追放された付与術師、自分自身を『神』へと強化する。~捨てられた俺、実は万能チート。美少女と無双する間に、元仲間は全滅しているようですが?~

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第18話 元パーティ、クエスト失敗。Sランクから陥落の危機。

「旦那様、お庭の手入れが完了いたしました」

翌朝、城のテラスで優雅にモーニングコーヒーを嗜んでいた俺のもとに、一人の男が恭しく報告に訪れた。
黒い執事服に身を包んだ、痩せこけた長身の男。
顔色は土気色で、頬はこけ、眼窩の奥には赤い鬼火が揺らめいている。
昨日まで魔王軍四天王『死霊公爵』として恐れられていた、ゼクスだ。

「早かったな、ゼクス。あの荒れ地だった裏庭、もう耕したのか?」
「ハッ! 我が配下のスケルトン部隊、一万体を動員し、不眠不休で開墾させました。さらに、ゾンビの腐敗液を肥料として撒いたため、土壌の栄養価は抜群です。……少々臭いますが」
「臭いはエリスに消臭させればいい。ご苦労だったな」

俺はテラスから裏庭を見下ろした。
そこには、綺麗に整地された広大な農地が広がっていた。
無数のスケルトンたちが、鍬やじょうろを持って甲斐甲斐しく働いている。
かつて人間を襲っていた魔物が、今はトマトやキュウリを育てている光景はシュール極まりないが、労働力としては最高だ。文句も言わないし、給料もいらない。

「ゼクスよ、お主も丸くなったのう。昨日の殺気はどうした?」

隣でホットミルクを飲んでいたイグニスが、意地悪く笑う。

「グヌゥ……。全ては旦那様の圧倒的な力に屈したため……。それに、ここの待遇は悪くありません。魔力が潤沢に供給されるため、私の腐りかけた肉体も維持しやすいのです」

ゼクスはまんざらでもなさそうだ。
魔王軍ではパワハラが横行していたらしいが、うちはホワイト企業(アンデッド基準)だからな。

「レント様、ギルドからお手紙が来ていますよ」

メイド服に着替えたセレスティアが、銀盆に載せた手紙を持ってきた。
彼女の背中の翼は普段はしまっているが、溢れ出る聖女オーラだけで部屋が浄化されそうだ。
ゼクスが「ヒィッ、眩しい!」と顔を覆って後ずさる。相性最悪だな。

「ギルドから? また呼び出しか?」

俺は手紙を開封した。
中身はレイナさんからの報告書だった。
魔王軍撃退の報酬に関する手続きと、もう一つ、追伸として書かれた内容に俺は目を留めた。

『追伸:先日、元「栄光の剣」の皆様がギルドに戻られましたが……大変なことになっております』

俺はニヤリと口角を上げた。
どうやら、昨夜の森での「遠足」から、彼らは無事に(?)生還したらしい。
地獄を見てきた彼らがどうなったのか。
俺はコーヒーを飲み干し、その末路を想像して楽しむことにした。



一方その頃。
王都の冒険者ギルド本部は、朝から重苦しい空気に包まれていた。
ロビーの中央で、ボロボロの浮浪者のような集団が、ギルド職員に喚き散らしていたからだ。

「だから! 俺たちは魔王軍と戦ってきたんだよ! 見てみろこの傷を! 名誉の負傷だ!」

叫んでいるのはヴァルスだ。
彼の鎧はひしゃげ、顔はゾンビに引っかかれた傷だらけ。
片足を引きずり、脂汗をかいている。
エリナ、ジャミル、アリアも同様に、服は裂け、泥と血にまみれて憔悴しきっていた。

昨夜、彼らは魔王軍の残党であるゾンビの群れに襲われ、森の中を逃げ惑った。
武器が壊れているためまともに戦えず、アリアの魔力も枯渇していたため回復もできず、まさに死に物狂いで王都まで這い戻ってきたのだ。

