追放された付与術師、自分自身を『神』へと強化する。~捨てられた俺、実は万能チート。美少女と無双する間に、元仲間は全滅しているようですが?~
第9話 Sランク魔物を食材扱い。迷宮内で優雅なディナーを。
「開けろ! 王宮騎士団である! 国王陛下からの召喚命令が出ている!」
早朝の『天上の安らぎ亭』。
ロイヤルスイートルームの重厚な扉が、無遠慮に叩かれた。
ドンドン、という乱暴な音に、俺は優雅な目覚めを妨害された不快感を感じながらベッドから起き上がった。
「……朝から騒がしいな」
隣を見ると、右腕にはシルヴィアが、左腕にはイグニスが、それぞれ俺にしがみついて幸福そうな寝顔を浮かべている。
昨晩の二人の猛攻は凄まじかった。
【精力増強】の付与がなければ、俺は今ごろ干からびていただろう。
まあ、そのおかげで二人とも肌艶が良くなり、さらに美しさに磨きがかかっているが。
「んぅ……レント様? 誰か来たのですか?」
「ふあぁ……うるさいのう。焼き払ってよいか?」
シルヴィアが目をこすり、イグニスが寝ぼけ眼で殺騒なことを口走る。
「まだ寝てていいよ。ちょっと追い払ってくる」
俺はバスローブを羽織り、扉へと向かった。
ガチャリと鍵を開けると、そこには全身銀色のプレートメイルに身を包んだ、いかにも堅物そうな騎士たちが数名立っていた。
先頭にいるのは、副騎士団長を務める男、確かガレインだったか。
以前、パーティの祝勝会で一度だけ顔を合わせたことがあるが、その時は俺のことなど空気のように無視していた男だ。
「遅い! 貴様、王命を何だと心得る!」
ガレインは俺の顔を見るなり怒鳴りつけた。
「Sランク冒険者レントだな? ギルドからの報告により、貴様がエンシェントドラゴンの素材を持ち込んだことは把握している。陛下がその真偽を問いただすために謁見を求めておられる。直ちに支度をして同行せよ」
高圧的な態度だ。
まあ、王権神授説が根強いこの国では、騎士団が冒険者を見下すのは日常茶飯事だが。
「あー、わかった。行くよ。でも、まだ朝飯食ってないんだ。食べてからでいいか?」
「はぁ!? 陛下の呼び出しだぞ! 朝食など後回しにしろ! いや、そもそも貴様ごときが陛下をお待たせするなど言語道断……」
「じゃあ、行かない」
俺は扉を閉めようとした。
「なっ!?」
ガレインが慌てて足を挟んで阻止する。
「貴様、正気か!? 国家反逆罪に問われるぞ!」
「知るかよ。俺は冒険者だ。ギルドの規定じゃ、緊急依頼(クエスト)以外での強制召集に応じる義務はないはずだぞ。ましてやお腹が空いてちゃ戦もできないし、機嫌も悪くなる」
「き、貴様……ッ!」
ガレインが顔を真っ赤にして震える。
そこへ、部屋の奥からイグニスがペタペタと歩いてきた。
彼女は俺のYシャツ一枚を素肌に羽織っただけの姿(いわゆる彼シャツ)で、太ももが眩しい。
「レントよ、腹が減ったぞ。昨日の人間の飯も美味かったが、やはり魔力が足りぬ。ガッツリと魔物の肉が食いたい」
「魔物の肉?」
「うむ。Sランク級の、濃厚な魔素を含んだやつじゃ。それがないと力が出ん」
イグニスが俺の背中に抱きつき、首筋にキスをしてくる。
騎士たちが、その扇情的な姿と、彼女から漏れ出る圧倒的な魔圧に息を呑んだ。
「な、なんだその女は……? ただならぬ気配だが……」
「俺の連れだ。……そうだな、イグニス。これから城に行くと長くなりそうだし、その前にしっかり腹ごしらえしておくか」
俺はガレインに向き直った。
「というわけだ。飯食ってから行く。一時間くらい待っててくれ」
「ふ、ふざけるな! 魔物の肉だと? そんなもの、市場に行っても朝から売っているわけがないだろう! 調達にどれだけ時間をかける気だ!」
「市場? 誰がそんなとこ行くって言った?」
俺は床を指差した。
「産地直送だよ」
「は?」
俺は片足で床をドンと踏んだ。
【透過付与(パス・スルー)】。対象は床、およびその下の岩盤。
ズズズズ……ッ!
