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魔人勇者(自称)サトゥン

にゃお

第一話 自称勇者と少年 (1)

第一章 神槍

 

 どうしようもない、もう(あきら)めるしかない。

 そんな死を覚悟した大人(おとな)たちの言葉を、リアン・ネスティは受け入れることができなかった。

 彼の住むキロンの村は今、絶望の中にある。

 先刻、山の奥深くから突然現れた魔獣の群れが、隣村であるグランの村を(かい)(めつ)させた。

 魔獣とは、魔物の中でも一際強く恐ろしい(けもの)のことで、魔獣をしとめるにはそれこそ王国の騎士たちの力が必要であった。

 魔獣は人をつけ(ねら)う。隣村の者たちを()いつくした今、魔獣がこちらに来るのは時間の問題だった。

 ならば村人全員でこの村から離れて逃げるしかない。そう考えた村人たちは王国の街へ()(なん)しようとしたが、彼らが村から離れることは許されなかった。事態を()(あく)したこの地の領主は、キロンの村に早馬で騎兵を送り、(おび)()(まど)う村人たちに一つの命令を与えた。

『王国防衛のため、魔獣をキロンの村にて食い止めよ。逃げることは許さぬ』

 これは領主からの()(けい)(せん)(こく)ともいえる言葉だった。

 お前たちは時間稼ぎのために死ね。領主は魔獣がキロンの村を(おそ)っている間に、街の守りを固めるつもりだった。

 進めど死、退(しりぞ)くも死。ならばどうすればよいのか、どうすれば希望は見えるのか。悩み考えても、絶望に押し(つぶ)されるだけ。それが村の現状だった。

 そんな(なげ)大人(おとな)たちと同様に、リアンもまた何もできないでいた。何も妙案が浮かばない。

 まだ十五であるリアンだが、死の恐怖は何度も経験していた。魔物と戦い、傷つき血を流したことだってある。しかし今、彼の心を押し(つぶ)そうとしている恐怖は、過去の比ではなかった。

 怖い。怖い。怖い。

 けれど、(あきら)めたくなかった。

 不安や恐怖を必死に押し殺し、リアンとまだ幼い妹へ安心するよう優しく語りかける父や母を見て、その想いは一層強固なものとなった。

 何もしないまま死にたくない。何もしないままみんなを死なせたくない。

 だから、彼は意を決した。

 戦おう。たとえ一人であっても、戦ってみせよう。

 魔獣を一匹でも減らせば、状況が変わるかもしれない。希望が生まれるかもしれない。

 たとえ自身の死が逃れられぬ運命だとしても、その小さな切っ掛けがあれば他のみんなは助かるかもしれない。

 リアンは決意を胸に秘め、剣を片手に村を飛び出した。

 向かう先は隣村。恐怖を必死に(おさ)え、リアンは()け出す。

「父さんを、母さんを、ミーナを、絶対に死なせたりするもんか! 僕が村を守るんだ! 絶対にみんなを、死なせたりはしない!」

 ()えた。それで恐怖が(まぎ)れるわけではない。それで何が変わるわけでもない。

 けれど、声に出すことで彼は自分の逃げ道を(ふさ)いだ。

 これでいい。

 これできっと、最後まで頑張れる。最後まで戦える。

 その覚悟ができたから、それでいい。

 最後の決心を終え、(けもの)の群れが待つ隣村へと()け続けたその時であった。

 隣村へ向かおうとする足を、リアンは意識せず止めてしまう。なぜならそこには――変態がいたからだった。

 

「ふははは! なんと()んだ美しき空気! なんと(まぶ)しき大空の(かがや)き! これが数千年も恋焦がれた人間界か! (たぎ)る、(たぎ)るわ! 我が全身が喜びに満ち(あふ)()(おう)しておるわ!」

 気づけば道のど真ん中に、高笑いをする男がいた。その光景にリアンは言葉も出ない。

 なぜ、彼は全裸なのだろうか。まずそこが第一の()(もん)。第二に、なぜそそり立っているのか。何がとは言えないが。

 とにかく、絶句せざるをえないほどの変態が道のど真ん中で高笑いしていた。

 (ぼう)(ぜん)と目の前の男を見つめながら、いったい何が彼に起きたのだろうとリアンは頭を悩ませる。そこまで考え、ふとリアンは一つの答えを導く。もしかして、隣村の生き残りなのだろうか。

 隣村の生き残りの話では、他の者はみな殺されたとのことだが、もしかしたら、他にも生き延びた人がいたのかもしれない。そうであるならば、彼が全裸であることにも少しばかり説明がつく。

 水浴びでもしている最中、命からがら逃げてきたのだろうか。きっとそうだ、そうに違いないと自分に言い聞かせ、リアンは恐る恐る目の前の変態へと(たず)ねかける。

「あ、あの……だ、大丈夫ですか?」

「ぬ? お、おおおおおおおおおおお!」

 (いや)(いや)。そう、かなり(いや)(いや)全裸の男に声をかけたリアン。高笑いを続けていた男はようやくリアンの姿に気づき、さらなる興奮の声を上げ、体をくねらせた。

 自分の身長から頭二つほど高く、加えて全身を(きた)()かれた無駄のない筋肉で固めた美形の青年が、気色悪い声をあげくねくねしている。正直、子供なら絶対に泣くであろう光景だ。リアンも驚きを通り越し、泣きたいくらいであった。

 そんな全裸の青年はリアンの両肩を(わし)(づか)みにし、熱を()びた口調で(たず)ねかける。

「お、お前は『人間』か!?

「……は?」

「お前は『人間』なのだな!?

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