「ヴァルス様……そう仰られましても、討伐証明部位がありませんよね?」

対応する職員は、困り果てた顔で言った。
魔物を倒した証拠となる魔石や体の一部がなければ、ギルドは報酬を支払えないし、実績としても認められない。

「あんな乱戦の中で回収できるかよ! 命からがらだったんだ! 俺たちが囮になって時間を稼いだおかげで、魔王軍の進撃が遅れたんだぞ! むしろ感謝して報酬を寄越せ!」
「しかし、報告によれば、魔王軍の主力は特級英雄レント様によって壊滅させられたとのことですが……」
「ぐっ……! あいつは最後においしいところを持っていっただけだ! 俺たちが削ったんだよ!」

見苦しい嘘だった。
周囲の冒険者たちも、冷ややかな視線を送っている。
Sランク冒険者にあるまじき醜態。
かつての威光は、もう欠片も残っていなかった。

「そこまでじゃ」

威厳のある声が響き、ギルドマスターのガンドルが現れた。
彼は厳しい表情でヴァルスたちを見下ろした。

「ギ、ギルマス……! 聞いてくれ、俺たちは……」
「言い訳は聞きたくない。ヴァルス、お主らの最近の素行、目に余るぞ」

ガンドルは太い腕を組み、冷徹に告げた。

「装備のメンテナンス不足によるクエスト失敗。街中での騒乱。多額の借金トラブル。そして今回の、虚偽報告疑惑。……これ以上、ギルドの顔に泥を塗るつもりか?」
「きょ、虚偽じゃない! 俺たちは本当に……!」
「黙れ!」

ガンドルの一喝に、ヴァルスは肩を震わせた。

「お主らが森にいたのは知っておる。だが、それは魔王軍と戦うためではないな? レントの城へ盗みに入ろうとして、逆に追い払われただけではないのか?」
「な……ッ!?」

図星を突かれ、四人の顔が青ざめる。
ギルドの情報網を甘く見ていた。

「Sランク冒険者が空き巣とは、嘆かわしい。本来なら即刻ライセンス剥奪、犯罪奴隷に落とされても文句は言えんぞ」

犯罪奴隷。
その言葉に、エリナが「ひっ」と悲鳴を上げた。

「だ、だが、わしもお主らのこれまでの功績を完全に無視するわけではない。かつて国を救った働きに免じて、一度だけチャンスをやろう」

ガンドルは一枚の依頼書(クエストペーパー)を取り出した。

「緊急クエスト『ワイバーンの群れ討伐』じゃ。西の街道沿いに巣食ったワイバーン三体を駆除せよ。推奨ランクはA。……本来のSランクであるお主らなら、朝飯前の仕事じゃろう?」
「ワ、ワイバーン……?」

ヴァルスの顔が引きつった。
ワイバーンは空を飛ぶ飛竜種だ。
硬い鱗と毒の爪を持ち、空からのブレス攻撃を行う強敵。
以前の『栄光の剣』なら、ヴァルスが跳躍して首を刎ね、エリナが魔法で撃ち落とし、数分で終わる相手だっただろう。

だが、今の彼らは武器もなく、魔力もなく、体調も最悪だ。

「こ、この状態でか!? 無理だ! せめて準備金を……装備を整える金を貸してくれ!」
「甘えるな。これがお主らの『査定』じゃ。今の装備、今の状態で結果を出してみせよ。それができなければ――」

ガンドルの目が鋭く光った。

「『栄光の剣』は解散。ランクはFまで降格とし、借金返済のために鉱山送りとする」

最後通牒(アルティメイタム)。
拒否権はない。
やるか、破滅か。

「……くそッ! やってやるよ! ワイバーンくらい、俺の剣技があれば余裕だ!」

ヴァルスは依頼書を引ったくった。
根拠のない自信ではない。そう思い込まなければ心が折れてしまうからだ。
彼らはボロボロの体のまま、西の街道へと向かった。



西の街道、岩山地帯。
昼下がりの太陽が照りつける中、ヴァルスたちは岩陰に隠れて息を潜めていた。
上空を、翼長五メートルほどのワイバーンが三体、旋回している。
ギャオオオッ! という鳴き声が、彼らの鼓膜を揺らす。

