絶賛溺愛中!! ドS秘書室長の極甘求婚
プロローグ お見合い相手が……まさか片想いのあの人なんて!? (2)
「相手が僕では不服ですか?」
その言葉にハッとして、風香は慌てて首をふるふると横に振った。
なんて失礼なことをしてしまっていたのだろう、と反省する。
「い、いえ……まさか、室長が、お見合い相手なんて、思っていなかったから……私、びっくりして……」
仕事上で知っている相手ということは予測していたものの、まさかこんなに近い筋の人だとは思わなかった。たとえば営業や人事の人か、取引先の人か、年の近い相手を想像していたのに。
彼は三十四歳なので、風香よりも十歳年上だ。そしてなにを隠そう、超がつくほど奥手な風香が密かに片想いをしている相手なのである。
相手が蒼だと知った途端、風香の心臓はドキドキと早鐘を打ちはじめ、落ち着かない気持ちになった。不服だなんてとんでもない。風香が蒼に対して秘めた想いを抱いていることなど、彼は知らないことだろう。
(どうしよう……こんなことってあるの……)
すっかり動揺している風香を尻目に、蒼は凛々しい表情を少しも変えずに淡々と言った。
「嫌なら嫌と正直におっしゃってくださって構いません。社長からお話をいただいてこちらに参りましたが、話が先に進んでからでは、互いに傷つきますよ」
ストレートかつ理論的に明言されて、風香はたじろぐ。やはり彼も真実を伏せられて連れて来られたということなのか。それとも知った上で来たけれど、それは社長秘書である立場として断りきれなかったからとか。
風香だって乗り気がしなかったが、伯父への義理を立てるつもりで来たのだから、人のことを言えた口ではない。けれど、どう見ても好意的とは思えない蒼の態度に胸がズキッとした。
しゅんと風船がしぼんだように風香が眉尻を下げると、蒼は何かを言いたそうにもどかしく唇を動かすのだが、そこへ間髪を容れずに瑛人が仲裁に入った。
「まあまあ、そんな会うなりにピリピリして喧嘩腰にならなくてもいいだろう。仕事で知っている顔なら話も進めやすいし、私は本当に風香をいい子だと思っているから蒼に紹介したいし、風香にも、蒼がいい奴だと思っているから紹介したいと思ったんだ。私の気持ちに嘘はないよ。異論があるならば、私に言いなさい」
(でも、伯父さん……私がいくらよくたって……室長が迷惑してたら……どうするの?)
瑛人の隣で風香がハラハラしながら身を硬くして蒼を窺うように見つめると、社長の的を射た言い分に納得したのか、蒼はやれやれと言いたげに肩のラインを下げた。
「よし、堅苦しい自己紹介が要らないとわかったんだから、今晩は食事を楽しもう。一ノ瀬、いいかい?」
「しかし社長、今日の午後の分の予定がずれこんでしまいました。来週どこかで社長のスケジュールを調整させていただきます」
礼儀正しく頭を下げる蒼に、瑛人は屈託なく声をかけた。
「蒼、おまえは生真面目だね。それについては私の方が動くから心配しないでいいよ。今日はプライベートなんだから、二人とも仕事のことは忘れなさい」
ぎこちない二人をよそに、瑛人はからっとした表情で、二人をお膳立てしはじめた。
風香は落ち着かない気持ちで、蒼と瑛人のやりとりを見守った。何の気なしに『蒼』と名前を呼ぶぐらい、社長と秘書として随分と良好な関係を築いているようだ。
それよりも、今は自分のことを考えなければ。この緊迫した感じで、果たして楽しむという雰囲気になれるのだろうか。顔色ひとつ変えないクールな蒼の様子を見て、風香は不安を抱く。
もしかして、不服ですか……などと聞いてきたのは、彼の方がそう思ったからではないだろうか。彼は会社で社長の犬と言われるほど忠実な人間である。ということは社長の頼みはよほどのことがなければ断らないし、まして社長の姪っ子と会ってほしいなどと言われたら、断りたくても断れないだろう。
ぐるぐる考えていたら、料亭の女将が挨拶に来て、お茶を淹れてくれることになった。
その間、瑛人が風香にひそひそと耳打ちをしてくる。
「風香、ちょっと私と一緒においで」
「えっ?」
いいから、いいから、と手を引っ張られて、風香はなすがまま立ち上がる。
「あー、蒼、悪いんだが、少しだけ我々に席を外させてほしい」
瑛人が蒼に声をかけると、彼はまた表情を変えることなく「どうぞ」とだけ答えた。
オロオロしている風香の肩を抱いて、瑛人はこっちにおいで、と誘導した。そして隣の個室に誰もいないことを確認すると、その前で話をしはじめた。
「……風香、折を見て私は帰るから、今夜は二人でゆっくりしていきなさい」
「えっ……そ、そんな……むりだよ……伯父さん、……二人だなんて」
大きな声を出してしまいそうになり、風香はダメダメ……と首を振って小さく反論する。すると瑛人はさらにひそひそと声を潜めて言った。
「……大丈夫。不安なことなんてないよ。蒼は口ではああ言っているけれど、涼しい顔をして平静を装っているだけだよ。本当はね、おまえにとっても興味があるんだから」
ふっと込み上げてくる笑いを我慢するかのように瑛人が言う。
(──室長が、私に興味を……?)
「……嘘よ。だって、本来なら仕事の予定があったのに、わざわざ来てくれたんでしょう? あんまり嬉しくなさそうだったし……」
「私は嘘をつかないよ。あいつはもうずっと長いこと私のパートナーだ。蒼がいなければ仕事が成り立たないぐらいに必要としていて、あいつのことはなんでもわかってる。おまえが動揺したのと一緒で、仕事のことを持ち出して仮面を被ってるだけさ。心の中はおまえのことでいっぱいのはずだよ」
瑛人がそう言い、風香の頭をやさしくぽんぽんと撫でてくる。
「……ほんとうに? 信じていいの?」
胡乱な目で瑛人をじいっと見ると、彼は信用しなさい、と眉を下げた。
「だいたい、風香……おまえは蒼のことが好きだろう?」
その瞬間、ぽうっと顔を真っ赤に染めた風香を見て、瑛人は目尻にやさしく皺を寄せた。
「わ、わかって……いたの?」
「もちろんだよ。言ったはずだよ。大事な姪っ子を任せられる相手を、私は選ぶつもりでいたんだから。相手は、風香に好意をもっている。こんなにいいことはないよ。だから、風香、自信をもって」
風香は声を潜めて反論した。
「でも、伯父さんが社長だから、室長だって断れなかったんじゃないのかな?」
さっきの様子を思うと、やっぱり自信がない。
「違うよ、風香。その気がなければ、ここには来ない。さっきの蒼の一言……私が話をもちかけたから……なんていうのは口実だ。とにかく私がいては遠慮して本心に触れられないだろうし、二人きりになってちゃんと相手を知ってからどうするか判断しなさい。いいね?」
「う、うん……とにかく、わかったわ」
押し切るように言われてしまい、風香はそれ以上反論できなかった。たしかに人を見た目だけで判断するのはよくない。知りもしないうちに断る理由は作れない。だいたい、怖気づいたから帰るなんて彼に失礼だし、会社に居づらくなるだけだろう。
二人が戻ると、女将が蒼と話をしながら待っていてくれた。
「お待たせしてすまない」
「桐生様、お茶をお淹れしてもよろしいでしょうか?」
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