追放された付与術師、自分自身を『神』へと強化する。~捨てられた俺、実は万能チート。美少女と無双する間に、元仲間は全滅しているようですが?~

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第14話 街で元仲間と再会。「浮浪者かと思ったら、俺でした」

「……くっ、臭い。なんだこの臭いは」

王都の城門前。
朝の賑わいを見せる街道の一角で、門番の男が顔をしかめて鼻をつまんだ。
そこには、異様な集団が列を作っていた……いや、正確には、列に並ぼうとして弾き出された四人の男女が地面にへたり込んでいた。

全身泥まみれ。
髪には藻や枯れ草が絡まり、服はボロ雑巾のように裂けている。
そして何より、彼らから漂う強烈な悪臭――ドブ川と腐った卵を混ぜて煮込んだような匂いが、周囲の空気を汚染していた。

「おい、そこな浮浪者ども! ここは王都の正門だぞ。物乞いならスラム街の裏口へ回れ!」

門番が槍の石突で地面を叩き、怒鳴りつける。
しかし、泥まみれの男――元『栄光の剣』のリーダー、ヴァルスは、充血した目で門番を睨み返した。

「ふ、浮浪者だと……? ふざけるな! 俺だぞ、ヴァルスだ! Sランク冒険者『栄光の剣』のリーダーだ!」
「はあ? 『栄光の剣』? あの英雄パーティか?」

門番は呆れたように鼻で笑った。

「嘘をつくならもっとマシな嘘をつけ。あの方々はいつも煌びやかなミスリルの鎧を着て、颯爽と歩いているんだ。お前みたいな泥人形とは似ても似つかないわ!」
「泥人形じゃない! 昨日の夜、ちょっと事故があって……くそっ、ギルドカードを見ればわかるだろ!」

ヴァルスは震える手で懐を探った。
だが、そこにあるはずのカードケースがない。
昨夜、エリスによって城から射出され、沼地に落下した衝撃でどこかへ落としてしまったらしい。

「な、ない……」
「ほら見ろ。身分証もない不審者が。衛兵を呼ぶぞ!」
「待ってくれ! 私は魔導師のエリナよ! この杖を見れば……」

エリナが必死に杖を差し出すが、その杖はメンテナンス不足でひび割れ、先日の戦闘でさらに折れ曲がっている。ただの枯れ木にしか見えない。

「薪拾いのおばさんか? いいから散れ、散れ!」
「お、おばさんですってぇ!?」

エリナがキーッと金切り声を上げるが、門番は聞く耳を持たない。
盗賊のジャミルも、聖女のアリアも、あまりの疲労と空腹で反論する気力さえ失っていた。
昨夜、レントの城への侵入に失敗し、数キロ先の沼地まで吹き飛ばされた彼らは、一晩中魔物の気配に怯えながら、泥水をすすって何とか王都まで歩いて戻ってきたのだ。
プライドも装備もズタボロ。
まさに、浮浪者そのものの姿だった。

「ちくしょう……なんで俺たちがこんな目に……」

ヴァルスが地面を叩く。
その時だった。

「おや? なんだか騒がしいですね」

涼やかな、それでいて凛とした声が頭上から降ってきた。
同時に、鼻をつく悪臭を瞬時に浄化するような、爽やかな風が吹き抜ける。

「ん?」

ヴァルスたちが顔を上げると、そこには信じられない光景があった。

空を飛ぶ豪奢な馬車――ではない。
地面から数センチ浮遊しながら滑るように進む、見たこともない黒塗りの乗り物。
俺が【重力制御】と【自動推進】を付与した、特製の『魔導リムジン(馬なし馬車)』だ。
その窓から、一人の男が顔を覗かせていた。

漆黒のコートを纏い、肌は健康的に輝き、余裕に満ちた表情。
その隣には、銀髪の姫騎士と、褐色の絶世美女が寄り添っている。

「れ、レント……!?」

ヴァルスの喉から、ひきつった声が漏れた。
レントだ。
かつて自分たちがゴミのように捨てた男が、今は王族のような乗り物に乗り、天上の住人のように見下ろしている。

リムジンが音もなく停止し、ドアが開いた。
レントが優雅に降り立つ。
その足元はピカピカに磨かれた革靴で、泥一つついていない。

「やあ、門番さん。ご苦労様」
「はっ! こ、これはレント様! 特級英雄殿!」

門番の態度が一変した。
直立不動で敬礼し、満面の笑みを浮かべる。

「本日はどのようなご用件で?」
「ああ、新居に必要な家具や、庭の種を買い出しに来たんだ。……ところで、入り口で何が揉めているんだ? ひどい臭いがするけど、下水でも破裂したのか?」