「……おい、どうするんだよ。あんな高いところ、剣が届かねえぞ」

ジャミルが震える声で言った。
彼の手にあるミスリルのナイフは、昨夜ゾンビの骨を叩いたせいで刃こぼれし、ノコギリのようになっている。

「エリナ、魔法で撃ち落とせ! お前の火球なら届くだろ!」
「無理よ! 杖が折れてるのよ! それに、あんな素早い動き、誘導付与(ホーミング)がないと当たらないわ!」

エリナがヒステリックに叫ぶ。
レントがいた頃は、彼女の魔法には必ず【追尾付与】と【射程延長】が掛けられていた。
適当に撃っても百発百中だったのは、彼女の腕ではなくレントの補助のおかげだったのだ。

「くそっ、じゃあ俺が囮になる! 降りてきたところを叩くぞ!」

ヴァルスが岩陰から飛び出した。
大声で叫び、剣を振り回して挑発する。

「こっちだトカゲ野郎! Sランクの剣聖、ヴァルス様が相手だ!」

ワイバーンたちが獲物を見つけ、急降下を開始した。
速い。
風切り音と共に、毒の爪が迫る。

「らぁぁぁッ!」

ヴァルスはタイミングを合わせて剣を振り上げた。
カウンターの一撃。
決まれば首が飛ぶ――はずだった。

ガキンッ!!

「ぐあぁっ!?」

鈍い音がして、ヴァルスの剣がワイバーンの爪に弾かれた。
刃が通らない。
レントの【切れ味強化】と【装甲貫通】がない剣では、ワイバーンの鋼鉄の鱗どころか、爪の表面すら傷つけられなかったのだ。

衝撃でヴァルスの手首が悲鳴を上げ、剣が手からすっぽ抜けた。
クルクルと回って飛んでいった剣は、岩に当たってポッキリと折れた。

「あ……俺の剣……」

ヴァルスが呆然とした隙に、ワイバーンの尻尾が彼の胴体を薙ぎ払った。

ドゴォォォォォン!

「ガハッ……!?」

ヴァルスはボールのように吹き飛ばされ、岩壁に激突した。
肋骨が数本折れる嫌な音がした。
口から大量の血を吐き出し、地面に崩れ落ちる。

「ヴァルス!」

アリアが叫ぶが、彼女も動けない。
ワイバーンの一体が、後衛の彼女たちに狙いを定めたからだ。

「いやっ……来ないで!」

エリナが杖を振るが、小さな火花が出ただけだった。
ワイバーンが口を開け、火炎ブレスの予備動作に入る。

「ひぃぃぃッ! 助けてくれぇぇ!」

ガイルとジャミルは腰を抜かして失禁していた。
Sランクパーティの連携など見る影もない。
ただの餌だ。

絶体絶命。
死が目前に迫ったその時。

「――おやおや。無様ですねえ」

上空から、聞き覚えのある涼やかな声が降ってきた。

ズドォォォォォン!!

轟音と共に、ワイバーンの頭上から何かが落下してきた。
いや、踏みつけてきたのだ。
ワイバーンの一体が、巨大な質量に押しつぶされ、地面にめり込んだ。
即死だ。

「な……?」

砂煙が晴れると、そこには漆黒のメイド服を着たオートマタ――エリスが立っていた。
彼女はハイヒールの踵でワイバーンの頭を踏み砕き、無表情でスカートの埃を払った。

「旦那様ノ命令ニヨリ、コノ付近ノ空域ハ飛行禁止区域ニ指定サレテイマス。害鳥ハ駆除シマス」

エリスは残りの二体を見上げ、背中の翼を展開した。
ガシャンッ、と変形音が響き、肩からマイクロミサイルの発射口が現れる。

「ターゲットロック。全弾発射」

シュバババババッ!

無数の小型ミサイルが放たれ、空中のワイバーンたちに吸い込まれていく。
回避運動を取ろうとしたワイバーンだが、誘導弾からは逃げられない。

ドカァァァン! ズガァァァン!

