追放された付与術師、自分自身を『神』へと強化する。~捨てられた俺、実は万能チート。美少女と無双する間に、元仲間は全滅しているようですが?~
第12話 新しい拠点は豪邸……では狭いので、城を買います。
「ふう、こんなもんか」
俺は額の汗を拭うふりをして(実際には【自動温度調節】と【疲労無効】のおかげで汗一つかいていないが)、目の前に聳え立つ巨城を見上げた。
数分前までは雑草に埋もれた廃墟だった場所が、今や新築同様、いやそれ以上の輝きを放つ白亜の要塞へと変貌を遂げている。
崩れかけていた城壁は、俺の【硬化修復】によってオリハルコン並みの強度を持つ純白の壁となり、陽の光を浴びて神々しく輝いている。
庭園には【植物成長促進】と【品種改良】を施した結果、一年中花を咲かせる魔法のバラ園と、たわわに実る果樹園が完成していた。
さらに、城の周囲には【対魔結界】と【隠蔽結界】の二重構造バリアを展開し、外部からの干渉を完全にシャットアウトしている。
「す、すごいです……。王宮よりも立派かもしれません」
シルヴィアがポカンと口を開けて見上げている。
「これなら、多少暴れても壊れないだろうし、イグニスが本来の姿(ドラゴン)に戻っても狭くないはずだ」
「うむ! これぞ竜の棲家に相応しい! あの狭苦しい宿屋では、寝返りも打てんかったからのう」
イグニスが嬉しそうに庭を駆け回っている。
そう、俺がただの豪邸ではなく、あえてこの広大な「城」を選んだ理由はここにある。
イグニスは人化しているときは美少女だが、本性は全長百メートルを超えるエンシェントドラゴンだ。
彼女がストレス発散に元の姿に戻りたいと言い出した時、普通の屋敷では庭ごと押し潰してしまう。
ここなら、広大な敷地と結界のおかげで、誰にも迷惑をかけずにドラゴン姿になれるというわけだ。
「よし、外観は完璧だ。次は中だな」
俺たちは正面の巨大な扉(これも【自動開閉】を付与済み)を抜け、城内へと足を踏み入れた。
エントランスホールは、磨き上げられた大理石の床が鏡のように輝き、天井からは魔石で作ったシャンデリアが柔らかな光を落としている。
埃一つない。カビ臭さもない。
【完全清掃(パーフェクト・クリーン)】の威力は絶大だ。
「わあぁ……! 素敵です! まるで舞踏会場みたい!」
「ここでお主と踊るのも悪くないのう」
二人の美女がはしゃぐ中、俺はホールの奥にある、地下へと続く階段に目を向けた。
この物件の「いわくつき」たる理由。
不動産屋の資料には『管理不能な地下迷宮の入り口あり』と書かれていた場所だ。
「さて、と。引っ越し祝いの前に、挨拶回りを済ませておくか」
「挨拶回り? ご近所さんですか?」
「いや、この城の『先住者』にだよ」
俺は地下への階段を指差した。
「ここから濃い魔力が漂ってきてる。たぶん、この城を廃墟に追いやった原因が下にいるはずだ」
「なるほど、害虫駆除というわけじゃな!」
「私が先陣を切ります、レント様!」
シルヴィアが聖剣に手をかけ、イグニスが掌に炎を灯す。
頼もしい限りだが、俺は少し違う予感がしていた。
ただの魔物なら、もっと殺気立っているはずだ。
だが、下から感じる気配は、どこか機械的で、冷徹な秩序を感じさせる。
俺たちは階段を降りた。
螺旋階段は長く、地下深くへと続いている。
空気はひんやりとしているが、不快ではない。
最下層にたどり着くと、そこには広大な空間が広がっていた。
迷宮、というよりは、巨大な工房のような場所だ。
壁一面に並ぶ古びた書架。
実験器具のようなガラス管。
そして、部屋の中央に鎮座する、巨大な魔力炉。
その魔力炉の前に、一人の人影が立っていた。
「……侵入者ヲ、検知」
抑揚のない、鈴を転がしたような声が響いた。
振り返ったその姿に、俺たちは息を呑んだ。
黒と白のクラシカルなメイド服。
陶器のように白い肌。
無機質なほど整った顔立ちと、ガラス玉のような青い瞳。
そして、背中から生えている金属製の翼と、尻尾のようなケーブル。
「あれは……ゴーレム? いや、オートマタか?」
俺が呟くと同時に、彼女の瞳が赤く点滅した。
「警告。ココハ王族専用ノ機密エリアデス。直チニ立チ去リナサイ。拒否スル場合、排除行動ニ移行シマス」
彼女の手が変形し、巨大なガトリングガンのような銃口が現れた。
魔力駆動式の重火器だ。
旧文明の遺産(ロストテクノロジー)。現代の魔法技術を遥かに凌駕する兵器。
「排除開始」
ズダダダダダダダダダッ!!
