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溺愛攻防戦! 強引で一途なエリート社長に結婚を迫られています!?

緒莉

プロローグ




プロローグ




 カルガモの親になった気分で、商店街を歩く。

「みんな、ちゃんと手を繫いでねー」

 はーい、と元気な声が返ってきて、牧田笑美は自然と笑顔になった。

 子供たちは二人一組になって手を繫ぎ、一生懸命笑美の後をついてきている。歩きたくないと文句を言う子はいない。商店街を抜けたところにある大きな公園には、子供たちの大好きな大型遊具や砂場があるのだ。

 十月の空は高く、秋の風が心地よかった。すれ違う人は誰もが笑顔で、そして少しだけハラハラした様子で、子供たちを見守ってくれている。狭い道だけれど、車がほとんど入ってこないため、それほど危なくはない。

「よう、毎日ご苦労さん!」

 熱烈に応援しているチームの野球帽を被った果物屋のご主人が、顔をくしゃくしゃにして右手を上げた。

「おはようございます、昨日はごちそうさまでした」

 笑美はお礼を言って頭を下げた。売り物にするには少し皮が汚いデコポンを、保育園にたくさん持ってきてくれたのだ。果物は高い。子供たちにいろんなものを食べさせてあげたくとも、給食に出すのは安いバナナやりんごがどうしても多くなってしまうから、もらいものはとても助かる。

「私もいただきました。すーっごく甘かったです!」

「だろう? あのデコポン、うちの母ちゃんみたいだよな」

「どういうことですか?」

「見た目はちょっとアレだが、俺に甘くて、案外いい女だってことさ」

「見た目はちょっとアレって何さ、はげおやじ」

 果物屋のおかみさんが、ご主人の帽子をサッと取り、つるつるの後頭部をペシーンッと叩いた。髪の毛がないからだろうか、あんまりいい音で、笑美は思わず吹き出してしまった。

 二人にもう一度頭を下げて、また歩き出す。少し肌寒いけれど、今日もいい天気だ。

 保育士になったときから笑美が六年間ずっと勤め続けている認証保育所「にこにこ園」は、駅直結の建物内にあるため、園庭がない。だから天気がいいときは毎日、子供たちの足で歩いて二十分ほどのところにある公園に行く。代わり映えしないいつもの公園だが、子供たちは遊びの天才だ。砂場はお城になり、おうちになり、保育園になり病院にもなる。

 園児たちは皆、公園が楽しみでウキウキした顔をしている。道の両脇にいる商店街の人々も、ヒヨコみたいな子供たちを見て目尻を下げている。

 口をへの字にしているのは、この場で一人だけだった。保育士になって二年目の高嶋知世だ。

「重い……結婚したい……めっちゃ重い……早く仕事辞めたい……」

 まだきちんと歩けない子たちを手押し車に乗せて押しながら、この世の終わりみたいな顔をしている。

「知世先生、本音だだ漏れだよ! 元栓閉めて!」

 ベテラン保育士の立原洋子がケラケラ笑いながら知世の背中を叩いた。育休から復帰したばかりの洋子は、まだ手押し車にも乗れない子を一人おんぶ、一人抱っこして歩いている。私生活では七歳を頭に三人の子供がいて、一番下は今、知世の押している車の中ではしゃいでいる。一番上と真ん中も、にこにこ園の卒園児だ。

「結婚したって、子供にお金かかること考えるとそうそう仕事辞められないし、旦那と子供の世話は増えるしで、独身のときより大変になるだけだって。今みたいに朝から化粧に一時間かけるような余裕はなくなるよ」

 どこに出会いが転がっているかわからないからと、知世はいつでもメイクばっちりだ。子供たちにベタベタ顔を触られたりするので、毎日ほぼスッピンで済ます洋子や笑美とは全然違う。

「御心配にはおよびません。私は洋子先生と違って玉の輿に乗る予定なので。働かなくても子供にお金かけられるし、掃除や洗濯はお手伝いさんがやってくれます」

「言うねえ、こら」

 洋子に握りこぶしでつむじをグリグリやられ、知世が「いだだだだ」と悲鳴を上げる。いつもの光景だった。

「──ん?」

 ふと視線を感じて、笑美は足を止めた。

 通りから少し入ったところ、電柱の陰から、男の子がむようにこちらを見ている。五歳くらいだろうか。周囲に大人の姿はない。それくらいの子供は幼稚園なり保育園なりに行っている時間帯だから、笑美は少し不思議に思った。

 一瞬ネグレクトを疑ったが、男の子はアイロンをかけなければいけないようなシャツを着ていて、園児たちよりよっぽどピシッとしている。髪型もなんだかお洒落で、下町であるこの辺りの子には見えなかった。

「笑美先生、どうかした?」

 洋子に声をかけられ、我に返る。

「あ、うん、ちょっと」

 もしかしたら迷子かもしれない。笑美は男の子に一歩近づいた。

「ねえ、ボク、お母さんは──って、行っちゃった」

 くるりとこちらに背を向けて、男の子は走っていってしまった。気にはなるが、今は仕事中だ。たくさんの子供たちの命を預かっている以上、よその子供を追いかけていくわけにもいかない。

 気を取り直して公園へ向かって歩き出そうとすると、今度は黒スーツ姿のがっしりした男性にぶつかりそうになった。

「わっ!?

「すみませんっ」

 男性は止まることなく、園児たちの横を通って、笑美たちが来た方向へと走っていく。さらに五、六人の似たような雰囲気の男たちが、バタバタと続けてやってきたから、さすがに驚いた。平日の午前中、下町の商店街で、スーツ姿の集団はひどく目立つ。笑美だけでなく商店街の人たちも不思議そうに男たちを見ているが、彼らが気にする様子はない。皆切羽詰まったような顔で、周囲を見回している。

「まだそう遠くへは行っていないはずなんだが……」

「手分けしよう。俺たちは駅の方に行ってみる」

 男たちは二手に分かれて走り去ってしまった。なんだか、ものものしい雰囲気だった。何かを探しているように見えたが、よくわからない。

「なんだろうね? 刑事ドラマの撮影かな?」

 洋子が首を傾げた。

「かっこいい人いなかったから違いますよ」

 知世は露骨に興味なさそうな顔をして、わりと失礼なことを言った。

「先生、公園行かないのー?」

 子供たちが焦れてきている。

「ごめんごめん、さあ、行こう!」

 笑顔で呼びかけて、笑美たちはまた公園を目指して歩き出した。

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