空中で花火のような爆発が起こり、黒焦げになった肉塊がボタボタと落ちてきた。
瞬殺。
Sランクパーティを壊滅寸前に追いやった魔物を、たった一人のメイドが数秒で処理してしまった。

「……あ、あ……」

ヴァルスは霞む目でそれを見ていた。
エリス。
レントの城にいたメイド。
あいつの『所有物』の一つ。

エリスはこちらを向いた。
その青い瞳が、冷徹にヴァルスたちをスキャンする。

「生存者ヲ確認。……チッ、不燃ゴミデシタカ」

エリスはあからさまに舌打ちをした。
メイドにあるまじき態度だが、彼女の『感情回路』にはレントへの忠誠以外の部分で少々ドライな設定がされているらしい。

「レ、レントが……助けに来てくれたのか……?」

ヴァルスが微かな希望を抱いて問いかけた。
もしかしたら、まだ俺たちのことを気にかけてくれているのではないか。

「イイエ。旦那様ハ『庭デ取レタ野菜デBBQヲスルカラ、邪魔ナ鳥ヲ追イ払ッテコイ』ト仰ッタダケデス。アナタ方ノコトナド、視界に入ッテイマセン」

エリスは冷たく言い放ち、ワイバーンの死骸(素材)を亜空間収納に放り込んだ。

「運ガ良カッタデスネ。タマタマ、駆除ノついでニ命拾イシタヨウデス。……サッサト消エテクダサイ。視界ニ入ルト、旦那様ノ食欲ガ落チルソウナノデ」

エリスはバーニアを噴射し、空へと飛び去っていった。
残されたのは、半死半生で横たわる四人と、折れた剣、そして圧倒的な絶望感だけだった。

「……ついで、だと……?」

ヴァルスは血の涙を流した。
自分たちが命懸けで挑み、敗北した相手を、レントの『メイド』はついでに掃除しただけ。
レント本人が出てくるまでもない。
それほどの格差。

「う、うあぁぁぁぁ……ッ!」

ヴァルスは慟哭した。
クエスト失敗。
装備全損。
そして、プライドの完全崩壊。

彼らは這うようにしてギルドに戻った。
待っていたのは、ガンドルの冷酷な宣告だった。

「失敗か。しかも、レントの使い魔に助けられたそうじゃな」

ガンドルは冷たく見下ろした。
ワイバーンの討伐証明がない以上、クエストは未達成。
しかも、一部始終を見ていたギルドの監視員から報告が入っていた。

「約束通り、『栄光の剣』は本日をもって解散とする。ランクは剥奪。そして……」

ガンドルは羊皮紙を突きつけた。

「借金総額、金貨三千枚。これを返済するため、お主らには『魔の山』の鉱山で強制労働についてもらう。期間は……まあ、生きていれば数十年かのう」

「い、嫌だぁぁぁ! 鉱山なんて! 俺は剣聖だぞ!」
「私の美貌が台無しになるわ! やめて!」

彼らの悲鳴は誰にも届かない。
屈強なギルド職員たちによって、四人は引きずられていった。
かつて英雄として崇められた彼らの、あまりにもあっけない幕切れだった。



その頃、レントの城の庭園では。

「おっ、エリスが帰ってきたな。良い肉が手に入ったか?」
「ハイ、旦那様。脂ノ乗ッタ上質ナワイバーン肉デス」
「でかした。じゃあ今日は焼肉パーティーだな!」

俺は七輪に火を起こし、セレスティアが用意した野菜と、エリスが持ち帰った肉を焼き始めた。
ジュウウウゥ……と良い匂いが立ち上る。

「レント様、あーんしてください」
「うむ、妾が焼いてやろう。……あ、焦げた」
「私が浄化しましょうか?」
「肉を浄化してどうする」

シルヴィア、イグニス、セレスティア、エリス。
四人の美女に囲まれ、俺は最高の休日を満喫していた。
元仲間たちのことなど、本当に脳裏をよぎりもしなかった。
彼らはもう、俺の人生という物語から退場したのだから。

だが、物語はまだ終わらない。
彼らの退場と入れ替わるように、新たな、そしてより巨大な問題が俺の元へ近づいていた。
国王からの呼び出し、そして隣国の不穏な動き。
最強の付与術師の毎日は、まだまだ退屈しそうにない。

第19話へ続く。

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