

 それなのに目覚めると再び殺人ゲームに放りこまれている。

 平静でいられるはずがない。

うそ……」

 乾いて切れ目の入った唇かられた言葉を聞いて、紘美は思わずうつむいた。

 噓であれば、どれだけ嬉しかったことか。

「う、うぅ……?」

 後ろでうめき声が聞こえた。

 振り返るとつじゆうたくましい体を起こしているところだった。

「なんだこりゃ……?」

 その隣には、また別の少年が胡坐あぐらをかいていた。

 茶色い芝生を頭に乗せたような髪型は間違いない、一二三ひふみだ。

「……野々山と向。浅見もいるじゃねーか」

 また、クラスメイト。

 前回と同じように、参加者はクラスメイトでそろえられている。

 頭の中で鐘が鳴った。

 その鐘を鳴らしているハンマーが、直に頭をたたいているようだ。酷い頭痛がする。

 ルナも同じような痛みを覚えているだろうか?

 再び彼女を見ると、水谷が手をそっと差し伸べようとしているところだった。

「よかった……」

 水谷のあんした声。

 なにがよかった?

 こんな悲惨な状況で。

 これから殺し合いが始まるというのに!

 いや、水谷はルナのことが好きだった。熱烈なメッセージを書いて告白したこともある。

 それに、彼からしてみればルナはずっと安否も知れぬ行方不明だったはずだ。

 会えて無事が確認できただけでも良いことなのだろう。

 彼の指がルナの白い肌に触れようとする。

 それを許さなかったのは亜利沙だ。

「ぎぃああああぁぁぁあああぁぁぁっ!」

 奇声を上げてルナへ飛びかかる。

 激しくぶつかった勢いそのままに、ルナを押し倒した。

「浅見さん!」

 水谷は顔色を青くした。

 紘美の肌はあわった。

「だめって!」

 他人に危害を加えればルール違反だ。

 急いで亜利沙を止めに向かう。

 ──キュイイィィ……

 亜利沙の首にある、手錠のような鉄の輪から甲高いモーター音が聞こえ始めた。

「がっ! ぐっ!」

 首輪が締まって、今まさに亜利沙の息の根を止めようとしているのだ。

「ほらっ!」

 言わないことではない。

 もだえる亜利沙の小さな体を抱きしめ、これ以上ルナに危害を加えないように引き離した。抵抗してきたが彼女の力は弱い。大人しくさせるのは簡単だった。

 次第にモーター音が小さくなり、首輪が緩んだように見えた。

 亜利沙はぐったりしている。興奮したところで首が絞まったため、酸欠にでもなったのだろう。

 一応、生きている。

 安堵すると同時に、やりきれない気持ちが膨れ上がり涙がこみあげてきた。

 やはり、殺人ゲームは続いている。

 終わっていない。

 二回戦が始まったのだ。

 その証拠に亜利沙の首にあったものと同じ首輪が全員にはめられている。

 このゲームを仕組んだ犯人に、命を握られているのだ。

 酷い。

 まだ殺せと言うのか。

 まだ死ねと言うのか。

「え、な、なに? ちょっと、どういう状況!?

 ヒステリックな声がした方を向くと、褐色の肌の少女が上半身を起こした恰好で短いスカートを抑えていた。

 みやしたまいだ。亜利沙と、前回の参加者であるたちばなみずきと仲の良かった少女。

 越智の恋人でもある。

 当の越智は知り合いばかりいるためか、さほど緊張した感もない。

「おまえら、なんでいんの?」

 のんなことを言う。

 殺人ゲームをさせられるために拉致されたからだ。

 紘美は心の中でつぶやくが、今はその事実を告げる気にはなれず、黙っていることにした。

 ともかく、気持ちを落ち着かせようと深呼吸をする。

 そのとき、後ろから声がした。

「……いてぇな……」

 見るとわたりせいが首を鳴らしながら体を起こしていた。校則違反の常習犯。オレンジ色の髪と耳につけた複数のピアスが目につく。

 さらに後ろの壁際には小柄で少し太めの少年がおどおどと辺りを見回していた。

「あれ……え? なんで?」

 がさわらみつひろだ。

 いつも不良の代表格のような馬渡と一緒にいる。偶然だろうが、こんな状況でもそれは変わらないらしい。

「ねぇ、紘美!」

 再び舞が叫んだ。状況を説明して欲しいようだ。

 話したい。だが、紘美の息は整わず、なかなか言葉が出ない。

 とにかく、落ち着かなければ。

 紘美は深呼吸をして気持ちを落ち着けようとした。

 そのとき、部屋の中央から少し奥、スチールラックの上に乗ったれいなブラウン管テレビからブンと言う低い音がする。

 テレビの電源が勝手に入ったのだ。

 ゲームの説明が始まってしまう。

 いちから説明するのは手間な上に、間違ったことをいうかもしれない。

 ともかくルールを把握してもらわなければ。

 それにルールを把握してない者が味方に来たら、そのせいで自分が死ぬ可能性がある。

 そんなことは、許さない。

 紘美はできる限りの大声で叫んだ。

「いいからっ。いいからテレビ見て!」

 一瞬、全員の声が途切れる。

 ちょうどそのタイミングで青い画面に白い文字が映し出された。

 ウェーブのかかった髪の少女が一歩前に出る。

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