部屋の床が、まるで水面のように波打ち、透明になった。
そこから下に見えるのは、宿屋の基礎部分ではなく――遥か深く、暗い闇の底に広がる広大な空間だった。
「な、なんだこれは!?」
「王都の地下には、千年前の『旧文明の地下遺跡』が眠ってるって噂、知ってるか? 実はそこ、封印された高難易度ダンジョンなんだよ」
「ち、地下遺跡だと!? そんな伝説、ただの御伽噺だろ!」
「あるんだよ、実際に。俺の魔力探知(ソナー)には、あそこに美味そうなSランク魔物の反応がビンビン引っかかってる」
俺はイグニスの腰を抱き寄せた。
「シルヴィア! 着替えてこい! 朝飯狩りに行くぞ!」
「は、はいっ! ただいま!」
奥からシルヴィアが、聖剣を携え、騎士の礼装(昨日の買い物で購入した新品)を整えて飛び出してきた。
「き、貴様ら、ここから飛び降りる気か!? ここは宿の最上階、しかも地下までは数百メートルはあるぞ!」
「行ってきまーす」
俺は騎士たちの制止を無視して、透明になった床へとダイブした。
「ひぃぃぃぃっ!?」
騎士たちの悲鳴が遠ざかる。
俺たちは重力に従って落下――はしなかった。
【落下速度調整】と【空中歩行】を付与。
俺たちは羽毛のようにふわりと、暗黒の地下空間へと降り立った。
◆
着地した場所は、巨大な石柱が立ち並ぶ神殿のようなエリアだった。
空気は冷たく、湿り気を帯びているが、どこか神聖な雰囲気も漂っている。
壁や天井には発光する苔が生えており、松明なしでも薄明るい。
「ほう、これが王都の地下か。なかなか趣があるではないか」
イグニスが興味深そうに見回す。
「でもレント様、こんなところにSランク魔物がいるのですか? 王都の直下ですよ?」
「封印結界のおかげで地上には出てこないようになってるんだ。でも、中では共食いをして独自進化してるやつがいる」
俺は視線を奥へと向けた。
そこにある巨大な地底湖。
水面が静かに揺れている。
「出るぞ。今日のメインディッシュだ」
俺が小石を弾いて水面に波紋を作った瞬間。
ザパァァァァァァァンッ!!
水柱と共に現れたのは、巨大なイカ――ではない。
無数の触手を持ちながら、その先端に『竜の頭』がついている異形の海魔。
『ヒドラ・クラーケン』。
Sランクの中でも上位に位置する、再生能力の塊のような化け物だ。
「ギシャアアアアアアッ!」
複数の竜頭が一斉に咆哮し、触手が鞭のようにしなる。
「うわぁ、気持ち悪いですね……」
「ふむ、見た目は悪いが、あの足……焼けば美味そうじゃな」
イグニスがじゅるりと涎を拭う。
「よし、シルヴィア。足の切断を頼む。本体はイグニス、黒焦げにしない程度に炙ってくれ」
「承知しました!」
「任せよ!」
戦闘開始。
と言っても、それは一方的な虐殺(クッキング)だった。
シルヴィアが聖剣を一閃させるたびに、ヒドラの触手が「スパァン!」と小気味よい音を立てて宙を舞う。
再生しようとする切り口を、イグニスが制御されたピンポイントの竜炎(ブレス)で焼き、旨味を閉じ込める。
「【鮮度維持】【肉質軟化】【旨味増幅】……っと」
俺は戦いには参加せず、切り飛ばされた触手が地面に落ちる前に付与魔法をかけていく。
戦闘しながらの下ごしらえだ。
魔物の肉は死後硬直が早いが、俺の付与があれば刺身で食べられるレベルの鮮度を永遠に保てる。
「仕上げだ! 【瞬間解体】!」
俺は指を鳴らした。
ヒドラ・クラーケンの本体が、目に見えない無数の斬撃によってバラバラになり、食べられない部位(毒袋や内臓)だけがきれいに消滅し、極上の切り身となって空中に整列した。
戦闘時間、約三十秒。
Sランク魔物は、ただの食材タワーへと変貌した。
「よし、食うか」
