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絶賛溺愛中!! ドS秘書室長の極甘求婚

立花実咲

プロローグ お見合い相手が……まさか片想いのあの人なんて!? (1)




プロローグ お見合い相手が……まさか片想いのあの人なんて!?




「私が、お見合い……!?

 青天の霹靂とはこういうことを言うのだろう。

 ある日、仕事先から帰宅した桐生風香は、伯父である桐生瑛人から突然縁談を持ちかけられ、戸惑っていた。

「もちろん、最初は会ってみるだけでいい。とても気のいい奴でね。せっかく紹介するなら自慢の姪を連れていきたいって思っていたんだ」

 ソファに腰をおろしていた瑛人はにこやかに言って、風香が淹れた紅茶を美味しそうに口に運ぶ。

 まもなく世間はゴールデンウィークに入るというところだ。その大型連休が明けた次の土曜日に、約束をしたいのだという。

「でも……どんな人かわからないと、心配よ。私、もう紹介とかそういうのは遠慮しようと思ってたから……」

 風香は訥々と言い訳しながら、過去に友人と参加した合コンを思い浮かべた。

 ことごとくうまくいったがないし、付き合いが長続きしたこともない。

 小さな頃から可愛いバンビちゃんとチヤホヤされるぐらいには、それなりに愛らしい容姿をもっている風香が、今まで長続きするような彼氏らしい彼氏がいたことがなかったのは、超がつくほど奥手だからだった。

 カラーリングをしたわけでもないのに色素の薄い茶色の髪や、ぱっちりとした二重のくりんとした目元、警戒心というものがほとんどないような無垢でふわふわした天然の雰囲気……それらは男好きのするようで、第一印象では好感を抱いてもらいやすい。けれど、三日もすれば奥手すぎてつまらないし、付き合いづらいということがわかってしまう。風香自身が思っている以上に男性のことを強く意識しすぎて、ぎこちない態度になってしまっているらしい。

 清楚な女性が好きだという男性も、実は少しぐらいは女性に奔放であってほしい部分もあることだろう。観賞用にかわいいという感覚と、女性としての色気とは、必ずしも一致するものではないということ。

 友人には「自分に合う人と付き合えばいいんだよ、固く考えすぎ」……などと言われるけれど、風香は自分から積極的に声をかけるタイプじゃないし、言い寄ってくる男性のタイプといえば、興味本位の軽い男が多く、ときめくよりも先に怖いという感情を抱いてしまう。

 以来、風香はすっかり臆病になり、たとえ好きな人ができても、健気な片想い歴を更新するだけで満足し、いつのまにか失恋しているという哀しいパターンを繰り返している。

 実は今も、会社に好きな人がいて密かに片想いをしているけれど、風香から告白するつもりはないし、脈があるとは思えないので、またいつか失恋してしまうことだろう。

 こんな自分がお見合いなんて──無理だ。

「まあそう言わないで。私が風香の苦手なタイプの男性を紹介すると思うかい? もちろん、むりやりにくっつけようなんて思わないよ。どうか社長の顔を立ててくれる気持ちで、一回だけ付き合ってもらえると嬉しいんだけどな」

 瑛人は四十七歳にはとても見えない若々しい端整な顔に笑みを作りながら、風香にイエスを迫ってくる。

 瑛人にそう言われてしまうと風香としては辛いものがある。この押してくる感じだと、縁談の話は既に先方に通してあるのだろう。風香が行かないと言えば、瑛人に恥をかかせてしまうに違いない。

 瑛人は大企業、桐生商事の代表取締役社長である。若いときから経営手腕をかわれていて、一族経営の一翼を担ってきた人だ。風香は伯父である瑛人のつてで桐生商事に縁故入社し、秘書室に配属されて今年で三年目。

 実はここのマンションは瑛人の自宅で、十年前に風香の両親が亡くなってから、瑛人は遺された姉妹の面倒を見てくれているのだ。

 今年二十四歳を迎えた風香は、四つ年下の大学生である妹、花音と、「成人したら出ていくことを考えなくちゃね」と相談しあっていたのだが、瑛人は独り暮らしをすることが自立ではないと言って、姉妹を引きとめた。

 ここを出ていくことがあるのなら、それは結婚してもいいと思う相手ができたときにしてほしいという親代わりとしての願いがあるようだった。

 瑛人にはとても感謝している。いつもおだやかで明るい彼がいてくれたおかげで、両親を亡くした痛みが和らぎ、塞ぎがちだった姉妹の心は、ゆっくりと癒されたのだ。

 でも、いつまでも甘えて、ぬるま湯に浸かったままではいられないし、独り立ちしなくてはならないと常々思っている。

 瑛人が風香に頼み事をしてきたのは今回が初めてだ。なにも縁談を受けたからといって相手とすぐに結婚しなくてはならないなどと押しつけられているわけじゃない。感謝の気持ちがあるのなら、この縁談を受けるべきではないか。風香はいつのまにかそんな責務に駆られていた。

「……わかったわ。会ってみるだけなら……緊張するけど、頑張ってみる」

 思い切って返事をしたところ、瑛人はホッと胸を撫で下ろし、嬉しそうな表情を浮かべた。

「それはよかった。きっと先方も喜ぶよ」

「あの、でも、伯父さん、もしかして私の写真とか相手の人に渡しているの? 相手の写真はないの? それから、私、何着ていけばいいのかな?」

 うっかり聞くのを忘れていたが、やはり何かひとつでも相手のことを知っておきたい。

「写真はあいにく……ごめんな。想像するような堅苦しいお見合いじゃないから大丈夫だよ。会えばきっとおまえも顔がわかるはずだよ」

 そんなことを言われたら、ますます気になって仕方ない。

「顔がわかるって、それじゃあ仕事のお付き合いで会ったことある人?」

「うーん、そうだね」

 瑛人がはぐらかしているのがなんだか怪しい、と風香はった。

「どこの人? 社内の? それとも……取引先の人?」

 風香の質問攻めに、瑛人は「まあ落ち着きなさい」と困惑したように眉尻を下げた。

「そうだな。予約場所はホテルの料亭だけど、着物を着なさいっていう席でもないし、それなりの服装であればいいよ。いずれにしても当日は私と一緒に行くんだから、心配しないでいい。ね?」

 瑛人はそれだけ言って、「仕事の電話が入ったから」と逃げるように風香から離れ、相手のことについては最後まで触れてくれなかった。

 そして、当日、伯父への義理を立てようと、約束の場所に行くことになった風香だったが──。

 個室部屋に通されて、ドキドキしながら相手の顔を目にした途端、あっと息を呑んで立ちんでしまった。

(な、ななな……なんで……!?

 会えば顔がわかるよ、と瑛人が言っていた意味が今わかった。

 向かいの席に座って待っていた人は、社長秘書の一ノ瀬蒼だったからだ。そして彼は風香の上司でもあり、秘書室で毎日のように顔を合わせている相手だ。

(まさか室長が……お見合い相手だったなんて……そんなそぶりなかったのに)

「どうして……室長が……」

 挨拶をするのも忘れて、風香は思わずそう口走ってしまった。

「ほら、風香、まずは席につきなさい」

「は、はい」

 瑛人にやんわり促されて、風香はそろりと席につく。そして改めて目の前の男をまっすぐに見た。怜悧な眼差しをした眉目秀麗な彼を……。

 風香の観察するような視線が落ち着かなかったのか、彼は尋ねてきた。

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