マイスウィートウェディング 元上司の旦那様と誓う永遠の愛
第一章 結婚式までの長い道のり (1)

第一章 結婚式までの長い道のり
午前九時。日の光が差し込む助手席に座った私は、ぼんやりとフロントガラスの向こう側に拡がる空を見上げた。よく晴れた冬空は気持ちいいほど澄んだ青い色に染まっている。
それは隣にいる元上司──いや、恋人になったばかりの芳野係長も同じことを考えたのか、機嫌の良さをにじませる声で話しかけてきた。
「いい天気だねぇ~☆ こんな日はぁ、りぃーちゃんと一緒にドライブでもしたいなぁ♪」
「……今、ドライブしているじゃないですか」
散歩しているわけではないと、私は抑揚のない口調で返事をする。もちろん視線を空へ向けたまま。そんな私の態度に不満を抱いたのか、彼は運転をしながらプクッと頰を膨らませている。
この男の部下だったころからのお馴染みの表情だけど、男のくせに頰を膨らませて拗ねるこの面を見ると、針で穴を開けてしぼませてやりたいと思うのはなぜだろう。
「りぃーちゃん☆ もしかして怒ってるぅ?」
「いえ、別に……下着を洗われたことを根に持ってなどいませんよ」
「やっぱり怒ってるじゃん!」
「怒ってません。それよりちゃんと前を見て運転してくださいね」
キィキィと喚く元上司の奇声を聞いていると、昨日から続く混乱がぶり返してくるようだ。
一昨日のクリスマス、お互いの気持ちを知って付き合うことになった私たちは、その日の夜に彼の部屋へ泊まることになった。それは私も望んだことで、嬉しかったし後悔はしていないけど、まさか私の下着を恋人になったばかりの彼が洗うとは思ってもいなかった……
ちゃんと手洗いした、なーんて言われたけどそんなことはどうでもいい。いくら素肌を見られているからって、付き合い始めたばかりの恋人に下着を洗われたくない。
しかも彼の部屋にいると、当然のことながら恋人がちょっかいをかけてくる。なにせワンピースはクリーニングに出されていたから、彼シャツというベタすぎる服しか着るものがなく、おまけに下着が乾くまでずっとノーパンだった。
シャツをめくれば隠すものがない状態。それは男の劣情を大いに刺激するらしい。昼には再び押し倒される破目になる。夕方には私の服がクリーニングから戻ってきたのに、足腰が立たなくて、結局は二泊もすることになった。そして共にベッドへ入ればそのまま眠るだけでは済まされない。
今朝も今朝とて、家に帰ろうとする私と、夜まで一緒にいたいと主張する彼との意見がぶつかり、最後は「歩いて帰る」と告げた私に恋人が折れる形となった。しかし部屋を出るまで彼がグズグズとひっ付いてきたため、もう私は疲労困憊である。
恋愛中は〝頭の中がお花畑になる〟とよく表現されるけれど、この変態元上司もまさしくその状態だ。
しばらくすると私のアパートに到着したので、当然のように恋人が顔を近づけてくる。……変人係長がキスをご所望のようです。
私はちらりと視線を外へ向ける。アパートの前の公道は住宅街の中でありながらも、交通量や人通りが少なくない。いまでも車の脇を通り過ぎる通行人がいる。
そりゃ、いちいち車内の様子を窺う人など多くはない。でもだからといってこんな公衆の面前で堂々とチューするほど、私は恥を捨てていない。
日本人はシャイなのだ。元上司は海外生まれの海外育ちだから気にしないのだろうが、私は気にする。大いに──
「んんっ!」
いきなり唇を塞がれて目を剥いた。私が逡巡している間に彼が焦れたのか、荒々しく舌で口内をまさぐってくる。両手で私の頭部をガッチリ捕らえているから逃げられない。呼吸さえ許さない激しい口づけに彼の体を押すが、びくともしない。別れのキスにしては荒々しい舌使いに昨夜の痴態が瞼の裏に浮かぶ。彼のシャツを着たまま脚を大きく広げて恋人を受け入れ続けた時間を。
「んぁ、だ、め……」
治まった熱がじわじわと盛り上がってくる。下腹部が疼いて、拒絶しているはずの手が彼へ縋りつく。こんな車内で駄目なのに。
目尻に涙を浮かべながら己の理性と闘っていると、不意に柔らかな感触が離れた。息苦しさからも解放されて、シートにぐったりと背中を預けて深呼吸をくり返す。その間に車から出た係長がぐるりと車体を回って助手席側の扉を開けた。
「りぃーちゃん☆ 立てるぅ?」
動けない私と違って変人元上司はとても元気そうだ。悔しい。
覗き込んでくる爽やかな笑顔を睨みつけてから差し出された手を握って車外に出た。すると素早く抱き締められて彼と密着する。
「ちょおぉっ、離してください!」
「離したくないよぉ★」
「やっ、もう、月曜日に会えるじゃないですか!」
すると芳野係長が背中を屈めて、私の耳へ唇を近づける。
──ずっとそばにいたい。一時も離れたくない。
言葉の鎖なんてものがあったら、間違いなくそれに捕らわれたと思う。その場で固まったままぴくりとも動けない。顔が猛烈に熱い。
固まってしまった私へさりげなく顔を寄せた恋人は、触れるだけのキスを落とした。わざとリップ音を立てて。
その音で我に返った私は彼の腕の中から逃げ出し、「送っていただきありがとうございました!」と叫んで逃げるように自分の部屋へ駆け込んだ。よたよたと靴を脱ぎベッドへ勢いよくダイブする。毛布に顔を埋めていないと叫び出しそうだ。
なんて、なんて恥ずかしいことを言うんだろう。そりゃ私だって彼のことが好きだけど、あんな衆目がある場所でイチャイチャすることなど精神的に厳しい。彼は羞恥心を持ち合わせていないのだろうか。しかも無駄にエロい毒気を放つし。
はー、はー、と怪しい呼吸をくり返すと、しばらくしてようやく気持ちが落ち着いた。それからノロノロと体を起こす。
まず、親へ報告をしなくてはいけない。
係長にプロポーズされて承諾したことや、彼の来年の四月からの海外転勤に合わせて、式を挙げて上海へ付いていきたいことを。
両親のどちらへ先に話すべきだろうか。と、迷ったもののすぐに答えは出た。心理的に壁が低い母親がいいだろう。
時刻は午前十時。もう起きていると思われるので、緊張を押し殺しながらスマートフォンを取り出した。三回のコールで聞き慣れた声が流れてくる。
『あら、梨紗? 久しぶりねー、あんた年末はいつ帰ってくるの? 大晦日?』
「久しぶり、お母さん。……あのね、そのつもりだったんだけど、その、今年は元日に帰るから」
『え? 新幹線の切符が取れなかったの?』
いえ、本当は大晦日の切符が買えたのですが、それはすでにキャンセルしたんです。
「あ、あのね、その、車で帰る予定なの。それで──」
『あんた車買ったの? いつ? でも東京から名古屋まで時間がかかるでしょ。ペーパードライバーが大丈夫? 保険入った? お兄ちゃんみたいな車は反対よ。それに──』
「話を聞いてっ! 会わせたい男の人を連れて帰るから、お父さんに知らせておいて!」
人の話を聞かない母親に焦れて一気にまくし立てた。しかしその瞬間、慌てて口を閉じる。──いや、口を閉じるな、私。
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