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虚ろなる十月の夜に

ロジャー・ゼラズニィ

虚ろなる十月の夜に (2)

「あんたの家の近くの丘を越えていた時、クイックライムを見たよ。狂える修道僧マッド・モンクラストフの腹の中にんでるくろへびさ。奴はあんたの家の門柱に体をこすりつけて、うろこを落としていた」

「あらやだ! だけど、どうしてそのことを私に?」

「借りは返さないとな」

「私たち同胞の間で、貸し借りがあるべきじゃないんだけどね」

「俺たち同士のことさ」

「あなたはおかしな猟犬だわ、スナッフ」

「きみはおかしな猫だ、グレイモーク」

えて言うけど、かくあれかしってとこね」

 そして、彼女は影の中に消えた。かくあれかし。


10月3日

 昨晩、私たちは再び散歩に出て、御主人マスターは狩りをしていた。

 彼はがいとうを着て、私に言った。

「スナッフ、とってこい!」

 その言い方で、彼が必要としている刃物のことだとわかった。私は彼にそれを渡して、それから我々は出発した。

 幸運とも不運とも言える一日だった。《素材》を手に入れることはできたものの、結構なトラブルと時間の浪費があったのだ。

 我々は、作業の最中に発見された。私は警告し、我々は逃亡する羽目に陥った。

 長い追跡の末、私は一人をまいて、もう一人の足にみついて服を引っ張ってやった。

 我々は、《素材》を持ったまま脱出を果たした。後になって、ジャックは私を洗いながら、私が優秀な番犬だと話してくれた。私はとても誇らしかった。

 その後、彼が解放してくれたので、私はラストフの暗いすみをチェックした。ラストフは外出中で、仕事中なのだろうと私は考えた。

 私は、気ちがいクレイジージルの家にほど近い灌木の背後に寝ころんだ。ここなら、彼女がグレイモークと笑ったり話したりする声を聞けるのである。だけど、彼らは出払っていて、裏口の近くにあるほうきはまだ、温みを残していた。