問答無用で発砲してきた。
光弾の嵐が俺たちを襲う。
「危ないっ!」
シルヴィアが前に出て聖剣で弾こうとするが、弾幕が厚すぎる。
イグニスがブレスで相殺しようと息を吸い込む。
「待て、壊すな!」
俺は二人を制し、一歩前に出た。
雨あられと降り注ぐ光弾の中を、悠然と歩く。
「レント様!?」
「【物理無効】【魔法無効】【射撃無効】……全部まとめて【攻撃無効化】」
俺の体に触れる直前、全ての光弾がシュウゥ……と音を立てて消滅した。
俺は傷一つ負わずに、メイド型オートマタの目の前まで歩み寄る。
「ガガ……ッ!? 攻撃、無効化サレタ? 解析不能、解析不能」
オートマタが困惑したように動作を硬直させた。
至近距離まで近づいた俺は、彼女の額にそっと指を当てた。
「お前、ずっとここでこの城を守ってたのか?」
「……肯定。我ガ主ノ帰還ヲ待チ、コノ施設ヲ維持管理スルノガ我ガ使命」
「前の主人はもういないぞ。この城は俺が買った」
「……所有権ノ移転ヲ確認……デキマセン。登録サレテイナイ生体IDデス。排除ヲ続行シマス」
彼女は再び銃口を向けようとした。
融通が利かないな。まあ、機械だから仕方ないか。
なら、書き換えるまでだ。
「悪いが、今日から俺がオーナーだ。システム更新(アップデート)の時間だぞ」
俺は指先から魔力を流し込んだ。
破壊するためではない。彼女の電子頭脳(魔導回路)に干渉し、管理者権限を書き換えるための『付与』だ。
「【管理者権限掌握(アドミニストレータ・ハック)】。【忠誠心再設定】。【戦闘ロジック最適化】……ついでに【感情回路】も少し解放しておくか」
「ア、アアアア……ッ!」
彼女の体がビクリと震え、瞳の光が激しく点滅する。
数秒後。
彼女の瞳の色が、警戒色の赤から、穏やかな青へと戻った。
変形していた腕が元の華奢な手へと戻り、背中の翼も収納される。
彼女はゆっくりと膝を折り、スカートの裾をつまんで優雅にカーテシー(お辞儀)をした。
「……システム再起動、完了。新シイマスターヲ認識シマシタ。オ初メオ目ニカカリマス、旦那様(マスター)」
成功だ。
彼女は俺を見上げ、無表情ながらもどこか安らぎを感じさせる顔で言った。
「当機ハ、汎用家事手伝イ兼要塞防衛用オートマタ、製造番号704デス。以後、旦那様ノ命令ニ従イ、コノ城ノ全テヲ管理イタシマス」
「よろしくな。名前は……番号じゃ味気ないな。『エリス』でどうだ?」
「エリス……。了解シマシタ。素敵ナ名前デス。感謝シマス」
エリスは深々と頭を下げた。
「レント様、また女の子を拾ったのですか……」
シルヴィアがジト目でこちらを見ている。
「いや、拾ったっていうか、備え付けの家具みたいなもんだろ」
「家具にしてはハイスペックすぎるぞ。今の銃撃、妾でも直撃すれば少しは痛かったかもしれん」
イグニスが感心したようにエリスを見回している。
エリスは立ち上がると、無駄のない動きで二人に頭を下げた。
「奥様方モ、ヨロシクオ願イイタシマス」
「お、奥様……ッ!?」
シルヴィアが顔を真っ赤にしてフリーズした。
イグニスは「うむ、わかっておるではないか」と満足げに頷く。
「エリス、この城の機能について教えてくれ」
「ハイ。コノ城ハ、地下ノ魔力炉ヲ動力源トシテ、自動防衛システム、気候制御システム、魔力供給システムガ稼働可能デス。シカシ、長年ノ放置ニヨリ魔力炉ガ枯渇シテイマス」
「魔力が足りないのか。なら、俺が入れればいいな」
俺は部屋の中央にある魔力炉に手をかざした。
俺の『無限』の魔力を、ほんの少しだけ注ぎ込む。
ゴオオオオオオッ!!
