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人狼ゲーム BEAST SIDE

川上亮

stage:2-1 (1)



 順を追って説明しよう。でも一回目については書かない。いつか書くとは思うけど、とりあえずは後回し。この感覚をわかってもらうには、二回目だけで十分。

 数日前のことだ。

 あたしは座り心地の悪い、硬い椅子の上で目覚めた。

 椅子はひとつだけじゃなかった。ぜんぶで十三脚。それらはすべて内向きに、円を描くように並べられていた。どの椅子にも夏用の制服姿の少年、もしくは少女が座っていた。

 ほかの連中も意識を取りもどしはじめた。たいていが眠たげに目を開き、目をこすり、周囲を見まわし、驚いたようにまばたきしている。唐突に立ちあがる者もひとり。

 そこでまた、あたしは驚いてしまった。

 全員、同じ高校のクラスメイトだった。二年四組のえない連中。中にはまんれいじゅんの姿もあった。

 彼らも、あたしと同じく二回目だ。

 命がけの「人狼ゲーム」をプレイするのは二回目。

 一回目はあたしと萬田麗子と伊勢淳だけが顔見知りで、ほかは知らない連中ばかりだった。あたしたち三人はみごとなチームワークを発揮し、なんとか生き残った。まさに奇跡としか言いようがない。

「なに……?」

「ここ、どこだよ」

「なんで制服着てるわけ……?」

 クラスメイトたちが口々に驚きととまどいの声を漏らしている。ある者は座ったままで、ある者は立ちあがって部屋をぐるりと見まわしている。

 天井は高い。二階までの吹き抜けになっている。一方の壁には濃い赤色のカーテンが天井から床まで垂れさがっている。いまは、外の景色は見えないけど、この建物のまわりには緑あふれる景色が広がっているはずだ。

 季節は夏だし、窓は閉まっているけど、それほど暑さは感じない。森の中は都会ほど気温が上がらないのかもしれない。建物自体が避暑地のような場所に位置している、ということも考えられた。

 この場を照らすのは黄色い白熱電球の明かりのみ。壁の掛け時計を見上げてみると、いまは午後六時だった。あたしが一回目に目覚めたときと同じ。

 この場の状況も、一回目のときと同じだ。

 時計は学校にあるような、白い文字盤に黒い針と数字、という無骨なデザインだ。カーテンのそばには長机と余った椅子が大量に寄せられている。この部屋の奥には幅の広いカウンターがあり、その先は厨房になっている。本来、この部屋は食堂として使われているのだ。

 何人かが自分の椅子を離れ、室内の探索を始めた。別の何人かは隣の、まだ気絶状態にあるクラスメイトを揺り起こしている。

「携帯ねえし」

「財布も……」

「え、マジでどういうこと? おまえ覚えてる?」

「これなんだ?」

 何人かが首の輪に気づき、騒ぎはじめた。

「みんなついてる……」

「ちょっと、取れないんだけど」

 あたしもそう言い、白々しくも金属製の輪に触れてみた。

 幅二センチ、厚み一センチほどの首輪。いくつか継ぎ目や凹凸はあるけど、決して外すことはできない。

 全員が目を覚ましたのをきっかけに、天井付近に取りつけられたスピーカーが咳のような雑音を発し、例によって馬鹿げた「ルール説明」を流しはじめた。

『皆さんにはこれから人狼ゲームをプレイしていただきます』

 冷たい、感情に乏しい女性の声。

 一回目に聞いたのとまったく同じのような気もするし、微妙に違っているような気もする。正確には覚えていない。もし違っているのだとしたら、毎回、少しずつアップデートされているということだろう。

「人狼ゲーム?」

「知ってる。聞いたことある……」

「なんでそんな?」

 場にざわめきが広がる。

 でも「声」はかまわずに続ける。

『ルールを説明いたします。この中には三人の人狼役がまぎれこんでいます。それ以外は村人役。両者をまとめて住人と呼びます』

 残酷で救いがなくて、だからこそ愛おしいルール。

 前回、あたしと小うるさい萬田麗子と気取り屋の伊勢淳は三人とも村人側だった。

『住人は毎日二十時に、いまと同じ席で、自分が人狼だと思う相手に投票してください。人狼は自分の正体を隠した上で投票に加わってください。最も多くの票を集めた住人は死亡します。最多得票の住人が複数いた場合は、それ以外の住人だけで決選投票を行ってください。決選投票でも票が割れた場合、その夜はだれも死亡しません』

「なに言ってんだよ……」

「死亡ってどういうこと?」

「学校の行事……じゃ、ないよね……?」

 場の空気が少しずつ変化していく。とまどいが薄れ、恐怖が濃さを増していく。

『深夜零時から翌朝六時までは自分の部屋にいてください。ただし人狼は零時から二時までの間に部屋を出て、村人の中からひとりを選んで殺害してください。人狼を全滅させた場合、村人側の勝利。村人の人数が人狼の人数以下になった場合、人狼側の勝利。勝利した側には合計一億円が支払われます』

 ここがこのゲームの、意地の悪いところだ。

 村人側が勝利しても、すぐに一億円を受けとれるわけじゃない。この殺しあいから解放されるわけでもない。村人側はすぐにまた次のゲームを強制される。いまのあたしたちのように。あたしと萬田麗子、伊勢淳はこの事実を一回目のゲームに勝利したあとで知らされた。

『それぞれ自分の椅子の裏側を見てください。そこに皆さんの正体が書かれたカードが貼られています。他人のカードを見ても、見せてもいけません』

 生徒たちが自分の席に戻った。最初から座っていた連中はさっさと椅子の裏側へ手を伸ばした。

 あたしも手を伸ばし、安っぽいテープで貼りつけられた封筒をひっぺがし、自分の顔の前へ持ってきた。封筒から厚手のカードをそっと取りだしてみる。表面には狼らしきイラストと205という部屋番号、それに964という数字が印刷されている。最後の数字は、たぶんロッカーの鍵の番号だろう。

「これ……」

「凝ってんじゃん」

「馬鹿馬鹿しい」

 クラスメイトたちがカードを見た上での感想を口にしている。

 あたしはまたさりげなく視線をめぐらせた。一瞬、ほんの一瞬だけ、萬田麗子と目が合った。それだけで理解できた。彼女も人狼なのだ。続いて伊勢淳のほうを見てみる。彼はわけがわからない、といった様子で自分のカードをしげしげと見ている。明らかに演技。下手くそな演技。あの気取り屋は必死でこのゲームの初心者のふりをしている。彼が受けとったカードは、まず間違いなく人狼。

 思ったとおりだ。

 あたしたち「二回目」組は、その事実を隠して、人狼側としてこのゲームに参加する。勝てば、そのときこそ解放され、一億円を与えられる。

『村人の中にはひとりだけ、予言者の能力を持った者が含まれています。予言者は毎晩、ほかの住人ひとりの正体を知ることができます』

 スピーカの声がルールの説明を続けている。

『村人の中にはひとりだけ、用心棒の能力を持った者が含まれています。用心棒は毎晩、自分以外の住人ひとりを人狼の襲撃から守ることができます』

 思わず眉をひそめた。

 用心棒。

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