 モリスとマッカブの棲家では、特に慎重に行動した。日が沈んだあとのナイトウィンドはおそろしくごわいし、どこにいてもおかしくないからだ。

 桜の樹の裸の枝から、小さなくすくす笑いが聞こえた。嗅ぎとった空気の匂いには、ナイトウィンドのざらめいた徴候しるしはなかった。その代わり、別のものがあった。

 人間には聞き取れないかもしれない高音の、小さな笑い声が再び聞こえてきた。

「そこにいるのは誰だ」と、私は尋ねた。

 一群の葉っぱが樹から解き放たれ、めくるめくスピードで宙を裂き、私の頭のあたりに飛んできた。

「君とは別の、見張り番だよ」と、小さい声が告げた。

「このあたりも、混み入ってきたもんだな」と私は言った。

「スナッフと呼んでくれ。あんたのことはどう呼べばいい?」

「ニードル」そいつは答えた。

「あなたは、誰に仕えているので?」

「ジャックだ」と、私は答えた。「で、お前さんは?」

「伯爵」と、そいつは言った。

「モリスとマッカブが《素材》を見つけたかどうか知ってるかい?」

「ええ」と、それは答えた。「狂ったの方は、《素材》を見つけたんですかね?」

「間違いなくね」

「なら、彼女は僕たちに並んでいるわけだ。でも、ゲームはまだ序盤だし……」

「伯爵はいつゲームに加わったんだ?」

「二夜前に」と、そいつは言った。

「プレイヤーは何人いるんだ?」

「知らないよ」そいつは答えた。それから高く上昇し、去っていった。

 世界はにわかに、複雑さをいや増していた。私には、誰が《開く者オープナー》で、誰が《閉じる者クローザー》なのか判別がつかなかった。

 帰途の道すがら、私は見られているのを感じた。誰かはわからないが、腕の立つやつだ。そいつの姿を見つけられなかったので、私はわざと遠回りをした。

 彼が私から離れ、別の誰かをけはじめたので、私は報告するべく帰りを急いだ。


10月4日

 雨の日も風の日も、私は巡回を続けた。


「くたばっちまえ、野良犬」

「お前もな」

「よう、怪物シングども」

 ずるずる、ずりずり。

「外に出してくれないかね?」

「いやだ」

「やがて我がが来るぞ」

「今日ではないさ」

 いつもどおり。すべては、順調に見えた。

「コリー犬はどうだい? 赤毛の子がお好みかな?」

「まだわかっていないようだな。あばよ」

「畜生!」


 私は全ての窓と扉を内側からチェックしてから、暗い自室で眠るか休むかしているマスター・ジャックのところに、自分専用の出入り口を使って戻っていった。

 私は外側からも全ての箇所を確認した。

 先日、グレイモークと話したようなたぐいの意外な発見はなかった。

 とはいえ、見つかったものもあった。私のものよりも大きい、特定の何者かの足跡が、家の横にある木造のシェルターにあったのである。

 付随する香りや、前後の痕跡は雨に洗い流されていた。さらに多くの侵入者の痕跡を探し出そうと、私は遠く離れたところへ足を向けたのだが、他に何も見つからなかった。

 この先に住んでいる老人が裏庭にいて、小さな、輝くかまで木からヤドリギを収穫していた。彼の肩には、リスが座っていた。これは新たな展開だった。

 私は、生垣越しにリスに話しかけることにした。

「ゲームの参加者なのか?」

 そいつは男の肩にいっそうすがりついて、あたりを凝視した。

「話しかけたのは誰?」さえずるような声で言った。

「スナッフと呼んでくれ」と、私は応じた。

「チーターと呼んでよ」と、そいつは答えた。「うん、僕たちは参加者だと思う。時間がないんだ。急がなくちゃ、急がなくちゃ」

「《開く者オープナー》? それとも《閉じる者クローザー》?」

「無礼者! それを聞くなんて、何て無礼な! あんたもわかってるだろ!」

「聞くだけ聞いてみただけだ。お前さんは初心者かもしれないからな」

「むやみに情報を漏らすほどの素人じゃない。それくらいにしといてくれよ」

「そうするよ」

「待った。参加者の中に黒い蛇はいるかい?」

「お前さんの方は、俺に情報を漏らせと頼むわけだ。まあ、いいさ。いるぜ。クイックライムってやつだ。気をつけろ、奴のマスターは狂人だ」

「みんなそうだろ?」

 私たちは忍び笑いをした。そして、私は立ち去った。


 その晩、私たちは再び外出した。橋を渡って、長い間、歩き続けた。

 陰気な探偵と、まるまると太った彼の相棒コンパニオンがいた。後者は、この前の夜の冒険でをして、足を引きずっていた。我々は、霧の中で二度、彼らを追い越した。

 ちなみに、ジャックは今夜、つえを携えていた。町の中心に立って、時計が一二時の鐘を鳴らしている間、星明かりの特定の光線を水晶の小瓶に捕まえるためである。

 容器内の液体はすぐに、赤い光で輝き始めた。

 ややあって、どこか遠くで遠吼えが発せられた。それが誰なのか、犬なのかどうかすら、私にはわからなかった。

 それは、私の種族が用いる、長く引っ張られた単一の言葉だった。


何ということだロスト!」


 首周りの毛が逆立った。

「友よ、何を唸っているんだね?」

 ジャックの質問に、私は頭を横に振った。確信が持てなかったのだ。


10月5日

 私は暗がりで朝食をとり、家を巡回した。全てが上々だった。御主人マスターが眠っていたので、私は自力で外に出て、周囲をうろついた。

 陽が昇るまでには、今しばらく時間がある。

 私は丘の向こう、気ちがいクレイジージルの家に歩いて行った。


 家は暗く、静まり返っていた。私はラストフの今にも崩れそうな棲家に向かおうと、引き返した。その時、私はある匂いを捉え、その源を捜した。

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