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虚ろなる十月の夜に

ロジャー・ゼラズニィ

虚ろなる十月の夜に (3)

 庭の壁の上に、身じろぎひとつしない小さな姿があった。

「グレイモーク」と、私は言った。「眠ってるのかい?」

「ぐっすりとじゃないわ」という答えが返された。「うたた寝キャットナッパリーって便利よね。何かご用かしら、スナッフ?」

「ちょっとした思いつきがあるんだ。きみや、きみの女主人マスターに直接関係あることではないがね。俺は今から、ラストフの棲家に行くつもりなんだよ」

 突然、彼女の姿が壁から消えた。次の瞬間、彼女は私の近くにいた。

 私は彼女の眼に、黄色い光が輝くのを垣間見た。

「ヒミツの任務ってことでないなら、私も一緒に行くわ」

「構わんよ」

 歩き始めてしばらくしてから、私は尋ねた。

「静かなものだな」

「このあたりは、そうね」と、彼女は答えた。「だけど、早朝の町で殺人があったと聞いたわ。あなたのお仕事かしら?」

「いや。俺たちも町にいたけど、それは別の仕事のためでね。誰から聞いたんだ?」

「ナイトウィンドよ。私たち、少し話したの。彼は川向こうにいてね。とんでもなく凶暴な犬に、男がバラバラにされたんですって。あなたのことを思い出したんだけど」

「俺じゃない、俺じゃないよ」と、私は言った。

「他の人たちが《素材》を探していけば当然、こういうことはいくらでも起きるんでしょうね。人々は慎重になる。《大いなる儀ビッグ・イベント》までの間、通りの巡回も増強される」

「俺もそう思うよ。かんだがね」

 我々は、ラストフの棲家に着いた。小さなあかりが点っていた。

「遅くまで活動してるみたい」

「あるいは、朝早くから」

「そうね」

 心の中で、私は自分の家に戻る道を辿たどった。それから私はかいして、モリスとマッカブが住んでいた古い農家へと、野原を渡っていった。グレイモークが私に続いた。

 月のかけらが昇り始めた。雲は空をすばやく滑り、横腹で月光をくすぐった。グレイモークの両眼が輝いた。私たちがその家に到着した時、私は長く伸びた草の中に立っていた。家の中には、灯りがついていた。

「ほら、仕事よ」と、彼女は言った。

「誰だ?」納屋の上から、ナイトウィンドの声がした。

「答えましょうか?」

「いいぜ」と、私は言った。

 彼女は名乗った。私も自分の名を唸り声で告げた。ナイトウィンドは止まり木から飛び立って私たちの頭上を旋回した後、やがて近くに降り立った。

「お前たちが、知り合い同士だったとはな」と、彼が述べた。

「私たち、面識があるのよ」

「ここに何しにきた?」

「町であった殺しについて、あんたに聞きに来たんだ」

 と、私は言った。「見たんだろ?」

「殺しが起きて、発覚した後にな」

「つまり、俺たちの誰かプレイヤーを見たわけでもないってことか?」

「うむ。そもそもあれは、我々の誰かがやったことなのだろうか」

「いったい何人いるんだ、ナイトウィンド? 教えてくれないか?」

「その知識を分け与えるべきかどうかわからない。禁則事項に該当する可能性がある」

「なら、取引しようじゃないか。俺たちが知っている参加者を列挙する。あんたが知らない奴がいたら、代わりに俺たちの知らない参加者を教えるってのはどうだ」

 彼は、考えを巡らせようと頭を背後に回転させ、それから言った。

「公正だと思う。時間の節約にもなる。いいだろう。お前たちは私のマスターを知っている。私はきみたち双方のマスターを知っている。これで四人だ」

「クイックライムが仕えるラストフがいるわ」グレイモークが提示した。「五人ね」

「私も知っている」と、彼は応じた。

「俺の家から上がったところの通りに住む老人は、ドルイド教派の人間らしい」と、私は言った。「俺は、彼が昔ながらのやり方でヤドリギを収穫しているのを見た。加えて、彼にはチーターと呼ばれるリスの友人がいる」