俺は【土魔法】で簡易的なテーブルと椅子を作り出し、真っ白なテーブルクロス(【洗浄】付与済みの布)を広げた。
さらに、ドロップアイテムである巨大な貝殻を皿に見立て、綺麗に盛り付ける。
メニューは『ヒドラ・クラーケンのカルパッチョ・特製オリーブオイル(錬金術生成)添え』と、『竜頭触手の直火焼きステーキ』。
飲み物は、近くの湧き水を【浄化】【発泡】【味覚付与(ブドウ味)】で最高級スパークリングワインに変えたものだ。
薄暗い地下神殿の廃墟、光る苔のイルミネーション。
そこに突如出現した、貴族の晩餐会のような食卓。
「いただきます!」
「うむ、いただくぞ!」
シルヴィアとイグニスがナイフとフォークを動かす。
「ん~っ! 美味しいっ! 何ですかこれ、口の中でとろけます!」
「こりゃあ絶品じゃ! 噛むたびに濃厚な魔力が溢れ出してくる! 生のまま食うより百倍美味いぞ!」
二人は目を輝かせ、次々と料理を平らげていく。
俺も一口食べた。
うん、いける。
【毒無効】を付与してあるからヒドラの毒もただのスパイス(ピリ辛成分)になっているし、【食感調整】でコリコリ感と柔らかさが絶妙なバランスだ。
「地上にはこんな美味いもんはないな。やっぱりダンジョン飯に限る」
「レント様、お料理まで完璧だなんて……本当に欠点がありませんね」
「将来、旦那様にするなら料理ができる男が良いと思っておったが、お主は合格じゃ」
二人に褒められながら、俺たちは優雅な朝食(もはやディナーのような重厚さだが)を楽しんだ。
と、その時。
頭上から、何やら騒がしい音が近づいてきた。
「おーい! 貴様ら、生きているか!?」
見上げると、穴の空いた天井から、ロープを使って騎士たちが必死に降りてきているところだった。
ガレイン副騎士団長もいる。顔面蒼白で、脂汗をかいている。
「こ、ここは……本当に地下遺跡……?」
「おい見ろ、あれ! Sランクのヒドラ・クラーケンの死骸だぞ!?」
「いや、死骸っていうか……解体されてる……?」
騎士たちが地面に降り立つと、呆然と周囲を見渡した。
そして、彼らの視線は一点に集中する。
遺跡の中心で、優雅に食事をしている俺たちに。
「よお。遅かったな。一緒に食うか?」
俺はフォークに刺したヒドラの切り身を掲げてみせた。
「き、貴様ら……一体何をしているんだ……?」
「だから朝飯だって言ったろ。ほら、まだ温かいぞ」
「そ、それはSランク魔物の肉だろうが! 毒があるはずだぞ!」
「抜いたよ。あと美味しくなる魔法もかけた。食ってみな、飛ぶぞ」
ガレインはおずおずと近づき、半信半疑で差し出された肉を口にした。
騎士としての警戒心よりも、漂ってくる極上の香りに抗えなかったらしい。
「……ッ!?」
ガレインの目がカッと見開かれた。
「う、美味い……! なんだこれは! 高級和牛のような脂の乗りと、深海魚の淡白な旨味が融合している……! それに、食べた瞬間から体が熱くなり、力がみなぎってくるぞ!?」
「Sランクの魔物だからな。滋養強壮効果はポーションの十倍はある」
「副団長だけズルいです!」
「俺たちにもください!」
部下の騎士たちも我慢できずに集まってきた。
結局、国王からの召喚命令を伝えに来たはずの騎士団一行は、俺たちと一緒に車座になって魔物料理に舌鼓を打つことになった。
「うめぇぇぇ! これ一生食っていたい!」
「レント殿! いやレント様! おかわりはありますか!?」
数分前まで俺を見下していた騎士たちが、今は餌をねだる犬のように尻尾を振っている。
胃袋を掴むというのは、交渉において最強のカードなのかもしれない。
「ふふ、レント様にかかれば、頑固な騎士様たちもイチコロですね」
「うむ。これが王者の風格というやつじゃな(違う気もするが)」
シルヴィアとイグニスも満足そうだ。
