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あなたのシンデレラ 若社長の強引なエスコート

水城のあ

chap.1 めぐり逢い (2)

 渡された店の住所は同じ区内で、店からの配送区域内だ。

「かしこまりました。当日お届け前に確認をされますか? ご希望でしたら、お届け前にメールでお写真をお送りすることも出来ますが」

「へえ。そんなサービスがあるんだ」

「はい。最近はネットでなんでも注文できるようになった分、配送後のトラブルも多いそうなんです。ですからご希望のお客様には無料で写真をお送りしているんです」

 実際よく聞くのは、ネットで注文して、届いたら〝写真と違う〟というパターンだ。フルラージュでは店頭注文で配送を希望のお客様にも、実物の写真を送るサービスを行っている。

「じゃあ、お願いしよう。メールはここに。送り主の欄には社名と僕の名前を入れてくれるかな」

 そう言って名刺を一枚差し出した。

「はい。お預かりします。お支払いはどうなさいますか?」

「カードでかまわない?」

「はい。伝票を作りますので少々お待ちください」

 咲希は先ほどの会話の内容を考慮して料金を計算すると、伝票に金額を記入して男性に差し出した。

「君、これじゃ安すぎる。予算は気にしなくてもいいと言っただろう」

 男性は少しがっかりしたような顔をして咲希に伝票を返そうとする。

「あ、あの……」

 一瞬言いよどんで、思い切って言葉を続けた。

「お客様、もしかしてご自分でお花を注文されるのは初めてではないでしょうか?」

 咲希の言葉に、男性がいぶかるように首を傾げる。

「予算を多く取っていただけるのはありがたいんですが、花にも相場の値段があります。予算内で十分豪華できちんとしたものをお作りできますし、それよりも多くいただくことは出来ません」

 きっぱりとした言葉に、男性は咲希に驚いたような視線を向けた。

「……黙ってこちらの提示した金額を受け取った方が、店にとっても利益になるじゃないか」

「え?」

 そんなことを考えたこともなかった咲希は、なぜ彼がそんなことを言うのかわからずただその顔を見つめ返した。

「そう思わなかった?」

「……ああ。そういう考え方もあるんですね」

 再び問いかけられて、やっと意味を理解した咲希は小刻みに何度かうなずいた。

「でも、それってお客様に不利益になりますよね。出来れば贈られる方だけじゃなく、贈る方にも満足していただきたいんです。当日仕上がりをごらん頂いて、もしご満足いただけないようでしたら私が責任を持って対応させていただきますので」

「……」

 咲希の言葉を聞いた男性は、なぜか少したじろいだように眉間にしわを寄せる。まるで知らない国の言葉を聞いて理解できないという、苛立ったような視線だ。

 もしかしてお客様の言葉に反論などしたから、怒ってしまったのだろうか。咲希が不安になり、謝罪の言葉を口にしようとしたときだった。

「けっこうだ」

「……え?」

「それでかまわないと言ったんだ。この伝票の金額でカードを切ってくれてかまわない」

「あ、ありがとうございます」

 クレジットカードを受け取り、急いで会計処理をする。

「お待たせいたしました」

 咲希から領収書とカードを受け取ると、それを内ポケットにしまいながら、男性がちらりと咲希に視線を向けた。

「ありがとう。助かったよ」

 男性がフッと笑った瞬間、突然心臓がドキリと大きな音を立てて、勝手に駆け足でも始めたようにスピードをあげた。

 店に入ってきたときは少し不機嫌で近寄りがたいとすら感じたのに、今店を出て行こうとしている男性は、唇に笑みを浮かべて咲希から濡れた傘を受けとり、店に入ってきたときとは全く雰囲気が違っていた。

「ありがとうございました!」

 そう見送った時には、素敵な人だったという印象だけが咲希の中に残った。

 すぐに休憩から戻ってきた千春は、男性の名刺を見て驚いたように声を大きくした。

「東條メディカルサポート代表ってことは、社長ってことでしょ!?

「あ、ホントですね」

 確かに、名刺には代表、東條たくと印刷されている。

 千春にそう言われるまで、咲希は不覚にも彼の名前と送り先の住所のことしか気にしていなかったのだ。

「もう、咲希ちゃん! もうちょっと商売っ気を出してよ。大きな会社なら、これからもうちをごひいにしてもらおうとかさ」

「……すみません」

「どれどれ~」

 千春が名刺を手にパソコンで検索をかけると、すぐに東條の会社のホームページがヒットする。

「へえ、医療コンサルティングねぇ……」

「それって、なにをする会社なんですか?」

 聞いたことのない業種に、咲希は首を傾げながらパソコンのディスプレイをのぞき込んだ。

「簡単に言うと、お医者様を探している病院に優秀な人を斡旋したり、病院の経営管理のお手伝いをしたりって感じかしら。結構手広くやってる会社みたいね」

 千春の説明はわかりやすかったけれど、コンサルタントなんてあまり身近にいる存在ではなかったから、いまいちピンとこない。

「いくつぐらいの方?」

「三十代前半ぐらい……かな?」

 そう答えながら、東條の顔を思い浮かべる。

 確かに、普通のサラリーマンとは違う雰囲気の男性だった。仕草が洗練されているというか、上品と言えばいいのだろうか。

「すごいじゃない! その歳でこの規模の会社の社長なんて。とりあえずリピーターになってくれるとうれしいんだけどなぁ」

 その言葉に、咲希も頷いた。

 立地にもよるけれど、花屋はやはりリピーターによる売り上げが重要になってくる。特に青山店は霊園に墓石を持つ家族に支えられているが、逆に繁華街では、贈り物のスタンド花の発注が店の売り上げの中心になるというパターンもあるのだ。

 彼のような大きな企業の代表者が仕事の贈り物として頻繁に利用してくれれば、それだけで売り上げも変わってくるだろう。

「どう? 次も頼んでくれそうな雰囲気だった?」

「うーん……どうでしょう」

「そういうときは接客の時にさり気なくお客様の様子を聞き出して、こちらから営業しなくちゃダメよ」

「……すみません」

 お客様の気持ちや要望をくみ取って花を勧めるということならいくらでもできるのに、営業的な接客となると咲希はからっきし素人のようなものだった。

 頭では店の売り上げのために、頑張らなくてはいけないとわかっているのだが、どうやってお客様を誘導すればいいのかわからない。

 素直に頭を下げる咲希に、千春は励ますように言った。

「まあ、咲希ちゃんはその商売っ気のなさがお客様に好感を持たれるんだろうけど」

 いちげんのお客様のようだったし、もう来店しないのではないだろうか。内心そう思ったけれど、千春は期待しているようだし、口にしないでおくことにした。

 しかし咲希の予想は外れ、それから十日ほどして、東條は再びフルラージュに姿を見せ、月に二、三度のペースで通ってくるようになった。そして咲希がたまたま最初に接客をしただけなのに、いつの間にか担当者のようになってしまったのだ。

「だってあの人、咲希ちゃんがいるときしかこないのよ。絶対咲希ちゃん目当てだって」

「ま、まさか……」

 そう言いつつも、東條が来店するのを楽しみにしている自分もいた。

 彼と話をしていると、なんだか十代の頃に戻ったような、胸が膨らむようなはしゃいだ気分になる。

 憧れの先輩を見てわくわくする、そんな気持ちだ。

 不謹慎かもしれないが、少しときめくぐらいは許されるだろう。


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