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快感・ハネムーン!! 天国のような島でめちゃくちゃ溺愛されました。

麻生ミカリ

第一章 政略結婚は突然に (2)

 継母とそりが合わなかったことは、別段気にしていない。父が自分よりも継母の意見を尊重したことも、仕方がないことだと受け入れている。なにしろ、瑛花にとっては亡き母だけが母親だった。なさぬ仲の継母になつかぬ瑛花を、相手もかわいがることができなかったのだろう。

 それに、梅尾の祖父母といるほうが父と継母といるよりも穏やかな気持ちで過ごせたのだから、彼女自身幼いながらに割りきって暮らすことができた。

 父が見栄っぱりで贅沢が好きな気質だったこともあり、瑛花は金銭的に困ったことはない。有名私立女子校に通い、そのままエスカレーター式に大学へ進学したのは今から四年前のことだ。

 中学、高校とバスケットボール部に所属していた瑛花は、大学入学直後、顔見知りの先輩に誘われるがままバスケサークルに入った。女子大なんて、女子高と大差ないだろう。そう思っていた彼女は、初めてのサークル練習の日、体育館に男子があふれているのを見て目を丸くした。

『せ、先輩、どうして男性がいるんですかっ?』

 艶やかな黒髪をポニーテールにして、動きやすいショートパンツにTシャツ姿の瑛花の頰は、まだ走り込みのひとつもしていないというのに赤くなっていたと思う。

『どうしてって、最初に説明しなかった? うちのサークル、他校と合同なのよ。神原さん、もしかして男の人が苦手だったりする?』

 そこで、「はい、苦手です」と言える性格なら良かったのかもしれないが、瑛花は意地っ張りの負けず嫌いである。

『別に、ぜんぜん平気です。少し驚いただけですから!』

 以降、週一回の練習と、週二回のミーティング──という名の交流会とも合コンとも判断できない食事会を通じて、瑛花はずっと緊張しどおしだった。

 なにせ男性といえば、家族や親戚、もしくは教師くらいしかろくに口をきいたこともない瑛花だ。小学校から私立の女子校に通ってきたのだから、当然といえば当然である。そんな彼女の反応が楽しいのか、先輩たちはわざと瑛花を男子チームに入れさせたがったほどだ。その事実に瑛花が気づいていたかといえば、無論NOなのだが。

 そんななか、練習にはほとんど顔を出さないのにミーティングにだけ現れて、食事を終えるとすぐに消えてしまう不思議な男子学生が一年女子の間で噂になった。

 見るからに体育会系とはほど遠く、男性にしては色白な肌。茶髪や金髪も珍しくないご時世に、闇夜を溶かしこんだような黒髪。そして、どこを見ているのかわからない艶めいた瞳。

 彼の名は斉藤佑、都内の国立大学に通う四年生らしかったが、その独特な色香と不思議な存在感に圧倒され、一年女子は声をかけるのを躊躇っていた。

『ねえ、斉藤さんって彼女とかいるのかな』

『いるに決まってるよ。だってあんなにかっこいいんだもの』

『でも、いつもミーティングが終わるとすぐ帰っちゃうじゃない? 一度でいいから話してみたいよね』

 周囲がそんなふうに騒いでいても、瑛花はあまり興味もなく、練習に出てこない不真面目な男だと認識していたのだが。

『ねえねえ、瑛花ちゃん、斉藤さんってどう思う?』

 ある日のミーティング直前、ファミレスへ向かう道中で同じ学部の子に声をかけられ、瑛花は目をいた。

『どうって、どういう意味?』

『だから、彼女とかいるのかなって。それに、どうして練習来てくれないんだろう。斉藤さんがバスケやる姿、見てみたいよね』

 ──あんななよっちい男、どうせ見てくれだけで運動は苦手に決まってる。

 かねてからそう思っていた瑛花は、肩にかかる黒髪を払って小さく咳払いする。

『わたしに聞いてもわからないわよ。そういうのは本人に聞いたらいいんじゃないかしら』

 そう答えた瑛花に、なぜかほかの一年女子も寄ってきた。

『だよね、直接聞いたほうがいいよね!』

『でもわたしたち、瑛花ちゃんと違ってそんな勇気ないし……』

 高校時代もバスケ部主将を務めた瑛花は、誠実で勝ち気な性格と面倒見の良さのせいか、同級生や後輩女子から慕われる傾向にある。さらに、先輩女子から見ればからかいがいのある生真面目な後輩である瑛花の周りには、自然と女子が多く集まりやすく、サークルにおいてもそれは同様だった。

 とはいえ、これまでの人生でバレンタインチョコレートをあげたことはないが、もらったことは両手の指で数えきれないというのだから、女子としてどうなのか。それはさておき──

『瑛花ちゃんお願い! 斉藤さんに直接聞いてきて!』

 しかし、このときばかりはさしもの瑛花も自分の立ち位置を恨めしく思った。

『な……っ、ど、どうしてわたしが!?

『だって、斉藤さんって話しかけにくいんだもの。瑛花ちゃんなら平気でしょ? お願い!』

 ひとりの子が両手をあわせて懇願すると、一斉に間違った伝言ゲームが始まる。いっそわざとだと言われたほうが気がラクなほどだ。

『えーっ、斉藤さんに直接聞いてくれるの!? さすが瑛花ちゃん!』

『いつ? 今日?』

『だったら、帰りに先輩には内緒でカラオケ行きませんかって誘ってみて!』

 気づけば話はずいぶん進み、周囲の期待のまなざしを受けた瑛花が今さら断るなんて到底ムリな状況になっていた。実際、この段からでも断れる人間は断れるのだろう。瑛花ができないタイプなだけだ。

『わ、わかったわよ! 斉藤佑に聞いてくればいいんでしょ? さっさと聞いてくるから!』

 折しも今日のミーティング会場、つまり馴染みのファミレスに到着したタイミングで、瑛花は斉藤佑の姿を探した。入り口近辺には見当たらない。ならば後ろにいるかもしれない。そう思って勢いよく振り返ると、何か大きなものにドンと顔がぶつかる。

『っ……た、たた……』

 跳ね返って転びそうになった彼女の体が、なぜか再度前方へ引き寄せられた。

 背後から、きゃあと黄色い声が聞こえた気がしたけれど、鼻をしこたま打ちつけたのだからそんな声を気にかける余裕はない。

『だいじょうぶですか? 鼻、低くなってません?』

 つかみどころのない男性の声が頭上から降ってきて、瑛花は自分が誰かにぶつかったのだと把握した。しかも、ぶつかった相手は後ろに倒れこむところだった瑛花を抱き寄せてくれたらしい。腰のあたりに手がまわっている。

『ちょっと見せてください。顔、上げて』

『あ、あの、ちょっ……!?

 くいっと顎をつかまれて、抵抗する間もなく黒い瞳が彼女を覗きこんだ。

 ──ち、近い! 近すぎるっ!

 いまだかつて、これほどの距離で男性と見つめあったことなどありはしない。今にも額と額、もしくは鼻と鼻がぶつかりそうな至近距離に、瑛花は思わず目を閉じそうになった。

 しかし、そこでなけなしの理性がすっくと立ち上がる。

 自分から相手のふところに飛び込んだと誤解されてもおかしくない行動をとったうえ、黙って目を閉じたりしたらまるでキスをねだっているようではないか。

 神原瑛花はふしだらな女ではない。

 そう、ここは毅然として、ぶつかった謝罪と転ばぬよう助けてもらった礼を言うべきだ。

 さて、そこでなんとか気を取り直して目の前の男性を直視した彼女は──

『…………さっ、斉藤佑!』

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