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おじさま教授の甘く執拗な蜜愛

橘志摩

2.奇妙な取引 (2)

「……っわ、私、……そ、そんなに、魅力ないですか……っ! 可愛げないですか、つまんないですか……! 私の年で、夢を持ってそれを目標にしてることはおかしいことなんですか……っ!」

「……人によるんじゃない? 僕はそうは思わない」

「……でも……っ私、ずっと、こ、こんなんばっかりで……っ」

「……知ってる。僕は、君の失恋ばかり聞いてたから」

 絵本作家になりたい。それは幼い頃からの夢だった。それは成長して、現実を知った今でも変わらなくて、それがいかに難しいことかも理解した上で、ずっとずっと努力を続けていたことだった。

 自分でなりたい、なると決めたことで、それがどれだけ辛くても頑張りたい、そう覚悟をしてその道を選択してきた。

 それでも、心が疲れることはあるし、気持ちがヘナってしまうこともあった。それを甘えだと言われてしまえばそれまでだが、縋りたいと思ってしまったのがそもそもの間違いだったのかもしれない。

「いつまでも絵本作家になりたいなんて夢みたいなことを語って、お前と一緒にいると疲れる。いい加減現実見ろよ」

 心底呆れたように溜め息をついて、ましいといった表情を一切隠さなかったその男は、結花をとてもとても冷たい視線で見つめていた。

 結花を振った、元がついてしまうようになった恋人は、それが負担になっていたのかもしれない。自分でも、彼に寄りかかりすぎていたかもしれないという罪悪感が胸に湧いてくる。

 自分で決めたくせに、自分で抱えきれなくて、くよくよしてしまう結花に、彼が嫌気がさしたのだとしても当たり前のことだ。涙をこぼしながら、痛む胸のうちで酷く考えてしまっている。

 瑞保は昔から、そんな結花の弱音を、ただただ淡々と、その冷たいんだか、穏やかなのかわからない空気のまま、受け止めてくれていた。

 それは、卒業して間が空いてしまっていた今でも、変わっていない。

「なんで……っせ、先生は、私のこと……っ見捨てないんですか……!」

「ただの下心」

 きっぱりそう言われて、結花は驚いて彼の顔を見つめてしまう。

 瑞保は優しい笑みを深くして、結花の眦に唇を押し当てた。

「星崎君は、僕にとって、とても魅力的な女性です。可愛らしいのに、たまにすごく綺麗に見える。卒業してからは磨きがかかったみたいだ。つまらなくはないし、君と星の話をしている時間はとても楽しい時間です。色んなことを教えてあげたいと思うし、色々教わりたいと思ってる。君の夢を、誰かの言葉で折る必要もないんだよ」

「……わ……私が、先生に、教えられることなんて、何も……っ」

「あるよ。君が気づいていないだけ。……ねぇだから結花、君は僕と付き合わない?」

「……え?」

「僕の彼女になりなよ。そうしたら、今日くだらない男に折られた心はすぐに治るし、直してあげる。僕で自信つけたらいい。それくらい、甘やかしてあげるから」

「……せ、先生? な、何言ってるんですか?」

 顔は笑っているのに、瞳だけが真剣で、瑞保が冗談を言っているようには見えなかった。

 指先が結花の輪郭をなぞって、唇を優しく撫でられる。親指が結花の唇を軽く押し開いて、彼は額を結花の額に擦り付けた。

 結花はまるで、金縛りにあってしまったかのように動けなかった。

「───最初は、君がつまらなくなんかないし、どれだけ魅力的か、ちゃんと教えてあげる」

「っ……た、高科先生……!」

「言ったでしょう? 逃がしてあげられないって。今日は、帰してあげない」

「ん、ぅ……っ」

 再びキスで唇をがれて、性急に押し開かれた。舌を搦め捕られて、るように擦り付けられる。ただそれだけで身体がビクリと跳ねて、その反応に瑞保のキスは一層激しくなった。

 絡んでいた舌に歯を立てられ、震える身体を宥めるように撫でられる。

 舌が離れた次の瞬間には唇をまれ、指先が耳をった。

 触れるか触れないかのところで、めては離れていくその指先の僅かな熱を感じ取った肌は、カッと一気に熱を持ったかのように熱くなった。

「……ひ、……ぁ、ん、ふ……っ」

「結花……可愛い……」

 キスを解いた瑞保の唇が、結花の耳元に近づいて、甘い声でいた。

 彼の舌が耳朶をなぞり、ゆっくりと耳孔に入り込んでいく。耳の中に直接響くその淫らな水音に、結花の身体は小さく震えた。

 彼の掌が結花の頰を撫で、首筋を滑り、彼女の服の上から胸の膨らみを覆う。指先でそっと、まるで壊れ物を扱うかのような優しい手つきで形を変えられ、掌全体を使って揉みしだかれる。

 身体を走るのは、もどかしいような、それでいて微かな心地よさを覚えるような感覚だ。甘く痺れるような刺激に結花は耐えきれず身を捩ってしまう。

 もっとも、結花の身体はまだ瑞保の膝の上で、思ったように動けるわけじゃない。

 そのもどかしい感覚から逃れられず、だが受け止めることもできないまま、か細く震える結花の姿に、瑞保は小さく笑いをこぼした。

「……じれったい?」

「……っ……そ、そんなわけじゃ……っ」

「そう? なら、もう少し、このままでもいい?」

 からかいを含んだ声が耳を擽っている。その言葉に素直な感情を吐露するのは悔しいと思うのに、結花の身体はその先を望んでしまっている。

 どこか嬉しそうに笑っている瑞保の顔が憎たらしい。結花の心臓は鼓動を速めていくせいで、少し息苦しかった。

 こうなることを望んでいたのに、そう望んだ時とは、心情は明らかに違っていた。

 直前に、瑞保から言われた言葉に対する混乱もある。だが、それ以上にキスだけで熱くなってしまったこの身体を、どうにかして欲しいという本能が、確かにあった。

 結花は瑞保の首に腕を回して、その耳元に唇を寄せた。

「……べ、……ベッド、行きたい……っ」

「……うん。なら、移動しようか」

 彼の甘い声色に、頭がクラクラした。

 ぐっと身体を持ち上げられ、難なく立ち上がった彼に驚いて、慌ててぎゅっと腕に力を込めて抱きついた。瑞保は結花を腕に抱いたままベッドに移動した。

 彼は結花をその上に下ろす時も優しく、怖がらないようにと気を遣ってくれたのだろう。首に回していた腕をゆっくりと解かれて、彼にまた唇を塞がれた。

 彼は結花の唇を吸うように、何度も何度も触れるだけのキスを繰り返しながら、ベッドの上に膝立ちで上って来る。

 肩に手を置かれ、服越しに伝わる温もりに心臓が否応なく高鳴っていく。

 そっと押され、ベッドに押し倒された結花の身体を、瑞保が上から見下ろすようにいだ。

「……僕と付き合うかどうか、明日の朝にでも決めてくれたらいいよ」

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