食事が終わる頃には、騎士たちとの間に奇妙な連帯感が生まれていた。
ガレインは満腹のお腹をさすりながら、少し申し訳なさそうに言った。
「……いやはや、面目ない。貴殿の実力を疑うような口を利いてしまった。これほどの料理……いや、戦闘力と付与術を持つ者を、我々は過小評価していたようだ」
「わかってくれればいいよ。で、これから城に行くんだったな」
「あ、ああ! そうだった! 陛下がお待ちだ! ……しかし、こんな地下からどうやって戻る? ロープを登るには時間が……」
「面倒だから転移(ワープ)しよう」
俺はナプキンで口を拭うと、指をパチンと鳴らした。
「【集団転移(マス・テレポート)】付与。対象、この場にいる全員」
景色が歪む。
地下の暗い遺跡の風景が一瞬でブレて――。
次の瞬間、俺たちは王城の正門前、ではなく、『謁見の間』のど真ん中に立っていた。
「……え?」
玉座に座っていた国王。
周囲に控えていた大臣や高官たち。
そして、警護の近衛騎士たち。
全員が、突然空間転移して現れた俺たち(と、まだ口にソースがついている騎士団たち)を見て、石像のように固まっていた。
「あ、座標ズレた。まあいいか」
俺は悪びれもせず、玉座の王に向かって軽く手を挙げた。
「よお、王様。呼んだらしいから来てやったぞ。手土産に『ヒドラの干物』も持ってきたから、あとで食ってくれ」
静まり返る謁見の間。
これが、俺の王城デビューだった。
伝説の始まりというには、あまりにもしまらない、しかしインパクトだけは絶大な登場。
国王の目が点になっている。
隣にいる大臣が泡を吹いて倒れた。
さて、ここからが本番だ。
俺の『最強』が、国家権力相手にどれだけ通用するか、試させてもらおうか。
(続く)
早朝の『天上の安らぎ亭』。
ロイヤルスイートルームの重厚な扉が、無遠慮に叩かれた。
ドンドン、という乱暴な音に、俺は優雅な目覚めを妨害された不快感を感じながらベッドから起き上がった。
「……朝から騒がしいな」
隣を見ると、右腕にはシルヴィアが、左腕にはイグニスが、それぞれ俺にしがみついて幸福そうな寝顔を浮かべている。
昨晩の二人の猛攻は凄まじかった。
【精力増強】の付与がなければ、俺は今ごろ干からびていただろう。
まあ、そのおかげで二人とも肌艶が良くなり、さらに美しさに磨きがかかっているが。
「んぅ……レント様? 誰か来たのですか?」
「ふあぁ……うるさいのう。焼き払ってよいか?」
シルヴィアが目をこすり、イグニスが寝ぼけ眼で殺騒なことを口走る。
「まだ寝てていいよ。ちょっと追い払ってくる」
俺はバスローブを羽織り、扉へと向かった。
ガチャリと鍵を開けると、そこには全身銀色のプレートメイルに身を包んだ、いかにも堅物そうな騎士たちが数名立っていた。
先頭にいるのは、副騎士団長を務める男、確かガレインだったか。
以前、パーティの祝勝会で一度だけ顔を合わせたことがあるが、その時は俺のことなど空気のように無視していた男だ。
「遅い! 貴様、王命を何だと心得る!」
ガレインは俺の顔を見るなり怒鳴りつけた。
「Sランク冒険者レントだな? ギルドからの報告により、貴様がエンシェントドラゴンの素材を持ち込んだことは把握している。陛下がその真偽を問いただすために謁見を求めておられる。直ちに支度をして同行せよ」
高圧的な態度だ。
まあ、王権神授説が根強いこの国では、騎士団が冒険者を見下すのは日常茶飯事だが。
「あー、わかった。行くよ。でも、まだ朝飯食ってないんだ。食べてからでいいか?」
「はぁ!? 陛下の呼び出しだぞ! 朝食など後回しにしろ! いや、そもそも貴様ごときが陛下をお待たせするなど言語道断……」
「じゃあ、行かない」
俺は扉を閉めようとした。
