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溺愛シーク 異国のプリンスと極甘・玉の輿婚

大村瑛理香

プロローグ 待ち人キタル / 第1章 同居 (1)




プロローグ 待ち人キタル




 フライトインフォメーションの表示が変わり、彼女が乗っているはずの便の表示が『到着-arrival』に変わる。

「着いたわ……いよいよ会えるのね」

 この瞬間が一番楽しみかもしれない。

 どんな女の子だろう? 何が趣味? 私との生活を楽しんでくれる? 日本食が好きだと嬉しいな。溢れ出るワクワクとした期待感を抑えきれず、私は勢いよくベンチから立ち上がった。

 到着口からはポツポツと人が現れ始めている。

 アメリカからの飛行機だけあり、国籍も人種もみな見事にバラバラだ。

 その中で若い学生風の女の子を一生懸命探していると……ふと一人の青年が目に留まった。

 いや、正確に言うなら目を奪われた、だ。

 ありとあらゆる人種がすれ違う国際空港、黒髪の男性なんて他にもたくさんいる。だけど彼は何かが違った。

 彼が歩くだけで、すれ違う人々が振り返る。

 女性達にいたっては、指先で口元を押さえ、ため息をえる様子まで──。

 彼の歩き方や姿勢がモデルのように美しいから? いえ、それだけじゃない。明らかに周りとは違うオーラをっているような、一種近寄り難い気高さを彼に感じる。そこには道行く人々が確実に目を惹かれる何かがあった。

 シャープで整った輪郭。中東系の出自を感じさせるやかな黒髪は、少し長めで無造作に横で束ねてある。Tシャツに軽くジャケットを羽織り、ジーンズにスニーカーという学生によくあるラフな服装。なのに──ああ、なんて綺麗な人なのだろうと、うっとりと見惚れてしまう。

(不思議……あんな人がこの世の中にはいるのね)

 立ちすくんだまま、彼を見つめていると、ここから遠くない距離の彼も、こちらをジッと見つめている事に気が付いた。

(あれ……? 私、目が合ってる?)

 宝石のように輝く、澄んだ美しい瞳……紺碧だと瞳の色を認識した時には、どう努力を試みても彼の瞳から目が逸らせない自分がいた。

 彼は立ち止まって私を見ている。

(ダメよ、見ず知らずの人をこんなに見つめたら、変に思われる──)

 そう思っているのにどうやっても視線を外す事ができない。まるで彼の瞳に捕まったかのように。

 魅入られたまま動けずにいると、瞬間、彼は微笑んだように見えた。

 私に向かって? ううん、そんなはずはない……そう思う間にも、彼はゆっくりと優雅な足取りで私の方へやってくる。

 なんだか周囲の女性の視線が痛い。

 近付いてくると尚更、彫りの深い端整な顔立ちがはっきりと分かる。形の良い艶やかな赤みを帯びた唇に、微笑みを浮かべているのはどうやら見間違いではなかったようだ。その笑顔が生み出す優しい雰囲気により、遠目で見た時に感じた近寄り難い高貴さに、親しみが追加された。

 やがて目の前に立ったその青年は、素晴らしく美しい形の唇を動かした。

「Arisa?」

 想像より少し低めの、スパイシーさと甘みが絶妙にけた耳に心地良い声──。

「え……?」

 目の前の美しい青年の唇から突然発せられた蕩けるような音が、自分の名前だと気が付くまでに1分は掛かったかもしれない。

(もしかして、私を呼んでいる?)

 疑いながら恐る恐る私は返事をした。

「は……い」

 上擦ってなんて間の抜けた声、こんな返事をした自分が猛烈に恥ずかしい。羞恥心に硬直した私の様子も気にせず、彼はその返事に顔をほころばせると、突然右手で私の手をフワリと取った。

「えっ……あ、あのっ」

 周囲の女性達の刺さるような視線の中で戸惑う私。

「初めまして」

 私の瞳を見ながら、彼が挨拶をする。

「初め、まして……」

 おうむ返しに返事をする。そう、彼とは初めてのはず──。

 そう思った瞬間に、私の頭の中でスイッチのようなものが、かにカチリと入った。

「あなたは……」

 いや、でもそんなはずはない。だって私が待っているのは──。

「会いたかったです、ミズ・入野亜利沙。あなたのお宅に滞在許可をいただいたアシム・カリア・シィノークです」

 彼は私の手に唇を寄せると軽く甲にキスをした。

「まさか……」

 この目の前の麗しい男性が、自分の待ち人だったとは。

 思いもよらないこの出逢いに、私は茫然自失したまま立ちすくんでいた。




第1章 同居




「へぇ~、面白そうだな……応募してみようかな」

 週末、自宅でのんびりとネットサーフィンをして過ごしていた私は、海外交流サイトでこんな募集がある事を知った。

「わぁ……イォール大学!? こんな有名な大学がステイ先を募集しているなんて」

 交流サイトに記載されていたホームページを開くと、それは日本でもよく知られたアメリカの大学が、世界各国にホストファミリーを募るものだった。

 もちろんホストファミリーとしての実績や審査は必要だけど、もし審査に通ったらアメリカの優秀な大学生が私の家に滞在してくれるなんて、ちょっとワクワクする。

「どうしよう……チャレンジしてみようかしら」

 画面をスクロールしながら応募に必要な要項を読んでみる。大学の募集とあって、都心から近い場所である事や部屋数など、受け入れる側にもなかなか細かい条件があるようだ。

 不安を感じつつ、更に要項に目を通していくが、もしかしたら我が家はなかなかいい線をいっているかもしれない。

「……どうかな? でも、うーん……せっかくの英語を使える機会だから、応募してみようかな」

 育った環境もあって英語は得意だけど、今は話す機会もない。私はエントリーシートにさっそく記入し始めた。

「ホームステイを希望する学生へ、アピールポイントがあれば書いて下さい、か。そうね……ごく普通の日本人の生活を一緒に、かな?」

『ごく普通の』──その言葉は私自身をよく表していると思う。

 豪華さや派手さのない、平凡な生活、平凡な毎日、平凡な……。

 他の同じ年頃の女の子と違う事があるとしたら、少し早く両親を亡くした事くらい。

 それはとても哀しい出来事であったのは確かだけど、両親の保険や持ち家があったおかげで、とりわけ大きな苦労をしたわけじゃない。

 24歳になった今は、目黒にある自宅から、三つ先の駅にある職場を往復して真面目に仕事をこなすだけの毎日だった。

「ええと、次は受け入れ条件ね。宗教は問わないし、ベジタリアンでも構わないわ。でも同性で日本について理解を深める為のステイである事、かな」

 日本に対して興味を持ち、私との期間限定の生活をエンジョイしてくれたらそれだけで充分だと思うから。

 そんな女の子と出逢えますように──。

 願いを込めて、私はエントリーシートの送信ボタンを押した。

 普段、人との関わりをなるべく敬遠していた私が、ホストファミリーに興味を持つなんて、自分でも不思議だったけど、なぜか応募してみたいと思った。

 まるで何かに導かれるように……それがすべての始まりだった。


☆☆☆


「第2ターミナル……こっちね」

 彼女の来日の日──。空港の駐車場に車を停めて腕時計を見た私は、クスッと笑った。

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