レントがハンカチで鼻を覆いながら、大げさに顔をしかめた。
その視線が、地面に這いつくばるヴァルスたちに向けられる。

「あ、いえ! 不審な浮浪者集団が入り込もうとしまして。すぐに追い払いますので!」
「浮浪者……?」

レントは首を傾げ、ヴァルスたちの顔をまじまじと覗き込んだ。
その瞳には、侮蔑も怒りもない。ただ純粋な「疑問」と、得体の知れない生物を見るような「憐れみ」だけがあった。

「……あれ? この泥だらけの顔、どこかで見たような」

レントが呟く。
ヴァルスは屈辱に震えながら、立ち上がろうとした。

「俺だ……! ヴァルスだ! 見下してんじゃねえぞレント!」
「えっ、ヴァルス?」

レントは目を丸くし、それから「ぷっ」と吹き出した。

「嘘だろ? あの『栄光の剣』のリーダー様が、なんでそんなドブネズミみたいな格好をしてるんだ? 新しい迷彩服か?」
「き、貴様ぁぁッ!」

ヴァルスが掴みかかろうとするが、足がもつれて顔面から泥に突っ込んだ。
ベチャッ、という情けない音が響く。

「汚い。レント様に近づかないでください」

シルヴィアが冷ややかな声で言い放ち、聖剣の鞘で結界を張った。
見えない壁に阻まれ、泥飛沫すらレントには届かない。

「なんと無様な。昨夜、我が城の壁に激突した虫ケラかと思えば、まだ生きておったのか」

イグニスが扇子で口元を隠しながら、クスクスと笑う。
彼女の放つ「竜の威圧」が微量に漏れ出ており、ヴァルスたちは本能的な恐怖で身動きが取れなくなっていた。

「……そうか。昨日の侵入者は、お前たちだったのか」

レントはようやく合点がいったように頷いた。

「エリスが『不燃ゴミを処理した』って言ってたけど、まさか元仲間だとは気づかなかったよ。悪いな、ゴミと間違えて」
「ご、ゴミだと……!」
「だってそうだろう? 無断で人の家に侵入して、勝手に罠にかかって、泥だらけになって帰ってくる。やってることは野良犬以下だぞ」

レントの言葉は刃物のように鋭く、そして的確だった。
周囲に集まってきた野次馬たちからも、クスクスという失笑が漏れ始める。

「あれが『栄光の剣』? 嘘だろ?」
「落ちぶれたもんだな……」
「レントさんに捨てられてから、何もかもダメになったって噂、本当だったんだ」

ひそひそ話が、ヴァルスたちの耳に痛いほど刺さる。
Sランク冒険者としてのプライド。
名声。
それら全てが、今この瞬間、ガラガラと音を立てて崩れ去っていく。

「ち、違う! 俺たちは……俺たちはまだ終わってない!」

エリナが叫んだ。
髪を振り乱し、狂気じみた目でレントを睨む。

「レント! あんた、私たちから吸い取った運と魔力で贅沢してるんでしょ!? その服も、その女たちも、本来は私たちが手に入れるはずだったものよ!」
「吸い取った? 被害妄想もいい加減にしろよ」

レントは呆れたようにため息をついた。

「俺は自分の力で稼いだだけだ。お前たちが勝手に自滅してるのを、俺のせいにされても困る」
「うるさい! 金よ! 金を出しなさい! 今まで育ててやった恩があるでしょ!?」
「カネ、カネって……お前ら、本当に浅ましいな」

