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理想の彼氏が肉食系旦那様にアップデートしました

希彗まゆ

第一章 ログインすれば会えた『理想の恋人』と…… (2)

 それからはネットゲーム漬けになり、たまに双子の姉に心配されてしぶしぶ公園へ行き、ぼーっとしたりもするけれど、本当にそれだけだ。婚約者がいたころには彼の家に行ってけっこうまめに料理などの家事もしていたけれど、それすら苦痛になった。なにをするにも彼を思い出す材料になってしまったのだ。

 わたしは、わりと重症だったと思う。

 そんなわたしを救ってくれたのが、グルノア・サーガ、グルサガ。そこにいる狩り仲間たち。そして、ルリだったのだ。

 ルリはわたしよりも遅くグルサガの世界に入ったのに、狩りの腕もあっという間にわたしを追い越した。狩り仲間から「パートナーになってくれ」と引っ張りだこになった。

 そんなルリに、お世辞にも狩り上手とは言えなかったわたしは「手が空いたときでいいから、狩りの仕方を教えてほしい」と思い切って願い出た。心が広く優しいことでも有名になっていたルリは、く承諾してくれた。

 それがきっかけで、ルリとの仲はぐんと近づいていった。

 ルリ相手には、少しずつだけれどプライベートな話もできるようになっていった。

 恋愛遍歴の話になり、思い切って元婚約者とのことも話すと、ルリは真剣に相槌を打ってくれた。

「世の中そんな男ばかりじゃないよ。はるはじゅうぶん魅力的なんだから、そんなところで立ち止まってるなんてもったいないよ。もっといい恋、しなくちゃね」

「もっといい恋……?」

「うん。たとえば俺とかさ」

 ルリといると、ドキドキした。他愛のない会話が、たまらなく楽しかった。世間からは絶対に「引きこもり」の人種に入るのに、そんな自分が生き生きしているのがわかった。

「俺もさ、はるとおなじなんだ。数年前に婚約者に浮気されて破談。それからグルサガにくるまでは、ほんとに読書するか寝るかで引きこもってたな。ま、いまもグルサガばっかで引きこもりには違いないけど」

 おなじような境遇だからかな、と彼は言った。

「だからこんなにはるにかれるのかもしれない。俺がはるに惹かれたのはそれだけじゃないのも確かだけど」

 数日前、ルリは突然そんなことを言い出した。

「俺、はるのこと好きだよ」

 みんなの憧れの的であるルリに告白されるだなんて、思ってもみなかった。

 ドキドキしているのは自分だけだと思っていた。ましてや恋してるだなんて、……わたしにもまだそんな資格があったんだろうか。

 栄一くんに浮気をされたのは、わたしのせいだ。わたしに魅力が足りなかったせい。婚約者としての努力が足りなかったせい。ずっとそう思ってきた。だから、恋をする資格だってもうないんだと思っていた。

 だけど、ルリは違う。少なくともこの世の中で、ルリだけはそんなこと思ってない。

 だって、わたしを恋愛対象にしてくれた。好きだって言ってくれた。それだけで、じゅうぶんだ。

「わたしも、……好き」

 気がつけば、キーボードを叩いていた。本能からの、行動だった。

 それからはグルサガで、ふたりの時間が多くなった。ネットゲーム内でもデートというものをする人たちがいることは知っていたけれど、まさか自分もそうなるだなんて思っていなかった。

 ふたりで狩りをするのもデートだし、ゲーム内の景色のきれいな国や島に行き、そこでのイベントやお祭りに参加したりもする。

 イベントやお祭りはだいたいクエスト形式になっていて、全部クリアすると記念品、アイテムがもらえることが多い。

 中には真珠のティアラとか七色の宝石でできたペンダントとか、そういったものがもらえるクエストもあるのだけど、それらは女の子ユーザーがほしいアイテムのNO.1に入っていた。それらそのもののクエストはしなかったけれど、その一段下くらいの、それでもかなりの確率で女の子が喜ぶアイテムがもらえるデートに、ルリは連れていってくれた。

『「レインの涙」はパートナーがいないと進めることができないクエストです。気球には男性一名、女性一名しか乗ることができません。気球に乗り込んだ男女一名ずつがパートナーとみなされクエストが進行しますのでご了承ください』

 クエストの中にはパートナーがいないとできないものもたくさんあり、だからルリに連れられて行く際には、みんなに、特に女の子ユーザーにはうらやましがられたりもした。「レインの涙」というクエストも、その中のひとつだった。

 人気の高いクエストで、気球に乗って空の雲に隠れる「レイン」という天使の女の子の固く閉ざされた心を開いていくものなのだけれど、わたしとルリがこの島に到着したときもすでに気球乗り場に行列ができていた。

 ようやく順番がきてルリとともに気球に乗ると、みはらしが最高で、本当にファンタジーの世界に入り込んだかのようだった。

 やがて空全体を覆っている黒い雲に、次々とこの島の過去の映像が投影されていく。それはすべて、もとは島民だった「レイン」が天使になる前の、しい記憶。

 クエストは簡単なほうで、選択式だ。パートナー、つまりわたしとルリが制限時間内に答えを出し、画面上に現れた選択肢を選ぶ。正しい答え、このクエストでいうと「レイン」の心を開く答えを選択することができれば、また次の過去の記憶が解放されていく。選択肢を間違えても「今回は失敗」というだけで、気球が元の場所に下りて終了になる。ただしその場合、次にまたこのクエストを受けられるのは丸一日経ってからになる。

 わたしとルリはこのクエストで、最後の記憶までたどり着くことができた。

『この島を滅ぼしたモンスターは、実は闇に心を奪われたレインの母親でした。最後まで生き残っていたレインは、残った島民や幼い弟妹たちを救うため、母親を殺さざるを得ませんでした。そのときレインは──A・自分の母親の鎮魂のため天使となった。B・母親と刺し違え、哀れに思った神に天使にされた』

 それが、最後の選択肢だった。

 クエストなんかちょっと検索すればいくらでも答えが書いてある。けれど、わたしもルリもこのときはそうしなかった。仲間たちに聞いた記憶だけでクエストを進めてきた。レインのクエストを実際にやった仲間はいないので確かな答えはわからないけれど、レインの話はグルサガユーザーの中では有名な逸話になっている。

「ええと、レインは島民を襲ったモンスターを斃すとき、かなり迷ったってワカが言ってたのを聞いたことがあるんですけど……」

「うん、俺もそれ、イズルから聞いたことがある。それに俺、剣士だしね。守護神がレインが仕えるジオ・ア神だから、剣士認定試験のときに勉強したことがあったかな」

「あ、そういえばそうだったよね」

 だからルリはいままで、選択肢を間違えないでこられたんだ。もちろんわたしの意見も出したけれど、最終的な判断はルリに任せてきていた。

「といっても、認定試験を受けたのは一年以上前だし、あんまり自信がないけど……いや、もっと前だったかな」

 とりあえず、とルリはわたしと最終的な打ち合わせをする。制限時間はもう残り少ない。

「たぶんだけど、レインはモンスターを斃すときためらったせいで、隙が出たんだ。それで刺し違えたんじゃなかったかな」

「わたし、巫女認定試験のときにレインの加護を受けたとき、見たことがあるんですけど……レインの鎖骨に、大きな傷痕があるの。服の中まで続いてて……もしかしたらそれがモンスターと刺し違えた痕なのかも」

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