魔力炉が一瞬で輝きを取り戻し、低い駆動音を奏で始めた。
城全体が脈動し、死んでいた機能が次々と覚醒していくのが分かる。
「魔力充填率、120%……いえ、測定不能。エネルギー供給、安定シマシタ。コレニヨリ、城内ノ全設備ガ最大出力デ稼働可能デス」
「よし。じゃあエリス、まずは風呂を沸かしてくれ。あと、最高のディナーの準備も頼む」
「カシコマリマシタ。食材ハ地下冷凍庫ニ、千年物ノドラゴン肉ト不死鳥ノ卵ガ保存サレテオリマス」
「食材もとんでもないな」
こうして、俺たちは「城」という最強の拠点と、「エリス」という最強のメイドを手に入れた。
掃除、洗濯、料理、そして迎撃。
彼女がいれば、俺たちが留守の間も城は安泰だ。
地下迷宮も、エリスが管理するトレーニングルームや資材保管庫として活用できそうだ。
俺たちは城のテラスに戻り、夕日を眺めた。
湖面がオレンジ色に染まり、美しい風景が広がっている。
「良い場所だ」
「はい……本当に、夢のようです」
「ここが妾たちの国、その第一歩じゃな」
俺たちはグラスを掲げ、乾杯した。
全てが順調だ。順調すぎるくらいに。
だが、光あるところには影が落ちる。
俺たちが新生活を謳歌している一方で、影の方では蠢く者たちがいた。
◆
城から数キロ離れた森の中。
薄暗い木陰に、四つの人影が潜んでいた。
元『栄光の剣』のメンバーたちだ。
「おい、見たかよあれ……」
ジャミルが震える声で言った。
彼らは遠目から、廃墟だったはずの古城が、一瞬にして光り輝く白亜の城へと変貌する様を目撃していた。
「なんなんだよ……。魔法で城を直したってのか? あんな大規模な魔法、賢者クラスでも無理だぞ」
「レント……本当にあいつがやったの?」
エリナが信じられないといった顔で呟く。
彼女の手にある杖はまだ壊れたままだ。
「間違いない。ギルドの情報通りだ。あいつはあの城を買い取ったんだ」
ヴァルスが憎々しげに城を睨みつけた。
彼の目には、理不尽な現実への怒りと、底知れない欲望が渦巻いていた。
「見ろよ、あの輝き。外壁だけでも金貨数万枚の価値がありそうだぞ。中には一体どれだけの財宝があるんだ?」
「レントがあんな豪勢な暮らしをしてるなんて……許せない。私たちを追い出して、自分だけ!」
アリアが唇を噛み締める。
追い出したのは自分たちだという記憶は、都合よく書き換えられているようだ。
「チャンスだ」
ヴァルスが低い声で言った。
「あいつは今、浮かれている。それに、あの城は広すぎる。警備だって手薄なはずだ」
「でも、あいつにはドラゴンの素材とか、すごい力があるって噂じゃ……」
「噂だろ! 俺たちの知ってるレントは、ビクビクした雑魚だ! ドラゴンなんて、きっと何かの魔道具か罠を使って倒したに決まってる。真っ向勝負なら、俺たちの連携(パーティプレイ)が負けるはずがねえ!」
根拠のない自信。
いや、そう思い込まなければ、彼らの精神は崩壊してしまうからだ。
「夜を待つぞ。闇に紛れて侵入し、あいつを捕まえる。そして、財産を全て吐き出させるんだ。あの城も、俺たちの拠点にする」
「そうですね……。不意打ちなら、勝機はあります」
ガイルも同意した。
彼らは知らなかった。
その城が、Sランク迷宮よりも凶悪な『対魔結界』と『自動防衛システム』、そして最強の『メイド型殺戮兵器』によって守られていることを。
そして何より、城の主が、彼らの想像を遥かに超える怪物になっていることを。
日は沈み、夜が来る。
愚かな蛾が、炎に向かって飛び込もうとしていた。
第13話へ続く。
俺は額の汗を拭うふりをして(実際には【自動温度調節】と【疲労無効】のおかげで汗一つかいていないが)、目の前に聳え立つ巨城を見上げた。
数分前までは雑草に埋もれた廃墟だった場所が、今や新築同様、いやそれ以上の輝きを放つ白亜の要塞へと変貌を遂げている。
