追放された付与術師、自分自身を『神』へと強化する。~捨てられた俺、実は万能チート。美少女と無双する間に、元仲間は全滅しているようですが?~

sika3

第21話 元リーダーの逆恨み。「レントが不正をしたに違いない」

王都から北西へ数百キロ。
人間が立ち入ることのできない険しい山岳地帯を、四つの異形の影が疾走していた。

「ハァッ……ハァッ……! 素晴らしい……! なんて力だ!」

先頭を駆けるのは、漆黒の甲殻に覆われた巨躯の魔人――かつての『栄光の剣』リーダー、ヴァルスだ。
彼は本来の人間としての姿を失い、背中からは蠢く触手が、額からは捻じれた角が生えている。
だが、その表情に悲壮感はない。あるのは、狂気じみた歓喜だけだ。

ドォォォォン!!

ヴァルスが軽く地面を蹴ると、それだけで岩盤が砕け、数十メートルもの跳躍を見せる。
以前の彼なら、身体強化魔法をフルに使ってようやく届く高さだ。
それを、今の彼は呼吸をするように容易く行っていた。

「見たか、この跳躍力を! 俺は剣聖を超えた! いや、生物としての次元を超越したのだ!」

ヴァルスは空中で回転し、着地と同時に岩山に拳を叩き込んだ。
ズガアアアッ!
巨大な岩が粉々に砕け散る。

「あはははは! 凄いわヴァルス! 私も、魔力が溢れて止まらないの!」

後ろからついてくるのは、蜘蛛のような下半身を持つ女魔人――エリナだ。
彼女の手からは紫色の雷撃がバチバチと迸っている。
杖などいらない。彼女自身が強力な魔導兵器と化していた。

「お腹が空いた……肉……肉ぅ……」
「殺したい……壊したい……」

ジャミルとアリアもまた、獣のような姿に変貌し、理性を失いかけているが、その戦闘能力はSランク冒険者だった頃とは比較にならないほど跳ね上がっていた。

彼らは『魔神の欠片』を取り込み、魔人へと進化した。
人としての尊厳も、将来も、全てを捨て去った代償に手に入れた力。
だが、歪んだ彼らの精神は、それを「正しい進化」だと認識していた。

「これだよ……。これこそが、俺たち『栄光の剣』があるべき姿だったんだ!」

ヴァルスは自分の黒い爪を見つめ、陶酔したように呟く。

「俺たちは弱かったんじゃない。抑制されていたんだ。あのレントとかいう寄生虫のせいでな!」

彼の脳内では、過去の記憶さえも都合よく改竄されていた。
自分たちが弱体化したのはレントが抜けたせいではない。レントが自分たちの潜在能力を「封印」していたのだと。
あいつがいなくなった今、そして魔神の力を得た今、ようやく真の力が解放されたのだと。

「あいつ……レントの野郎、絶対に許さない」

ヴァルスの瞳が紫色に怪しく光る。

「あいつは不正をしたに違いない。あのドラゴンの素材も、城での無双も、全ては何らかの『チートアイテム』か『禁断の儀式』を使ったインチキだ。俺たちから搾取した運や魔力を不正に流用して、自分だけ強く見せかけているに決まってる!」

根拠のない妄想。
だが、今の彼にとってそれは絶対の真実だった。
努力もせず、才能もない雑用係が、自分たちより強いはずがない。
あいつは卑怯なペテン師だ。
だから、正義の鉄槌を下さなければならない。

「行くぞ、帝国へ! 帝国の軍勢と合流し、この力を見せつければ、俺たちは幹部として迎え入れられるはずだ!」

ヴァルスは北の空を睨んだ。

「そして大軍を率いてレントの城を包囲し、あいつを引きずり出してやる。俺たちの前で土下座させ、泣いて命乞いをするところを、なぶり殺しにしてやるんだ!」

「賛成よ! あいつの女たちも、全員私の餌にしてやるわ!」

四体の魔人は、邪悪な笑い声を上げながら闇の中を駆けていった。
彼らが向かう先には、ガレリア帝国の前線基地がある。
そこで彼らは、自分たちが単なる「使い捨ての手駒」として利用される運命にあるとも知らずに。



一方その頃。
俺たち『勇者一行(ハーレムパーティ)』は、帝国の国境付近にある『大渓谷』に差し掛かっていた。

「レント様、あちらをご覧ください」

シルヴィアがリムジンの窓から外を指差した。
眼下に広がるのは、大地を裂くように続く巨大な渓谷。
そして、その対岸には、山肌を削って作られた巨大な要塞が聳え立っていた。