「ほほう?」と、ナイトウィンドが言った。「それは知らなかった」

「男の名前はオーウェンよ」と、グレイモーク。「私も彼らを見たわ。これで六人ね」

「ここ三夜の間、背を丸めた小柄な男が墓地に侵入していた。私は巡回の折りに彼を見た。二夜前に、私は満月の灯りで彼の後を追った。彼は拾い集めたものを、ここから南にある大きな農家に運んでいった。そこには数多くの避雷針があって、永遠に続く嵐が猛威をふるっていた。そして、彼は博士グッド・ドクターと呼ばれている背の高い、生真面目そうな男にそれを渡していた。七人目か、それとも八人目なのかもな」

「その場所を教えてくれないか?」と、私は尋ねた。

「ついてくるがいい」

 長く骨の折れる旅路をて、我々は農家に辿りついた。

 地下に灯りがついていたが、窓がカーテンで閉ざされていて、博士が何をしているのかはわからなかった。だが、空気中には死臭が漂っていた。

「感謝するよ、ナイトウィンド」と、私は言った。「他に誰か知ってるかい?」

「いや。お前の方は?」

「いいや」

「なら、我々はこれで同等というわけだ」

 夜のうちに戻ろうと、彼は急いで飛び去った。

 窓の近くに屈みこんで嗅ぎまわり、モリスとマッカブの棲家、そしてきちがいクレイジージル、私自身、オーウェンの棲家からここまでの道、オーウェンの棲家から他の場所への道をトレースした……ただちに全ての道筋を心に留めていくのは困難だった。

 窓の背後で明るいせんこうとパチパチいう音がひらめき、私は跳びはねた。次の瞬間、オゾンの匂いと騒々しい笑い声が届いた。

「そうね、ここは見張る価値があるわ」

 近くの木の高い位置にある間に合わせの止まり木で、グレイモークが意見を述べた。

「そろそろ行きましょうか」

「そうだな」

 私たちは引き返した。私は彼女の前では礼儀正しく口をつぐみ、ジルの家で彼女と別れた。彼女は壁の上で、うたた寝を再開した。


 家に帰った時、私は別の足跡を見つけた。


10月6日

 興奮。今朝、鏡がひび割れる音を聞いた。

 私は鏡の前に走り寄って激しい怒声を浴びせ、這いずりまわる奴らを外に出さなかった。騒ぎを聞いたジャックが、ごくありきたりな杖を持ってきて、あたかもこうていの如く、そいつらを全部、別の鏡に移した。

 今度の鏡ははるかに小さいものだった。連中もこれで少しは懲りるかもしれないが、たぶんそうはならないだろう。どうやって鏡にひびを入れたのかはわからない。いくつかの小さなひびに、力を加え続けたのではないだろうか。

 連中が私を恐れるのは良いことだ。

 ジャックは自室に戻り、私は外出した。

 太陽が灰と白の雲を照らし、秋の鮮やかな匂いだけが微風に乗っていた。

 夜の間、私は頭の中で道筋を思い描いていた。ナイトウィンドやニードル、チーターにとってさえも、私がしようとしたことは実に簡単だろう。大地に足を着けた生き物にとって、私が試みたような方法で地形を視覚化することは困難なのである。それでも私はどうにかこうにか、それぞれの家からそれぞれの家に線を引いた。

 そうやって最後に出来上がったのは、外側の境界線と交錯する放射線を含む、精巧な模様だった。そして、ひとたびこうした形を得られたなら、私にはほかの者にできないことが可能となる。不完全なのは、仕方なかった。なぜなら、私は伯爵ないしは私がまだ気づいていない可能性のある、他のプレイヤーの所在を知らないからだ。

 とはいえ、このあたりを動き回る上では十分だし、近似を求める上でも事足りていた。

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