追放された付与術師、自分自身を『神』へと強化する。~捨てられた俺、実は万能チート。美少女と無双する間に、元仲間は全滅しているようですが?~

sika3

第13話 元パーティの焦り。「レントがいないとポーションの効果が出ない!?」

「くそっ、寒い……。なんだこの森は。夜になると冷え込みが厳しすぎるぞ」

王都の北、湖畔に広がる森の奥深く。
闇に紛れて移動していた『栄光の剣』のメンバーたちは、寒さと疲労に震えていた。
彼らの視線の先には、闇夜に白く浮かび上がる巨大な城がある。
かつては廃墟だったはずが、今や神々しいまでの光を放ち、見る者を圧倒する威容を誇っていた。
レントが手に入れた城だ。

「おい、ヴァルス。本当にやるのか? あんなデカい城だぞ。警備だって厳重なんじゃないか?」

盗賊のジャミルが、白い息を吐きながら不安げに尋ねる。
彼の装備である軽鎧はボロボロで、肩の留め具が壊れているため、動くたびにカチャカチャと情けない音を立てていた。

「ここまで来て怖気づいたか? 俺たちはSランクパーティだぞ。相手はたかがあのレントだ。城が立派だからって、中身はあの臆病者のままだ」

リーダーのヴァルスは、自分に言い聞かせるように強く言った。
だが、彼自身の体調も最悪だった。
昼間のビートル戦で負った脇腹の傷が、まだズキズキと痛む。
アリアのヒールを受けたはずなのに、傷口が完全に塞がっていないのだ。

「それにしても、痛ぇな……。おいアリア、もう一度ヒールをかけろ。傷が開いてきた」
「無理よ。もう魔力がすっからかんなの。自然回復を待つしかないわ」

聖女アリアもまた、疲弊しきっていた。
彼女の顔色は悪く、聖衣は泥にまみれている。
かつて「聖女様」と崇められた面影はない。

「ちっ、使えねえな。……仕方ない、虎の子のハイポーションを使うか」

ヴァルスは懐から一本の小瓶を取り出した。
赤黒い液体が入ったそれは、一本で金貨十枚はする高級回復薬だ。
市場に出回っている中でも最高品質のもので、瀕死の重傷でも瞬時に治癒するという触れ込みだった。
今の彼らの所持金では、これが最後の命綱とも言えるアイテムだ。

「もったいねえが、背に腹は代えられん。万全の状態でレントをシメて、あいつの金庫から倍にして回収してやる」

ヴァルスは瓶の栓を抜き、一気に中身をあおった。
苦味と渋みが喉を焼く。

「……ん?」

ヴァルスは眉をひそめた。
数秒待つ。
十秒待つ。
三十秒待つ。

「……おい、どうなってんだ?」

傷の痛みが引かない。
いや、多少はマシになった気もするが、劇的な回復とは程遠い。
以前なら、飲んだ瞬間に体が熱くなり、傷口がジジジッと音を立てて塞がったはずだ。

「偽物を掴まされたか!? あの道具屋の親父、足元を見やがって!」

ヴァルスが空き瓶を地面に叩きつけようとした時、魔導師のエリナが青ざめた顔で口を開いた。

「待って、ヴァルス。それ、偽物じゃないわ。ラベルを見て。『王立錬金工房印』がある。間違いなく最高級品よ」
「だったらなんで効かねえんだよ! 俺の体がおかしいってのか!?」
「……違うわ。逆よ。私たちの体が『強すぎる』の」

エリナが絶望的な事実に気づいたように、震える声で続けた。

「Sランク冒険者である私たちの肉体は、常人とは比べ物にならないほど魔力密度が高いわ。だから、外部からの魔力干渉……つまりポーションや魔法の効果を受け付けにくいのよ。それを『魔力抵抗(レジスト)』と言うでしょ?」
「ああ、知ってるさ。敵の魔法を防ぐために必要な能力だろ」
「そう。でもそれは、味方の回復魔法やポーションの効果も弾いてしまうってことなの」