ガレリア帝国、国境守備要塞『鉄壁の牙』。
高さ五十メートルを超える城壁と、無数の魔導砲台。
さらに、要塞全体を覆う半透明のドーム状結界。
物理、魔法、あらゆる攻撃を遮断する、大陸最強の盾とも呼ばれる難攻不落の要塞だ。

「あれが帝国の入り口か。正面から堂々と構えてるな」
「はい。あの『対魔断絶結界』は、帝国の魔導技術の結晶です。Sランク魔法ですら傷一つつかないと言われています」

シルヴィアの表情が硬くなる。
彼女の故郷も、帝国の圧倒的な軍事力の前に敗れ去ったのだ。
その象徴とも言える要塞を前に、緊張するのは無理もない。

「ふん、小賢しい障壁じゃ。妾のブレスで焼き尽くしてやろうか?」

イグニスが窓を開け、身を乗り出して火を吹こうとする。
短気なドラゴンだ。

「待て待て。いきなり壊すと、中の捕虜まで巻き添えにするかもしれない」

俺はイグニスを止めた。
今回の目的は殲滅ではない。あくまで捕虜の救出と、実験施設の破壊だ。
要塞の中には、まだ改造されていない人質がいる可能性がある。

「じゃあ、どうするのですか? 結界を解くには、内部の動力炉を破壊するしかありませんが……」
「解く必要はないよ」

俺はリムジンの速度を上げた。
黒塗りの車体は、空中に見えないレールがあるかのように、渓谷の上空を滑るように進んでいく。

「そのまま通り抜ける」
「えっ?」

要塞側も、こちらの接近に気づいたようだ。
警報のサイレンが鳴り響き、城壁の上に兵士たちが慌ただしく展開するのが見える。

「所属不明機に告ぐ! 直ちに停止せよ! これより先は帝国領空である!」

拡声魔法による警告。
当然、無視する。

「撃てぇッ! 対空魔導砲、斉射!」

ズドォォォォォン!!

城壁に並んだ砲台が一斉に火を噴いた。
数百発の魔力弾が、雨あられと俺たちのリムジンに降り注ぐ。

「きゃあっ!?」

セレスティアが悲鳴を上げて目を瞑る。
だが。

カンッ、カンッ、キンッ!

魔力弾はリムジンのボディに当たった瞬間、ガラス玉のように弾けて消滅した。
揺れ一つない。
俺がこのリムジンに付与しているのは、【物理無効】【魔法反射】【衝撃吸収】のフルコースだ。
帝国の最新兵器といえど、俺の工作(日曜大工)の前では豆鉄砲に過ぎない。

「な、なんだあの馬車は!? 砲撃が効かないぞ!」
「結界だ! 最大出力で防御しろ! 激突してくるぞ!」

要塞の兵士たちが叫ぶ。
目の前には、青白く輝く巨大な『対魔断絶結界』の壁。

俺はハンドルを握ったまま、指先で空中に文字を描いた。

「付与術・【透過(パス・コード)】設定。対象、このリムジン。条件、あらゆる障壁を『空気』と誤認させる」

俺の魔力がリムジンを包み込む。
世界を騙す、概念の書き換え。
最強の盾だろうが何だろうが、俺が「そこには何もない」と定義すれば、それは存在しないも同然だ。

「突っ込むぞ、舌を噛むなよ!」

俺はアクセルを踏み込んだ。
リムジンが加速する。
結界の壁が目の前に迫る。

「ぶつかるっ!」

シルヴィアが叫んだ瞬間。

ヌルッ。

衝撃音はなかった。
まるで水面に石を投げ入れたように、リムジンは結界をすり抜けた。
強固な魔力の壁が、俺たちの車体だけを受け入れ、通過させたのだ。

「え……?」
「通り抜けた……?」

要塞の兵士たちが呆然と見上げる中、俺たちのリムジンは要塞の上空を悠々と通過し、内部の広場へと着地した。

キキーッ!