レントは懐から一枚の硬貨を取り出した。
金貨ではない。
銀貨でもない。
一番価値の低い、錆びかけた銅貨だ。

「ほらよ。昔のよしみだ。これで風呂にでも入って、出直してこい」

チャリン。

銅貨がヴァルスの足元に転がった。
それは、最大の侮辱だった。
Sランク冒険者に、物乞いへの施しをする。
しかも、かつての荷物持ちだった男から。

「き、貴様……ふざけるなぁぁぁッ!」

ヴァルスは絶叫した。
だが、レントはもう興味を失っていた。

「行こうか、シルヴィア、イグニス。臭いが移りそうだ」
「はい、レント様」
「うむ、時間の無駄じゃったな」

レントたちは再びリムジンに乗り込み、優雅に門を通過していった。
門番たちは最敬礼で見送り、ヴァルスたちには冷たい槍の穂先を向けた。

「おい、お前ら。さっさと消えろ。特級英雄様の気分を害した罪で捕まりたくなかったらな」
「……ぐ、ぅぅ……」

ヴァルスは泥の中に転がった銅貨を睨みつけた。
拾うべきか。
拾えばプライドが死ぬ。
だが、拾わなければ今日のパンすら買えない。

震える手が伸びる。
ジャミルが、エリナが、アリアが、息を呑んで見つめる中。
ヴァルスはその銅貨を握りしめた。

「……覚えてろ、レント。必ず……必ず殺してやる……」

その声は小さく、誰にも届かなかった。
彼の中に残っていた「英雄」としての最後の誇りが、泥にまみれて消えた瞬間だった。



「……ふふ、あはははは!」

リムジンの中で、俺は笑いを堪えきれずに吹き出した。

「レント様、性格が悪いです」
「そうか? 慈悲深いだろ、銅貨一枚あげたんだから」
「まあ、あの者たちの顔は見ものじゃったな。絶望と屈辱で顔色が変わる様は、最高の余興じゃった」

イグニスが楽しげに同意する。
窓の外には、王都の美しい街並みが流れていく。
この世界は、勝者が全てを手に入れ、敗者は泥を啜る。
かつて俺は敗者の側にいた。
理不尽に虐げられ、搾取されていた。
だが今は違う。
俺は強者であり、ルールを作る側にいる。

「さて、気を取り直して買い物だ。エリスに頼まれた調理器具と、それから……」

俺はポケットからメモを取り出した。
その時、ふと視界の端に、街頭の掲示板が映った。
そこに貼られた一枚の羊皮紙。
『緊急クエスト:北の山脈に魔王軍の幹部出現! 討伐隊を募集中』

「魔王軍、か」

俺は目を細めた。
そういえば、シルヴィアの国を滅ぼしかけているのも、魔王軍が関与しているとか言っていたな。
俺たちの平穏なスローライフを脅かす可能性があるなら、早めに摘んでおく必要があるかもしれない。

「レント様?」
「いや、なんでもない。まずはショッピングを楽しもう」

俺たちは馬車を降り、高級商店街へと繰り出した。
色とりどりの商品、香ばしい屋台の匂い。
シルヴィアが目を輝かせ、イグニスが珍しい装飾品に興味を示す。
俺は二人の笑顔を守るためなら、魔王だろうが神だろうが、相手になってやるつもりだ。

だがその前に、もう少しだけ「ざまぁ」の続きがあるようだ。
街の広場にある巨大な魔導スクリーンに、速報ニュースが流れた。

『速報! Sランクパーティ「栄光の剣」、ギルドランク降格の危機! 度重なるクエスト失敗と借金未払いにより、ギルドが処分を検討中!』

画面には、先ほど門前で撮影されたであろう、泥まみれのヴァルスたちの写真が大写しになっていた。
テロップには【落ちぶれた英雄? 奇行に走るリーダー】という煽り文句まで付いている。

「あーあ、全国デビューだな」
「有名人ですね、悪い意味で」

街の人々が画面を指差して笑っている。
かつての栄光は地に落ち、今や彼らは嘲笑の的だ。
これが「承」の終わりの始まり。
彼らの転落は、ここから加速していく。

そして俺の「名声」は、対照的にうなぎ登りだ。
街を歩けば、誰もが俺を振り返り、尊敬の眼差しを向けてくる。
「あれが特級英雄レント様か」「ドラゴンを倒したって噂の」「なんて強そうなオーラだ」

悪い気はしない。
俺は背筋を伸ばし、二人の美女を連れて堂々と歩いた。
かつて「浮浪者予備軍」だと思われていた俺が、今は王都の主役だ。

「レント様、あそこのお店、可愛らしい服があります!」
「うむ、妾に似合いそうな宝石があるぞ」

「はいはい、全部買ってやるよ」

俺の財布(収納スキル)には、使い切れないほどの金がある。
今日はとことん甘やかしてやろう。
それが、俺自身の心を満たすことにもなるのだから。

しかし、平和なショッピングの裏で、運命の歯車は回り続ける。
魔王軍の幹部。
そして、追い詰められた元仲間たちの暴走。
それらが交錯する時、俺の「最強」が再び試されることになる。

「……ん?」

ふと、俺は雑踏の中に「視線」を感じた。
悪意ではない。
観察するような、値踏みするような、冷たくて粘着質な視線。
ヴァルスたちのものではない。もっと理知的で、底知れない何者かの気配。

「(……誰だ?)」

俺はさりげなく周囲を探ったが、その気配はフッと消えた。
気のせいか?
いや、俺の感知スキルが間違うはずがない。
誰かが俺を見ている。
敵か、味方か。

「レント様、早く早く!」

シルヴィアに腕を引かれ、俺は思考を中断した。
まあいい。
向こうから仕掛けてくるなら、返り討ちにするだけだ。
今の俺には、それができる力が有り余っているのだから。

第15話へ続く。

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