崩れかけていた城壁は、俺の【硬化修復】によってオリハルコン並みの強度を持つ純白の壁となり、陽の光を浴びて神々しく輝いている。
庭園には【植物成長促進】と【品種改良】を施した結果、一年中花を咲かせる魔法のバラ園と、たわわに実る果樹園が完成していた。
さらに、城の周囲には【対魔結界】と【隠蔽結界】の二重構造バリアを展開し、外部からの干渉を完全にシャットアウトしている。
「す、すごいです……。王宮よりも立派かもしれません」
シルヴィアがポカンと口を開けて見上げている。
「これなら、多少暴れても壊れないだろうし、イグニスが本来の姿(ドラゴン)に戻っても狭くないはずだ」
「うむ! これぞ竜の棲家に相応しい! あの狭苦しい宿屋では、寝返りも打てんかったからのう」
イグニスが嬉しそうに庭を駆け回っている。
そう、俺がただの豪邸ではなく、あえてこの広大な「城」を選んだ理由はここにある。
イグニスは人化しているときは美少女だが、本性は全長百メートルを超えるエンシェントドラゴンだ。
彼女がストレス発散に元の姿に戻りたいと言い出した時、普通の屋敷では庭ごと押し潰してしまう。
ここなら、広大な敷地と結界のおかげで、誰にも迷惑をかけずにドラゴン姿になれるというわけだ。
「よし、外観は完璧だ。次は中だな」
俺たちは正面の巨大な扉(これも【自動開閉】を付与済み)を抜け、城内へと足を踏み入れた。
エントランスホールは、磨き上げられた大理石の床が鏡のように輝き、天井からは魔石で作ったシャンデリアが柔らかな光を落としている。
埃一つない。カビ臭さもない。
【完全清掃(パーフェクト・クリーン)】の威力は絶大だ。
「わあぁ……! 素敵です! まるで舞踏会場みたい!」
「ここでお主と踊るのも悪くないのう」
二人の美女がはしゃぐ中、俺はホールの奥にある、地下へと続く階段に目を向けた。
この物件の「いわくつき」たる理由。
不動産屋の資料には『管理不能な地下迷宮の入り口あり』と書かれていた場所だ。
「さて、と。引っ越し祝いの前に、挨拶回りを済ませておくか」
「挨拶回り? ご近所さんですか?」
「いや、この城の『先住者』にだよ」
俺は地下への階段を指差した。
「ここから濃い魔力が漂ってきてる。たぶん、この城を廃墟に追いやった原因が下にいるはずだ」
「なるほど、害虫駆除というわけじゃな!」
「私が先陣を切ります、レント様!」
シルヴィアが聖剣に手をかけ、イグニスが掌に炎を灯す。
頼もしい限りだが、俺は少し違う予感がしていた。
ただの魔物なら、もっと殺気立っているはずだ。
だが、下から感じる気配は、どこか機械的で、冷徹な秩序を感じさせる。
俺たちは階段を降りた。
螺旋階段は長く、地下深くへと続いている。
空気はひんやりとしているが、不快ではない。
最下層にたどり着くと、そこには広大な空間が広がっていた。
迷宮、というよりは、巨大な工房のような場所だ。
壁一面に並ぶ古びた書架。
実験器具のようなガラス管。
そして、部屋の中央に鎮座する、巨大な魔力炉。
その魔力炉の前に、一人の人影が立っていた。
「……侵入者ヲ、検知」
抑揚のない、鈴を転がしたような声が響いた。
振り返ったその姿に、俺たちは息を呑んだ。
黒と白のクラシカルなメイド服。
陶器のように白い肌。
無機質なほど整った顔立ちと、ガラス玉のような青い瞳。
そして、背中から生えている金属製の翼と、尻尾のようなケーブル。
「あれは……ゴーレム? いや、オートマタか?」
俺が呟くと同時に、彼女の瞳が赤く点滅した。
「警告。ココハ王族専用ノ機密エリアデス。直チニ立チ去リナサイ。拒否スル場合、排除行動ニ移行シマス」
彼女の手が変形し、巨大なガトリングガンのような銃口が現れた。
魔力駆動式の重火器だ。
旧文明の遺産(ロストテクノロジー)。現代の魔法技術を遥かに凌駕する兵器。
「排除開始」
ズダダダダダダダダダッ!!
