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身代わりシンデレラ 京のプリンスに愛されすぎて!

南咲麒麟

プロローグ 突然の口づけ / 第一章 御曹司に拉致されちゃって!?――北山通 (1)




プロローグ 突然の口づけ

 突然、キスされた。

 抵抗する間もなく、手首をまれてを持ち上げられる。その力強さとは対照的に、彼の唇はあくまでも優しく、柔らかに葛葉の唇をとらえていた。

 まるでしくてたまらないとでも言うように──。

 葛葉の鼓動は一気に高まり、背中がぞくりとばっていく。なのに腰の辺りから身体にかけてはとろりと甘い蜜のような感覚があって、何だか立っているのが辛い。それは、葛葉が生まれて初めて受ける、甘やかで濃密なキスだった。

 けれど。

「!」

 一瞬、手放しそうになる理性を慌てて呼び戻す。

 キスの相手はほんの三十分ほど前に知り合ったばかりの。そしてここはお見合いの席だ。恐らくは彼の両親であろう、め袖姿の品の良い夫人と夫が、啞然とした顔でこちらを見ている。それだけではない。

(あ、ありえないから……!!

 あまりの状況に、葛葉は泣き出しそうになっていた。

 両親の座席の向かいには同じような夫婦がもう一組いて、彼らの間には。

「……」

 呆気に取られているお見合い相手の女性が、いた。はんなりとした着物に身を包んだ、清楚でとても美しい人だ。形の良い大きな瞳を見開いて、白磁器のような頰をほのかに赤く染めている。

(まるでお人形のように可愛らしい……)

 パニックのあまり上手く回らないで、葛葉はぼんやりとそんなことを考えていた。

「これで分かっただろう? なんなら日頃俺らがやってること、この先まで全部見せよっか。俺は全然構わないけど」

 葛葉をしっかりと胸に抱いたまま、男が両親に向かって何かを言っている。そしてふいに葛葉の顔をのぞき込んだ。

 長身の体軀に、少し長めの黒髪。恐ろしく整った鼻梁には負けん気の強そうな瞳がよく似合っていた。年齢は二十代後半、といったところだろうか。

 外見の容姿はもちろん、全身かられている自信と輝きが、彼を本物の『いい男』だと示していた。その彼が葛葉の指先に愛おしそうに唇をつけて、

「な、葛葉?」

 と、同意をすようにを細めている。

 彼は本気だ。本気で『嘘をつき通そう』としていた。葛葉はそれに付き合う約束である。

(けど、ここまでしなきゃいけないの!?

 内心のりを取り繕うこともできず、かと言って彼を責めるわけにもいかない。仕方ないので葛葉はただ、弱々しい微笑だけを返してみせた。




第一章 御曹司に拉致されちゃって!?――北山通

 ことの始まりは今朝の京都駅である。

 初夏。夏の到来を感じさせる明るく真っ直ぐな日差しが、銀色の巨大なオブジェのような駅を輝かせていた。観光客でごった返すという噂の桜の季節もわり、京都全体がほっこりと休んでいるような印象を受ける。

(やっぱり京都に来て良かった)

 葛葉こと、菜ヶ瀬葛葉は、最良の友達と三人一緒にこうして旅行に来られる幸せをしみじみとみしめていた。

 東京の片隅にある冴えない会社の冴えない事務職について早三年──上司に気をいながら取れた有休はたった二日だけである。それを週末と上手く合わせて、三泊四日の旅行にしようと話し合ったとき、行き先は満場一致で即京都に決まった。

 今年で二十五歳になる葛葉にとって、弾丸スケジュールの海外よりも、断然国内、それも仕事で疲れ果てた精神をしてくれる古都がいい。他の二人もそれぞれの趣味的こだわりにより──JRのポスターに誘われるまでもなく──すでに京都に決めていた。

 気の置けない仲間と存分に楽しむ美味しい京料理、心尽くしの宿。それにパワースポット満載の寺院や貴重で可愛らしいお土産の数々。

(絶対に素敵な旅になるよね、うん!)

 優柔不断な葛葉にしては珍しく、心のでそう確信していた。いたのだが。

「分かってないわね!」

 葛葉の大切な友達であるユリが超然と言い放った。派手なメイクがちっとも嫌みにならない、やかで賑やかな女性である。ちなみに男性遍歴は少なくはないが、なぜかいつも長続きしない。その理由として本人は『男よりも女友達を重視してしまうソンな性格だから』と豪語しているが、周囲からは異なる意見が出ていた。とにかく彼女は気性が激しく、いつも女王の如き目線で男を威嚇してしまうのだ。

 とはいえ、葛葉はユリの竹をったような物言いが大好きだったし、彼女も気弱で頼りない葛葉のことを特別に気にかけてくれている。

 今の発言も葛葉に対してではなく、もうひとりの友達である真希に向かっていた。

「京都と言えば【火サス】よ! 観光するなら、まず琵琶湖疏水か嵯峨野の竹林に決まってるでしょっ」

 言われた真希はすぐには反論せず、じっとユリを見つめていた。寡黙ではあるが、絶対に自分の意志を曲げない真希は、しばらくして静かに口を開く。

「……京都は歴史と伝統の都。最初に観光に行くならば、壬生寺晴明神社がいいです」

 いわゆる歴女の真希だが、歴史だけでなく、芸術から世界経済まで実に様々なジャンルに造詣が深い。新聞すらまともに読めない葛葉からすれば、彼女は世界のあらゆる知識を有しているように見えた。お洒落なノンフレーム眼鏡の向こうには、いつも確かな知性がキラリと光って見える。

 真希も、従順過ぎて迷ってばかりいる葛葉にとって大切な友達だった。

(……だから二人とも、喧嘩しないで欲しいんだけど……)

 葛葉のささやかな願いもしく、二人は新幹線を降りてすぐ、灯台を象ったという京都タワーの前で激しくみ合っている。

「葛葉はどっちにつくの!?

「え?」

 突然、こちらに矛先を向けられて葛葉は狼狽えてしまった。

「えっと。どっちでもいい、かな」

 ぼそぼそと葛葉が発言すると、たちまちその場がりつく。見れば、ユリと真希が厳しい表情でこちらを凝視していた。そこでやっと、葛葉は自分の失言に気付く。

「いや、違う、違うの。決していい加減な気持ちで『どっちでもいい』って言ったんじゃなくて、どっちも魅力的で選べないって意味だよ。うん」

 両手をひらひらさせて笑う。二人は無言のまま疑わしそうにこちらを見ているが、葛葉からすれば嘘でも無理をしているわけでもない。

 葛葉の人生のモットーは『流されるまま逆らわず』である。たとえ思い通りにならなくて誰かの言いなりになったとしても、特にそれほどのストレスを感じない。それが自分の中の数少ない美徳である、と葛葉はかに自負していたりする。

(というか……そう思えるのもみんな、ユリや真希のおかげだよね)

 今までもこの個性的な友人達に振り回されることで、自分ひとりでは決して得ることのなかった色々な楽しい思いをしてこられた。

 これではいけないと、自分だけで全部決めて行動してみたこともあるが、結局、何かつまらない。全体的に面白くない。さらに言えば、ロクなことがない。

(私って、あんまり運がないのかも。だったらせめて、パワフルでアグレッシブな彼女達の運気にあやからないと)

 自分を強引にどこかへ引っ張っていってくれる貴重な友達に感謝しながら、葛葉は二人の間で勃発した喧嘩の決着を大人しく待った。ところが、である。

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