「なっ!?」
ガレインが慌てて足を挟んで阻止する。
「貴様、正気か!? 国家反逆罪に問われるぞ!」
「知るかよ。俺は冒険者だ。ギルドの規定じゃ、緊急依頼(クエスト)以外での強制召集に応じる義務はないはずだぞ。ましてやお腹が空いてちゃ戦もできないし、機嫌も悪くなる」
「き、貴様……ッ!」
ガレインが顔を真っ赤にして震える。
そこへ、部屋の奥からイグニスがペタペタと歩いてきた。
彼女は俺のYシャツ一枚を素肌に羽織っただけの姿(いわゆる彼シャツ)で、太ももが眩しい。
「レントよ、腹が減ったぞ。昨日の人間の飯も美味かったが、やはり魔力が足りぬ。ガッツリと魔物の肉が食いたい」
「魔物の肉?」
「うむ。Sランク級の、濃厚な魔素を含んだやつじゃ。それがないと力が出ん」
イグニスが俺の背中に抱きつき、首筋にキスをしてくる。
騎士たちが、その扇情的な姿と、彼女から漏れ出る圧倒的な魔圧に息を呑んだ。
「な、なんだその女は……? ただならぬ気配だが……」
「俺の連れだ。……そうだな、イグニス。これから城に行くと長くなりそうだし、その前にしっかり腹ごしらえしておくか」
俺はガレインに向き直った。
「というわけだ。飯食ってから行く。一時間くらい待っててくれ」
「ふ、ふざけるな! 魔物の肉だと? そんなもの、市場に行っても朝から売っているわけがないだろう! 調達にどれだけ時間をかける気だ!」
「市場? 誰がそんなとこ行くって言った?」
俺は床を指差した。
「産地直送だよ」
「は?」
俺は片足で床をドンと踏んだ。
【透過付与(パス・スルー)】。対象は床、およびその下の岩盤。
ズズズズ……ッ!
部屋の床が、まるで水面のように波打ち、透明になった。
そこから下に見えるのは、宿屋の基礎部分ではなく――遥か深く、暗い闇の底に広がる広大な空間だった。
「な、なんだこれは!?」
「王都の地下には、千年前の『旧文明の地下遺跡』が眠ってるって噂、知ってるか? 実はそこ、封印された高難易度ダンジョンなんだよ」
「ち、地下遺跡だと!? そんな伝説、ただの御伽噺だろ!」
「あるんだよ、実際に。俺の魔力探知(ソナー)には、あそこに美味そうなSランク魔物の反応がビンビン引っかかってる」
俺はイグニスの腰を抱き寄せた。
「シルヴィア! 着替えてこい! 朝飯狩りに行くぞ!」
「は、はいっ! ただいま!」
奥からシルヴィアが、聖剣を携え、騎士の礼装(昨日の買い物で購入した新品)を整えて飛び出してきた。
「き、貴様ら、ここから飛び降りる気か!? ここは宿の最上階、しかも地下までは数百メートルはあるぞ!」
「行ってきまーす」
俺は騎士たちの制止を無視して、透明になった床へとダイブした。
「ひぃぃぃぃっ!?」
騎士たちの悲鳴が遠ざかる。
俺たちは重力に従って落下――はしなかった。
【落下速度調整】と【空中歩行】を付与。
俺たちは羽毛のようにふわりと、暗黒の地下空間へと降り立った。
◆
着地した場所は、巨大な石柱が立ち並ぶ神殿のようなエリアだった。
空気は冷たく、湿り気を帯びているが、どこか神聖な雰囲気も漂っている。
壁や天井には発光する苔が生えており、松明なしでも薄明るい。
「ほう、これが王都の地下か。なかなか趣があるではないか」
イグニスが興味深そうに見回す。
「でもレント様、こんなところにSランク魔物がいるのですか? 王都の直下ですよ?」
「封印結界のおかげで地上には出てこないようになってるんだ。でも、中では共食いをして独自進化してるやつがいる」
俺は視線を奥へと向けた。
そこにある巨大な地底湖。
水面が静かに揺れている。
「出るぞ。今日のメインディッシュだ」
俺が小石を弾いて水面に波紋を作った瞬間。
ザパァァァァァァァンッ!!