タイヤが石畳を削り、砂煙を上げて停止する。
静寂。
数千人の帝国兵が、空から降ってきた黒い馬車を取り囲み、槍を向けているが、誰一人として動けない。
結界を無傷で突破された衝撃で、思考が停止しているのだ。

ドアが開き、俺が降り立った。
続いて、聖剣を構えたシルヴィア、炎を纏ったイグニス、翼を広げたセレスティア。
そして、執事服のゼクス(荷物持ち兼雑用)。

「よお。入国審査(パスポートコントロール)が面倒だったんで、ショートカットさせてもらった」

俺は取り囲む兵士たちに向かって、軽く手を挙げた。

「き、貴様は何者だ!」
「ここは帝国の最重要軍事拠点だぞ! 生きて帰れると思うな!」

指揮官らしき男が震える声で叫んだ。
俺は懐から、国王から預かった『勇者の紋章』を取り出して見せた。

「王国公認、勇者のレントだ。捕虜の返還と、違法実験の停止を求めに来た。……話し合いで解決するならそれが一番だが、どうする?」

俺が笑みを浮かべると、指揮官は顔を真っ赤にして剣を抜いた。

「勇者だと!? ふざけるな! たかが数人で何ができる! 全兵、かかれ! 殺せぇぇッ!」

「はあ。やっぱりそうなるか」

話し合い(物理)の時間だ。
俺はため息をつき、後ろのメンバーに合図した。

「殺すなよ。あくまで無力化だ」
「承知しました!」
「手加減というのは難しいのじゃがな」

戦闘開始。
帝国兵が一斉に襲いかかってくる。
だが、その動きは俺たちにとってはスローモーションに見えた。

「【聖剣技・風牙】!」

シルヴィアが剣を一閃させる。
真空の刃が走り、数十人の兵士の武器だけを綺麗に弾き飛ばした。
鎧の留め具も切断され、兵士たちはパンツ一丁になってその場に崩れ落ちる。

「うわぁぁっ! 鎧が!」
「剣が折れた!?」

「ほれほれ、熱いぞ!」

イグニスが火球を放つ。
直撃すれば消し炭になる威力だが、彼女は器用に爆発の衝撃波だけを当て、兵士たちをピンのように吹き飛ばしていく。
空を飛ぶ兵士たちが「た~まや~」状態で舞い上がる。

「眠りなさい……【安らかなる羽音】」

セレスティアが歌うように魔法を紡ぐ。
黄金の羽が降り注ぐと、殺気立っていた兵士たちが次々とその場に倒れ込み、スヤスヤと寝息を立て始めた。
広域催眠魔法だ。

「ひ、ひぃぃぃッ! 化け物だ! こいつら全員、Sランク級か!?」

指揮官が後ずさる。
俺は何もしていない。
ただ、ポケットに手を突っ込んで歩いているだけだ。
だが、俺に近づこうとする兵士は、俺が発する【威圧】のオーラに当てられ、半径五メートル以内に入った瞬間に気絶してしまう。

「さて、指揮官さん」

俺は指揮官の目の前まで歩み寄った。
彼は腰を抜かしてへたり込んでいる。

「捕虜はどこだ? あと、実験施設への入り口は?」
「し、知らん! お前のような非常識な奴に教える義理は……」

ズンッ。

俺は彼の横にある巨大な監視塔に、軽くデコピンをした。
轟音と共に、石造りの塔が根元からへし折れ、崩壊した。

「……あ、あっちです! 地下搬入口から第三区画へ!」

指揮官は光の速さで指差した。
素直でよろしい。

「行くぞみんな」

俺たちは案内された地下への入り口に向かった。
要塞の地上戦力は、わずか数分で壊滅(全員気絶かパンツ一丁)していた。



地下施設への道中。
通路は薄暗く、薬品の臭いと魔力の残滓が漂っていた。

「嫌な気配です……。上よりも、もっと濃い瘴気が……」

セレスティアが不安げに翼を畳む。
彼女はこういう気配に敏感だ。

「ああ。どうやら『改造』はかなり進んでいるみたいだな」

俺の魔力探知には、複数の強力な生体反応が映っていた。
人間のものではない。かといって純粋な魔物でもない。
歪で、強制的に力を引き出された悲鳴のような波形。

その時、通路の奥から拍手が聞こえてきた。

パチ、パチ、パチ。

「素晴らしい。まさかあの『鉄壁の牙』を、たった数分で突破するとはね」

現れたのは、白衣を着た優男だった。
眼鏡をかけ、知的な雰囲気を漂わせているが、その目は爬虫類のように冷たい。
帝国の宮廷魔導師にして、生体実験の主導者、ベルガー博士だ。