エリナの言葉に、全員が息を呑んだ。
高レベル冒険者のジレンマ。
強くなればなるほど、低ランクの回復手段が通用しなくなる。

「でも、今までは効いてたじゃないか! 普通のポーションでも、飲めば一発で全快したぞ!」
「……レントがいたからよ」

アリアが、蚊の鳴くような声で言った。
彼女は自分の杖を強く握りしめた。

「思い出して。私たちがポーションを飲むとき、いつもレントが渡してくれていたわよね? あるいは、アンプルに移し替えてくれていた」
「あいつが雑用係だったからだろ」
「違うわ。あいつ、飲む直前に『付与』をかけていたのよ。【吸収率向上】とか【薬効増幅】とか【抵抗貫通】とか……。私たちの高い魔力抵抗を一時的に中和して、薬の効果だけをダイレクトに届けるような、神業みたいな調整をしていたんだわ……」

沈黙が流れた。
森の冷たい風が、彼らの頬を打つ。

彼らが当たり前だと思っていた「回復」は、当たり前ではなかった。
ポーション一本飲むのにも、レントの超絶技巧によるサポートが必要不可欠だったのだ。
それを失った今、彼らにとって市販のハイポーションなど、ただの苦い水と大差ない。

「じゃあ何か? 俺たちはもう、傷を治すことも、疲労を回復することも、あいつなしじゃまともにできないって言うのか!?」
「……認めたくないけど、そういうことになるわね」

ガイルが力なく眼鏡を押し上げた。
彼のMP回復ポーションも同様に、飲んでも雀の涙ほどしか回復しなかった理由がこれで判明した。

「ふざけるな……! ふざけるなぁぁッ!」

ヴァルスは激情に任せて近くの木を蹴りつけた。
ドスッ、という鈍い音がして、逆に足が痺れた。

「あいつ、わざとか!? 俺たちが依存するように仕向けてやがったのか! なんて陰湿な野郎だ!」
「やっぱり呪いじゃなかったのね。……もっとタチが悪いわ。あいつがいなきゃ生きていけない体にされていたなんて」

逆恨みも極まれりである。
レントはただ、彼らが快適に冒険できるように善意で尽くしていただけだ。
それを「依存させる罠」と解釈するのは、彼らの心が歪んでいる証拠だった。

「だとしたら、なおさらあいつを捕まえなきゃならねえ!」

ヴァルスは血走った目で城を睨んだ。

「あいつを捕らえて、一生俺たちの専属奴隷にする! ポーション係として鎖に繋いでやる! 行くぞ、強行突入だ!」

論理的思考ができなくなっている彼らは、傷ついた体を引きずりながら城壁へと近づいていった。
それが、蟻地獄への第一歩だとも知らずに。



一方、城の中。
最上階にある展望大浴場。
ガラス張りの壁からは月夜に照らされた湖が一望できる、絶景のスパリゾートだ。
湯船には、俺が【温泉生成】の付与で作り出した、美肌効果と疲労回復効果のある乳白色の湯が満たされている。

「あ~、極楽極楽」

俺は広い湯船に手足を伸ばして浸かっていた。
一日の疲れ(と言っても、ほとんど魔法で城をリフォームしていただけだが)が溶けていくようだ。

「レント様、お背中流しますね」
「うむ、妾は前を洗ってやろう」

両サイドから、シルヴィアとイグニスが密着してくる。
シルヴィアは純白のバスタオルを巻き、イグニスは……まあ、湯気で隠れているということにしておこう。
二人とも上気した肌が艶めかしく、目のやり場に困るが、男としては天国のような状況だ。

「城の住み心地はどうだ?」
「最高です! エリスさんが用意してくれたお部屋も素敵ですし、何よりこのお風呂……お肌がツルツルになります!」
「食事も美味いしのう。地下の冷凍庫にあった『千年熟成ドラゴンテール』、あれは絶品じゃった」