水柱と共に現れたのは、巨大なイカ――ではない。
無数の触手を持ちながら、その先端に『竜の頭』がついている異形の海魔。
『ヒドラ・クラーケン』。
Sランクの中でも上位に位置する、再生能力の塊のような化け物だ。
「ギシャアアアアアアッ!」
複数の竜頭が一斉に咆哮し、触手が鞭のようにしなる。
「うわぁ、気持ち悪いですね……」
「ふむ、見た目は悪いが、あの足……焼けば美味そうじゃな」
イグニスがじゅるりと涎を拭う。
「よし、シルヴィア。足の切断を頼む。本体はイグニス、黒焦げにしない程度に炙ってくれ」
「承知しました!」
「任せよ!」
戦闘開始。
と言っても、それは一方的な虐殺(クッキング)だった。
シルヴィアが聖剣を一閃させるたびに、ヒドラの触手が「スパァン!」と小気味よい音を立てて宙を舞う。
再生しようとする切り口を、イグニスが制御されたピンポイントの竜炎(ブレス)で焼き、旨味を閉じ込める。
「【鮮度維持】【肉質軟化】【旨味増幅】……っと」
俺は戦いには参加せず、切り飛ばされた触手が地面に落ちる前に付与魔法をかけていく。
戦闘しながらの下ごしらえだ。
魔物の肉は死後硬直が早いが、俺の付与があれば刺身で食べられるレベルの鮮度を永遠に保てる。
「仕上げだ! 【瞬間解体】!」
俺は指を鳴らした。
ヒドラ・クラーケンの本体が、目に見えない無数の斬撃によってバラバラになり、食べられない部位(毒袋や内臓)だけがきれいに消滅し、極上の切り身となって空中に整列した。
戦闘時間、約三十秒。
Sランク魔物は、ただの食材タワーへと変貌した。
「よし、食うか」
俺は【土魔法】で簡易的なテーブルと椅子を作り出し、真っ白なテーブルクロス(【洗浄】付与済みの布)を広げた。
さらに、ドロップアイテムである巨大な貝殻を皿に見立て、綺麗に盛り付ける。
メニューは『ヒドラ・クラーケンのカルパッチョ・特製オリーブオイル(錬金術生成)添え』と、『竜頭触手の直火焼きステーキ』。
飲み物は、近くの湧き水を【浄化】【発泡】【味覚付与(ブドウ味)】で最高級スパークリングワインに変えたものだ。
薄暗い地下神殿の廃墟、光る苔のイルミネーション。
そこに突如出現した、貴族の晩餐会のような食卓。
「いただきます!」
「うむ、いただくぞ!」
シルヴィアとイグニスがナイフとフォークを動かす。
「ん~っ! 美味しいっ! 何ですかこれ、口の中でとろけます!」
「こりゃあ絶品じゃ! 噛むたびに濃厚な魔力が溢れ出してくる! 生のまま食うより百倍美味いぞ!」
二人は目を輝かせ、次々と料理を平らげていく。
俺も一口食べた。
うん、いける。
【毒無効】を付与してあるからヒドラの毒もただのスパイス(ピリ辛成分)になっているし、【食感調整】でコリコリ感と柔らかさが絶妙なバランスだ。
「地上にはこんな美味いもんはないな。やっぱりダンジョン飯に限る」
「レント様、お料理まで完璧だなんて……本当に欠点がありませんね」
「将来、旦那様にするなら料理ができる男が良いと思っておったが、お主は合格じゃ」
二人に褒められながら、俺たちは優雅な朝食(もはやディナーのような重厚さだが)を楽しんだ。
と、その時。
頭上から、何やら騒がしい音が近づいてきた。
「おーい! 貴様ら、生きているか!?」
見上げると、穴の空いた天井から、ロープを使って騎士たちが必死に降りてきているところだった。
ガレイン副騎士団長もいる。顔面蒼白で、脂汗をかいている。
「こ、ここは……本当に地下遺跡……?」
「おい見ろ、あれ! Sランクのヒドラ・クラーケンの死骸だぞ!?」
「いや、死骸っていうか……解体されてる……?」