「初めまして、勇者レント君。君の活躍は聞いているよ。ドラゴンの素材、壊れた測定器……君の体は、とても興味深い研究材料だ」

ベルガーは舌なめずりをした。
マッドサイエンティストのテンプレのような奴だ。

「俺の体より、自分の命の心配をしたほうがいいぞ」
「フフ、強気だね。だが、ここは私の庭だ。私の最高傑作たちの実験場なのだよ」

ベルガーが指を鳴らすと、背後の巨大な扉が開いた。
そこから、三体の異形の戦士が現れた。

全身が鋼鉄の筋肉で覆われた大男。
四本の腕を持ち、それぞれに魔剣を持つ剣士。
そして、半身が蛇と同化した魔女。

「紹介しよう。彼らは『魔人部隊』の試作型だ。元はただの農民や捕虜だったが、魔神の細胞を移植することで、Sランク冒険者にも匹敵する力を手に入れた」

「……っ! あれは……!」

シルヴィアが息を呑んだ。
彼女の視線は、四本腕の剣士に釘付けになっていた。

「クリス……!? クリス団長なの!?」

剣士がピクリと反応した。
兜の下から覗く瞳は虚ろだが、その顔立ちは確かに、シルヴィアが探していた女騎士団長クリスティーナのものだった。
だが、その体は醜く改造され、余分な腕が生やされている。

「あーあ、可哀想に。自我は消したつもりだったんだが、王女様の声には反応しちゃうかな?」

ベルガーがニヤニヤと笑う。

「さあ、実験開始だ。行け、魔人たち! 旧主の首を刎ねて、その性能を証明してみせろ!」

「ウオオオオオッ!!」

魔人たちが咆哮を上げ、襲いかかってきた。
その速さは、先程の一般兵とは次元が違う。

「レント様! クリス団長は私が!」
「ああ、任せた。殺すなよ、元に戻すからな」
「はいっ!」

シルヴィアが飛び出し、クリスと激突する。
聖剣と魔剣が火花を散らす。

「残りの雑魚は妾とセレスティアでやるぞ!」
「は、はい! 浄化します!」

イグニスとセレスティアも戦闘に入る。
俺はベルガーに向かって歩き出した。

「さて、博士。お前には色々と聞きたいことがあるんだが」
「来るな! 私の護衛は……!」

ベルガーが後ずさる。
その時、通路の壁が爆発した。

ドゴォォォォォン!!

「な、なんだ!?」

粉塵の中から現れたのは、四つの影。
禍々しい紫色のオーラを纏った、異形の怪物たち。

「……見つけたぞ、レントォォォッ!」

その声に、俺は足を止めた。
聞き覚えのある、粘着質で不快な声。

「その声……まさか、ヴァルスか?」

煙が晴れると、そこには虫のような甲殻を持つ魔人が立っていた。
かつての面影はほとんどないが、その歪んだ憎悪の眼差しだけは、間違いなくあの元リーダーのものだった。

「誰だか分からなかったぜ。随分とイメチェンしたな」
「黙れ! 貴様のせいで! 貴様のせいで俺たちは!」

魔人ヴァルスが叫ぶ。
後ろには、蜘蛛女になったエリナ、獣人化したジャミルとアリアもいる。
彼らは帝国軍とは関係なく、独自にここへ辿り着いたらしい。
ベルガーも「なんだこいつらは? 私の作品ではないぞ?」と困惑している。

「レント……殺す……殺して、俺たちが最強だと証明するんだ!」

ヴァルスの腕が変形し、巨大な鎌のような刃になった。
彼から放たれる魔力は、先程の試作型魔人たちよりも遥かに高く、禍々しい。
魔神の欠片への適合率が高かったのか、あるいは執念が力を増幅させているのか。

「やれやれ。ストーカーもここまで来ると感心するよ」

俺は肩をすくめた。

「いいだろう。不正だインチキだとうるさいお前らに、本物の『格』の違いってやつを教えてやる」

俺はポケットから手を出し、構えを取った。
勇者レント対、魔人ヴァルス。
因縁の対決(といっても一方的だが)が、帝国の地下施設で幕を開ける。

「全員まとめてかかってこい。片手で十分だ」

俺の挑発に、四体の魔人が理性を飛ばして突っ込んできた。
復讐劇のクライマックス。
そして、彼らにとっての本当の絶望が始まる。

第22話へ続く。

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