絶賛溺愛中!! ドS秘書室長の極甘求婚
プロローグ お見合い相手が……まさか片想いのあの人なんて!? (3)
「ああ、頼むよ。忙しいのに手間をとらせて悪いね」
「いいえ。いつもご贔屓にありがとうございます。ごゆっくりお過ごしくださいませ」
どうやら瑛人は頻繁にここを利用しているらしい。見るからに高級料亭というのはわかっていたけれど、さすが大企業の社長というだけある。しかし風香にとって今は周りのことよりも、蒼のことが気になって仕方なかった。
淹れてもらった熱いお茶をいただきながら、風香は蒼の方をそろりと見た。
普段着ているものよりもさらに黒に近いダークグレイのスーツが、端整な顔をした彼にとても似合っている。
いつでも背筋がきもちいいぐらいスッと伸びていて、きちんとネクタイを締めた襟元からでもはっきりとわかる立派な喉仏や、肩から広い背中にかけて男の色気をまとったストイックな雰囲気が、風香はとても好きだった。
時々、あの背中にしがみついてみたい……などとつい妄想することもあるくらい。
艶やかな黒髪から覗いている、切れ長の二重の双眸、すっと通った鼻梁、引き締まった唇……均整のとれた輪郭。これほど恵まれた容姿をもっている彼が、もしもやさしく微笑んでくれたら、どれほど甘い顔になるのだろう……とドキドキしながら毎日見つめていた。
けれど、残念なことに上司の彼からは叱られることの方が多いし、彼が表情を崩したところなど風香は見たことがない。涼しげに整った表情から想像できるように、彼は常に冷静沈着で、物事に対して理論的な人だった。
そうでなければ社長秘書は務まらないのかもしれないけれど、なんでもそつなく完璧にこなしてしまう彼が、素顔をさらけだして恋愛をしている姿があまり想像できない。でも、彼ならきっと大人の女性との付き合いもスマートにこなしていそうだとも思う。
そんな彼が風香に好意をもっているというのは信じがたいし、好かれているような感じもしない。伯父のことは信用しているが、風香には自信がなかった。
それとも、瑛人が言うように、蒼は興味のないフリをしているだけで、本心では思ってくれているということだろうか。もしもそうだったら……と淡い期待がよぎる。
胸が早鐘を打ちはじめてしまい、動悸までしてくる。瑛人が意識させるようなことを言うからだ。
ちらり、と蒼の方を見たら、ばっちり視線が合ってドキッとした。
普段は、気にかけてもらえるどころか、仕事でいつも厳しく叱られているので、逆に嫌われているのではないかと風香は日々落ち込んでいたわけだが……。
実は、蒼は社長の犬というあだ名を密かにつけられているほかに、秘書室内でもうひとつの異名をもっている。それは、鬼の総帥──である。
遡ること一ヶ月──。
新年度がはじまったばかりの桐生商事の秘書室に、春一番が吹き荒れていた。
「──あなたが作成した送り状、連名や敬称がいくつも抜けています。まさか今までもこんな非常識なことをしていたわけではありませんよね?」
風香は肩を竦めて、秘書室長の一ノ瀬蒼をおそるおそる見上げた。彼はさらさらの黒髪から覗かせた涼しげな瞳にさらなる冷ややかな色を浮かべ、厳しく詰問すべく、腕を組んだ。
蒼が左手に束ねて持っているのは、風香が担当した創業記念パーティの案内状である。社長秘書を務める彼が、同行先から戻ってくるやいなや、風香の手元から奪いとったのだ。
「申し訳ありません。確認漏れがないよう、最後にまとめてチェックをしようとしていたところでした」
そう、最後にチェックをしようとした矢先に、蒼に見つかってしまったのだった。
「最初から丁寧に一筆ずつ書けばいいだけです。流れ作業をしようとするからミスをするんでしょう」
「はい。申し訳ありません……」
風香には謝ることしかできない。言い訳をすれば、粗さがしをされて、叱られるだけだ。
一応、心の中で言い訳をすれば、名前の体裁を整えてから、最後に敬称を書いていった方が、バランスの確認にもなるし、枚数をこなすスピードを考えても効率がよかった。なにせ五百枚という膨大な数である。
しかし、蒼にしてみれば、雑な流れ作業に見えてしまったのだろう。彼は感情的にぶつけるタイプではないが、今回の件にかこつけて風香のミスを指摘しはじめた。
「昨年末、三羽システム社長夫妻への贈答品の中身が違ったこともあったでしょう。嫌いなものをわざわざ送りつけられたと大変不愉快な想いをさせてしまった。機嫌をとるためだけに、無駄な人員を使うことになってしまったことがありましたね」
風香はどんどん身を縮こまらせていく。
「……はい。申し訳ありませんでした」
「この間もスケジュールに穴があって営業部がダブルブッキングで困っていましたよ。あれほど確認しておくようにと言っておいたはずのものを……」
蒼はそう言ってため息をつくが、お説教は終わらない。いつもならつづきは別室で一対一で注意を受けるところ、今日という今日は逆鱗に触れてしまい、おさまりがつかなかったようだ。
「先日も新入社員向けの式典の時間が間違っていて、場の混乱が起きました。何事も最初が肝心というところで、後輩に動揺を与えてどうするのですか」
「……はい。申し訳ありません。その件は猛反省しています」
「その後、人事部から預かった研修予定表との付け合わせでも確認漏れがありましたよ」
この調子では、風香の失敗歴をひとつずつ喋りだす勢いである。
極めつきに一言。
「これが入社三年目では……。社長の姪っ子ということに甘えすぎです。そもそも、あなたは秘書に向いていないんじゃないですか?」
これにはさすがにズーンと傷ついた。
風香が社長の姪であることはもちろん秘書室内で知られている。つまり縁故入社だということも。それを盾にするしかない自分がみじめだった。
桐生家は名家であり、桐生グループといえば知らない人などいない旧財閥系の巨大企業である。社長の瑛人は五人兄弟の五男で、桐生商事の代表を任されている人物である。社長の後ろ盾がなければ、秘書室への配属自体なかったかもしれない。
秘書の仕事は、主に役員が円滑に仕事を進められるようにサポートすることだ。
たとえば資料作成や旅券の手配、接待や会議のスケジューリング。それから時に打ち合わせに立ち合い、株主総会や展示会などのイベント準備を手伝ったり、担当している会議室や応接室の見回りをしたり、稀に役員に同行して出張に出ることもある。
秘書室ではいくつかチームを作って、役員ひとりにつき数名の秘書がサポートしているが、社長秘書チームの中で最年少の風香が叱られる回数は本当に半端なかった。
クドクドとお小言をもらって小さくなっている風香を見かねたのか、はす向かいにいた主任の森下が口を挟んできた。
「室長、そこまでにしてあげては? これ以上の発言があると、企業コンプライアンスに違反するのではないかと心配です。彼女の努力も認めてあげてください」
やんわりと森下が言うと、蒼はやれやれとため息をついた。
「桐生さんはよくやっていると思いますよ。取引先の役員にはにこやかで話しやすいと評判ですし、ミスに関しては挽回すべく頑張っていました。今の案内状に関しては、これからチェックするつもりでしたので、チームである私たちのチェックが間に合わなかったのもよくなかったんです。大変申し訳ありません。急ぎ、私がフォローしますので」
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