騎士たちが地面に降り立つと、呆然と周囲を見渡した。
そして、彼らの視線は一点に集中する。
遺跡の中心で、優雅に食事をしている俺たちに。
「よお。遅かったな。一緒に食うか?」
俺はフォークに刺したヒドラの切り身を掲げてみせた。
「き、貴様ら……一体何をしているんだ……?」
「だから朝飯だって言ったろ。ほら、まだ温かいぞ」
「そ、それはSランク魔物の肉だろうが! 毒があるはずだぞ!」
「抜いたよ。あと美味しくなる魔法もかけた。食ってみな、飛ぶぞ」
ガレインはおずおずと近づき、半信半疑で差し出された肉を口にした。
騎士としての警戒心よりも、漂ってくる極上の香りに抗えなかったらしい。
「……ッ!?」
ガレインの目がカッと見開かれた。
「う、美味い……! なんだこれは! 高級和牛のような脂の乗りと、深海魚の淡白な旨味が融合している……! それに、食べた瞬間から体が熱くなり、力がみなぎってくるぞ!?」
「Sランクの魔物だからな。滋養強壮効果はポーションの十倍はある」
「副団長だけズルいです!」
「俺たちにもください!」
部下の騎士たちも我慢できずに集まってきた。
結局、国王からの召喚命令を伝えに来たはずの騎士団一行は、俺たちと一緒に車座になって魔物料理に舌鼓を打つことになった。
「うめぇぇぇ! これ一生食っていたい!」
「レント殿! いやレント様! おかわりはありますか!?」
数分前まで俺を見下していた騎士たちが、今は餌をねだる犬のように尻尾を振っている。
胃袋を掴むというのは、交渉において最強のカードなのかもしれない。
「ふふ、レント様にかかれば、頑固な騎士様たちもイチコロですね」
「うむ。これが王者の風格というやつじゃな(違う気もするが)」
シルヴィアとイグニスも満足そうだ。
食事が終わる頃には、騎士たちとの間に奇妙な連帯感が生まれていた。
ガレインは満腹のお腹をさすりながら、少し申し訳なさそうに言った。
「……いやはや、面目ない。貴殿の実力を疑うような口を利いてしまった。これほどの料理……いや、戦闘力と付与術を持つ者を、我々は過小評価していたようだ」
「わかってくれればいいよ。で、これから城に行くんだったな」
「あ、ああ! そうだった! 陛下がお待ちだ! ……しかし、こんな地下からどうやって戻る? ロープを登るには時間が……」
「面倒だから転移(ワープ)しよう」
俺はナプキンで口を拭うと、指をパチンと鳴らした。
「【集団転移(マス・テレポート)】付与。対象、この場にいる全員」
景色が歪む。
地下の暗い遺跡の風景が一瞬でブレて――。
次の瞬間、俺たちは王城の正門前、ではなく、『謁見の間』のど真ん中に立っていた。
「……え?」
玉座に座っていた国王。
周囲に控えていた大臣や高官たち。
そして、警護の近衛騎士たち。
全員が、突然空間転移して現れた俺たち(と、まだ口にソースがついている騎士団たち)を見て、石像のように固まっていた。
「あ、座標ズレた。まあいいか」
俺は悪びれもせず、玉座の王に向かって軽く手を挙げた。
「よお、王様。呼んだらしいから来てやったぞ。手土産に『ヒドラの干物』も持ってきたから、あとで食ってくれ」
静まり返る謁見の間。
これが、俺の王城デビューだった。
伝説の始まりというには、あまりにもしまらない、しかしインパクトだけは絶大な登場。
国王の目が点になっている。
隣にいる大臣が泡を吹いて倒れた。
さて、ここからが本番だ。
俺の『最強』が、国家権力相手にどれだけ通用するか、試させてもらおうか。
(続く)
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