問答無用で発砲してきた。
光弾の嵐が俺たちを襲う。
「危ないっ!」
シルヴィアが前に出て聖剣で弾こうとするが、弾幕が厚すぎる。
イグニスがブレスで相殺しようと息を吸い込む。
「待て、壊すな!」
俺は二人を制し、一歩前に出た。
雨あられと降り注ぐ光弾の中を、悠然と歩く。
「レント様!?」
「【物理無効】【魔法無効】【射撃無効】……全部まとめて【攻撃無効化】」
俺の体に触れる直前、全ての光弾がシュウゥ……と音を立てて消滅した。
俺は傷一つ負わずに、メイド型オートマタの目の前まで歩み寄る。
「ガガ……ッ!? 攻撃、無効化サレタ? 解析不能、解析不能」
オートマタが困惑したように動作を硬直させた。
至近距離まで近づいた俺は、彼女の額にそっと指を当てた。
「お前、ずっとここでこの城を守ってたのか?」
「……肯定。我ガ主ノ帰還ヲ待チ、コノ施設ヲ維持管理スルノガ我ガ使命」
「前の主人はもういないぞ。この城は俺が買った」
「……所有権ノ移転ヲ確認……デキマセン。登録サレテイナイ生体IDデス。排除ヲ続行シマス」
彼女は再び銃口を向けようとした。
融通が利かないな。まあ、機械だから仕方ないか。
なら、書き換えるまでだ。
「悪いが、今日から俺がオーナーだ。システム更新(アップデート)の時間だぞ」
俺は指先から魔力を流し込んだ。
破壊するためではない。彼女の電子頭脳(魔導回路)に干渉し、管理者権限を書き換えるための『付与』だ。
「【管理者権限掌握(アドミニストレータ・ハック)】。【忠誠心再設定】。【戦闘ロジック最適化】……ついでに【感情回路】も少し解放しておくか」
「ア、アアアア……ッ!」
彼女の体がビクリと震え、瞳の光が激しく点滅する。
数秒後。
彼女の瞳の色が、警戒色の赤から、穏やかな青へと戻った。
変形していた腕が元の華奢な手へと戻り、背中の翼も収納される。
彼女はゆっくりと膝を折り、スカートの裾をつまんで優雅にカーテシー(お辞儀)をした。
「……システム再起動、完了。新シイマスターヲ認識シマシタ。オ初メオ目ニカカリマス、旦那様(マスター)」
成功だ。
彼女は俺を見上げ、無表情ながらもどこか安らぎを感じさせる顔で言った。
「当機ハ、汎用家事手伝イ兼要塞防衛用オートマタ、製造番号704デス。以後、旦那様ノ命令ニ従イ、コノ城ノ全テヲ管理イタシマス」
「よろしくな。名前は……番号じゃ味気ないな。『エリス』でどうだ?」
「エリス……。了解シマシタ。素敵ナ名前デス。感謝シマス」
エリスは深々と頭を下げた。
「レント様、また女の子を拾ったのですか……」
シルヴィアがジト目でこちらを見ている。
「いや、拾ったっていうか、備え付けの家具みたいなもんだろ」
「家具にしてはハイスペックすぎるぞ。今の銃撃、妾でも直撃すれば少しは痛かったかもしれん」
イグニスが感心したようにエリスを見回している。
エリスは立ち上がると、無駄のない動きで二人に頭を下げた。
「奥様方モ、ヨロシクオ願イイタシマス」
「お、奥様……ッ!?」
シルヴィアが顔を真っ赤にしてフリーズした。
イグニスは「うむ、わかっておるではないか」と満足げに頷く。
「エリス、この城の機能について教えてくれ」
「ハイ。コノ城ハ、地下ノ魔力炉ヲ動力源トシテ、自動防衛システム、気候制御システム、魔力供給システムガ稼働可能デス。シカシ、長年ノ放置ニヨリ魔力炉ガ枯渇シテイマス」
「魔力が足りないのか。なら、俺が入れればいいな」
俺は部屋の中央にある魔力炉に手をかざした。
俺の『無限』の魔力を、ほんの少しだけ注ぎ込む。
ゴオオオオオオッ!!