イグニスが舌なめずりをする。
そう、夕食はエリスの手料理だったのだが、これがまたプロのシェフ顔負けの味だった。
彼女の機能には【超絶調理スキル】もインストールされていたらしい。

「平和だなあ」

俺は天井を見上げた。
Sランク迷宮で命を削っていた日々が嘘のようだ。
こうして美女に囲まれ、温かい湯に浸かり、何不自由ない生活。

「……ん?」

その時、俺の【魔力探知】の端に、微かな反応が引っかかった。
城の敷地外縁部。
ネズミのような、小さくて弱々しい反応が四つ。

「どうしました、レント様?」
「いや、なんか虫が入ってきたみたいだ」
「虫ですか? 結界があるのに珍しいですね」
「まあ、害はないだろう。エリスに任せておけばいい」

俺は興味を失い、再び湯船に深く沈んだ。
エリスには「城の美観を損ねる不法投棄物は、速やかに処理しろ」と命令してある。
俺がわざわざ出向くほどのことではない。



城壁の外。
『栄光の剣』の四人は、高さ十メートルはある城壁を見上げていた。
白く輝く壁は、継ぎ目一つなくツルツルとしており、登ることは不可能に見える。

「ジャミル、どうだ? 入り口は見つかったか?」
「いや、正門は固く閉ざされてる。でも、裏口らしき勝手口を見つけたぜ」

ジャミルが指差した先には、使用人用の小さな通用口があった。
もちろん、そこにも厳重な魔法鍵がかかっているはずだが。

「よし、俺のピッキングスキルで……」

ジャミルが愛用の解錠ツールを取り出し、鍵穴に差し込もうとした。

バチィッ!!

「ぎゃあっ!?」

ジャミルが悲鳴を上げて飛び退いた。
指先から煙が出ている。

「な、なんだ!? 電撃か!?」
「物理接触に反応する迎撃結界ね……。さすがに無防備じゃないわ」

エリナが舌打ちをする。

「なら、魔法で吹き飛ばすまでよ。私の杖は壊れてるけど、ガイル、あんたやりなさい」
「ええっ、僕ですか? MPがもったいないですが……」
「つべこべ言わずにやれ!」

ガイルは渋々杖を構え、通用口に向けて魔法を放った。
「【火球(ファイア・ボール)】!」

ドォン!

炎が扉に直撃する。
しかし、煙が晴れると、扉には傷一つついていなかった。
それどころか、扉の表面が鏡のように光り、魔法の余波を反射した。

「うわっ!」

跳ね返ってきた熱波に、四人は慌てて伏せた。

「魔法反射(リフレクション)まで付いてるのかよ! 要塞かここは!」
「くそっ、やっぱりレントの仕業か。あいつ、性格の悪さが守りに出てるな」

どこまでもレントのせいにする彼らだが、その時、頭上から無機質な声が降ってきた。

「――警告。不法侵入者ヲ検知。識別信号、該当ナシ。脅威度判定、Eランク以下」

「あ?」

彼らが見上げると、城壁の上に一人のメイドが立っていた。
月光を背に受け、長いスカートをはためかせている。
エリスだ。
彼女は冷たい青い瞳で、ゴミを見るような視線を彼らに向けていた。

「なんだあの女……メイドか?」
「おい姉ちゃん! そこを開けろ! 俺たちはここの主人、レントの友人だ!」

ヴァルスが咄嗟に嘘をついた。
友人と言えば入れてもらえると思ったのだろう。
浅はかである。

エリスは首を少し傾げた。

「照合中……。マスター・レントノ交友関係データベースニ該当者ナシ。カツ、音声波形ニ『虚偽』『悪意』『嫉妬』ノ感情パターンヲ検出」
「なっ……!?」
「結論。アナタ方ハ友人デハアリマセン。タダノ『不燃ゴミ』デス」
「ゴ、ゴミだとぉ!?」

