ドラゴン・イェーガー ~狩竜人賛歌~
序章 終わりの始まり






竜たちは巨体を揺らし、炎の中を悠然と歩く。夜の闇に溶けこむ黒ずんだ鱗が、炎に照らされ赤く染まる。
そのすぐ近くに、やせこけた黒髪の少年がたたずんでいた。
少年の瞳からは、感情の色が失われている。その虚ろな目で、故郷を焼き尽くし、大切な人たちを喰らい尽くしたそれらを、ただ呆然と見つめていた。
巨体の1つが少年に気づく。しかし腹が満ちていたのか、それともただの気まぐれか、竜は目の前の小さな餌には反応しなかった。
しかし巨体はいくつもいくつも歩いている。次の巨体が通りすぎた瞬間、凶悪な牙と爪が、炎の中で鈍く光った。
目の前の光景に絶望し、生への渇望など残っていないはずだった。
しかし少年の本能は、まだ死ぬことを許さなかった。感情を失った瞳で、巨体の動きを見据える。
大地を揺らすほどの一撃。それは人など簡単に踏み潰すものだったが、意思とは無関係に身をよじる。小さな餌に逃げられて怒ったのか、巨大な竜は少年を執拗に追いまわした。跳ねるようにかわしていく中、少年は不思議に思った。自分は生きる気などないのに、と。
しかし所詮は10歳にも満たない子ども。逃走も長くは続かず、追いつめられた少年の命は今まさに終わりを迎えようとしていた。
だがそのとき、誰もいないはずの通りに1つの影が現れ、ボウガンの射出音が鳴り響く。矢にたっぷりと塗られた麻痺毒で、竜の動きが鈍る。その隙に、男は少年の手をつかみ走りだした。
「こんなところでなにをしている。死ぬ気なのか」
助けだされても、少年の瞳はいまだ光を失ったままだ。男の問いにも反応を示さない。
「家族を失ったのか……まあいい。ここにいても炎竜の餌になるだけだ。このまま死ぬくらいなら、ともに来い」
うなずきもせず、答えようともせず、ただ少年はじっと生まれ育った村を見つめていた。
炎に包まれ、生きている者もいない。その惨状から目を離せずにいた。
男に手を引かれ、少年は抗うことなく歩き出した。
生まれ育った炎竜の村から、遠ざかるように。