魔力炉が一瞬で輝きを取り戻し、低い駆動音を奏で始めた。
城全体が脈動し、死んでいた機能が次々と覚醒していくのが分かる。
「魔力充填率、120%……いえ、測定不能。エネルギー供給、安定シマシタ。コレニヨリ、城内ノ全設備ガ最大出力デ稼働可能デス」
「よし。じゃあエリス、まずは風呂を沸かしてくれ。あと、最高のディナーの準備も頼む」
「カシコマリマシタ。食材ハ地下冷凍庫ニ、千年物ノドラゴン肉ト不死鳥ノ卵ガ保存サレテオリマス」
「食材もとんでもないな」
こうして、俺たちは「城」という最強の拠点と、「エリス」という最強のメイドを手に入れた。
掃除、洗濯、料理、そして迎撃。
彼女がいれば、俺たちが留守の間も城は安泰だ。
地下迷宮も、エリスが管理するトレーニングルームや資材保管庫として活用できそうだ。
俺たちは城のテラスに戻り、夕日を眺めた。
湖面がオレンジ色に染まり、美しい風景が広がっている。
「良い場所だ」
「はい……本当に、夢のようです」
「ここが妾たちの国、その第一歩じゃな」
俺たちはグラスを掲げ、乾杯した。
全てが順調だ。順調すぎるくらいに。
だが、光あるところには影が落ちる。
俺たちが新生活を謳歌している一方で、影の方では蠢く者たちがいた。
◆
城から数キロ離れた森の中。
薄暗い木陰に、四つの人影が潜んでいた。
元『栄光の剣』のメンバーたちだ。
「おい、見たかよあれ……」
ジャミルが震える声で言った。
彼らは遠目から、廃墟だったはずの古城が、一瞬にして光り輝く白亜の城へと変貌する様を目撃していた。
「なんなんだよ……。魔法で城を直したってのか? あんな大規模な魔法、賢者クラスでも無理だぞ」
「レント……本当にあいつがやったの?」
エリナが信じられないといった顔で呟く。
彼女の手にある杖はまだ壊れたままだ。
「間違いない。ギルドの情報通りだ。あいつはあの城を買い取ったんだ」
ヴァルスが憎々しげに城を睨みつけた。
彼の目には、理不尽な現実への怒りと、底知れない欲望が渦巻いていた。
「見ろよ、あの輝き。外壁だけでも金貨数万枚の価値がありそうだぞ。中には一体どれだけの財宝があるんだ?」
「レントがあんな豪勢な暮らしをしてるなんて……許せない。私たちを追い出して、自分だけ!」
アリアが唇を噛み締める。
追い出したのは自分たちだという記憶は、都合よく書き換えられているようだ。
「チャンスだ」
ヴァルスが低い声で言った。
「あいつは今、浮かれている。それに、あの城は広すぎる。警備だって手薄なはずだ」
「でも、あいつにはドラゴンの素材とか、すごい力があるって噂じゃ……」
「噂だろ! 俺たちの知ってるレントは、ビクビクした雑魚だ! ドラゴンなんて、きっと何かの魔道具か罠を使って倒したに決まってる。真っ向勝負なら、俺たちの連携(パーティプレイ)が負けるはずがねえ!」
根拠のない自信。
いや、そう思い込まなければ、彼らの精神は崩壊してしまうからだ。
「夜を待つぞ。闇に紛れて侵入し、あいつを捕まえる。そして、財産を全て吐き出させるんだ。あの城も、俺たちの拠点にする」
「そうですね……。不意打ちなら、勝機はあります」
ガイルも同意した。
彼らは知らなかった。
その城が、Sランク迷宮よりも凶悪な『対魔結界』と『自動防衛システム』、そして最強の『メイド型殺戮兵器』によって守られていることを。
そして何より、城の主が、彼らの想像を遥かに超える怪物になっていることを。
日は沈み、夜が来る。
愚かな蛾が、炎に向かって飛び込もうとしていた。
第13話へ続く。
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