プライドの高いヴァルスが激昂する。
Sランク冒険者である自分たちをゴミ呼ばわりなど、万死に値する。

「なめやがって! 俺たちを誰だと思ってる! 『栄光の剣』だぞ!」
「名称、『栄光の剣』。検索結果……『過去ノ遺物』『没落確定』『レント様ノ寄生虫』ト表示サレマシタ」
「ぶっ殺してやる!!」

ヴァルスが剣を抜き、壁に向かって駆け出した。
ジャミルもナイフを構え、エリナとガイルも詠唱を始める。
総力戦だ。

エリスはスカートを持ち上げ、優雅に一礼した。

「旦那様ノ安眠ヲ妨害スル害虫ニハ、相応ノ駆除ヲ行イマス。掃除用具(ウエポン)、展開」

彼女のエプロンのポケットから、数本の「銀色の筒」が飛び出した。
それらは空中で変形し、自律浮遊する小型の砲台(ビット)となった。
さらに、彼女の手には巨大なモップ――に見せかけた高出力魔導ランス――が握られる。

「お掃除開始デス」

シュンシュンシュンシュンッ!

浮遊砲台から、青白い光線が放たれた。
それは殺傷力こそ抑えられているものの(死体の処理が面倒だから)、強烈な衝撃と麻痺効果を持つスタングレネードのような魔法弾だ。

「ぐわっ!?」
「きゃああっ!」

光の雨に打たれ、四人は為す術もなく吹き飛ばされた。
盾で防ごうとしたヴァルスの剣は、光弾の一撃でポッキリと折れた。
もともと限界だった剣が、ついに寿命を迎えたのだ。

「俺のドラゴンスレイヤーがぁぁっ!?」
「魔法障壁が……割れた……!?」

エリナの張ったバリアも紙切れのように引き裂かれる。
彼らの劣化装備と低下したステータスでは、エリスの攻撃を防ぐことなど不可能だった。

「ターゲット無力化ヲ確認。続イテ、廃棄処分ヲ実行シマス」

エリスが城壁から舞い降りた。
その動きは風のように軽く、かつ重機のように重厚だ。
彼女は倒れているヴァルスの首根っこを、片手でひょいと持ち上げた。

「は、離せ! 俺はSランク……」
「汚イ手デ敷地ニ触レナイデクダサイ」

ドカッ!

エリスはヴァルスをゴミ袋のように投げ捨てた。
彼は放物線を描いて森の奥へと飛んでいく。
続いてジャミル、ガイル、エリナも同様に、次々と投げ飛ばされた。

「いやぁぁぁっ! 私の服がぁぁ!」
「覚えてろぉぉぉ!」

夜空に響く、負け犬の遠吠え。
四人は星の彼方(実際には数キロ先の沼地)へと強制排除された。

「掃除完了。……塵一ツ残シマセン」

エリスはパンパンと手を払い、乱れたスカートを直した。
そして何事もなかったかのように城内へと戻っていく。
その表情は、完璧な仕事を遂行した満足感に満ちていた。



「……ふあぁ」

浴室で、俺は大きなあくびをした。

「どうしました?」
「いや、なんか外が静かになったなと思って」
「虫の声も止みましたね」
「エリスが殺虫剤でも撒いたのかな」

俺は湯船から上がり、バスローブを羽織った。
体は芯まで温まり、気分は最高だ。

「さて、明日は何をしようか。庭の畑も気になるし、エリスの機能拡張も試してみたい」
「私はレント様と剣の稽古がしたいです!」
「妾は日向ぼっこが良いのう」

平和な夜が更けていく。
城の外で、元仲間たちが泥沼に頭から突っ込み、カエルやヒルにたかられながら一夜を明かすことになるとは知る由もなく。
彼らの「ざまぁ」な転落劇は、まだ序章に過ぎない。
失ったものの大きさを本当に理解するのは、もう少し先の話だ。

「……レントぉ……」

遠くの沼地で、誰かの怨嗟の声が聞こえた気がしたが、それは夜風にかき消された。

第14話へ続く。

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